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第2章「籠の中の子供達」
十一話「琉詩とお出掛け(会員・木己島)①」
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「はい、目ぇ瞑ってぇ~。九月って言っても、まだまだ陽射しも強いんだからぁ、顔も首もちゃ~んと、日焼け止め塗っとかなきゃ」
ギュッと両目を瞑る琉詩の顔に、ルーシーが丁寧に日焼け止めを塗ってゆく。
「は~い、琉詩ちゃん。これでオッケーよん」
琉詩は、パグやダックスフンドやチワワなどの小型犬が描かれたオレンジ色のTシャツに、デニムのショートパンツを穿いている。
「外はぁ、蚊も飛んでるかもしれないじゃなぁい?だから虫除けスプレーとぉ、もし刺されちゃっても痒み止めの塗り薬も入ってるしぃ、必要な物は…ホラ、あの伊勢谷ちゃんのリュックの中だから」
伊勢谷が穏和な笑みを浮かべながら、後ろを向いて背負っているリュックを見せる。
普段はスーツ姿が多いが、今日は伊勢谷もTシャツにジーンズとカジュアルな格好だ。
「うん、わかったぁ」
「あとはぁ…はい、これ。ちゃんと帽子も被ってね~」
ルーシーは琉詩に、クリーム色のサファリハットを被せた。
リビングルームに作り付けられた壁面収納の大きな鏡に、琉詩の全身が映っている。
「うん、カッコイイわよぉ~!やっぱり琉詩ちゃんは、明るい色が似合うわねぇ」
後ろから、ルーシーが鏡越しに琉詩を褒めちぎる。
「あははっ」
サファリハットの顎紐を両手でいじりながら、琉詩は無邪気に笑う。
「琉詩君。木己島様がプレゼントして下さったお洋服、気に入ったかな?」
伊勢谷が床に片膝を付いて、琉詩に尋ねる。
「うんっ」
琉詩は伊勢谷の顔を見て、明るく頷く。
「そうか、良かった。琉詩君も何回か会ったから解ると思うけど、木己島様は琉詩君のこと、と~っても気にかけてるんだよ。今日の動物園もね、琉詩君と一緒に行くの木己島様も、ず~っと楽しみにしてたんだ」
「ほんとう?」
「ああ、本当だよ。だから今日は、いっぱい楽しも~!」
伊勢谷が両腕を上げて、ガッツポーズをする。
「お~っ!」
琉詩も両腕を高く上げて、元気良く答えた。
* * *
「お早う!琉詩君」
既に動物園に入場して待っていた木己島は、優しい笑顔で琉詩を迎えた。
「ジミー!おはようございまぁす」
琉詩は木己島のそばまで駆け寄った。
木己島は五十代前半の大手レコード会社の会長だ。日焼けした肌に茶色に染めた短髪。今日は琉詩と同じように、Tシャツに短パン姿。本革のボディバッグを肩に斜め掛けしている。木己島も伊勢谷やルーシーと同様、日常的に鍛えており、後ろ姿は若々しい。
琉詩には自分のことを、『ジミー』と呼ばせている。
「琉詩君とまた会えて、嬉しいよ。おっ。俺のあげた服、着てくれたんだね?ほら見てごらん。帽子、色違いのお揃いだよ?」
木己島が自分の頭に被っているカーキ色の帽子を外して、琉詩に見せた。琉詩も自分の帽子を取って、見比べる。
「あっ、ほんとうだねっ」
「ああ。琉詩君とお揃いにしたかったんだ」
そう言うと木己島は自分の帽子を被り直してから、琉詩の頭にも被せてあげた。
「さあ、行こう!」
「うんっ」
木己島が手を伸ばし、琉詩と手を繋いで歩き出した。伊勢谷も後を付いて行く。
会員が『倉庫』内の子供を連れて外出する時は『尾津』や『伊勢谷』、他にも『倉庫』に関わる社員が必ず同行する。
第一は子供が隙を見て逃げ出し、騒ぎを起こさないための監視役。
第二は、カモフラージュのため。
倶楽部『黒薔薇の遊宴』の会員達は大半が、既婚者である。
木己島にも妻と、三人の娘がいる。
琉詩と手を繋いで歩いているところに、木己島をよく知る人物と出会したり、後で家族に知られたとしても、伊勢谷が同行していれば「彼の息子だ」などと言って、適当に誤魔化せる。
「しゅっぱ~つ!」
三人は園内の専用車に乗って、元気良く掛け声を上げると出発した。
伊勢谷が運転し、琉詩と木己島は後部座席に座る。
野生動物区域のゲートが開いて、先を進んで行くと、野生動物が出現し始める。
車の進行方向を示す道路の周囲は、草や樹木が生えた自然地帯になっており、そこを自由に野生動物が行き交っている。
琉詩は家族と何回も動物園に行っていたが、柵の中の動物しか観たことが無かった。だから道路を普通に歩いたり、寝そべって道を塞ぐ野生動物達に、琉詩の気分も高揚して窓の外に釘付けだ。
「あっ、すごい!クマさんも、木にのぼれるんだねっ」
「あれ~。あそこのライオン、うごかないねぇ。ねむいのかなぁ?」
「うわー。サイの〈ツノ〉おっきくて、カッコいいー」
クマやライオン、サイやゾウなど次々と野生動物が現れる度に、琉詩は素直な感想を言って楽しんでいる。
木己島は琉詩の隣で、にこやかに相槌を打つ。
その様子を伊勢谷はハンドルを握りながら、穏やかな笑みを浮かべて見守っている。
「わっ、キリンさん。〈した〉なが~い!」
キリンが窓に「ヌッ」と顔を近付け、琉詩が持っている餌を食べようと、金網に舌を入れて伸ばして来た。
専用車のドアガラス部分は外側が金網で覆われており、そこから特定の野生動物に餌が与えられるのだ。
「はい、キリンさん。どうぞ」
琉詩が餌やり用の木の葉を差し出すと、キリンが舌で器用に絡め取り、口の中に入れた。
「おっ、琉詩君。上手くあげられたじゃないか。怖くないかい?」
「ううん、こわくないよ。あっ。もう、なくなっちゃった…。キリンさん、あんなちょっとだけで〈おなか〉すかないかなぁ?」
「大丈夫だよ。キリンさんは飼育員さんから他にも、ご飯をもらってるからね」
「へぇ~、そっかぁ」
「さあ。次はあっちの山羊みたいのに、ご飯あげようか?」
「うんっ」
* * *
野生動物区域を周り終えて、琉詩達は昼食を摂るため、園内のレストランに入った。
ウェイターに案内されたのは、二階の個室だった。
「お坊っちゃま、こちらへどうぞ」
ウェイターが高めの椅子を引いて、窓側に琉詩を座らせた。
木己島は琉詩の向かいに、伊勢谷は琉詩の隣に座る。
「あっ、クジャクさんだ~」
琉詩は窓の外を見て、声を上げる。
「ここはね、一日二組しか入れない特別なお部屋なんだ。木己島様が琉詩君のために、わざわざ予約を取って下さったんだよ」
「どうだい、琉詩君?これだけ近いと、孔雀の羽根がよく見えるだろう?」
大きな窓から見えるのは、芝生の生えた広いベランダで寛いでいる数羽の孔雀。
「うんっ。あっ、あのクジャクさん、まっ白!キレイだねっ」
注文したドリンクが先に運ばれ、それから程無く、個室予約者の限定メニューの皿がテーブルに揃う。
琉詩の前に置かれたのは、お子様ランチの豪華版だ。熊の顔を型どったピラフ、マグカップに注がれたコーンスープ、ハンバーグや海老フライにオムレツ、温野菜に特製ディップなどが大きなプレートに盛られている。
木己島と伊勢谷の前には、ビーフシチューとパンが置かれた。
「いただきま~す!」
孔雀を眺めながら琉詩はご機嫌な様子で、プレートの料理を口に運んだ。
(続)
ギュッと両目を瞑る琉詩の顔に、ルーシーが丁寧に日焼け止めを塗ってゆく。
「は~い、琉詩ちゃん。これでオッケーよん」
琉詩は、パグやダックスフンドやチワワなどの小型犬が描かれたオレンジ色のTシャツに、デニムのショートパンツを穿いている。
「外はぁ、蚊も飛んでるかもしれないじゃなぁい?だから虫除けスプレーとぉ、もし刺されちゃっても痒み止めの塗り薬も入ってるしぃ、必要な物は…ホラ、あの伊勢谷ちゃんのリュックの中だから」
伊勢谷が穏和な笑みを浮かべながら、後ろを向いて背負っているリュックを見せる。
普段はスーツ姿が多いが、今日は伊勢谷もTシャツにジーンズとカジュアルな格好だ。
「うん、わかったぁ」
「あとはぁ…はい、これ。ちゃんと帽子も被ってね~」
ルーシーは琉詩に、クリーム色のサファリハットを被せた。
リビングルームに作り付けられた壁面収納の大きな鏡に、琉詩の全身が映っている。
「うん、カッコイイわよぉ~!やっぱり琉詩ちゃんは、明るい色が似合うわねぇ」
後ろから、ルーシーが鏡越しに琉詩を褒めちぎる。
「あははっ」
サファリハットの顎紐を両手でいじりながら、琉詩は無邪気に笑う。
「琉詩君。木己島様がプレゼントして下さったお洋服、気に入ったかな?」
伊勢谷が床に片膝を付いて、琉詩に尋ねる。
「うんっ」
琉詩は伊勢谷の顔を見て、明るく頷く。
「そうか、良かった。琉詩君も何回か会ったから解ると思うけど、木己島様は琉詩君のこと、と~っても気にかけてるんだよ。今日の動物園もね、琉詩君と一緒に行くの木己島様も、ず~っと楽しみにしてたんだ」
「ほんとう?」
「ああ、本当だよ。だから今日は、いっぱい楽しも~!」
伊勢谷が両腕を上げて、ガッツポーズをする。
「お~っ!」
琉詩も両腕を高く上げて、元気良く答えた。
* * *
「お早う!琉詩君」
既に動物園に入場して待っていた木己島は、優しい笑顔で琉詩を迎えた。
「ジミー!おはようございまぁす」
琉詩は木己島のそばまで駆け寄った。
木己島は五十代前半の大手レコード会社の会長だ。日焼けした肌に茶色に染めた短髪。今日は琉詩と同じように、Tシャツに短パン姿。本革のボディバッグを肩に斜め掛けしている。木己島も伊勢谷やルーシーと同様、日常的に鍛えており、後ろ姿は若々しい。
琉詩には自分のことを、『ジミー』と呼ばせている。
「琉詩君とまた会えて、嬉しいよ。おっ。俺のあげた服、着てくれたんだね?ほら見てごらん。帽子、色違いのお揃いだよ?」
木己島が自分の頭に被っているカーキ色の帽子を外して、琉詩に見せた。琉詩も自分の帽子を取って、見比べる。
「あっ、ほんとうだねっ」
「ああ。琉詩君とお揃いにしたかったんだ」
そう言うと木己島は自分の帽子を被り直してから、琉詩の頭にも被せてあげた。
「さあ、行こう!」
「うんっ」
木己島が手を伸ばし、琉詩と手を繋いで歩き出した。伊勢谷も後を付いて行く。
会員が『倉庫』内の子供を連れて外出する時は『尾津』や『伊勢谷』、他にも『倉庫』に関わる社員が必ず同行する。
第一は子供が隙を見て逃げ出し、騒ぎを起こさないための監視役。
第二は、カモフラージュのため。
倶楽部『黒薔薇の遊宴』の会員達は大半が、既婚者である。
木己島にも妻と、三人の娘がいる。
琉詩と手を繋いで歩いているところに、木己島をよく知る人物と出会したり、後で家族に知られたとしても、伊勢谷が同行していれば「彼の息子だ」などと言って、適当に誤魔化せる。
「しゅっぱ~つ!」
三人は園内の専用車に乗って、元気良く掛け声を上げると出発した。
伊勢谷が運転し、琉詩と木己島は後部座席に座る。
野生動物区域のゲートが開いて、先を進んで行くと、野生動物が出現し始める。
車の進行方向を示す道路の周囲は、草や樹木が生えた自然地帯になっており、そこを自由に野生動物が行き交っている。
琉詩は家族と何回も動物園に行っていたが、柵の中の動物しか観たことが無かった。だから道路を普通に歩いたり、寝そべって道を塞ぐ野生動物達に、琉詩の気分も高揚して窓の外に釘付けだ。
「あっ、すごい!クマさんも、木にのぼれるんだねっ」
「あれ~。あそこのライオン、うごかないねぇ。ねむいのかなぁ?」
「うわー。サイの〈ツノ〉おっきくて、カッコいいー」
クマやライオン、サイやゾウなど次々と野生動物が現れる度に、琉詩は素直な感想を言って楽しんでいる。
木己島は琉詩の隣で、にこやかに相槌を打つ。
その様子を伊勢谷はハンドルを握りながら、穏やかな笑みを浮かべて見守っている。
「わっ、キリンさん。〈した〉なが~い!」
キリンが窓に「ヌッ」と顔を近付け、琉詩が持っている餌を食べようと、金網に舌を入れて伸ばして来た。
専用車のドアガラス部分は外側が金網で覆われており、そこから特定の野生動物に餌が与えられるのだ。
「はい、キリンさん。どうぞ」
琉詩が餌やり用の木の葉を差し出すと、キリンが舌で器用に絡め取り、口の中に入れた。
「おっ、琉詩君。上手くあげられたじゃないか。怖くないかい?」
「ううん、こわくないよ。あっ。もう、なくなっちゃった…。キリンさん、あんなちょっとだけで〈おなか〉すかないかなぁ?」
「大丈夫だよ。キリンさんは飼育員さんから他にも、ご飯をもらってるからね」
「へぇ~、そっかぁ」
「さあ。次はあっちの山羊みたいのに、ご飯あげようか?」
「うんっ」
* * *
野生動物区域を周り終えて、琉詩達は昼食を摂るため、園内のレストランに入った。
ウェイターに案内されたのは、二階の個室だった。
「お坊っちゃま、こちらへどうぞ」
ウェイターが高めの椅子を引いて、窓側に琉詩を座らせた。
木己島は琉詩の向かいに、伊勢谷は琉詩の隣に座る。
「あっ、クジャクさんだ~」
琉詩は窓の外を見て、声を上げる。
「ここはね、一日二組しか入れない特別なお部屋なんだ。木己島様が琉詩君のために、わざわざ予約を取って下さったんだよ」
「どうだい、琉詩君?これだけ近いと、孔雀の羽根がよく見えるだろう?」
大きな窓から見えるのは、芝生の生えた広いベランダで寛いでいる数羽の孔雀。
「うんっ。あっ、あのクジャクさん、まっ白!キレイだねっ」
注文したドリンクが先に運ばれ、それから程無く、個室予約者の限定メニューの皿がテーブルに揃う。
琉詩の前に置かれたのは、お子様ランチの豪華版だ。熊の顔を型どったピラフ、マグカップに注がれたコーンスープ、ハンバーグや海老フライにオムレツ、温野菜に特製ディップなどが大きなプレートに盛られている。
木己島と伊勢谷の前には、ビーフシチューとパンが置かれた。
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