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しおりを挟む義父は
眼窩が落ち窪み、目に見えて精気を失っていた。
それでも夜毎ベッドのカーテンの中で彼女の足にかしずく。
うっとりと夢見るように…。
ぴちゃり、ぴちゃり…
ぺちゃっ…
もはや体を繋ぐことは出来ないが、執念のように彼女の足にしがみつく。
「ふ、ふふ、ふふ…」
「はぁっ、はぁっ…
ああっ、シンデレラっ!
わしのだ…、お前は、わしだけの…」
見習いの庭師が窓から彼女を盗み見ているのではないかと嫉妬して解雇してみたり、老若問わず男の目に触れることを嫌った。
妻にはシンデレラが体調を崩しているから、人払いをしている…と幽鬼のような表情で念を押した。
誰しも体調を崩しているのは、領主本人だと思っていたが決して認めなかった。
―――春まだ浅い日…
義父は田舎の領地を見回りに行き、そこで倒れたきり還らぬ人となった。
医者を呼ぼうにも半日もかかるような田舎の村。
娘たちの行く末を案じながらその生涯を終えた…と妻には伝えられた。
真実はシンデレラに対する執着を繰り返していたのだが、それを告げられることはなかった。
明るい陽射しが降り注いでいるというのに、屋敷の中には暗く陰鬱な空気が漂い喪に服した。
ちょうど少し前に夫を亡くしたドロテアも出戻って来ていた。
この頃だと先妻の成人した息子と再婚するという通例もあったのだが、息子に拒否され…
子も無かったため、戻っていたのだ。
有能な家令が全てを取り仕切っていたため、すぐに困るようなこともなかったが女ばかりの家は、どこかうら寂しさが漂う。
彼女と凱もひっそりと居室にこもり、ほとんど家人と顔を合わせることもない。
「さて…、そろそろのはずなのですがね」
「なぁに?何かがあるの?」
「ええ、ありますよ。
これからの貴女にとっての一世一代のチャンスがやって来るはずです…」
意味深に笑い凱が答える。
今はまだいいが、このままでは彼女がこの家にいることすら危なくなるかもしれない。
どんなに箝口令をしこうが人の口に戸は立てられない。
夫人の耳に領主の真の最期が入るやもしれないし、そうでなくともドロテア共々彼女の事をあまり良くは思っていないはずだ。
いくら夫が言い張ろうとも、彼女を「可愛がる」のが娘としてだけではないだろうとうっすらと気づいていただろうし。
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