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第二章 少年期編
第一話 本物の無気力はちょっとだけ成長したのです
しおりを挟む「んん…」
遠慮なく降り注ぐ光を感じて目を開けた。
案の定カーテンは全開で既に完全に顔を出した太陽が眩しい程の日差しを届けている。
目を瞬かせてこの明るさに慣れようと試みるが瞼の重みに負けて二度寝してしまいたい欲が湧いてきた。
「やっと起きたー!もうお昼の時間ですよ。
僕すごく不思議なんですけど、昨晩あんなに早く寝たのにどうしてこんな時間まで爆睡できるんですか?何回声かけても起きないし、揺らしても起きないし、毎日絶対呼吸確認しちゃうんですけど!最早日課になってるんですけど!」
当たり前のように主人の眠る部屋に入り込んでいるリッツェは腕を組んでむくれている。
「生きてるから大丈夫。………あと五分、」
「駄目ですよ。今日は午後から神殿に行く日でしょう」
「………」
「ほら、早く起きてお昼ご飯にしましょう。ただでさえ朝食を食べ逃してるんですからお昼はしっかり食べないと」
リッツェはこの何年かで執事でも護衛でもなくお母さんみたいになった。
俺の布団を引き剥がして無理矢理身体を起こされる。
はあ。時の流れとは無情なものだ。
昔はもっと優しかったのに………なんてことはなく、リッツェは昔からこうだったような気もする。
「ここで食べる」
「いいえ。今日は奥様も一緒なので食堂ですよ」
「………」
「ほら立ってください。奥様を待たせないよう急いで着替えましょう」
移動するのも立つのも着替えるのも大人しくしていれば大人が勝手にやってくれた時代はもう終わった。
何故なら俺は今年で十歳になるからだ。
身体もそこそこ大きくなり見た目は元気な七歳児くらい。
とはいえ中身は大人なのでこのくらいのミッションは余裕でこなせる。
「ふわぁー」
「せめて二度寝だけはしないでくださいね」
「ん。ありがと」
重い腰を上げて立ち上がれば欠伸をしている間にリッツェがせっせと身支度を済ませてくれる。
「寝癖なし。顔はいつも通り完璧。お洋服も皺一つなし。よし、それじゃあ行きましょう」
珍しく執事らしい振る舞いで扉を開けてくれた。
着替えはまだ難しいけど歩くことくらいは出来る。
「………」
「………」
一歩一歩踏み出す俺をリッツェは真剣に見守った。
「………」
「………」
「………」
「………坊ちゃま、」
「………」
「坊ちゃま!」
なんだよ。今頑張って歩いてるのに。
仕方なく足を止めて話を聞く。
二つのことを同時にするとMPの減りも二倍になるからな。
「遅いです」
「………?」
「遅すぎます。まだ部屋すら出てないじゃないですか」
後ろを振り返ってみる。
ベッドがあったところから三歩分くらいしか進んでないじゃないか。
こんなに頑張ってもまだ三歩か。世の中そう甘くないな。
辛い現実を目の当たりにしたら歩く気力も失われてしまう。
「ちょっと休憩」
「そう言うと思ってましたよ!今日だけですからね!」
座り込もうと腰を折った瞬間身体が宙に浮いた。
リッツェが俺を脇に抱えて走り出したのだ。
『今日だけ』を繰り返して早数年。俺は三歩も歩けるようになりました。
「「「ルシオン様おはようございます」」」
「はよー」
廊下ではいつも通りドッペル………じゃなかった。メイドさん達が掃除をしている。
「リッツェさん!ルシオン様を自分で歩かせるようにとあれほど…………」
偶然すれ違ったエド先生は風のように走り去るリッツェの背中に声をかけるが勿論リッツェには届いていない。
そして食堂に着けば母様と侍女さんが笑顔で出迎えてくれる。
「おはようルーたん」
「おはようございますルシオン様」
「おはようございます」
そういえば挨拶はきちんと立って丁寧に頭を下げて出来るようになったぞ。
母様は挨拶に関してはかなーり厳しいからな。挨拶出来ないもの我が家に立ち入るべからずなのだ。
「今日も元気に寝坊したんでしょー」
「うん」
「そう。元気なら大丈夫ねー」
「大丈夫」
早起きも立つのも歩くのも着替えるのもまだまだ面倒で無気力なのに変わりはないけど俺はエリュースト家でわりと楽しく平和に生きている。
この六年。まだちょっとしか成長していないがそれは伸び代があるということなのだ。
とどのつまり無気力なりにゆっくりのんびりスクスクぐんぐんマイペースにスローペースに地に足付けて毎日ちょっとずつ成長しているのです。
「坊ちゃま!スープ以外も食べてください!」
「分かってる」
「いっつも返事だけじゃないですか!」
いぇす。つまりは返事は完璧に出来るようになったということなのです。
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