アヤメちゃん

胡花宝 愛芽

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第ニ章「アヤメちゃん、奮闘中」

第十三話「今夜も、お部屋でお話しましょう ②」

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「アヤメちゃん。これ、なあんだ?」

 櫻子は、英国製のビューローブックケースを指差した。それは上部がガラス扉の本棚で、下部が三段の引き出しになっており、中央は上下に開く扉が机として使える木製家具だ。
 櫻子の指差す机部分の奥には、ガラス玉の置物が飾られている。
 
「ハイ。此方コチラハ、『スノーグローブ』、ト、ウ物ナノデス」

 壁際の充電箱に座って、アヤメは充電中だ。

「わっ。アヤメちゃん、すごぉい!『スノーグローブ』を知っているの?私なんて、この前のクリスマスに初めて知ったのにぃ」 
「ハイ。櫻、子姉様ノ、御部屋オヘヤニ初メテ、入室ニュウシツサセテ、頂イタオリカラ、アヤメノ視界シカイニ、入ッテオリマシタ。アヤメハ、御主人様方ノ、身ノ安全ト財産ヲ、御守リスルノガ仕事」

 アヤメは説明しながら首を上下左右に、ゆっくりと動かして部屋を見渡す。

「過去ノ、盗難事件トウナンジケンデハ、使用人ガ、犯行ノ手引テビキヲシテイタ、マタハ、犯人ダッタ、トヨウナ、事例ジレイモ御座イマス」
「まあ、そうなの?」
ヤトヌシニ、気付カレヌ様、使用頻度シヨウヒンドノ低イ、貴重品カラ、少シズ~ツ、少シズ~ツ、カスッテクノデス。ユエ、雇イ主ガ、気付イタ頃ニハ、トキスデオソク、甚大ジンダイ被害額ヒガイガクヲ、コウムッテシマウノデス」
「わぁ…。それは、とってもおそろしいことね」
「ハイ。レドツネニ、御主人様、オヨビ御家族様ノ、所有物ヲ把握ハアクシ、毎日、御部屋ノ確認ヲ、義務付ギムヅケタナラバ、被害ガ、ッタトシテモ、最小限ニ、オサエラレルノデス」
「うん、うん」
「故ニ、所有ショユウサレテイル物ノ、名称メイショウナラビニ用途等ヨウトナドヲ、認識ニンシキスル事モ、アヤメノ、大切ナ仕事ナノデス」

 言い終わると同時に、アヤメは櫻子に視線を合わせる。

「シカシナガラ、此方コチラノ、『スノーグローブ』」

 アヤメは右手の平を上にして、スノーグローブの方に差し出す。

「アヤメノ、知識不足チシキブソクリ、名称メイショウ不明フメイデシタ。タメ、オハアサマノ、ツカエノ無イリ、質問ノ、許可ヲ頂キマシテ、他ノ不明ナ、品々シナジナアワセテ、名称ト、用途ヲ、御教示ゴキョウジ頂キマシタ」 
「なあんだぁ~」
 
 櫻子は、ベッドの横端に「ボスン」と腰を下ろす。

「それなら、私に聞いてくれれば良かったのにぃ」

 言いながら、スリッパを脱いだ両足を上下に「ブラブラ」させる。

「アヤメガ、『スノーグローブ』ヲ、察知サッチシタ折リ、櫻、子姉様ハ、宿題サル御時間デシタノデ、ヒカエサセテ頂キマシタ」
「ふ~ん、そうだったの。今度からは私に、遠慮しないで聞いてちょうだいね。アヤメちゃんにだったら、この部屋にある物、ぜ~んぶ教えてあげられるわっ」
 
 櫻子は両手を大きく広げた。

「ハイ、承知シマシタ。御協力、大変、ガタゾンジマス」

 アヤメは櫻子に会釈する。

「でも今まで、このお家では女中さんが何かを盗むなんてことも無かったし、前に泥棒がお庭に入って来た時も、すぐに鉉さんや女中さん達が追い払ってくれたから、お家の中にまで入られたことは無いわ」
「ハイ。此方ノ御屋敷ハ、防犯対策ガ、行キ届イテルカト」
「おはあさまも体調の良い時に、どこに何の貴重品が仕舞ってあるか、定期的に確認しているもの。特に高価な物は厳重に鍵を掛けた部屋にまとめてあるし、その部屋は女中さん達も入れないの。クリスマスに女中さん達や運転手さん達に用意したプレゼントも、その部屋にかくしていたから当日まで、皆に内緒ないしょに出来たのよ。『そうゆう高価な物や大事な物は女中さん任せにしないで、自分できちんと管理した方が誤って紛失した時も、むやみに女中さんのせいにしなくてすむから』って、おはあさまも言ってたわ」
レハ、賢明ケンメイナ、御判断ゴハンダンナノデス」

 アヤメは頷く。

「それに蕗さんや、タツゑちゃん達がお家の物を盗ったりするなんて考えられないわ」
「ハイ。蕗様、タツゑ様、コマ様、三根ミネ様、登代トヨ様、ニ、カンシマシテハ、現在迄ゲンザイマデ、御一緒ニ、働カセテ頂キマシタガ、ヨウナ、事態ジタイニハ、ナイ、ト、ゾンジマス」
「うん、そうよね。皆、と~っても優しいお姉さん達だもの」
「アヤメニハ、御人様オヒトサマガ、何ヤラ不審フシンナ動キ、ヲ、取ラレタ場合ニ、ヲ、感知カンチスル機能モ、内蔵ナイゾウシテオリマス」
「感知…?う~ん…。ちょっと難しいわ、アヤメちゃん。それって、どうゆうものかしら?」
「例エバノ、御話オハナシナノデスガ、オハアサマガ御持チノ、『真珠ノ、ネックレス』、ヲ、登代様ガ、盗ンダト仮定シマス」
「うん、うん」

 櫻子が真剣な表情で、頷く。

スレバ、登代様ノ表情、シクハ態度タイドカラ、『ヤマシイ事ヲ、隠シテイル』、ト、アヤメハ、カンル事ガ、出来ルノデス」
「感じ取る…」
「ハイ。『自分ハ、真珠ノ、ネックレスヲ、盗ンデイナイ』、ト、登代様ガイツワッタトシテモ、『其レガ、ウソダ』、ト、見抜ミヌク事モ、可能ナノデス」
「う~んと…つまり…、こういうことかしら?『アヤメちゃんの前で嘘を吐いても、すぐバレちゃう』」
「ハイ。其ノ通リナノデス」
 
 アヤメは再び頷いてから両手を上げて、自分のうなじから充電プラグを抜いた。
 目蓋を落とした「待機状態」での充電終了時は、まず首を上下左右に動かす「周囲確認」が行うのだが、今は櫻子と話しながらの充電だったので動きも省略され、スムーズに立ち上がれる。

「そう!それなら我が家は、安心ね!」

 櫻子は両手を広げ、「ボン」とベッドに背中を落として仰向けになる。
 
「私の部屋にも大切な物が、いっぱいあるわ…。この半纏も、そうよ。高価な物ではないけれど…、紗冬お祖母ちゃまが縫ってくれた大切な半纏よ。これを着てるとね…紗冬お祖母ちゃまに後ろから、抱きしめてもらってるような気持ちになれるのっ」

 櫻子が身体を右横に傾けて、ベッドまで近づいて来るアヤメの顔を見上げて、無邪気に微笑む。

「うふふっ。アヤメちゃんも一緒に寝る?」
 
 左腕を伸ばして「ポンポン」と、櫻子がベッドを叩く。

「イイエ。御誘オサソイ、マコトニ、ウレシュウ御座イマスガ、一介ノ人形ゴトキノ、アヤメガ、櫻、子姉様ト、寝台シンダイヲ、共ニスル訳ニハ、参リマセヌ」

 アヤメは言い終えた後、「ブンブン、ブンブン」と首を左右に振り続ける。

「え~。杏ちゃんとは小さい頃、毎晩一緒に寝てたのにぃ」
オソナガラ、杏チャント、アヤメトデハ、身体カラダノ大キサモ、立場モ違ウノデス。其レニ、アヤメノ、ヨコタウオモミデ、ベッドガコワレテハ、大変ナノデス」
「ええ~。アヤメちゃん位なら、大丈夫じゃあないかしら?」

 櫻子は上半身を起こして、スリッパをくと、ベッドから立ち上がる。

「イイエ。ネンタメナノデス」

 なおも、アヤメは「ブンブン、ブンブン」と首を振り続ける。

「ふぅ~ん…」

 それからビューローブックケースまで歩いて行き、そばの木製の椅子に座った。中央の机部分が開いており、奥の仕切り棚には筆記用具や可愛い置物が並んでいる。

「あ、そうそう。さっきの続きだけど、このスノーグローブもね、私の大切な物よ」 

 そこから櫻子は、スノーグローブを取って両手で持ち上げた。

「これはね、お父様がクリスマスにプレゼントしてくれたのよ。こうしてね、回していくとね…」

 櫻子がスノーグローブを机に置き、左手で土台部分を押さえて、右手でガラスの球体を何周もねじってゆく。
「ギリギリギリ…」と、切りの良いところまでぜんまいを回してから、櫻子は右手を止める。

「良~い?アヤメちゃん、見ていてね?」
「ハイ。櫻、子姉様」

 櫻子が両手を離すと、ガラス玉が回り出してオルゴールの曲がかなで始めた。
 アヤメは「パチッパチッ」と瞬きしながら、「フワフワ」と雪が舞い踊っているガラス玉を見つめ、首を小さく左右に倒して曲のリズムに乗っているようだ。
 暫くして、ガラス玉の回転とオルゴールの曲が止まった。

「…ね?綺麗でしょう、アヤメちゃん?」
「ハイ。小サキ雪景色ユキゲシキモ、流レル音色ネイロモ、大変、ウツクシュウ御座イマス」

 アヤメは、目蓋を閉じて答える。

「うふふ。もう一回、やってみるわね」

 櫻子が同じように、「ギリギリギリ…」と薇を回して置き直す。
 再び、ガラス玉が回って曲が始まる。

 すると、アヤメが直立したまま「トコトコトコ…」と両足を小刻みに動かして、ガラス玉の回転速度に合わせるように、その場でゆるやかに「クルクル」と回り始めた。

「あはっ」

 アヤメの動きを見て、櫻子が嬉しそうに笑う。立ち上がって櫻子も同じように回転してゆく。

 トコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコ……

 そうして櫻子とアヤメは暫くの間、スノーグローブの曲に乗って、回転ダンスを楽しんだ。




(続)
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