失恋して傷心中の公爵様に嫁ぎましたが愛されなくても楽しんでます

7瀬

文字の大きさ
5 / 8

第五話 最小限且つ最速の式をお望みです

しおりを挟む

 ーーーハインノーズ公爵邸にて

「公爵様、アルトから報告書が届いております」

 執事長サーロは天蓋付きのベッドに座ったままの主人に話しかける。
 とはいえカーテンは閉ざされたままで、レース生地から透けるシルエットしか認識することは出来なかった。

「…内容は?」

 数秒後に返事が返ってくる。
 以前は一言で相手を萎縮させるほどの冷気を纏っていた声音も今は虚無感しか感じさせない。

「あと五日ほどで到着予定だそうです」
「そうか。準備は任せた」
「そのことなんですが………」

 サーロは伝書鳩が持ってきた手紙に再度視線を落として報告すべきか悩む。

「………」

 こうして分かりやすく言い淀んでいても急かすどころかピクリともしない主人の姿に胸が痛み、結局自らの意思で口を開いた。

「姫からのご要望で、式の規模は最小限で。且つ最速でお願いしたいと」
「………そうか。要望通りに進めればいい」

 一瞬。気を抜けば見逃してしまいそうなほど短かったが確かに間があった。
 幼い頃からカシウスを見てきたサーロでなければ気づかないだろう。

「終わったなら去れ」
「本当にこのまま結婚を進めてもよろしいのですか?私は公爵様に、」
「去れと言っている!!」

 カシウスは突如激しい怒りを露わにする。

 レース越しに乱雑に髪を掴み何かを堪えるように浅く呼吸する主人が見える。
 これ以上刺激すれば体調が悪化しかねないと思い、サーロは深くお辞儀をして後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。

 サーロはこの屋敷で最も長く働いている古株だ。カシウスが生まれた時から見守ってきた。

 だからこそ分かる。今この屋敷の何処にもカシウスを救える人間はいない。

(誰でもいい。神でも悪魔でもいいから、どうか公爵様をお救いください)


 サーロが去って行った部屋で未だベッドに座ったままでいるカシウスは久々にあの二人以外のことを頭に浮かべた。

 晴れ舞台とも言える結婚式を最小限且つ迅速に、とは。

 どうやらこれからやってくるルーナの姫はこの結婚が余程気に入らないようだ。当然それは自分も同じだが、わざわざ報告者に書かせるとは随分肝が座っている。
 それとも考えなしの世間知らずか。

 どちらもカシウスにとっては大差なかった。

 大切な幼馴染と愛する人の結婚式の日。
 あの日を皮切りに多くの物が自分の中から抜け落ちていった。
 残ったのは黒くぬかるんだ汚い感情だけ。

 それでも何かに操られるように呼吸を繰り返している。まるで生きることだけを目的に作られた人形のようだとカシウスは自分に失望した。

「いっそ死なせてくれれば良いものを………」

 カシウスの呟きは誰にも届くことなく夜闇の中へ消えていった。  


 ***


 皆が野営の準備に取り掛かる中アルトとティアナは二人で話し込んでいた。

「姫様、本当によろしいのですか?公爵家では既に式の準備を始めていますし、姫様が屋敷に到着してから招待客が来るまで十分に時間もあります。その間にドレスや装飾品も仕立てられるはずです」
「必要ないわ。公爵様、体調が芳しくないんでしょう?」
「それは………そうですね」

 ティアナは公爵の状態は失恋してちょっと凹んでいるくらいだと思っていた。
 それがとんだ思い違いだったことがこれまでの道中で騎士達から話を聞いて分かったのだ。

「だったら式なんてサクッとやってササッと終わらせちゃった方がいいわ。病を悪化させてまでやることじゃないもの」
「ですがそれでは既製品のドレスになってしまいますが………」
「夫になる人の体調よりドレスに気を使う妻が何処いるのよ。
 あ。身体のサイズも書いとかなきゃね。まずウエストが………」
「わー!!言わなくていいですよ!」

(やっぱり揶揄い甲斐があるわね)

 理性的な副団長が耳まで真っ赤に染めて慌てふためく様を見るのはなかなか楽しい。

「冗談よ。自分で書くから」
「書くんですか!?」
「書くわよ。書かないと準備が進まないじゃない」
「くっ」

 こうして動揺に動揺を重ねていたアルトは顔を熱くしながら報告書を書き、結果的にティアナが小規模な式を望んだ理由を書き忘れてしまった。ある意味ティアナの自業自得である。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。 乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。 そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。 最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。 “既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう” そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい… 何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。 よろしくお願いいたします。

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……

しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」 そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。 魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。 「アリス様、冗談は止してください」 震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。 「冗談ではありません、エリック様ぁ」 甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。 彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。 「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」 この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。 聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。 魔法を使えないレナンとは大違いだ。 それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが…… 「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」 そう言うレナンの顔色はかなり悪い。 この状況をまともに受け止めたくないようだ。 そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。 彼女の気持ちまでも守るかのように。 ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。 同名キャラで様々な話を書いています。 話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。 お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。 中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^) カクヨムさんでも掲載中。

前世で追放された王女は、腹黒幼馴染王子から逃げられない

ria_alphapolis
恋愛
前世、王宮を追放された王女エリシアは、 幼馴染である王太子ルシアンに見捨てられた―― そう思ったまま、静かに命を落とした。 そして目を覚ますと、なぜか追放される前の日。 人生、まさかの二周目である。 「今度こそ関わらない。目立たず、静かに生きる」 そう決意したはずなのに、前世では冷酷無比だった幼馴染王子の様子がおかしい。 距離、近い。 護衛、多い。 視線、重い。 挙げ句の果てに告げられたのは、彼との政略結婚。 しかもそれが――彼自身の手で仕組まれたものだと知ってしまう。 どうやらこの幼馴染王子、 前世で何かを盛大に後悔したらしく、 二度目の人生では王女を逃がす気が一切ない。 「愛されていなかった」と思い込む王女と、 「二度と手放さない」と決めた腹黒王子の、 少し物騒で、わりと甘い執着政略結婚ラブストーリー。

エリート医務官は女騎士を徹底的に甘やかしたい

鳥花風星
恋愛
女騎士であるニーナには、ガイアという専属魔術医務官がいる。エリートであり甘いルックスで令嬢たちからモテモテのガイアだが、なぜか浮いた話はなく、結婚もしていない。ニーナも結婚に興味がなく、ガイアは一緒いにいて気楽な存在だった。 とある日、ニーナはガイアから女避けのために契約結婚を持ちかけられる。ちょっと口うるさいただの専属魔術医務官だと思っていたのに、契約結婚を受け入れた途端にガイアの態度は日に日に甘くなっていく。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

王家の血を引いていないと判明した私は、何故か変わらず愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女であるスレリアは、自身が王家の血筋ではないことを知った。 それによって彼女は、家族との関係が終わると思っていた。父や母、兄弟の面々に事実をどう受け止められるのか、彼女は不安だったのだ。 しかしそれは、杞憂に終わった。 スレリアの家族は、彼女を家族として愛しており、排斥するつもりなどはなかったのだ。 ただその愛し方は、それぞれであった。 今まで通りの距離を保つ者、溺愛してくる者、さらには求婚してくる者、そんな家族の様々な対応に、スレリアは少々困惑するのだった。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

処理中です...