ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩 

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第三章 大団円

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「と、とりあえず電気! それからドアを開くっ」

 震える手で、壁をさぐりながら歩く。
 体感、水密扉は幅二メートルくらいだった、はず。

「あったぁ!」

 ほっとした。

 スイッチをすべてONにした。
 ぱっと明るくなる。 
 ドアを開けて、ガードさん達にも手伝って頂き、彼女を探そう。

「あ、開かないっ? そんな!」

 パニックになりそうな中、必死に手順を思い出す。
 というより、開閉のしかたがドアにシールで貼ってあるのでまちがえてない。

 なのに開かない。なんで?

 ふとみると、携帯電話サイズのものがドアにピコピコ光っている。
 試しに持ってみたら、外れた。マグネットでついてただけみたい。

 と。
 ドアの上のセンサーかなにかが慌ただしく色々な光で点滅し、やがて沈黙してしまった。

 ………………えっと。
 なにか電子錠みたいなのを私、壊しちゃった?

 ごくり。
 ガードさんのおっしゃった『万が一』という言葉がぐわんぐわん頭の中に響いた。

「と、とりあえず。殿下を探そうかな。うん、そうしよう」

 おそるおそる足を踏み出す。

 どうしよう、映画ではこういう場所ってモンスターや真犯人が潜んでるんだけど。

「いないよね?」

 あれはフィクションと言い聞かせつつ、一人で探索する気になる登場人物達はすごい。
 非常時じゃなきゃ、私はしたくない。

「殿下? 殿下、平気?」

 声が震えてしまうが、自分を励ましながら周りを見る。

 第七船倉は予備のテーブルとか、ソファベッドが置かれている倉庫みたい。
 荷崩れしないように固定されているけれど……、これにぶつかったとしたら結構痛い。

「ひっ」

 足が見えた。
 いや、探してたんだし気絶してたら床に投げ出された足があるかも……とは思っていたよ?
 でも、こんな死体っぽいの、いやだってばああ!

「わ、私はオカルトやホラーは苦手……スプラッタもいやだぁ……。殿下よね?」

 おそるおそる見れば、やっぱり殿下だった。

「殿下っ、殿下?」

 呼びかけても反応しない。

 彼女の全身をざっとチェックする。
 首に手を添えれば脈に触れた。息はある。
 ほう、っと大きな息を吐き出した。

 落ち着いて彼女を見ると、額に流血がある。
 ペットボトルから水を流して傷を綺麗にした。

「まだジュクジュク滲んでるけど、傷は浅いかな」

 これくらい、乳児院の子供達ならしょっちゅうやっている。

「私が応急処置出来るの、感謝していいからね」

 ウエストバッグから水に消毒薬や絆創膏、三角巾を取り出した。

 ……うん。
 もうガードさんに持たされる荷物について文句を言うのやめよう。本当に役に立っちゃうとは思ってもみなかった。

 一応、腹部を触ってから四肢を確認する。
 どこも折れていないみたい。
 怖いのは頭を打っていないかと、あとは転倒したときに、どこを強打したかだな。

「こればっかりは運び出されてからだなあ。寝心地は悪いだろうけど我慢してね」

 エマージェンシーシートを取り出して、彼女をくるんだ。
 船倉はひんやりしているし、体温はキープしておいたほうがいい。

「さては困ったものだ」

 どくり。
 まずい。
 思いのほか出した声が大きかったのに、船倉に吸い取られたことに恐怖を覚えてしまった。
 
 デラレナイ。
 
 どっくんどっくん、という自分の心臓の音が聞こえるにつけ、呼吸が荒くなってくる。
 くらり。
 めまいがする。
 は、は。
 獣じみた呼吸音が強迫観念に拍車をかける。

「落ち着け、私」

 恐怖に捕まってしまうわけにいかないんだ。

 フー、フー。
 震える体を抱きしめながら、私は深呼吸を繰り返す。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ……」

 呪文のように言い聞かせながら、ゆっくりと息を吸う。
 ゆっくりと吐く。

『円佳。心臓がドキドキしたら、僕を思い出すといい』

 透也君の言葉が唐突に思い出された。

『君は閉所恐怖症だ』

 透也君はにっこりと笑う。

『だけど、君は僕が大好きだよね?』

 ソウネ。

『だから、発作を起したら、君の心臓の高鳴りは僕を愛しているからだと思えばいい』

 ふー。

 透也君の素敵なところ。うん、百や二百は言えそう。

「声。バリトンヴォイスって言うのかな。滑らかで低くて」

 
『円佳』
 不意に、耳元でささやかれた、掠れた熱の籠った声が蘇る。
『我慢しなくていい。好きなだけ、あげるから』

 
「あああああっ」

 ドキドキドキドキドキ。
 うわ、さっきより脈拍が高まった。同時に、脅迫観念が薄くなる。よし、いいぞ。

「手も綺麗よね」

 男らしくて筋張っていて。あの手が私の髪を撫でて。下着の紐を肩からするりと落として……。
 ぁん。

「っ!」

 は、は。
 なんか、真逆の方向でまずい。
 心臓がさっきより激しくリズムを刻む。同時に体が潤みだす。

「お、落ち着こうか、私っ?」

 ふう、ふうううう。
 うん、なんとか鼻血は回避した。

「透也君のことを考える、ってナイス対処法だわ」

 さすが、私の旦那様。
 パニックになるたびに、脳内シアターに透也君を上映しよう。

『吊り橋理論・逆ヴァージョン』かな。再会できた瞬間、腰くだけになりそうだけど。
 気を取り直して、救出してもらう方法を考えよう。

「なんとか殿下の状況を伝えなくちゃ。水密壁の中だからなぁ……。壁越しにガードさんの声拾ってくれるかな……」

 無線って、障害物があると繋がりにくいんだっけ。

 ダメ元でスイッチを入れてみた。
 もの凄いノイズ。送受信機のレバーを闇雲に回してみる。

「まど……か……」

 この声、私が間違えるはずがない!

「透也君っ」

 来てくれたんだ! 思わずドアにすがりつく。

「私は無事! 彼女がっ」

 伝わって……!

「しす・て」

 システム? ……私が壊しちゃった奴だろうか。ごめんで済むならごめんとしか言えない。

「こ……まい……の」

 こまい?

「古米? 駒井野? うーん、どういう関係かわからない……」

「ちが……」

 違う?

「あー、公妹!」

 殿下の持ち物を探せってことかな? 
 だとするとドアが開かないのも、殿下がなにかやからかしたってことかな。私、無罪?

 慌てて彼女の元に戻り、周囲を見渡しす。

「監視カメラにはタブレットを持っていた姿が映し出されていたけど」

 倒れるまでにどこかで手放したんだろうな。
 彼女以外、折り畳みベッドとか什器しかない。
 きっちり天井近くまで積み上げられていて、広さと奥行きがわからない。

「…………どこにあるの…………」

 絶望的な気持ちになった。
 ちら、と殿下を見た。
 まだ意識はないけれど、顔色も呼吸も安定している。
 とりあえず、探すしかない。
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