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第1章「0(ゼロ)」
十七話「少女の面会(会員・森島)②」
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その少女と森島のいる3号室を出た早瀬は、受付カウンターへと早足で歩いて行った。
受付カウンターの中には、誰もいなかった。
早瀬は、受付カウンターの奥にある「STAFF ONLY」と表記された扉を開け中に入ると、更に右手にあるドアをノックして開けた。
そこは『警備室』のような形になっており、『面会室』の各室内やエレベーター、一階の玄関口などの映像が分割して映し出された監視用モニター数台が棚に設置されていた。
椅子に座っている園田とヒロシ、そして尾津の三人が一斉に振り返って早瀬を見る。
「失礼致します。あの…園田マネージャー。森島様が、カラオケルームへの移動をご希望されているのですが…」
「ああ、そうみたいだね。良いよ」
一台の監視用モニターがちょうど3号室の室内を、フル画面で映し出していた。
モニターからは音声も拾える機能があり、森島との会話は園田達三人に届いていたようだった。
早瀬は、園田の返事に驚きの表情を見せる。
「ですが…、今夜の森島様はワインもかなりの量を召し上がってますし、随分と酔ってらっしゃるご様子です。また、『ほの香』のようなことがあっては…」
「あ~あん時は、マ~ジでウザかったッスね~」
ヒロシが頭を掻く。
* * *
森島は大学のサークル仲間とアマチュアバンドを組んでいる。
その繋がりで親しくなった大学のOBがいるのだが、頻繁に飲んで深い話をするうちに共通の趣味を、お互いに持っていることを知った。
そのOBから紹介されて、森島はこの倶楽部の会員になった。
この倶楽部の会員になるためには、審査に通る必要がある。
森島の父親が会社から販売している健康食品はCMで宣伝され、母親はファッション雑誌に載りTV出演もしている。
森島はアルバイトすらしたことがなく社会人でもなかったが、両親の財力と知名度のおかげで審査を通った。
特に母親からは溺愛され、ある程度は金銭の融通が利き、この倶楽部の『年会費』の支払いも何とかなっている。
『表』の倶楽部でも母親と保養所に宿泊し、一緒にゴルフ等のレジャー施設を活用している。
ー勿論、母親には『裏』の倶楽部のことは内緒にしているが。
森島が倶楽部の会員になって、初めて指名したのが『ほの香』だった。
『ほの香』は、十歳の女の子だ。
性格は大人しく、『お仕事』以外の時間はウォークマンで音楽を聴いて過ごすことが多い。
普段はユキ達に対しても口数は少ないが、ただ音楽を聴くだけでなく歌うことも大好きで、雨が降らない日はよく屋上に出て歌っている。
三階には防音室になっているオーディオルームが一部屋あり、電子ピアノやドラム等の楽器も置いてある。
ほの香と同い年の『一馬』というポッチャリ体型の男の子がいるのだが、ピアノが弾ける。
時々、オーディオルームで一馬がピアノを弾いて、ほの香が歌って遊んでいる。
会員側の初回利用時は、指名した後も気軽にチェンジできるように保養所の客室ではなく、『面会室』で子供と過ごしてもらう。
カラオケルームを選んだ森島は酒を飲んでいたが、ほの香が入室してからも変に触ることもなく優しく接していた。
森島は流行りのJーPOPを歌い、ほの香が歌っている間も「可愛いー!」「最高ー!」と拍手して褒めていたので、ほの香も安心してカラオケを楽しんでいた。
だが飲酒する量が増えてくると、森島の様子が変わってきた。
選択する曲が、ヘヴィメタルになっていく。
ほの香はそのジャンルの曲は聴いたことが無く、初めはポカーンとした顔で森島が歌うのを聴いていた。
森島は段々と興に乗ってきたのか、ミュージックとマイクの音量を上げ、ほの香に森島自身が自慢にしているデスヴォイスを披露し始めた。
ほの香は自分の許容を越えた音量と、今まで普通に歌っていた森島の豹変ぶりに恐怖を感じ、目を瞑り自分の両耳を手で塞いでしまった。
それを見た森島はデスヴォイスを止めるどころか、ほの香に酔っ払って赤くなった顔を近づけて、酒臭い息を吐きながら至近距離で歌い続けた。
ほの香は耐えきれずに部屋の中を逃げ回るが、森島はどんどん追いかけ回す。
とうとう、ほの香は泣き出してしまいカラオケルームのドアを開けて、廊下へと逃げ出した。
ほの香はそれから数日の間、デスヴォイスを叫びながら追いかけてくる化け物の悪夢を見て眠れなくなり、精神的不安のせいか暫く耳鳴りにも悩まされた。
その一件があってから、森島が『裏』の倶楽部を利用する場合は『面会室』や保養所の客室も、カラオケ機器のある部屋には通さないようにしていたのだ。
* * *
「あれ以来ご来店の際には、お歌は控えてもらってたんだがな。今回はお嬢ちゃんが相手だし、まあ…様子見だ」
尾津が答える。
「6号室にお通しして」
園田が冷めた声で、早瀬に指示する。
「まあ、面倒が起きたら俺達が止めに行くさ」
尾津が立ち上がって、早瀬の肩をポンッと叩いた。
「…承知しました」
早瀬は3号室に戻り、少女と森島をカラオケ機器が設置された6号室へと案内した。
三種のプチケーキが盛られた皿や何本かの輸入ビールとグラス、少女のために作られたノンアルコールカクテルが運ばれてくる。
ウェイターが森島の分のデザート皿と飲み物を、ローテーブルに並べる。
そのローテーブルを囲うようにL字型のソファーが設置されているのだが、長いソファーにも関わらず、森島は少女にくっついて座っている。
「…君の分は、此処に置いておくからね」
ソファーに座る少女が手に取りやすいように、ストロー付きのメイソンジャーとデザート皿が載ったトレーを、早瀬が少女の右横に置いた。
少女の左隣にいる森島は、猫耳やシッポを弄ったり、スマートフォンで少女との2ショット写真を撮ったりしている。
ワインを飲み過ぎた森島は、もう顔だけでなく首まで赤い。
「…ごゆっくりお過ごし下さいませ」
そう早瀬が言い、ウェイターと共に部屋を退出した。
早速、森島が曲を入れていく。
「ミルキュンは歌わないよねー?俺、バンドのボーカルやってんだー。ミルキュンも俺のライブに呼びてえなあ」
ほの香とカラオケした時は交互に歌えるように曲を入れていたが、今回は連続で自分が歌う曲を入れている。
一曲目が流れると森島は部屋を暗くし、カラオケ機器の横にある一段高くなった小さなステージの上で、マイクを持って歌い出す。
少女の方は、横に置かれたデザート皿を両手で取って自分の膝に載せた後、フォークを持ってプチケーキを少しずつ食べ始めた。
ミラーボールの下、暗い部屋の壁をカラフルな淡い光りが染めて廻る。
最初の二、三曲は喉ならしなのか、森島は流行りの曲を歌っていた。
しかし四曲目では、ほの香の時よりも早くヘヴィメタルの曲が流れてきた。
森島は音量を上げ、咳払いをする。
前奏が終わると、デスヴォイスが部屋中に響き渡った。
「あ~あ、でやがった。悪魔の叫びが」
カラオケルームの室内がフル画面で映るモニターを眺めながら、ヒロシが毒づいた。
(続)
受付カウンターの中には、誰もいなかった。
早瀬は、受付カウンターの奥にある「STAFF ONLY」と表記された扉を開け中に入ると、更に右手にあるドアをノックして開けた。
そこは『警備室』のような形になっており、『面会室』の各室内やエレベーター、一階の玄関口などの映像が分割して映し出された監視用モニター数台が棚に設置されていた。
椅子に座っている園田とヒロシ、そして尾津の三人が一斉に振り返って早瀬を見る。
「失礼致します。あの…園田マネージャー。森島様が、カラオケルームへの移動をご希望されているのですが…」
「ああ、そうみたいだね。良いよ」
一台の監視用モニターがちょうど3号室の室内を、フル画面で映し出していた。
モニターからは音声も拾える機能があり、森島との会話は園田達三人に届いていたようだった。
早瀬は、園田の返事に驚きの表情を見せる。
「ですが…、今夜の森島様はワインもかなりの量を召し上がってますし、随分と酔ってらっしゃるご様子です。また、『ほの香』のようなことがあっては…」
「あ~あん時は、マ~ジでウザかったッスね~」
ヒロシが頭を掻く。
* * *
森島は大学のサークル仲間とアマチュアバンドを組んでいる。
その繋がりで親しくなった大学のOBがいるのだが、頻繁に飲んで深い話をするうちに共通の趣味を、お互いに持っていることを知った。
そのOBから紹介されて、森島はこの倶楽部の会員になった。
この倶楽部の会員になるためには、審査に通る必要がある。
森島の父親が会社から販売している健康食品はCMで宣伝され、母親はファッション雑誌に載りTV出演もしている。
森島はアルバイトすらしたことがなく社会人でもなかったが、両親の財力と知名度のおかげで審査を通った。
特に母親からは溺愛され、ある程度は金銭の融通が利き、この倶楽部の『年会費』の支払いも何とかなっている。
『表』の倶楽部でも母親と保養所に宿泊し、一緒にゴルフ等のレジャー施設を活用している。
ー勿論、母親には『裏』の倶楽部のことは内緒にしているが。
森島が倶楽部の会員になって、初めて指名したのが『ほの香』だった。
『ほの香』は、十歳の女の子だ。
性格は大人しく、『お仕事』以外の時間はウォークマンで音楽を聴いて過ごすことが多い。
普段はユキ達に対しても口数は少ないが、ただ音楽を聴くだけでなく歌うことも大好きで、雨が降らない日はよく屋上に出て歌っている。
三階には防音室になっているオーディオルームが一部屋あり、電子ピアノやドラム等の楽器も置いてある。
ほの香と同い年の『一馬』というポッチャリ体型の男の子がいるのだが、ピアノが弾ける。
時々、オーディオルームで一馬がピアノを弾いて、ほの香が歌って遊んでいる。
会員側の初回利用時は、指名した後も気軽にチェンジできるように保養所の客室ではなく、『面会室』で子供と過ごしてもらう。
カラオケルームを選んだ森島は酒を飲んでいたが、ほの香が入室してからも変に触ることもなく優しく接していた。
森島は流行りのJーPOPを歌い、ほの香が歌っている間も「可愛いー!」「最高ー!」と拍手して褒めていたので、ほの香も安心してカラオケを楽しんでいた。
だが飲酒する量が増えてくると、森島の様子が変わってきた。
選択する曲が、ヘヴィメタルになっていく。
ほの香はそのジャンルの曲は聴いたことが無く、初めはポカーンとした顔で森島が歌うのを聴いていた。
森島は段々と興に乗ってきたのか、ミュージックとマイクの音量を上げ、ほの香に森島自身が自慢にしているデスヴォイスを披露し始めた。
ほの香は自分の許容を越えた音量と、今まで普通に歌っていた森島の豹変ぶりに恐怖を感じ、目を瞑り自分の両耳を手で塞いでしまった。
それを見た森島はデスヴォイスを止めるどころか、ほの香に酔っ払って赤くなった顔を近づけて、酒臭い息を吐きながら至近距離で歌い続けた。
ほの香は耐えきれずに部屋の中を逃げ回るが、森島はどんどん追いかけ回す。
とうとう、ほの香は泣き出してしまいカラオケルームのドアを開けて、廊下へと逃げ出した。
ほの香はそれから数日の間、デスヴォイスを叫びながら追いかけてくる化け物の悪夢を見て眠れなくなり、精神的不安のせいか暫く耳鳴りにも悩まされた。
その一件があってから、森島が『裏』の倶楽部を利用する場合は『面会室』や保養所の客室も、カラオケ機器のある部屋には通さないようにしていたのだ。
* * *
「あれ以来ご来店の際には、お歌は控えてもらってたんだがな。今回はお嬢ちゃんが相手だし、まあ…様子見だ」
尾津が答える。
「6号室にお通しして」
園田が冷めた声で、早瀬に指示する。
「まあ、面倒が起きたら俺達が止めに行くさ」
尾津が立ち上がって、早瀬の肩をポンッと叩いた。
「…承知しました」
早瀬は3号室に戻り、少女と森島をカラオケ機器が設置された6号室へと案内した。
三種のプチケーキが盛られた皿や何本かの輸入ビールとグラス、少女のために作られたノンアルコールカクテルが運ばれてくる。
ウェイターが森島の分のデザート皿と飲み物を、ローテーブルに並べる。
そのローテーブルを囲うようにL字型のソファーが設置されているのだが、長いソファーにも関わらず、森島は少女にくっついて座っている。
「…君の分は、此処に置いておくからね」
ソファーに座る少女が手に取りやすいように、ストロー付きのメイソンジャーとデザート皿が載ったトレーを、早瀬が少女の右横に置いた。
少女の左隣にいる森島は、猫耳やシッポを弄ったり、スマートフォンで少女との2ショット写真を撮ったりしている。
ワインを飲み過ぎた森島は、もう顔だけでなく首まで赤い。
「…ごゆっくりお過ごし下さいませ」
そう早瀬が言い、ウェイターと共に部屋を退出した。
早速、森島が曲を入れていく。
「ミルキュンは歌わないよねー?俺、バンドのボーカルやってんだー。ミルキュンも俺のライブに呼びてえなあ」
ほの香とカラオケした時は交互に歌えるように曲を入れていたが、今回は連続で自分が歌う曲を入れている。
一曲目が流れると森島は部屋を暗くし、カラオケ機器の横にある一段高くなった小さなステージの上で、マイクを持って歌い出す。
少女の方は、横に置かれたデザート皿を両手で取って自分の膝に載せた後、フォークを持ってプチケーキを少しずつ食べ始めた。
ミラーボールの下、暗い部屋の壁をカラフルな淡い光りが染めて廻る。
最初の二、三曲は喉ならしなのか、森島は流行りの曲を歌っていた。
しかし四曲目では、ほの香の時よりも早くヘヴィメタルの曲が流れてきた。
森島は音量を上げ、咳払いをする。
前奏が終わると、デスヴォイスが部屋中に響き渡った。
「あ~あ、でやがった。悪魔の叫びが」
カラオケルームの室内がフル画面で映るモニターを眺めながら、ヒロシが毒づいた。
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