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第一章「わが家にアヤメちゃんがやってきた!」
第ニ十五話「結果を伝えましょう」
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「アヤメちゃん!」
アヤメが三面鏡に映り、櫻子が振り向く。
濱子の手によって、櫻子の髪は綺麗に三つ編みされている。
アヤメは戸を閉めて、櫻子と濱子の方へ身体を向けた。
「あっ、それって…鉉さんの半纏ね!」
櫻子はスツール椅子から立ち上がって、アヤメに駆け寄る。
アヤメは着物にエプロンを着けた姿の、更にその上に濃藍色の半纏を羽織っていた。
「ハイ。『庭デ、儂ノ、手伝イヲスルナラ、此レヲ着ロ』、ト、鉉サンガ仰ッテ、此方ヲ、貸シテ下サイマシタ」
説明するアヤメの周りを歩いて「じっくり」と、半纏姿を櫻子が眺める。
半纏の衿には「椴部 鉉造」と達筆な筆文字、背中の上部には大きな円の中に松の木を描いた大紋が各々、「くっきり」と白く映えている。
ただ鉉造の半纏は、アヤメが着るには大きい。そのため、かなり袖を捲っている。
「うふふ、そうなのね。アヤメちゃん、半纏もお似合いよ」
「有難ウ御座イマス」
アヤメが櫻子に会釈する。
「朝は、どんなお手伝いをしたの?」
「御庭ノ、落チ葉ヲ、掃キマシタ」
「あ~ん、私も早起きすれば良かったっ。そうすれば一緒に出来たのにぃ」
櫻子は両肘を後ろに曲げて、「パタパタ」と振る。
「落チ葉ヲ掃キ終エタ後、鉉サンガ、落チ葉焚キヲサレマシタ。其ノ中デ焼キマシタ、薩摩芋ガ御座イマシテ、『皆デ、食エ』、ト、鉉サンカラ、言付カッテ参リマシタ」
「わっ、焼き芋ね!お母様」
櫻子が振り返って、濱子の顔を見る。
濱子は微笑んで頷く。
「只今、蕗様ニ、御用意、頂イテマス」
「そう。そろそろ、食事の支度も整ったころじゃないかしら」
濱子はドレッサーから静静と歩いて、引き分け戸を左右に開いた。
隣の居間では、登代が櫻子の朝食を、ダイニングテーブルに配置していた。
登代は地方から上京して来た、住み込みの若い女性使用人だ。素朴な顔をした大人しい性格で、まだ勤務年数は浅いが田舎の家族に仕送りしながら毎日、真面目に働いている。
タツゑと同様に、登代も仕事中は白い胴着に袴姿だ。
「登代ちゃん、おはようございますっ」
料理が盛られた皿や器の配置を終えて、登代が居間から立ち去ろうとするところを、濱子の部屋から出て来た櫻子が、元気良く挨拶する。
登代は足を止めて振り向くと、櫻子に会釈する。「櫻子お嬢様、おはようございます」と一応、登代の口元は動いているのだが声量が小さいため、大きなダイニングテーブルの横幅を隔てた距離だと、「ボソボソ」としか聞こえない。
「登代ちゃん、ちょっと良いかしら?」
「はい、奥様」
か細い声で登代が返事をして、ダイニングテーブルを回り込み、濱子の方へ小走りで近づいて行く。
「お父さんが、薩摩芋を焼いてくれたんですって?」
濱子も登代に穏やかに尋ねながら、歩み寄る。
「はい。銭湯に行かれた時に沢山、頂いたそうで…。私達の分も、焼いて下さいました」
濱子のそばまで来た登代が、ぎりぎり聞こえる程度の声量で、恥ずかしそうに答える。
登代には訛りがあり、育った場所特有の方言もあって、そのままの言葉で喋ると東京では、ほぼ何を言っているのか解らない。
タツゑ達から標準語を教えてもらい、少しずつ慣れてはきたが元々、極度の人見知りで家族や地元の親友以外と話す時はどうしても声が小さく、たどたどしい話し方になってしまう。
「そう」
「あの…」
「ええ、なあに?」
濱子が優しく返事をする。
「あの…奥様にも、お芋さん…あっ」
田舎では、いつも薩摩芋を「お芋さん」と言っていたので、思わず口を衝いて出てしまったのに気がつき、登代が片手で口を押さえる。
「えっと…焼き芋を、お持ちして…よろしいでしょうか?」
登代は顔を赤くして、更に恥ずかしそうな口調で確認する。
「ふふふ、可愛いらしい言い方ね。ええ。私もお芋さん、頂くわ」
濱子が笑いながら答える。
その日の体調によって、濱子の食欲にも変動があるので、念のために登代が確認したのだ。
「はい。では…すぐに、お持ちします」
登代は少し困ったような笑みを浮かべて、答えた。
「それが済んだら、櫻子の食事中の世話はしなくて良いから、登代ちゃんは休憩してちょうだいね。蕗さん達にも、『お芋さんが冷めてしまわないうちに、休憩して召し上がってちょうだい』と伝えてくれるかしら?」
「はい、お伝えします。ありがとうございます」
登代は濱子に会釈し、居間を出て行った。
ダイニングテーブルには、切り分けて皿に載せられた焼き芋の他に、小振りの稲荷寿司や小鉢が整えられ、櫻子が自分で汁椀に味噌汁をよそって、椅子に座っていた。
アヤメは櫻子に促され、居間の隅で充電の準備をしている。
濱子が櫻子の向かいの席に座る。
「いただきまぁす」
櫻子は両手の平を合わせ、明るく挨拶をしてから食事を始めた。
* * *
遅めの朝食を終えた櫻子は、居間の三人掛けソファに濱子と並んで座っていた。
二人の向かい側では暖炉が「パチパチ」と音を立てて、燃えている。
「ふぅ~っ、もうお腹いっぱぁい」
櫻子が、満腹になったお腹を撫でる。
「お芋さん、美味しかったわね」
「ええ。お芋さんも、お稲荷さんもどっちも美味しくって、食べ過ぎちゃった!」
「ふふふ」
濱子は笑みを浮かべながら湯呑みを取って、アヤメの淹れた緑茶を飲む。
アヤメは、ソファのそばで直立している。
「ねぇ、お母様」
櫻子が濱子に話しかける。
「なあに、櫻子?」
「アヤメちゃんに、『研究所へ戻らなくて良い』って、まだお話ししてなかったの?」
「ええ。今朝は数仁さんの支度で慌ただしかったし、櫻子も一緒の時に話した方が良いと思ったのよ。さっき数仁さんからも連絡があってね、『そのことは、ちゃんと小林さんに伝えたから』って」
「そうなのね。ほらぁ。ね、アヤメちゃん?お父様も、ちゃあんと許してくれているわ」
櫻子がソファから立ち上がって、アヤメに語りかける。
「オハ…オ、奥様。アヤメハ、彼ノ様ナ、大失敗ヲシテ、滉月家ノ皆様二、多大ナ御迷惑ヲ、御掛ケシテシマイマシタ。コンナニ至ラヌ、アヤメガ此ノ儘、皆様ニ御仕エシテモ、宜シイノデショウカ?」
「勿論、この前みたいに充電を忘れて、動けなくなってしまうのは困るわね。だから二度と同じ失敗が無いように、工夫をしなくてはいけないわ」
「工夫」
「ええ。明日、小林さんが充電箱を二台届けて下さるそうよ。これで充電箱が三台、揃うわね」
「充電箱ガ、三台」
「そう。だから、一台は居間に」
濱子は、充電箱が置いてある居間の隅を指差す。
櫻子とアヤメが、濱子の人差し指を追って同時に首を向ける。
「もう一台は、櫻子のお部屋に」
続いて、濱子は天井を指差す。
櫻子とアヤメも天井を見上げる。
「残りの一台は、お父さんの離れに置かせてもらうの」
濱子は最後に、鉉造の住む離れの方角を指差した。
櫻子とアヤメも、同じ方角へ首を向けた。
「これだけ充電箱があれば、いつでも充電出来るでしょう?」
「ええ、そうね!お母様」
「これで足りなかったら、また充電箱を追加してもらうわ」
「うふふ。良かったわね、アヤメちゃん」
櫻子が、アヤメに顔を近づける。
「櫻、子姉様」
アヤメの瞳には、櫻子の満面の笑顔が映っている。
「あ。それから私、考えたのだけど」
「なあに?お母様」
櫻子が「スッ」と、濱子に顔を向ける。
「これからは櫻子も、私のことを「お母様」ではなく、『おはあさま』、と呼ぶのはどうかしら?」
「えっ?」
櫻子が聞き返す。
「私は名前が『濱子』でしょう?最初の『は』の文字を、『お母様』の二番目の文字に当て嵌めると思えば、他所様とはちょっぴり違った、私達だけの呼び方になると思うの」
「おはあさま」
櫻子が言葉にしてみる。また自然と笑い顔になった。
その櫻子の表情を見て、「ふふっ」と濱子も笑う。
櫻子と濱子の会話を、アヤメが「パチッパチッ」と瞬きしながら見つめ、静かに聞いている。
「それでね、アヤメちゃんにも『おはあさま』と呼んでもらうの。そうすると今までよりも何だか、もっと毎日が面白くなりそうじゃない?櫻子、どうかしら?」
「うん、とっても素敵!我が家だけの特別な呼び方ね!」
「では、決まりね」
「ええ!おはあさま」
「ふふふ」
「うふふ」
櫻子と濱子は、互いの顔を見ながら笑い合う。
「ねぇ。アヤメちゃんも、『おはあさま』って呼んでみて?」
アヤメは、櫻子と濱子の顔を交互に見る。
「『奥様』、デハ無ク、『オハアサマ』、ト、御呼ビシテモ、宜シイノデショウカ?」
「ええ、どうぞ」
濱子が微笑んだまま、頷く。
「オハアサマ」
アヤメは、ゆっくりと発する。
「はい、アヤメちゃん」
濱子が返事をする。
「おはあさまっ」
今度は、櫻子が元気良く呼びかける。櫻子が更に笑い顔になる。
「はい、櫻子」
濱子も更に微笑み、返事する。
「あはっ。何だか、『おはあさま』って呼んでると、だんだん楽しい気分になってきちゃう!ねぇねぇ、アヤメちゃん。もう一度、呼んでみて?」
「オハアサマ」
「はい、アヤメちゃん」
「うふふふふっ」
櫻子が楽しそうに笑いながら、アヤメと向かい合って両手を取る。
「これでアヤメちゃんも、我が家の一員ねっ!」
櫻子はアヤメと両手を繋いで、「ブラブラ」と左右に揺らした。
(続)
アヤメが三面鏡に映り、櫻子が振り向く。
濱子の手によって、櫻子の髪は綺麗に三つ編みされている。
アヤメは戸を閉めて、櫻子と濱子の方へ身体を向けた。
「あっ、それって…鉉さんの半纏ね!」
櫻子はスツール椅子から立ち上がって、アヤメに駆け寄る。
アヤメは着物にエプロンを着けた姿の、更にその上に濃藍色の半纏を羽織っていた。
「ハイ。『庭デ、儂ノ、手伝イヲスルナラ、此レヲ着ロ』、ト、鉉サンガ仰ッテ、此方ヲ、貸シテ下サイマシタ」
説明するアヤメの周りを歩いて「じっくり」と、半纏姿を櫻子が眺める。
半纏の衿には「椴部 鉉造」と達筆な筆文字、背中の上部には大きな円の中に松の木を描いた大紋が各々、「くっきり」と白く映えている。
ただ鉉造の半纏は、アヤメが着るには大きい。そのため、かなり袖を捲っている。
「うふふ、そうなのね。アヤメちゃん、半纏もお似合いよ」
「有難ウ御座イマス」
アヤメが櫻子に会釈する。
「朝は、どんなお手伝いをしたの?」
「御庭ノ、落チ葉ヲ、掃キマシタ」
「あ~ん、私も早起きすれば良かったっ。そうすれば一緒に出来たのにぃ」
櫻子は両肘を後ろに曲げて、「パタパタ」と振る。
「落チ葉ヲ掃キ終エタ後、鉉サンガ、落チ葉焚キヲサレマシタ。其ノ中デ焼キマシタ、薩摩芋ガ御座イマシテ、『皆デ、食エ』、ト、鉉サンカラ、言付カッテ参リマシタ」
「わっ、焼き芋ね!お母様」
櫻子が振り返って、濱子の顔を見る。
濱子は微笑んで頷く。
「只今、蕗様ニ、御用意、頂イテマス」
「そう。そろそろ、食事の支度も整ったころじゃないかしら」
濱子はドレッサーから静静と歩いて、引き分け戸を左右に開いた。
隣の居間では、登代が櫻子の朝食を、ダイニングテーブルに配置していた。
登代は地方から上京して来た、住み込みの若い女性使用人だ。素朴な顔をした大人しい性格で、まだ勤務年数は浅いが田舎の家族に仕送りしながら毎日、真面目に働いている。
タツゑと同様に、登代も仕事中は白い胴着に袴姿だ。
「登代ちゃん、おはようございますっ」
料理が盛られた皿や器の配置を終えて、登代が居間から立ち去ろうとするところを、濱子の部屋から出て来た櫻子が、元気良く挨拶する。
登代は足を止めて振り向くと、櫻子に会釈する。「櫻子お嬢様、おはようございます」と一応、登代の口元は動いているのだが声量が小さいため、大きなダイニングテーブルの横幅を隔てた距離だと、「ボソボソ」としか聞こえない。
「登代ちゃん、ちょっと良いかしら?」
「はい、奥様」
か細い声で登代が返事をして、ダイニングテーブルを回り込み、濱子の方へ小走りで近づいて行く。
「お父さんが、薩摩芋を焼いてくれたんですって?」
濱子も登代に穏やかに尋ねながら、歩み寄る。
「はい。銭湯に行かれた時に沢山、頂いたそうで…。私達の分も、焼いて下さいました」
濱子のそばまで来た登代が、ぎりぎり聞こえる程度の声量で、恥ずかしそうに答える。
登代には訛りがあり、育った場所特有の方言もあって、そのままの言葉で喋ると東京では、ほぼ何を言っているのか解らない。
タツゑ達から標準語を教えてもらい、少しずつ慣れてはきたが元々、極度の人見知りで家族や地元の親友以外と話す時はどうしても声が小さく、たどたどしい話し方になってしまう。
「そう」
「あの…」
「ええ、なあに?」
濱子が優しく返事をする。
「あの…奥様にも、お芋さん…あっ」
田舎では、いつも薩摩芋を「お芋さん」と言っていたので、思わず口を衝いて出てしまったのに気がつき、登代が片手で口を押さえる。
「えっと…焼き芋を、お持ちして…よろしいでしょうか?」
登代は顔を赤くして、更に恥ずかしそうな口調で確認する。
「ふふふ、可愛いらしい言い方ね。ええ。私もお芋さん、頂くわ」
濱子が笑いながら答える。
その日の体調によって、濱子の食欲にも変動があるので、念のために登代が確認したのだ。
「はい。では…すぐに、お持ちします」
登代は少し困ったような笑みを浮かべて、答えた。
「それが済んだら、櫻子の食事中の世話はしなくて良いから、登代ちゃんは休憩してちょうだいね。蕗さん達にも、『お芋さんが冷めてしまわないうちに、休憩して召し上がってちょうだい』と伝えてくれるかしら?」
「はい、お伝えします。ありがとうございます」
登代は濱子に会釈し、居間を出て行った。
ダイニングテーブルには、切り分けて皿に載せられた焼き芋の他に、小振りの稲荷寿司や小鉢が整えられ、櫻子が自分で汁椀に味噌汁をよそって、椅子に座っていた。
アヤメは櫻子に促され、居間の隅で充電の準備をしている。
濱子が櫻子の向かいの席に座る。
「いただきまぁす」
櫻子は両手の平を合わせ、明るく挨拶をしてから食事を始めた。
* * *
遅めの朝食を終えた櫻子は、居間の三人掛けソファに濱子と並んで座っていた。
二人の向かい側では暖炉が「パチパチ」と音を立てて、燃えている。
「ふぅ~っ、もうお腹いっぱぁい」
櫻子が、満腹になったお腹を撫でる。
「お芋さん、美味しかったわね」
「ええ。お芋さんも、お稲荷さんもどっちも美味しくって、食べ過ぎちゃった!」
「ふふふ」
濱子は笑みを浮かべながら湯呑みを取って、アヤメの淹れた緑茶を飲む。
アヤメは、ソファのそばで直立している。
「ねぇ、お母様」
櫻子が濱子に話しかける。
「なあに、櫻子?」
「アヤメちゃんに、『研究所へ戻らなくて良い』って、まだお話ししてなかったの?」
「ええ。今朝は数仁さんの支度で慌ただしかったし、櫻子も一緒の時に話した方が良いと思ったのよ。さっき数仁さんからも連絡があってね、『そのことは、ちゃんと小林さんに伝えたから』って」
「そうなのね。ほらぁ。ね、アヤメちゃん?お父様も、ちゃあんと許してくれているわ」
櫻子がソファから立ち上がって、アヤメに語りかける。
「オハ…オ、奥様。アヤメハ、彼ノ様ナ、大失敗ヲシテ、滉月家ノ皆様二、多大ナ御迷惑ヲ、御掛ケシテシマイマシタ。コンナニ至ラヌ、アヤメガ此ノ儘、皆様ニ御仕エシテモ、宜シイノデショウカ?」
「勿論、この前みたいに充電を忘れて、動けなくなってしまうのは困るわね。だから二度と同じ失敗が無いように、工夫をしなくてはいけないわ」
「工夫」
「ええ。明日、小林さんが充電箱を二台届けて下さるそうよ。これで充電箱が三台、揃うわね」
「充電箱ガ、三台」
「そう。だから、一台は居間に」
濱子は、充電箱が置いてある居間の隅を指差す。
櫻子とアヤメが、濱子の人差し指を追って同時に首を向ける。
「もう一台は、櫻子のお部屋に」
続いて、濱子は天井を指差す。
櫻子とアヤメも天井を見上げる。
「残りの一台は、お父さんの離れに置かせてもらうの」
濱子は最後に、鉉造の住む離れの方角を指差した。
櫻子とアヤメも、同じ方角へ首を向けた。
「これだけ充電箱があれば、いつでも充電出来るでしょう?」
「ええ、そうね!お母様」
「これで足りなかったら、また充電箱を追加してもらうわ」
「うふふ。良かったわね、アヤメちゃん」
櫻子が、アヤメに顔を近づける。
「櫻、子姉様」
アヤメの瞳には、櫻子の満面の笑顔が映っている。
「あ。それから私、考えたのだけど」
「なあに?お母様」
櫻子が「スッ」と、濱子に顔を向ける。
「これからは櫻子も、私のことを「お母様」ではなく、『おはあさま』、と呼ぶのはどうかしら?」
「えっ?」
櫻子が聞き返す。
「私は名前が『濱子』でしょう?最初の『は』の文字を、『お母様』の二番目の文字に当て嵌めると思えば、他所様とはちょっぴり違った、私達だけの呼び方になると思うの」
「おはあさま」
櫻子が言葉にしてみる。また自然と笑い顔になった。
その櫻子の表情を見て、「ふふっ」と濱子も笑う。
櫻子と濱子の会話を、アヤメが「パチッパチッ」と瞬きしながら見つめ、静かに聞いている。
「それでね、アヤメちゃんにも『おはあさま』と呼んでもらうの。そうすると今までよりも何だか、もっと毎日が面白くなりそうじゃない?櫻子、どうかしら?」
「うん、とっても素敵!我が家だけの特別な呼び方ね!」
「では、決まりね」
「ええ!おはあさま」
「ふふふ」
「うふふ」
櫻子と濱子は、互いの顔を見ながら笑い合う。
「ねぇ。アヤメちゃんも、『おはあさま』って呼んでみて?」
アヤメは、櫻子と濱子の顔を交互に見る。
「『奥様』、デハ無ク、『オハアサマ』、ト、御呼ビシテモ、宜シイノデショウカ?」
「ええ、どうぞ」
濱子が微笑んだまま、頷く。
「オハアサマ」
アヤメは、ゆっくりと発する。
「はい、アヤメちゃん」
濱子が返事をする。
「おはあさまっ」
今度は、櫻子が元気良く呼びかける。櫻子が更に笑い顔になる。
「はい、櫻子」
濱子も更に微笑み、返事する。
「あはっ。何だか、『おはあさま』って呼んでると、だんだん楽しい気分になってきちゃう!ねぇねぇ、アヤメちゃん。もう一度、呼んでみて?」
「オハアサマ」
「はい、アヤメちゃん」
「うふふふふっ」
櫻子が楽しそうに笑いながら、アヤメと向かい合って両手を取る。
「これでアヤメちゃんも、我が家の一員ねっ!」
櫻子はアヤメと両手を繋いで、「ブラブラ」と左右に揺らした。
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