記憶をなくした子守歌

胡花宝 愛芽

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第2章「籠の中の子供達」

十五話「知夏とカメラ」

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 パシャッ。

 知夏が、写真を撮っている。

 パシャッ。

 花瓶に活けられた色とりどりの花束。

 パシャッ。

 莉央が描いた絵。

 パシャッ。

 プラモデルを製作途中の散らかった陽の机。
 
 パシャッ。

 いつも一馬が弾いているピアノ。

 パシャッ。

 ユキに教えてもらいながら、ノートに練習したけれど、ちょっと読みにくい昴が書いた漢字。

 パシャッ。

 四階のベランダに並んだプランター。開花したパンジーや秋桜、竜胆りんどう

 パシャッ。

 その花の蜜を吸う、紋白蝶。

 パシャッ。

 窓を這う蜘蛛。

 パシャッ。

 屋上の手摺に止まって、羽根を休めている小鳥。

 パシャッ。

 樹木。

 パシャッ。

 屋上の真ん中に立って、ゆっくり、その場で回ってみる。

 パシャッ。

 樹木と空。

 パシャッ。

 樹木と空。

 パシャッ。

 樹木と空。

 パシャッ。

 樹木と空。

 パシャッ。

 空は毎日、違う。
 
 パシャッ。

 朝の空。

 パシャッ。

 昼の空。 

 パシャッ。

 夕焼け空。

 パシャッ。

 夜の星空。

 パシャッ。

 晴れた空。

 パシャッ。

 曇った空。

 パシャッ。

 雨空。

 パシャッ。

 知夏は写真を撮る。

 パシャッ。

 知夏は、人間を撮らない。

 パシャッ。

 そもそも知夏が、大人達を撮ることは禁じられている。

 パシャッ。

 でも、子供達も撮らない。

 パシャッ。
 
 知夏も、皆も、いっぱい大人達に、撮られてきたから。
 自由時間の皆を、煩わせたくない。
 楽しくないのに、笑いたくないのに、「笑って」なんて、知夏は言えない。言いたくない。
 自由時間に、ふと、自然に笑った皆の顔が、知夏は好きだから。
 笑わなくても、自分と話してくれる時の自然な表情が好きだから。
 
「冬になったら…雪、ふるかなあ…?」

 紅葉彩る遠すぎる山景色を、ファインダー越しに見つめながら、知夏は呟く。

「そしたら、みんなで雪だるま作って…写真、とりたいな…」

 撮るのは、雪だるまだけ。皆は、撮らない。

 パシャッ。

 パシャッ。パシャッ。


 でも…ちょっぴり、「撮ってみたい」と思うこともある。

 ユキちゃんの手。

 白くて、指は細くって長いし、爪の形も綺麗。
 
 手や足のモデルさんみたい。
 
 手の指が綺麗だから、足の指も綺麗。
 
 マニキュア塗ったら、大人の女の人みたい。

 自分の手は、あんまり好きじゃない。

 指が短いし、親指の爪が横に長いから。

 ユキちゃんは親指の爪も、他の指みたいに縦に長い。

 憧れる。

 それに、ユキちゃんの手は安心できる。

 知夏の手を、優しく包んでくれるから。

 知夏の両手を包んだ時、ユキちゃんの親指の爪がよく見える。

 マニキュアを塗っていないユキちゃんの爪は、ツルツルしていて桜色。

 マニキュアを塗った手も好きだけど、何もしてないユキちゃんの手は、もっと好き。


「今度…、おねがいしてみようかな」




(続)
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