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第1章「0(ゼロ)」
十一話「知夏④」
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その後も、知夏が『お仕事』を避けることは許されなかった。
だが『お仕事』の日だからと言って、必ずしも会員達が知夏の体に深い行為を及ばせるとは限らなかった。
それは子供達の身体的負担を考慮し、尾津と会員の間でスケジュール等の取り決めをしているようだった。
会員によっては知夏を車に乗せて、色んなテーマパークに連れて行ってくれる者もいる。そしてお店に入れば知夏が何も言わなくても色々な物を買い与えてくれる。
知夏と会えば、優しく接してくれる会員が大半だ。
それでも知夏にとって、『お仕事』が苦痛であることに違いはなかった。
深い行為は行われない日だったとしても、それ以外の要求には答えなくてはならない。
せっかく御粧ししてきた衣装を時間も経たず脱がせられ、全てを曝け出し、その姿を写真に撮られることもある。ポーズを要求される時、知夏の体に伸びてくる手は遠慮を知らない。
小父さん達は優しい笑顔で、優しくないことを命じてくる。
幼い知夏にも羞恥心や嫌悪感はある。
知夏は『お仕事』によって、本来ならばこの歳で知らなくても良いことを沢山教えられ、経験させられた。
知夏はその度にユキに抱きしめてもらい、ユキの胸で泣いた。
他のお兄さんやお姉さんも、知夏の体が辛い日は労ってくれた。
以前は、まだ無知だった知夏に『お仕事』の内容を話せないせいか、皆どこか他人行儀的な優しさに感じていた。けれど『お仕事』を始めてからの知夏に対しては親身な優しさに変わったように見える。
知夏も余裕がある日は、お兄さんやお姉さん達が個室のベッドから起きられない時に、ドアをノックして声をかけ、飲み物や食べ物や薬など欲しがっている物を持っていった。
そうすることで知夏も、少しは皆の役に立っているような気分になれた。
ユキはいつも『お仕事』から戻って来ても平然としているが、それでも稀に、自分の部屋に閉じ籠ったまま二、三日間出て来ない時がある。
ルーシーや早瀬が救急箱を持って、ユキの部屋に入って行く時もある。その間は、知夏や他の子供達が心配していても中には入れない。ユキが嫌がるからだ。
食事を届けるため、ユキの部屋に入ることはある。しかし中は遮光カーテンを閉めきった真っ暗な状態で、知夏はドアを開けたまま廊下からの明かりを頼りにベッドサイドのテーブルに置いていく。部屋の暗さに加えて、ユキも布団を被っているので表情は判らない。
でも、その二、三日間を過ぎて皆の前に現れたユキは、何事も無かったようにケロリとした顔で、冗談を言いながら知夏達に接してくる。
そしてまた、いつもの大人を小馬鹿にした口調の、だけど年下の知夏達には面倒見の良いユキになる。そんなユキを見て、ずっと心配していた知夏達もやっと安心できた。
やがて知夏よりも唯一、年下の昴にも初めての『お仕事』の日が訪れた。
その時もユキが、ずっと昴のそばにいた。
知夏も、年上のユキ達が自分にそうしてくれたように、昴の優しいお姉さんになろうと心がけた。
『お仕事』だけは絶対的に慣れるようなものでは無かったが、此処での生活が長くなるにつれ、知夏は皆と打ち解けていった。
今現在、知夏の此処での生活は一年経とうとしている。
知夏にとって、ユキ達が家族のような存在になってきている。
* * *
その少女は、リビングルームでルーシーに撮影のためのヘアメイクを施されていた。
知夏と昴も一緒に、その様子を見ている。
間仲はキッチンにあったモーニングの残り物を適当に摘まんだ後、リビングルームの窓辺に立ってカップを持ち珈琲を飲んでいた。だが間仲の視線は窓の外ではなく、ドレッサーの鏡に映っているバスローブ姿の少女に向けられていた。
「今…この子撮ってもいいかな?」
「あらっ、今はダメよぉ。アタシも写っちゃうじゃなぁい。前にも言ったでしょ?此処で写真撮られたくないってぇ」
「ルーシーは写らないように気をつけるって。たまには、こんな姿も会員に見せた方が喜ぶんじゃない?」
「そうかもしれないけど…でもねぇ…」
「だってこの子、何時間撮っても笑顔とか多分無理でしょ?だったら、他の子とは違う写真で会員さんの注目集めないと。最初の段階で金額つり上げといた方が、この子も後々楽なんじゃない?」
「う~ん…、まぁ良いわ。どうせ後で尾津ちゃんがチェックするのよねぇ?とにかくぅアタシのことは絶対、写さないでちょうだい」
「だーいじょーぶだってぇ、俺に任せてよ」
間仲は撮影室からカメラを取ってくると、少女をパシャパシャと撮り始めた。
少女はカメラのフラッシュが当たる中でも、間仲に顔を向けることも背けることもせず、ヘアメイクをされ少しずつ変化していく鏡に映った自分の顔に興味を示すこともなく、ただ静かに瞬きを繰り返していた。
「は~い、ドールちゃん。出来上がりよぉ、お疲れ様。じゃぁあぁ、早速お着替えしましょうねぇ。楽しみだわ~」
ルーシー達は、少女を連れて撮影室に移動した。
「じゃあ先ずはぁ、これから着てみましょうねぇ。知夏ちゃんと昴もお手伝いしてくれるぅ?」
「うん」と、知夏と昴が頷いた。
ルーシー達が少女の着ているバスローブを脱がせて、衣装に着替えさせる。
間仲は棚に置いてあるクマのヌイグルミをバスケットボールのようにポンポンと両手の上で転がしながら、チラチラと少女を見ている。
「ほら!やっぱり似合うわぁ~。この色にして正解ねぇ」
そこにはパステルブルーのドレスを着た裸足の少女が立っていた。頭にはドレスと同色の花冠をつけている。
「うん、可愛いじゃない。はい、どうぞ」
間仲が少女の手を取り、クマのヌイグルミを持たせた。
「ヤダもう、これだけで十分絵になっちゃうわぁ。さぁさ、靴下とお靴も履かなきゃねぇ」
「俺も手伝うよ」
そう言って、間仲が少女をお姫様抱っこした。
「この方が履かせやすいんじゃない?」
「あらぁ、気が利くわねぇ」
ルーシーが少女の足に靴下と靴を履かせている間、間仲は少女の顔を食い入るように見ていた。
「はい、これでオッケーよ」
「…あ、できた?じゃあ…始めようかな」
間仲が我に返った。
少女を抱き上げたまま撮影用に配置された、花柄のカウチソファまで歩いて行き、高さのある肩肘側に寄りかからせるように横向きにして座らせる。
ルーシーが少女の髪やドレスの裾を整え終わると、撮影が始まった。
途中、ポーズを変えて撮った後、衣装を着替えさせ別の家具や小道具を使って何パターンか撮影していく。
知夏と昴は少女の着替えを手伝いながら、邪魔にならない所で少女が撮影されている様子を見ていた。
知夏は写真を撮る作業自体は興味があったので、ずっと見ているのは平気だったが、昴が飽きてきた。
「ねぇねぇ、チカちゃん」
「なあに?」
「〈おくじょう〉であそぼー」
「うん、でも…。」
「いっしょにラジコンしようよー」
昴が知夏の手を引っ張る。
「あ~ん二人共、此処はもう大丈夫だからぁ遊んできて良いわよぉ。お手伝い、ありがとねぇ~。」
「チカちゃん、いこーいこー」
「…うん」
知夏は間仲の少女を見る目つきが気になっていたが、昴に手をグイグイと引っ張られて撮影室を出て行った。
(続)
だが『お仕事』の日だからと言って、必ずしも会員達が知夏の体に深い行為を及ばせるとは限らなかった。
それは子供達の身体的負担を考慮し、尾津と会員の間でスケジュール等の取り決めをしているようだった。
会員によっては知夏を車に乗せて、色んなテーマパークに連れて行ってくれる者もいる。そしてお店に入れば知夏が何も言わなくても色々な物を買い与えてくれる。
知夏と会えば、優しく接してくれる会員が大半だ。
それでも知夏にとって、『お仕事』が苦痛であることに違いはなかった。
深い行為は行われない日だったとしても、それ以外の要求には答えなくてはならない。
せっかく御粧ししてきた衣装を時間も経たず脱がせられ、全てを曝け出し、その姿を写真に撮られることもある。ポーズを要求される時、知夏の体に伸びてくる手は遠慮を知らない。
小父さん達は優しい笑顔で、優しくないことを命じてくる。
幼い知夏にも羞恥心や嫌悪感はある。
知夏は『お仕事』によって、本来ならばこの歳で知らなくても良いことを沢山教えられ、経験させられた。
知夏はその度にユキに抱きしめてもらい、ユキの胸で泣いた。
他のお兄さんやお姉さんも、知夏の体が辛い日は労ってくれた。
以前は、まだ無知だった知夏に『お仕事』の内容を話せないせいか、皆どこか他人行儀的な優しさに感じていた。けれど『お仕事』を始めてからの知夏に対しては親身な優しさに変わったように見える。
知夏も余裕がある日は、お兄さんやお姉さん達が個室のベッドから起きられない時に、ドアをノックして声をかけ、飲み物や食べ物や薬など欲しがっている物を持っていった。
そうすることで知夏も、少しは皆の役に立っているような気分になれた。
ユキはいつも『お仕事』から戻って来ても平然としているが、それでも稀に、自分の部屋に閉じ籠ったまま二、三日間出て来ない時がある。
ルーシーや早瀬が救急箱を持って、ユキの部屋に入って行く時もある。その間は、知夏や他の子供達が心配していても中には入れない。ユキが嫌がるからだ。
食事を届けるため、ユキの部屋に入ることはある。しかし中は遮光カーテンを閉めきった真っ暗な状態で、知夏はドアを開けたまま廊下からの明かりを頼りにベッドサイドのテーブルに置いていく。部屋の暗さに加えて、ユキも布団を被っているので表情は判らない。
でも、その二、三日間を過ぎて皆の前に現れたユキは、何事も無かったようにケロリとした顔で、冗談を言いながら知夏達に接してくる。
そしてまた、いつもの大人を小馬鹿にした口調の、だけど年下の知夏達には面倒見の良いユキになる。そんなユキを見て、ずっと心配していた知夏達もやっと安心できた。
やがて知夏よりも唯一、年下の昴にも初めての『お仕事』の日が訪れた。
その時もユキが、ずっと昴のそばにいた。
知夏も、年上のユキ達が自分にそうしてくれたように、昴の優しいお姉さんになろうと心がけた。
『お仕事』だけは絶対的に慣れるようなものでは無かったが、此処での生活が長くなるにつれ、知夏は皆と打ち解けていった。
今現在、知夏の此処での生活は一年経とうとしている。
知夏にとって、ユキ達が家族のような存在になってきている。
* * *
その少女は、リビングルームでルーシーに撮影のためのヘアメイクを施されていた。
知夏と昴も一緒に、その様子を見ている。
間仲はキッチンにあったモーニングの残り物を適当に摘まんだ後、リビングルームの窓辺に立ってカップを持ち珈琲を飲んでいた。だが間仲の視線は窓の外ではなく、ドレッサーの鏡に映っているバスローブ姿の少女に向けられていた。
「今…この子撮ってもいいかな?」
「あらっ、今はダメよぉ。アタシも写っちゃうじゃなぁい。前にも言ったでしょ?此処で写真撮られたくないってぇ」
「ルーシーは写らないように気をつけるって。たまには、こんな姿も会員に見せた方が喜ぶんじゃない?」
「そうかもしれないけど…でもねぇ…」
「だってこの子、何時間撮っても笑顔とか多分無理でしょ?だったら、他の子とは違う写真で会員さんの注目集めないと。最初の段階で金額つり上げといた方が、この子も後々楽なんじゃない?」
「う~ん…、まぁ良いわ。どうせ後で尾津ちゃんがチェックするのよねぇ?とにかくぅアタシのことは絶対、写さないでちょうだい」
「だーいじょーぶだってぇ、俺に任せてよ」
間仲は撮影室からカメラを取ってくると、少女をパシャパシャと撮り始めた。
少女はカメラのフラッシュが当たる中でも、間仲に顔を向けることも背けることもせず、ヘアメイクをされ少しずつ変化していく鏡に映った自分の顔に興味を示すこともなく、ただ静かに瞬きを繰り返していた。
「は~い、ドールちゃん。出来上がりよぉ、お疲れ様。じゃぁあぁ、早速お着替えしましょうねぇ。楽しみだわ~」
ルーシー達は、少女を連れて撮影室に移動した。
「じゃあ先ずはぁ、これから着てみましょうねぇ。知夏ちゃんと昴もお手伝いしてくれるぅ?」
「うん」と、知夏と昴が頷いた。
ルーシー達が少女の着ているバスローブを脱がせて、衣装に着替えさせる。
間仲は棚に置いてあるクマのヌイグルミをバスケットボールのようにポンポンと両手の上で転がしながら、チラチラと少女を見ている。
「ほら!やっぱり似合うわぁ~。この色にして正解ねぇ」
そこにはパステルブルーのドレスを着た裸足の少女が立っていた。頭にはドレスと同色の花冠をつけている。
「うん、可愛いじゃない。はい、どうぞ」
間仲が少女の手を取り、クマのヌイグルミを持たせた。
「ヤダもう、これだけで十分絵になっちゃうわぁ。さぁさ、靴下とお靴も履かなきゃねぇ」
「俺も手伝うよ」
そう言って、間仲が少女をお姫様抱っこした。
「この方が履かせやすいんじゃない?」
「あらぁ、気が利くわねぇ」
ルーシーが少女の足に靴下と靴を履かせている間、間仲は少女の顔を食い入るように見ていた。
「はい、これでオッケーよ」
「…あ、できた?じゃあ…始めようかな」
間仲が我に返った。
少女を抱き上げたまま撮影用に配置された、花柄のカウチソファまで歩いて行き、高さのある肩肘側に寄りかからせるように横向きにして座らせる。
ルーシーが少女の髪やドレスの裾を整え終わると、撮影が始まった。
途中、ポーズを変えて撮った後、衣装を着替えさせ別の家具や小道具を使って何パターンか撮影していく。
知夏と昴は少女の着替えを手伝いながら、邪魔にならない所で少女が撮影されている様子を見ていた。
知夏は写真を撮る作業自体は興味があったので、ずっと見ているのは平気だったが、昴が飽きてきた。
「ねぇねぇ、チカちゃん」
「なあに?」
「〈おくじょう〉であそぼー」
「うん、でも…。」
「いっしょにラジコンしようよー」
昴が知夏の手を引っ張る。
「あ~ん二人共、此処はもう大丈夫だからぁ遊んできて良いわよぉ。お手伝い、ありがとねぇ~。」
「チカちゃん、いこーいこー」
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