果実

伽藍堂益太

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果実 8

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 失ったものが大きすぎて、光は呆然とすることしかできなかった。ベッドに横たわる千秋は、もう動かない。いつまでも裸で寝ているのでは寒かろうと、光は千秋に布団を掛けてやり、自分も服を着た。
 これから、どうすればいい。涙を流しすぎたせいで、目の回りがヒリヒリする。喉が痛い。考えはまとまらない。
「ねぇ、千秋さん。起きてよ」
 千秋の体を揺らしてみる。しかし、千秋の体は揺らされるままに揺れているだけで、何も答えてくれない。
「ほら、千秋さん」
 千秋が起きるわけはない。バッバッバッバ。心臓が破裂しそうに暴れるのを感じた。千秋が目を覚まさない。千秋。千秋。千秋。
 どうすればいい。今、何をどうすればいい。どうすれば千秋は目を覚ます。何をどうすれば。
 答えを見つけることができない。その答えを知る者は。知る者は誰かいないか。誰か。誰か。
 彼だ。一人だけ、光の頭に浮かんだ。あの店の店長と思しき人。彼なら、どうすれば千秋が目を覚ますか、教えてくれるはずだ。
 光はすぐさま立ち上がった。
「ちょっと待っててね、千秋さん。今、行ってくるから」
 動かない千秋にキスして、コートを引っ掴んだ。靴を突っかけると、つんのめりながら外に飛び出す。
 光はあの店、橘果実店に向かって走った。
 元旦の深夜。人通りはあった。国道へと繋がる道沿いを走る。みんな、どこかへ初詣に行くのだろうか。それとも、どこか華やいだ場所から、消えない興奮の余韻を抱いて帰宅する途中か。それらは、光にはずっとずっと、遠くにあるものに感じられた。平生でも。今ならなおさら。
 吐く息は白い。吸い込むと肺が痛むほどに冷たい空気は、頬をちりちりと刺激する。耳が零れ落ちそうだ。体の疲れは既に限界に達している。当たり前だ。一日中、抱き合っていたのだから。
 それでも足は止まらない。体が止まれと叫んでも、脳はそれを許さない。
 走って走って、辿り着いた店先。橘果実店。シャッターは閉められ、看板の電気も消えていた。
 誰もいない。ここにしか、千秋を起こすための手がかりはない。他に行く宛なんて。光はシャッターを背に寄りかかった。足に力が入らない。そのままずるずるとずり落ちて、しゃがみ込む。
 ここで待つしかない。彼が現れるのを。携帯も財布も、何も持っていなかった。この近くのどこかで待機することもできない。行ける場所がない。でも、一秒でも早く、彼に会って話を聞かなければならない。
 だから光は、そのままそこで待つことにした。
 風は冷たい。しかし、一番の敵は地面だった。地面につけた尻から、どんどん体熱が逃げていくのを感じる。凍え死ぬかもしれないな、などと考えてみる。それも悪くないことのように思えた。千秋がいないならいっそ。
 出会って一ヶ月も経っていないのにそこまで考えるバカがいるか。しかも相手は人間じゃない。果実だぞ。
 もしそんなことを誰かに言われたら、多分、見栄も外聞も何もかも、恐怖だとか後先だとか、そんなことすべて頭から吹き飛んで、殴りかかってしまうかもしれない。それくらい強い感情だ。
 燻るなんて可愛いものじゃなくて、身を焦がすように燃え盛る感情なのだから、仕方ない。自分の中に、これほどまでに強い感情があったなんて、知らなかった。
 目を瞑り、膝を抱えて、光は時間が過ぎて、彼がここに現れるのをじっと待っていた。

 眠ってはいない。意識は覚醒していた。ただ、体がもう、動かなくなっていただけだ。
 地面がうっすらと明るくなってきていたのを感じていた。夜明けが近い。何時間ここでこうしていたのか、時計を見ることもできなかった光には、分からない。後何時間待てばいいのかも。だが、彼が来るのが何時間先でも、待つ覚悟はあった。
 初詣の帰りの客が、自分の前を通りすぎて行く。楽しげな声が聞こえる。時折、自分を嘲るような会話も聞こえてくるが、今の光はそれに反応できるほど、脳の空き容量がなかった。
 通り過ぎていく声と道路のエンジン音。それらの中に、光の心を動かすだけの意味を持った音が混じったのは、光の全身の感覚が麻痺した頃だった。
 橘果実店の店舗脇にあった階段から、人が降りてくる音がするのには気づいていたけれど、反応することができなかった。体が動かない。筋肉が硬直している。
「おい、君、大丈夫かい?」
 声が聞こえ、そして、肩を揺らされた。その揺れで、固まってしまった体が僅かに解れ、その隙をついて、光は顔を上げた。
「酔っているのかい? いや、そうでもないか」
 心配そうに覗きこむ顔は、やはり彼だった。
「あなた? また酔っぱらいですか?」
 彼の後ろについてきたのは女性で、光よりは年上のようだ。彼をあなたと呼んだということは、彼の細君だろうか。
「ん? 君は、そうか、前にうちに来た」
 彼が光に気がついた。光は手を伸ばし、彼のコートの袖を強く掴み、引いた。つもりだったが、自分の倍以上、三倍も生きていそうな彼をよろけさせるだけの力すら出せなかった。それでも縋りつく。なりふりなんてどうでもいい。
「千秋さんが……千秋さんが目を覚まさないんです。助けてください……助けてください!」
 喉が張り裂けるほど、声を上げた。通りに並ぶ商店のガラスが揺れるほどに、大きな声を。
「分かった。分かったから。冬美、悪いけど、初詣はお預けだ」
「分かりました。お部屋、暖めておきますね。お湯も沸かさないと」
 彼の細君が今来た階段を上っていく。
「さ、君も。うちに上がりなさい。話は中で聞くから」
 彼に肩を貸され、光はやっとの思いで階段を上り、彼の家にお邪魔した。

 リビングに通され、目の前には白い湯気の立つコーヒーが置かれた。手にしたカップは、火傷しそうに熱い。冷えすぎたせいで麻痺していた手の感覚が、血流に乗って蘇る。
 落ち着こう。そのために、光はコーヒーを口に含んだ。苦味と酸味のバランスがちょうどいい。これは、うまいコーヒーだ。
「私は下の果実屋のオーナーをしている松本だよ。松本次郎。妻は冬美。君はクリスマス・イブに来たお客さんだね? 覚えているよ」
 次郎の声のトーンが、光の思考の波を均していった。
「東光です。あの、千秋さんが……千秋さんが、起きないんです……」
「そうだね。期限は十二月三十一日だったから」
「お願いします……千秋さんを助けてください……」
「どうやって、死んだ果実を助けるんだね? そもそも、世間的には果実は生き物ですらないんだよ?」
 我慢ならない物言いだった。歯を食いしばり、拳を握りしめる。
「千秋さんは生きていた……だから、助けられるならあんたしかいないと思ったのに……」
「君は千秋のことをどう思っていたんだ?」
 あまりにも、簡単すぎる質問だった。愚問だ。
「そんなの、好きだったに決まってるだろ? 愛してた! 愛してたんだよ!」
 だらだらと止めどなく流れる涙と鼻水が、ズボンの太ももを濡らした。
 次郎は振り向くと、冬美と見つめ合い、そして二人共に頷いた。何か、示し合わせたように。光の憤りが口を通じて出ようとした時、次郎が光に向き直り、そして口を開いた。
「一体何があったのか、話してごらんなさい」
 やっとまともに話を聞いてくれる。そう思った光は話し始めた、十二月初旬、千秋との出会いからすべてを。

 すべて話し終えた光は、強い疲労を感じていた。その思い出は、光の本質や考え方、過去にまで触れるものだから、それを晒してへらへらしていることはできない。それだけ光は真実の想いを吐露したのだ。
 そのことを次郎も感じ取っていたようで、目を閉じ頷き、そして顔の皺から疲れを滲ませていた。
「とにかく、君がまずしなければならないのは、千秋を捌くことだ。分かるね? 千秋が望んだことを、君は叶えたいのだろう?」
「はい……」
 千秋は自分を食べて欲しいと言っていた。しかし、それをしてしまったらもう二度と、千秋に会うことはないのだということを、思い知らされてしまう気がする。
「すべて、私に任せなさい。君次第で、君の望む未来が手に入るかもしれない。だから、顔を上げなさい」
 肩を叩かれた。父親よりもずっと年上の彼の手は、今の光には、何よりも頼もしく感じられる。
「さ、冬美、汚れてもいい服に着替えよう。道具も準備しなければ。東くん、君は少しソファーで横になるといい」
 言われるままに、光はソファーに横になった。ソファーの縁に頭を横たえた瞬間、光の意識は微睡みの中に引きずり込まれた。

 一時間も経たないうちに起こされた光は、あれよあれよという間に車に乗せられていた。白いライトバンだ。後部座席には大きな中華包丁のようなものや、細いノコギリなど、物々しい道具が積まれている。
 光がそれらの隣に形見狭く乗り込むと、次郎は車を発進させた。信号待ちの間に、冬美がカーナビに光から聞いた住所を入力する。
 光の家の近くのコインパーキングに車を止めて、三人は大荷物で光のアパートに上がった。
 男の一人暮らしではあるが、光の部屋は大げさに汚れてはいない。汚れているとすれば、ベッドだけだ。光の精液と千秋の果汁でベトベトになっている。
「千秋。そうか、大事にされたのだね」
 目を細めて、次郎が言った。
「東さん、やかんとお鍋貸してもらえます? お湯を沸かしたいのだけど」
「あ、はい」
 横たわる千秋を目の前に、思考停止していた光は、冬美の声で正気に戻った。千秋の死。それを受け入れることは難しく、今もまだ、千秋が起きるような気がしてならない。
 次郎と冬美は、テキパキと準備をしていた。次郎は道具を点検し、冬美はお湯を沸かし、ジップロックを整理し、光は次郎に言われ、浴槽を洗剤で洗っていた。それが終わると、冬美が浴槽に熱湯を回し入れた。
「果実の処理する時にはね、ちゃんと食毒しなきゃいけないのよ」
 冬美は子供に教えるように、そう言った。
「次郎さん、準備できましたよ」
 湯船からもうもうと湯気が立つ中、冬美が言った。
「こっちももう大丈夫だ。東くん、こっちに来て千秋を運ぶのを手伝ってくれ」
「はい」
 千秋を運ぶ。いよいよ千秋が解体されるのか。気が進まないどころの話ではない。だが、これが千秋の望みだと言うのなら、やらなければならない。
 部屋に戻り、ベッドに横たわる千秋を見下ろす次郎の目には、どこか哀愁が漂っていた。
 おもむろに、次郎が千秋のメガネを外し、枕元に置いた。
「さ、君は足を持って。私はこっちをやるから」
 布団を剥ぐと、千秋の全裸が顕になる。それを自分以外の人間に見られるのは抵抗があった。相手は果実なのに、本気でそう思っている。
 もう、自分は普通の人間ではないのかもしれない。異常なのだ。物に対して本気で愛情を持ってしまう。人間という動物の本能としては、間違っているのだと分かっている。けれど、この気持ちは、もう疑いようもない。
 憮然としながらも、光は千秋の足首を両手で掴んだ。脇に手を差し入れた次郎に先導され、風呂場に千秋を運び入れる。次郎は一度部屋に戻り、鉈のように重ねの厚い中華包丁のような刃物と鋸を持ってきた。
 湯船に力なくだらりと倒れている千秋は、やはり魂が抜けている。そもそも、魂はあったのだろうか。光は考える。
「さ、始めよう」
 次郎が千秋の姿勢を変えた。胸を下に、肩を湯船の縁にかけ、首をだらりと洗い場の方に垂らす。
 長い髪を束ねて左手で掴み、うなじを露出させる。そして、中華包丁を思い切り振りかぶった。それはまるで断頭台。ギロチンのようだった。
「やめろ!」
 光の体が、勝手に動いていた。千秋の体を抱きしめて、その体を傷つけさせまいとして、身を呈して守しまう。
「何をしているんだ! 刃物の前に飛び出して」
 次郎から出るとは思えない怒声が風呂場で響いた。
「怪我をしたらどうするんだ!」
 この人は、自分のために怒ってくれている。会社で理不尽に怒鳴られていた時とは違い、こちらに対する気遣いが感じられた。
「だって、だって千秋さんが……」
 分かっていても、千秋の体が傷つけられるのは我慢ならなかった。
「君は、千秋にまた会いたいのだろう?」
 次郎が膝立ちになり、光の肩を抱いた。
「はい……会いたいです」
 もう一度、千秋に会いたい。それ以外に望みなんてない。千秋が例え、人間じゃなくても。果実だとしても。
「なら、まずは私のやることに従いなさい。私はただ千秋を傷つけようとしているわけではない。千秋は、私の娘みたいなものなのだから」
 何を言っているのか分からない。けれど、次郎の真剣な目は、信じるに足るもののように思えた。
「さぁ、始めるぞ」
 そして、千秋の首が、胴と永遠のお別れをした。

 千秋の頭部以外すべて、浴室から運びだされた。冬美は手際よく果肉を部位ごとに分けて、ジップロックに入れていった。
 千秋の果肉は乳白色をしており、それは元となった果実の種に由来するらしい。千秋はりんごの種を元に作られた果実で、その影響で果肉の色が乳白色をしているのだ。
 例えば柿であれば果肉は橙色になるし、柑橘類であれば黄色にもなる。それぞれに風味も違うのだと、作業をしながら冬美は光に説明してくれた。光自身なんとなく知っていた知識ではあったが、こうして実際に果肉に解体されていく千秋を前にすると、その情報はより生々しく光の頭にインプットされた。
 ジップロックに分けられた千秋の果肉は、冷凍庫に整然とつめ込まれた。それで入りきらない分は、氷と共にクーラーボックスに入れられた。
 これから、次郎が頭部のみを残した理由が説明されるという。
「まず確認したい。君は千秋のことを愛しているのだね?」
「はい」
「千秋は果実だ。それは分かっているのだろう?」
「はい」
「果実を愛するということは、相当の覚悟を強いられることになる。それが本気であれば、なおさらだ。もし、もう一度千秋と会うために、その後の人生をすべて犠牲にすると言われて、君にそれができるか? いや、言い方が悪いな。千秋に人生のすべてを捧げることができるか? 果実を愛するということは、そういうことなんだ」
「はい」
「今ここで君は決断するんだ。今後の人生を。さぁ、選びなさい。千秋のいない自由な人生を選択するか。千秋のいる、拘束された人生を選ぶか」
「例え拘束されたって、俺は千秋さんといたい」
 長く続く灰色の人生で、何も感じずに生きるよりは、例え縛られ括りつけられても、色彩に溢れた人生で、愛を感じて生きていたい。ただそれだけのことだった。
「いいんだね? これから私の言うことに従ってもらうことになるよ」
「はい」
 千秋ともう一度会えるなら、悪魔にでも魂を売るつもりでいた。
「ならまず、君には千秋の頭を割るところを見ていてもらう。いいかい、目を逸らしてはいけないよ。きちんと見ているんだ」
 次郎は言った。そして、洗い場の床に置かれた、目を閉じた千秋の生首の脳天に向かって、中華包丁を振り下ろした。
 ゴッという嫌な音がして、包丁は千秋の額のあたりで止まる。思わず目を閉じそうだったが、これもまた千秋に会うために必要なことだというのなら、目を逸らすわけにはいかない。
 光の様子を見て満足したように次郎は頷き、そして半ばで止まった包丁を千秋の生首ごと振り上げ、床に叩きつけた。首の付根が床に振り下ろされると、ベチャッという音と共に、果汁が飛び散った。包丁は千秋に眉間にまで達する。
 すると、次郎は包丁を引き抜き、そして、千秋の頭部の割れ目に、指を突っ込んだ。そして強引に押し開けて、千秋の顔を真っ二つにする。
 見るに堪えない光景だった。果汁が飛び散り、光の顔にまでかかる。これはもう、拷問だった。光はほとんど気を失いそうになりながらも、なんとかそれに耐え、胸に手を当て、飛び出しそうになる心臓を押さえると、浅い呼吸を繰り返した。
「落ち着きなさい。大事なのはこれからだ」
 割られた千秋の頭部の断面を、次郎が光に向かって差し出す。これを見ろと。光はほとんど引きつけを起こしそうだった。
「ここに、千秋の種がある。君が取り出しなさい。すべてだ」
 恐る恐る、光は千秋の頭部の断面に触れた。果汁で濡れている。頭部の中心は固い軸になっており、その周りに、黒い種のようなものが寄り添うように存在した。軸を中心に右と左。千秋の顔の右半分と左半分、両方の断面にあった。
「さぁ」
 次郎に言われるままに、光は親指の第一関節まで程度の大きさの種をほじくりだした。まずは見えている四つを。それから、軸に沿って指を差し入れ、一つ、二つ、三つ、四つ。全部で八つの種が千秋の頭部から取り出された。
「それで全部だね?」
「はい」
 そう答えたが、次郎は確認と言わんばかりに、千秋の頭部に手を差し入れ、ほじくり返した。
「よし、大丈夫だ。いいかい、君はまず、それを大事に保管しておくんだ。それから、一月五日に、履歴書を持って私の店に来なさい。絶対にその種を、一つも失くしてはいけないよ? 分かったね?」
「はい、分かりました」
「よろしい。それじゃ、今日我々にできるのはここまでだ。千秋の頭はどうするかい? そのままにしては腐ってしまうけれど」
 二つに割れた頭部。腐ってしまうと言われても、捨てられるわけがなかった。
「持っています」
「そうか。では、片付けをしようか」
 それから三人で片付けをして、作業を終えた。風呂場も部屋もすっかり片付いて、光は次郎と冬美の手際の良さに脱帽した。
「果実料理は、今度東さんが来た時に教えてあげるわね」
 冬美がにこやかに言う。
「冬美、君が次に彼に会うとしたら来月になるだろう」
「あら、そういえばそうね。じゃ、来月教えてあげるわ。ネットで検索すればレシピもいっぱいあるから、ちゃんと見て作った方がいいわ。果実は甘酸っぱいから、適当に調理すると思った味にならないからね」
 料理はあまり得意ではなかった光は、素直に頷いた。
「それじゃ、私達は帰るよ。一月五日、そうだな、開店前に来てもらおうか。九時半で大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
 どうせ無職だ。予定なんてない。光は即答した。
「じゃ、失礼するよ」
 大荷物を抱えて、松本夫妻は光の部屋を後にした。
 光は二人が帰ってすぐ、どこか千秋の種を入れるためのものを探した。しかし、それに相応しいものは見つからない。
「あ、あれなら」
 一つだけ思いついた。玄関に置かれていたメガネ屋の袋の中、その中にメガネケースが入っている。それを取り出し部屋に戻ると、光は枕元に置かれていた千秋のメガネと一緒に、種を入れた。種は千秋に再会するためには、絶対に必要なものらしい。
 そして、初めて会った時から、図書館で掛けていたメガネ。これもまた、千秋との再会に必要な気がしていた。それは次郎に言われたことではなくて、単純に、光には必要なものだと思われただけだ。
 それらを一緒にして、一月五日まで大事に保存する。それが期日までの間、光にできるたった一つのことだった。
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