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第2章「籠の中の子供達」
十二話「琉詩とお出掛け(会員・木己島)②」
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「でも良かったよ。琉詩君、乗り物酔いしなくて。朝からずっと車に乗ってたけど、大丈夫だった?」
ビーフシチューを食べ終えて、木己島と伊勢谷は珈琲を飲んでいる。
動物園に入ってから、ずっと琉詩と木己島が会話を交わし、伊勢谷は控え目な付き添い役に徹した態度だ。
「うんっ。ぼく、へいき」
琉詩は明るく答える。琉詩の前には、兎を可愛くキャラ風にした特製ケーキが置かれ、好みの味なのか、一口食べる毎に嬉しそうな表情になる。
「ねぇ」
「なに?琉詩君?」
「ぼく…〈おなか〉いっぱいになってきちゃったから、みんなでぇ〈いっしょ〉にたべよう?これ、おいしいよ?」
琉詩は、木己島と伊勢谷の顔を交互に見ながら言った。
木己島と伊勢谷は顔を見合わせ、「フッ」と笑う。
「そうか。じゃあ、ジミーも頂こうか。ああ、でもフォークが一つしか無いな。琉詩君が、ジミーに食べさせてくれるかな?」
「うんっ」
まだ形の崩れていない長い片耳にフォークを刺して、琉詩は一口分を、向かい側の木己島に差し出す。
「はぁい、どうぞ」
木己島はテーブルに身を乗り出し、口を大きく開けて、ケーキを食べた。
「ジミー、おいしい?」
「うん、美味しいよ」
「あははっ」
木己島が答えると琉詩は嬉しそうに笑い、また一口分をフォークに刺す。
「はぁい。いっくんも、どうぞ」
今度は横を向いて、右隣の伊勢谷に差し出す。
「あ、琉詩君。折角だけど僕はもう、お腹いっぱいなんだ」
伊勢谷は、右手を胸の前に上げる。
「あ、そっかぁ」
「ああ。だから、木己島様と二人で食べなさい」
「うん」
「琉詩君」
木己島に呼ばれ、琉詩は伊勢谷の方に向けていた顔を正面に戻す。
「次はさっきよりも、もっと餌やりが出来る所に行くからね。いっぱい、動物に触れるよ」
木己島が明るく語りかける。
「ほんとう?やったぁ」
「どう?琉詩君、楽しい?」
「うんっ、楽しいっ」
琉詩は差し出したフォークを戻して、「パクッ」と自分の口の中に入れる。
「そうかそうか。琉詩君が喜んでくれたら、ジミーも嬉しいよ。ジミーはね、琉詩君が大好きなんだ」
木己島は『ジミー』と言う度に、「トントン」と自分の胸に人差し指を当てながら話す。
「どう?琉詩君は…ジミーのこと、好きかな?」
「うん」
琉詩は口に頬張ったケーキを、モグモグと咀嚼しながら頷く。
「ぼくも、ジミーだいすきっ!」
口の中の物を飲み込んだ後、琉詩は無邪気な笑顔で答えた。
* * *
日も暮れて三人は今、帰りの車中に居る。
午後も琉詩は動物と触れ合い、遊び疲れて木己島の膝を枕にして後部座席で熟睡中だ。木己島は、琉詩の寝顔を見つめている。
「木己島様。お疲れではございませんか?」
運転席の伊勢谷が、バックミラー越しに話しかける。
「いや。琉詩君は会うと、いつもフレンドリーだからね。逆に元気を貰えるよ。今日は俺も、すっかり楽しんじゃったな」
「僕も、他の会員様との面会の様子を拝見していますが…やはり木己島様に一番、懐いてます」
「そう?どうせ会員皆に、同じこと言ってるんじゃない?」
「いいえぇ」
伊勢谷は首を左右に振る。
「決して、その様なことは。思ったままを、お伝えしたまでです」
「フッ、どうかな?それに…君にも大分、懐いてるようだしね?」
木己島は嫉妬交じりの瞳を、バックミラーに映る伊勢谷に向ける。
「木己島様…。ハハ、困りましたねえ」
伊勢谷は太い下がり眉を更に下げ、苦笑いする。
「確かに…僕が担当ですから『倉庫』に連れて行くために、どうしても多少は好かれないといけませんし…ハハ。どうか、ご勘弁下さい」
「うん…。まあ、いいや」
木己島をバックミラーから視線を外し、琉詩の頭を撫でながら、窓の外の流れる景色を見る。
「しかし久々だな、オークション…。気合いが入るね」
そう言って木己島は、不敵な笑みを浮かべた。
◇ ◆ ◇
その後も琉詩は会員達と面会を繰り返し、様々な場所へお出掛けした。
琉詩は、どの会員に対しても人見知りせず、笑顔で接した。面会した会員達は、漏れなく琉詩を気に入った。
だがオークションに対しては、『参加する会員』・『不参加の会員』と、二手に分かれた。
余りにも人怖じしない純真無垢な天使を、一番手で汚してしまうことに尻込みしてしまっていたからだ。
それでも参加を選ぶ会員も、少なくは無かった。
琉詩の知らないところで刻一刻と、その日は近付いていた。
(続)
ビーフシチューを食べ終えて、木己島と伊勢谷は珈琲を飲んでいる。
動物園に入ってから、ずっと琉詩と木己島が会話を交わし、伊勢谷は控え目な付き添い役に徹した態度だ。
「うんっ。ぼく、へいき」
琉詩は明るく答える。琉詩の前には、兎を可愛くキャラ風にした特製ケーキが置かれ、好みの味なのか、一口食べる毎に嬉しそうな表情になる。
「ねぇ」
「なに?琉詩君?」
「ぼく…〈おなか〉いっぱいになってきちゃったから、みんなでぇ〈いっしょ〉にたべよう?これ、おいしいよ?」
琉詩は、木己島と伊勢谷の顔を交互に見ながら言った。
木己島と伊勢谷は顔を見合わせ、「フッ」と笑う。
「そうか。じゃあ、ジミーも頂こうか。ああ、でもフォークが一つしか無いな。琉詩君が、ジミーに食べさせてくれるかな?」
「うんっ」
まだ形の崩れていない長い片耳にフォークを刺して、琉詩は一口分を、向かい側の木己島に差し出す。
「はぁい、どうぞ」
木己島はテーブルに身を乗り出し、口を大きく開けて、ケーキを食べた。
「ジミー、おいしい?」
「うん、美味しいよ」
「あははっ」
木己島が答えると琉詩は嬉しそうに笑い、また一口分をフォークに刺す。
「はぁい。いっくんも、どうぞ」
今度は横を向いて、右隣の伊勢谷に差し出す。
「あ、琉詩君。折角だけど僕はもう、お腹いっぱいなんだ」
伊勢谷は、右手を胸の前に上げる。
「あ、そっかぁ」
「ああ。だから、木己島様と二人で食べなさい」
「うん」
「琉詩君」
木己島に呼ばれ、琉詩は伊勢谷の方に向けていた顔を正面に戻す。
「次はさっきよりも、もっと餌やりが出来る所に行くからね。いっぱい、動物に触れるよ」
木己島が明るく語りかける。
「ほんとう?やったぁ」
「どう?琉詩君、楽しい?」
「うんっ、楽しいっ」
琉詩は差し出したフォークを戻して、「パクッ」と自分の口の中に入れる。
「そうかそうか。琉詩君が喜んでくれたら、ジミーも嬉しいよ。ジミーはね、琉詩君が大好きなんだ」
木己島は『ジミー』と言う度に、「トントン」と自分の胸に人差し指を当てながら話す。
「どう?琉詩君は…ジミーのこと、好きかな?」
「うん」
琉詩は口に頬張ったケーキを、モグモグと咀嚼しながら頷く。
「ぼくも、ジミーだいすきっ!」
口の中の物を飲み込んだ後、琉詩は無邪気な笑顔で答えた。
* * *
日も暮れて三人は今、帰りの車中に居る。
午後も琉詩は動物と触れ合い、遊び疲れて木己島の膝を枕にして後部座席で熟睡中だ。木己島は、琉詩の寝顔を見つめている。
「木己島様。お疲れではございませんか?」
運転席の伊勢谷が、バックミラー越しに話しかける。
「いや。琉詩君は会うと、いつもフレンドリーだからね。逆に元気を貰えるよ。今日は俺も、すっかり楽しんじゃったな」
「僕も、他の会員様との面会の様子を拝見していますが…やはり木己島様に一番、懐いてます」
「そう?どうせ会員皆に、同じこと言ってるんじゃない?」
「いいえぇ」
伊勢谷は首を左右に振る。
「決して、その様なことは。思ったままを、お伝えしたまでです」
「フッ、どうかな?それに…君にも大分、懐いてるようだしね?」
木己島は嫉妬交じりの瞳を、バックミラーに映る伊勢谷に向ける。
「木己島様…。ハハ、困りましたねえ」
伊勢谷は太い下がり眉を更に下げ、苦笑いする。
「確かに…僕が担当ですから『倉庫』に連れて行くために、どうしても多少は好かれないといけませんし…ハハ。どうか、ご勘弁下さい」
「うん…。まあ、いいや」
木己島をバックミラーから視線を外し、琉詩の頭を撫でながら、窓の外の流れる景色を見る。
「しかし久々だな、オークション…。気合いが入るね」
そう言って木己島は、不敵な笑みを浮かべた。
◇ ◆ ◇
その後も琉詩は会員達と面会を繰り返し、様々な場所へお出掛けした。
琉詩は、どの会員に対しても人見知りせず、笑顔で接した。面会した会員達は、漏れなく琉詩を気に入った。
だがオークションに対しては、『参加する会員』・『不参加の会員』と、二手に分かれた。
余りにも人怖じしない純真無垢な天使を、一番手で汚してしまうことに尻込みしてしまっていたからだ。
それでも参加を選ぶ会員も、少なくは無かった。
琉詩の知らないところで刻一刻と、その日は近付いていた。
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