失恋して傷心中の公爵様に嫁ぎましたが愛されなくても楽しんでます

7瀬

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第六話 何故お前が下りてくる

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 一行が公爵邸に着いたのは夜半過ぎのことだった。

 偶然こんな夜中になってしまったわけではなく、意図的に人通りの少ない時間に森を出て街を抜けたためだ。

 月明かりだけでは頼りない寒地の夜。
 10人ほどのメイドと一人の執事が手燭を片手に門の内側で待っていた。

 深くフードを被った四人が馬で門を潜り、最後に満を持してキーケが引く馬車が入場した。

 メイドと執事は掛け声もなく馬車の出口の前に並ぶ。

 アルトが慌てて口を開いた。

「そっちは違…」
「静かに」

 後ろから外套をつままれ耳元で囁かれる。実に愉快そうなその声にアルトは躊躇いながらも口を噤んだ。

 長い旅路のおかげでティアナの性分がだいぶ分かってきたようだ。
 
 馬車の扉が内側から自らの手で開けられ、乗っていた唯一の人物がおぼつかない足取りで下りてくる。

 使用人はその人物の顔を見る間も無く一斉に頭を下げた。

「「「ようこそお越しくださいましたティアナ姫」」」
「ぅわ!びっくりしたー」

 女性にしては低い。その上聞き覚えのある呑気な声。

「な………何故お前が下りてくるのだ!カロン!」

 公爵夫人となる者のために用意された公爵家で最も高価な馬車から下りて来たのは美しい花嫁ではなく右足に布を巻いた若い騎士だった。

「姫君は!?公爵様の奥方になられる方を何処へやったのだ!」

 意味不明な状況にサーロは大混乱でカロンの肩を掴んで問いただす。
 メイド達もざわめき出して最初の厳格な雰囲気は崩れ去った。

「サーロさん、ちょ、揺らしすぎ!僕一応怪我人!」
「怪我?」
 
 皆の視線が一気にカロンの足に集中する。

 たしかに足首には端切れが巻かれていて馬車から出てくる時の足取りもおぼつかなかった。

「騎士が自ら怪我人を名乗るな」
「いてっ」
「そんなことより姫君は何処へ!?」
「そんなこと!?」

 キーケには叱られ、サーロには見向きもされず。
 涙目になったカロンは夜中だということも忘れて声を張り上げた。

「皆さんあんまりです!僕だって頑張って闘ったのに!ですよね姫様!」

 カロンが深くフードを被っている四人の方を向く。

 途端にその場が静まり返り、カロンに釣られるように皆がその視線の先を追いかけた。

 騎士用に作られたシンプルな外套を身に纏っている中で一人だけ、真っ白な毛皮で作られた分厚いコートを着ている者がいた。

 その者は堂々とした足取りで前に出るとカロンの隣に並ぶ。

「たしかによく頑張ってくれていたわ。守ってくれてありがとうね」

 カロンの頬が淡く染まった。
 
 それから今度は深く被っていたフードをパサリと後ろに落とし、使用人達に向かって穏やかな笑みを零す。

「初めまして。私はルーナの地火の部族の姫ティアナ。
 寒い中、それもこんな時間だというのに出迎えてくれたこと、とても嬉しく思っているわ。ありがとう。これからよろしくね」

 誰かが息を呑む音がする。

 蝋燭の火に照らされたティアナは威圧的な赤い髪を寒空の下靡かせている。反対に顔立ちは温かな城で大切に育てられてきたお姫様の如く愛らしいもので可憐な印象を抱かせた。

 皆がティアナに見惚れる中リューは主人の後ろで誇らしげにほくそ笑む。
 そしてアルトも彼等の輪に近づきながら内心感心していた。

 アルト達と初めて会った時の挨拶とはまるで違う。
 上に立つ者の威厳と風格に加えて威圧し過ぎない親しみやすさまで感じさせる。公爵家女主人として完璧な立ち振舞いだ。

 長い旅の間にティアナの悪い癖が移ったのかもしれない。
 彼女が現れたことで公爵領は………ひいてはこの国はどう変化していくのだろう。
 アルトはほんの少しだけ、楽しそうだと期待してしまった。
 
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