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最終章
4.
しおりを挟む転移したのは道角に停めた馬車の中。突然姿を現した私にエリオット卿は一瞬目を瞬かせたけれど、沢山の書類を見て身を乗り出した。
「実に悪どい能力だな。どうしてココットの主はこれを活用しようと思わないのだ」
「理由は分かりませんが、感謝しています」
私が手渡した書類をパラパラと捲るエリオット卿の眉間の皺がどんどん深くなっていく。
「ひとまず直近半年の資料を私に預けて頂けませんでしょうか?」
「分かった。ではそちらの契約書の束から半年以内のものを選んでくれ。俺は金銭関係の書類からその期間のものを探す。それからドレスに着替えなくてはいけないから一度邸に戻るぞ」
言われた通り、揺れる馬車の中で書類を分ける。書類全部で数百枚。その内、半年以内のものは百枚弱かな。
「ココット、俺を連れてサンリオーニ国に戻ることはできるか? 今、お前が置かれている状況は危険すぎる。書類を然るべき人に預けたら俺も一緒に行きたい」
「お気持ちは嬉しいのですが無理です。転移は距離があるほど魔力がいります。さらに自分以外の人や物を転移させるのは倍の魔力が必要です」
ここに来るのに全魔力の三分の一を使った。エリオット卿を連れて帰る魔力は私には既に残されていない。
「そうか、分かった。それならココットを邸の前で降ろしたら俺はその足で公爵邸に向かう」
「はい。エリオット卿、残りの書類は全部お預けしますので宜しくお願いします」
「任せておけ。それからこれを持っていけ」
ほれ、と投げ渡されたのは紙と同じ大きさ程度の布袋。開ければ数枚の紙とペン、インク、それから小さなナイフと紐と焼き立てのパンが入っていた。
「美味しそうです! ありがとうございます!!」
「まず食い物なんだな。まあ、腹が減っては何も出来ないか。紙とペンは外と連絡をとるのに必要だろう。ナイフは足に紐で縛り付けておけ」
私は、渡された布袋にリンドバーグ侯爵邸から持って帰ってきた書類も一緒にいれる。
「突然現れた私にここまでお力と知恵を貸して頂きありがとうございます」
「ココットはカトリーヌの命の恩人だからな。これで借りは返した。今度はゆっくり遊びに来い、何なら主と一緒でもいいぞ」
エリオット卿がニカッと子供のような笑顔を浮かべると同時に馬車が停まった。
私は深く頭を下げ馬車を降りると、待っていた侍女に案内されドレスに着替えさせてもらう。
「メイクと髪はどうしましょうか?」
「このままでいいです」
何も事情を知らない侍女は、不思議そうに私に夜会用のドレスを着せてくれた。
「お着替えが終わったら部屋から出て行くように仰せつかっておりますのでこれで失礼いたします。あとはココット様の自由に、とのことです」
「ありがとうございます。あっ、最後にお水を入れた水筒を頂けませんか?」
「それでしたら、そちらのテーブルに用意しております。では、これで失礼いたします」
侍女はテーブルの上にあった水筒を二つ私に手渡すと部屋を出ていった。
……そして私もその部屋から姿を消した。
「ただいま」
「わぁ! びっくりした。本当に突然現れるのね」
心細かっただろうと心配していたけれど、クルルは頬を上気させながら、転移してきた私をきらきらした瞳で見返してくる。実に逞しい。
「男達は来なかった?」
「一度覗きにきたけれど毛布にくるまって泣いていると言ったら、下衆な笑い声を立てながらあっさり信じたわ」
何てことないとさらりと言うけれど、怖かったんじゃないかな。
とりあえず私がいなくなったことはバレていないから良かった。
私は袋を埃だらけの床に置いて、中身を取り出す。
「これが盗んできた書類、ナイフはクルルが持っていて。あとはお水と食べ物」
「ありがとう。丁度喉が渇いていたの。ところでこの書類、どうするの?」
クルルは水筒の蓋を開けるとごくごくと水を飲む。
「うーん。どうにかしてフルオリーニ様にこれらの書類を届けたいのよね」
お城の中は魔術封じの護符があるから、城壁の外に転移して、フルオリーニ様を呼び出して貰って手渡すこともできるんだけれど、ナターシャ様に見つかる危険性がある。コンスタイン公爵邸の使用人に頼むにしてもどう事情を話せばよいか。悩ましい。
私が思案していると、パンをかじりながらクルルが教えてくれた。
「今頃、ウィンザー男爵家でライリーとアメリアが会っているはずよ。お茶会をするって言っていたもの。ライリーの婚約者はフルオリーニ様と同じ騎士団だし仲もいいわ。あの二人なら「裏路地の魔法使い」に会ったことがあるし、老婆の姿で二人の前に現れて書類をフルオリーニ様に届けて欲しいと頼んだらどうかしら」
「そっか。それなら 私の正体もバレないし、あの二人なら助けてくれるかも」
「二人は裏路地の魔法使いに借りもあるし、感謝していたからきっと協力してくれるわ。それにクロードはライリーに夢中だからライリーの頼みなら何でも聞いてくれる」
「うん、知ってる」
ウィンザー男爵邸には行ったことがあるから転移できる。まだ擬態する魔力も残っているしその方法でいこう。
「そういえばアメリアさんの幼馴染って船の仕事をしているのよね」
「そうよ。学園に通いながら父親の仕事も手伝っていたらしいから、知り合いも多いんじゃないかしら」
クルルが手渡してくれたパンを受け取りながら考える。
誘拐さた人を船でユーリン国に運んでいたのは間違いない。
でも、船の積荷は全て、港にいる騎士によって検閲を受ける。
一人ぐらいならともかく大勢を異国に連れ出すなんて、それも何回も、一体どうやってしたのだろう。
何かが引っかかる。
最近見た光景で、気になること。
その時は、あれって思うぐらいだったけれど、今考えると違和感がある。
もしかして。
……でもそれなら可能だ。
騎士の目を誤魔化して船に乗せる方法。
巧みに、でも大胆に。
そう、なにごとも堂々としていれば気づかれない。
「……クルル、どうやって攫った人を異国に連れて行ったか分かったわ!」
「本当に? どうやって?」
「フルオリーニ様に手紙を書くから紙とペンを貸して」
私ははやる気持ちを抑えながら、紙にペンを走らせていく。
クルルは隣から紙を覗き込み、目を丸くする。
「そっか。それなら港の検閲もすり抜けられるわ。でも、そうだとすると、リンドバーグ侯爵家に協力していたのは……」
「ええ、あの貴族しかいない」
もう、これ完璧じゃない!
やっぱり「路地裏の魔法使い」の方向性は間違っていなかったのよ! ご主人様!!
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