無気力系主人公の総受け小説のモブに本物の無気力人間が転生したら

7瀬

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第二章 少年期編

第六十四話 再・本物の無気力はお迎えに行く(5)


「何年もかけて作り出した痛覚だけを刺激する弾丸がバラバラに………!!ひどいっしょー!!」
「当たったら配下と化す鞭がー!」
「昨日やっと完成した変色ボール達………。全部破裂した………。俺のローブがレインボーに………。これどうやって元に戻すんだ………?」

 大切な試作品が壊された魔法使達が阿鼻叫喚している。叫んでいる内容がどれも微妙にサイコパスじみていて全てを避けてくれたオーガスに心の底から感謝した。

 特に陽キャ。痛覚だけ刺激するってなんだ。優しいのか鬼畜なのかはっきりしろ。

 この無邪気な研究者達は恐らくそれの使い道については一切思考したことがなく、純粋な好奇心のみで動いている。だからいかれた痛覚を正常に戻す方法も配下を開放する方法も変色部分を元の色に戻す方法も今のところ存在していないのだ。

「元の色のカラーボール作ればいいんじゃ………」
「なるほど。君小さいのに頭良いね」

 いやいや。それほどでもありますとも。

「アドバイスしてる暇ねぇから!!」

 と言いつつツッコミだけは律儀に入れるオーガス。リージャを抱えてチーターの如き俊敏さでスタートを切っていた。一気に魔法使の姿が小さくなる。が、突然視界が大きく揺れて下に下がった。

「ぎゃー!!なんですか!!」
「アイツ等まじか。魔法まで使ってきやがった」

 オーガスの立っている地面がぬかるんでいる。既に深く足がはまってしまっていた。

「俺の可愛い子ども達を亡き者にした罪。償ってもらうしかないっしょ」

 目を凝らしてみれば陽キャが地面に手をついてこっちを睨んでいる。どうやら魔道具を壊された怒りが皆無だったやる気を引き出してしまったようだ。

「絶対許さない」
「滅殺」
「呪呪呪呪」

 すかさず他の攻撃魔法も飛んでくる。
 怒り方がとんでもなく悪質だ。怒らせたら駄目なタイプの血走り方をしている。
 リージャがオーガスの脇に挟まれたまま指を鳴らして魔法を分解し、その間にオーガスが気合で沼から片足を抜いて木の枝に飛び移った。

 とはいえ成人男性二人に加えてちびっ子一人の体重を長時間支えきれる枝などなく、次から次に飛び移って移動する。順調に距離を稼いでいたがソイツは泥沼の中から現れて俺達の前に立ち塞がった。

「子ども達の敵………!!」

 フードが取れて明らかになった陽キャの容姿は真夏の海に出没しがちなチャラ男そのものだった。真っ赤な目でこちらを睨んでいる。あの弾丸達のためにここまで感情を高ぶらせるなんて胸の奥に熱いものを秘めた陽キャだったらしい。

「よし。わーった。リージャは置いて行こう」
「ちょっと先輩!?それはシャレにならないです。ディッセンの魔道具への執着知ってますよね?」
「知ってるからお前を犠牲にしようとしてんだろ」
「この人でなし!!」

 リージャとオーガスは焦っているように見えるが通常運手とも言えて事態の深刻さがいまいち掴めなかった。とはいえリージャの様子から察するに戦いたくない相手のようだ。

「あの子達の道具生を奪った罪、その身を持って償え」

 おお。なんだかダークなヒーローみたいになってる。
 なんて感心していると大量の泥団子が飛んでくる。
 下は泥沼。目の前からは大量の団子。言うても泥団子なんだけども正直当たりたくはない。

 それはオーガスも同じらしくすかさず高く跳躍してリージャが団子を分解する。
 しかし使う度に数秒の間隔が空くリージャの魔法とは異なり泥団子は陽キャの手元、それから下の泥沼からも常に排出されていて泥まみれになる覚悟を決めた。

「はあ?冗談っしょ?」

 間の抜けた声だった。陽キャの視線は俺達より更に上。上空にある。

 〈グアァァアアアアアアアアア!!!〉

 いつか聞いた咆哮だ。
 何処からか現れたその鳥はオーガスごと俺たちを掬い、黄色から赤色へのグラデーションになっている美しい毛並みの背中に乗せてくれた。
 同時にクチバシから噴き出した真っ赤な炎が勢いと熱で泥団子を消し飛ばす。

 〈ケフッ〉

 満足げに息を吐いたその大きな大きな赤い鳥はやはり見覚えがあった。

「わー、不死鳥だー」

 いつの間に付いて来ていたのだろう。オーガスの足にぶら下がっていたらしい男の子が座っている俺の背中に乗りかかってくる。
 不死鳥。やっぱりそうか。

「赤鳥さん、ありがとう」
 〈グルンッ!!〉

 太い首を小さく撫でる。
 赤鳥さんは低い鳴き声を溌剌と上げて大きな翼をバッサバッサと激しく開閉した。相変わらず賢い鳥だ。

「ふふふふふふ不死鳥?マチ、不死鳥ですか?」
「そうだよー」
「は………はは、生きてりゃこういうこともあるもん………か?」
「ないでしょう………普通は………」
「そうだよな。ないよな」

 なんで二人そろってそんな目で俺を見るんだ。
 オーガスとリージャはまるで未発見の生物を目にしたような疑心と驚きが混在した瞳を向けてきた。失礼な視線である。俺はいたって普通に生きているつもりだ。常に誰よりも平凡を追い求めている。ここがファンタジーなせいでファンタジーじゃない俺が異常に浮いて見えるだけだ。多分。

 〈グルーン?〉
 
 赤鳥さんが飛行しながら喉を鳴らした。
 顔は見えないが問いかけられているのは分かる。言葉が理解できているわけじゃないのに言いたいことは伝わって来た。

「オーガス、魔塔はどっちだ?」
「あっちだ」
「赤鳥さん、北………南?」
「西ですね」
「西だって」
 〈グルンッ〉



「三人は俺の味方していいのか?」

 赤鳥さんの広い背中の上でオーガスの胸に身体を預けていた俺は凛々しい顔を見上げながら問う。
 男の子は俺の太腿を枕にして丸くなっていた。リージャは赤鳥さんの羽の一枚一枚をじっくり観察していたが俺の質問に反応してこちらを見た。

「ま、俺らは生き残り組だからな。他の奴等と違ってリッツェさんが魔塔にいた頃を知ってる。辞めた理由もな。あの人が魔塔主になってくれたらありがてぇとは思うがそれ以上に納得した人生を生きて欲しいんだ」
「そうですよ。魔塔の良いところは自由気ままに生きられるとこなんです。何かを諦めた末に来るところじゃありません」

 へぇ。二人ともリッツェに随分好意的なんだな。
 一応魔塔のトップに逆らったわけだからもっと葛藤が垣間見えても良いのに二人は思いの外あっさりしていた。『自由気まま』を体現している。爺さんの性格からしてどう転んでも罰せられることはない………と思いたい。

「神子様よぉ、俺らのことよりユリシスの心配してやったらどうだ?」

 オーガスが俺の両頬を後ろから摘みながら言う。

「ふぁんふぇ?」
「なんでってお前………。魔塔主は一流の魔法使が集まる魔塔の主なんだぞ。そんなのと一対一で戦ってんだ。おまけに神子様に散々煽られて結構苛立ってたからな。軽傷では済まねぇかもよ」
「冷静でいられる方が怖いだろ」
「………まさかわざとか?」
「………」

 爺さんはリッツェ、ユーリ、そしてヨルの師だ。人外じみた三人を育てた人間がまともな強さで納まるわけがない。
 冷えた頭で本気で止められたらそもそもここまで来られていなかっただろう。
 そして俺には爺さんが決してユーリを傷つけないという確信があった。今回は偶々意見が分かれただけであの人は普通に良い爺さんだから。多分オーガスも本気でユーリが重傷を負うなんて考えてない。そうでなければ今すぐに引き返しているはずだ。

「は、神子様もなかなかやり手だなぁ。気に入ったぜ」

 オーガスがグシャグシャと俺の頭を撫でる。相変わらず豪快な撫で方なのにこれがなかなか悪くないのだ。






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