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第四話 リューに並ぶ実力者
しおりを挟む「折角馬車を引いて来てくれたのに申し訳ないわ」
ティアナはゆっくりと進む馬車の右隣を馬に乗って進んだ。何処か悔しそうに馬車を眺めながら謝罪する。
「いえ、お気になさらないでください。その…こちらこそ力及ばずで申し訳ないです」
さらにその隣を馬で歩いていたアルトも僅かに恥じらいを滲ませながら謝罪した。
カロンは行きと変わらない重さの馬車を鼻歌混じりに引いている。
キーケは馬車の左、フィンは後ろ、そしてリューはティアナの後ろにそれぞれ付いて馬で進んだ。
細かい彫刻の施された非常に立派な美しい白塗りの馬車があるというのに、だ。
「それこそ気にすることじゃないわ。この子のお世話はリューでも苦労するのよ?」
〈ブルンッ〉
「褒めてないからね」
〈ブルルル…〉
ティアナの一言一言にティアナの愛馬はご丁寧に鼻を鳴らして反応する。
「甘やかさないでくださいよ主。
主人が馬車に乗るだけであんなに暴れる馬いないですよ」
〈フンッ〉
「うわっ、やりやがったなこの暴れ馬!」
ティアナの愛馬が後ろ足で蹴り飛ばした土をリューがもろに被った。
この二人の不仲はいつものことなのでティアナは素知らぬ顔をしているが近くで一部始終を見ていたアルトは目を丸くする。
「馬が…人間の言葉を理解してる…?」
「アルトも冗談言ったりするのね」
「あ、いえ。今のはその………」
(顔が真っ赤だわ。揶揄い甲斐のある騎士様ね)
「もー!副団長ばっか姫様とお話ししてずるい!代わってください!」
「あら残念だわ。馬車を引いてる姿とっても格好良いのに」
「嘘です任せてください!馬車を引くために生まれた男ですから!」
ティアナは完全にカロンを大型犬として認識した。ブンブン尻尾を振る人懐っこくて警戒心の低い人馴れしたワンコである。
そうして一行は誰も予想していなかった和やかな雰囲気で旅路を進んだ。
道順は元々帝国側から指定があったためティアナとリューもある程度頭に入っている。それでも地図で見るのと実際に進むのとでは異なるので正直騎士達の存在はかなり有難かった。
そう痛感する度ティアナの中で益々公爵への期待が膨らんでいく。
「俺、色々あって元々いた騎士団を追い出されたんです。それが結構有名な侯爵家の騎士団で、圧力がかかったのか何処にも受け入れてもらえなくなってしまって。もういっそ旅にでも出ようかって思ってた時に公爵様が拾ってくださったんです!」
真昼の森でティアナとカロンは一本の太い幹の根本に座っていた。
他の四人はそれぞれ昼食の準備に取り掛かっている。
ティアナが手伝おうとすると皆全力で止めに入るので大人しく座って待つしかないのだ。
護衛として毎回誰か一人は側にいるのだが、今回はカロンの番だった。
「まあ!公爵様はカロンが優秀な騎士だって知っていたのね」
「そんなそんな!
あ!そういえば姫様前にも仰ってましたよね?『公爵様が優秀な騎士を四人も派遣してくれた』って。
僕達まだ一度も剣を振るところ見せてないのにどうして言い切れるんです?」
カロンは口元に人差し指を当ててコテンと首を傾げる。あざとい身振りがとてもよく似合う。
(さては自分の可愛さを自覚してる系のワンコね。嫌味がないから憎めないわ)
「姫様ー?聞いてます?」
カロンは返事を待ち切れない様子でズイッと接近して顔を覗き込んでくる。
(あら。これは………)
「カロン、距離感。何度言ったら分かるんだお前は」
「すいません先輩!」
(やっぱりキーケが飛んでくる距離だわ)
カロンはどうやら人との距離がかなり近いタイプらしい。ティアナに近づきすぎてすでに何度もキーケに注意されていた。
ティアナが離れたところで果物を剥いているリューに視線を向けるとやはりバッチリ目が合った。
思わずクスリと笑みを溢す。
(カロンはキーケに感謝しないとね。彼がいなかったら今頃リューに容赦なく突き飛ばされてるわ)
それでもリューならキーケより先に飛んで来れるはずなので少しは彼等に気を許しているようだった。
「あのねカロン、相手がどれだけ優れた剣士なのかは戦い以外のあらゆるところから見極められるものよ」
「ふぇ?」
キーケに両頬を引き伸ばされていたカロンは目をパチクリさせながらティアナを見る。キーケとアルト、フィンも何故か集まってきてティアナの言葉の続きを待った。
「立ち方。歩き方。喋り方。あらゆる動作に『癖』が出る。立つ姿勢が綺麗な人は大体素振りも綺麗だし、足音が小さく歩幅が広い人は大抵距離を詰めるのが速い。
じゃあ喋りやすくて誰にでも好かれる人なら、なんだと思う?」
「えーーーーっと。うーーーーんと…」
ティアナに出された問題に正解するためカロンは必死に頭を捻った。
瞼をギュッと閉じてみたり。目をカッと開いてみたり。頭をガシガシかいてみたり。頬をマッサージしてみたり。
それでも答えは思い付かない。
「ふふ、難しいかしら」
「相手が欲しい言葉が分かる。即ち相手のことをよく観察している。即ち洞察力に優れていて受身が上手い。
ですよね?」
カロンに代わって答えたのはアルトだった。
正解だ。一言一句間違うことなく。全てがルーナの民が剣を学ぶ時に使う剣術書と同じだった。
「どうして知ってるの?」
「公爵家の書庫には国や土地に関係なく様々な書物が保管してあります。私は剣について学ぶのが好きなので公爵家にある剣術書は全て読みました。その中にルーナの民の物もあったようですね」
アルトはさぞ当たり前のことのように答える。
差別なく資料が集められた書庫。
そしてそれを読み漁る部下。
しかも丸暗記しているなんて…!
「すっごくおもしろ………」
「アルトさん逃げて!」
「はい!!」
ズザザザザッ
アルトは全力で逃げた。リューの背中に。
リューもリューでしっかり両手を伸ばしてアルトを庇っている。
「貴方達いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「「仲良くはないです」」
(この二人案外気が合うんじゃないかしら。実力も恐らくほぼ同じ。リューに並ぶ実力者が副団長だなんて、益々これからが楽しみだわ)
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