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始まりの書
陶酔するヴァンパイア
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アドルフと出会ってから数日後、ウォーレンは出窓に座り雨が降り続ける空を窓越しに見上げていた。
「…なぁ、最近のウォーレン、なんかおかしくねぇ?」
「うん」
ぼうと外ばかり見つめるウォーレンを悪友・狐族の獣人ズクハノと使い魔のマルコが訝しげな目で見ていた。
「朝からずっとああしてるだよ?」
「つうか、帰ってきてからだよな?」
「あ~確かに。三日間行方不明になって、ひょっこり帰って来たと思ったらず~と上の空だし…」
「話しかけても、遊びに誘っても、全然聞いてないし…」
「何があったのか聞いても、何も言わないし…」
二人はヒソヒソと言い合いながらじ~とウォーレンを見るが、当の本人は全く気にした様子はない。
「…本当に、何があっただ?」
「さぁ」
二人の訝しげな眼差しがウォーレンに注がれる中、ウォーレンは何度目かのため息を吐いた。
「…星空に向かって フクロウが鳴くよ 良い子だ坊や さぁ眠りなさい…‥」
「アルトロ。あれ、何?」
「さぁ?子守唄みたいだけど…」
時折ウォーレンが口ずさむ歌らしいものにズクハノとマルコが顔を見合わせる。
悪友二人が心配そうにする中、ウォーレンの頭の中はアドルフのことばかりを考えていた。
(あの声を、歌をまた聴きたい)
目を閉じれば思い出すのは、アドルフの整った顔と透き通るような歌声。
たった一度、それも約数時間しか共に過ごしていないが、ウォーレンの胸にしっかりとその存在を刻み込んでいた。
「はぁ~…」
「とにかく、あれは重症だな」
「だね、ん?」
項垂れるウォーレンに一人の人物が近付いた。
「おい」
「…‥…」
「おい、ウォーレン」
「…‥…」
「ウォーレンっ!!」
「イテッ!?」
物思いにふけていたウォーレンの脳天に突然、衝撃が走った。
頭を抑えながら顔を上げると、そこには耳の少し下で切り揃えられた葡萄色の髪と更に暗い葡萄色の瞳が特徴の魔法使い・アシュレイが杖を片手に仁王立ちでウォーレンを見下ろしていた。
「なんだ、マサか」
「なんだではない。それとマサはやめろと言っているだろ」
綺麗な形の眉に力が入り、眉間に皺を作る。
「で、なんだい?わざわざそっちから来るなんて」
まだ上の空のウォーレンにアシュレイは重いため息を吐いた。
「自分から頼んでおいて、忘れたのか?」
アシュレイはローブの下を探り、ずいとウォーレンの前に手をかざした。
掌の上には、手のひらサイズの正方形の缶箱があった。
「アシュレイ、それなぁに?」
アシュレイの背後からズクハノとマルコがひょこっと顔を出す。
「森の薬草で作った茶葉だ」
「茶葉?」
「あぁ、体温を高めてくれるものだ。酒に混ぜるのも良し、料理にふりかけるのも良し、また薬草だからな、もっとすり潰せば薬としても使える」
「へ~、すごい!」
「ウォーレンは低体温体質だもんな」
「…‥…」
淡々と缶箱の中身について説明するアシュレイにマルコは目を輝かせ、ズクハノは明るい苦笑いを浮かべた。
そんな三人の話を聞いても、何の反応もしないウォーレンにアシュレイは訝しげな目を向けた。
「こいつは、どうしたんだ?変な物でも食べたか?」
「それが…」
カクカクシカシカとウォーレンが帰って来てからの話を聞いたアシュレイは顎に手をやった。
「まさか…主に会ったのか?」
「主?」
マルコが首をコテンと傾げさせた。
「あぁ、正確に言うなら主候補だ。時折、人間の姿で現れては人助けや森に迷い込ますなどの悪戯をすると聞くが…」
「へ~」
アシュレイの話にマルコたちは頷いた。
「なぁ、マサ」
「だから、それはやめろと…」
「それ、他にはどんな効果がある?」
言葉を遮って言われ、アシュレイは眉をひそめた。
「…まだ、注文があるのか?」
肩をすくめて言うアシュレイを反射する窓越しに鼻で笑った。
「違うよ。他にはどんなことに効果がある?どんな病気に効く?」
いつものふざけた態度とは、うって変わって真剣な顔にあるウォーレンにアシュレイは首を傾げた。
主に「病気」という単語が引っかかった。
「物によるな。さっき言ったように、これには低体温や冷え症が効果的だ。あとはそうだな…熱を下げる効果も期待できるな」
「そうか…‥」
興味が失せたというようにウォーレンは再び視線を外へと戻した。
「なんだ?病気の知り合いでもいるのか?」
「まぁ、そんなとこ」
うわの空のウォーレンにアシュレイは息を吐き、ウォーレンの向かい合うようにして出窓に座った。
「その人は、どんな病気だ?治せるかわからないが、治療法があるかもしれん」
「わからない」
「わからんだと?」
首を振って答えるウォーレンにアシュレイは顔をしかめた。
「教えてくれなかった…聞くこともできなかった」
まるで懺悔するかのように呟きながらウォーレンは窓辺に寄り掛かった。
そんならしからぬウォーレンにアシュレイはあからさまにため息を吐いた。
「なら、聞けばいい」
「どうやって?会いに行く口実もない」
「…口実ならあるぞ」
そう言ってアシュレイは缶箱を再度突き出した。
「この時期の夜は、かなり冷え込む。最近は特にだ。その相手が何かしら病気を持っているのなら、身体を温めるべきだろう」
「…‥…」
缶箱を凝視しながら、しばらく考え込み視線をアシュレイに向けた。
「会う口実には、いいだろう?」
思考が上手く動かないウォーレンにアシュレイは片眉を上げた。
「…そうか、その手があったか!」
アシュレイの考えがようやく理解できたウォーレンは、すぐさま行動に移した。
アシュレイから缶箱を受け取り、出窓から飛び降りるとコート掛けからロングコートを剥ぎ取って扉へと向かう。
「マサ!礼を言うよ!」
後ろ手にドアノブを回しながら、アシュレイに向かって叫ぶ。そのまま意気揚々と飛び出して行った。
「だから、マサはやめろって言ってる…」
あとから、何度目かのため息とアシュレイの抗議の声がウォーレンを追う。
「…なんか、元気になったな。あいつ」
「うん。どんな人なんだろうね?その人」
「いずれにせよ、奴をあそこまで骨抜きにするんだ。よっぽどの美女だろうな」
残された三人の会話がため息と一緒に部屋に残された。
「確か…この道だったよな?」
数時間後、ウォーレンは『化け物の森』に入っていた。
強かった雨が霧雨となったせいで、辺りに薄い霧が立ち込めウォーレンの方向感覚が鈍らせた。
「え~と、この傷付いた木がこっちだから…あっちに…‥あぁぁ!」
すっかり鈍った方向感覚にウォーレンは自分の頭を掻いた。
「あの時は、分かる所までアドルフが案内してくれたからなぁ。あれは失敗だった…」
ガックシとウォーレンは項垂れた。
あの時ー明け方森を下りる際、少しでも一緒にいようとウォーレンはアドルフに方角が分からないと嘘を言い、遠目から街道が見える場所まで案内してもらった。
別れを惜しむウォーレンと違ってアドルフはウォーレンが街道に向かって降りて行くのを見届けると森へと消えて行った。
「もう来ることはないって思われてんだろうなぁ…」
自分の失態にため息を吐きながら、記憶を頼りに森を進んで行く。
しばらく森を彷徨っているうちに弱くなっていた雨がまた強くなり始めた。
「おっと、また降ってきた」
急いで大木の下へ逃げ込み、空を見上げると晴れかけていた空に小さな雨雲が月を囲うように舞い戻ってきていた。
「まずいなぁ…」
前回と違い雪が積もってはいないとは言え、雨が降り続ければそれなりに冷え込む。更に『化け物の森』は標高の高いというものもあって気温差が激しい。
「これはまた、今夜も冷え込むなぁ」
白い息を吐くながらウォーレンはコートの内ポケットを探った。そこには、アシュレイから受け取った茶葉の入った缶箱が忍び込ませてあった。
(喜んでくれる…といいなぁ)
どんな顔で喜ぶのかと考えるだけでニヤけてしまう。
その時、右側から突然ガサリと音が聞こえ勢いよく振り返った。数メートル先からガサリガサリと草が揺れウォーレンへと向かって来る。ウォーレンは夜目が利くヴァンパイアの眼に変え、いつでも爪で切り裂けるように身構えった。
ーガサッガサッ
どんどんとそれは近付き、勢いよく飛び出してきた。
「!!」
飛び出してきたものの正体を前にウォーレンは目を丸くした。
「ウサギ?」
草むらから飛び出してきたのは、なんとも可愛らしい鼻先だけが白い黒ウサギだった。
つぶらな黒い瞳がウォーレンを見上げる。
「…なんだい?迷子かな?ウサギちゃん…ん?」
肩膝をついてヴァンパイアの力でウサギを呼び寄せる。ウサギは警戒した様子もなくウォーレンに近付き手を差し伸べた。その時ウォーレンはウサギの小さな身体に似つかわしくない大きな傷があることに気が付いた。
「なんだ?この傷は…?」
鼻をひくつかされるウサギを抱き上げ、傷を診てみる。
(これは…引っ掻き傷か?)
一瞬、はぐれヴァンパイアのことが頭に浮かんだが、はぐれヴァンパイアが付けて傷にしては随分浅いことから違うと考え直した。
(熊か?いや…熊にしても小さすぎる。なら…何にやられた?)
ウサギをコートに入れるように抱きながら立ち上がりかけるとかすかに気配を感じた。辺りに視線を巡らせると、視線の先には闇に紛れて立つ人影がいた。
薄っすらと浮かぶシルエットでローブのような物を羽織っているのが見て取れる。敵意を感じないもののウォーレンは油断なくウサギを庇うように構えた。
シルエットの相手はゆっくりと一歩足を踏み出し、薄い月光の下へと姿を晒されす。
「アドルフ…?」
現れたのは、森へ来る理由となった件の美しい青年だった。
キラキラと雨粒が月光に照らされ、そこに佇むアドルフを幻想的な空間の主人公としていた。
焦がれていたとも言える人が現れたことにウォーレンは少し面食らいながらも浮かれた気分でアドルフへ歩み寄ろうとするが、それよりも先にアドルフが銀の銃をウォーレンへと向けた。
「なっ!?」
急な展開にウォーレンは思わず後ずさった。
アドルフの眼を見る限り正気ではあった。なら、なぜ銃を向けられているのかを考えるが、全く見当がつかない。
「ア、アドルフ!俺だ、ウォーレンだ!」
慌てて呼び掛けるが、アドルフは表情を変えることなく引き金を引いた。
ーパンッ!
銃声が森中に鳴り響き、銃弾はウォーレンにかすめることもなく数センチ横を通り過ぎていく。間もなく、背後から別の獣の鳴き声が聞こえてきた。振り返ると熊が急いで逃げて行く所だった。近くの木には、弾丸がめり込んでいた。
「…‥…」
アドルフが銃を向けた本当の理由を理解したウォーレンは引き攣った顔をアドルフに向けるがアドルフは特に詫びる様子もなく銃を下ろした。
「あなたは…もっと周りを警戒なさい」
何食わぬ顔でいまだ片膝を着いたままのウォーレンを見下ろした。
「この森が何と呼ばれているのかは、あなたもご存知でしょう?」
月の光に照らされて僅かに濡れたダークブルーの髪から雨粒が滴り落ち、陶器のような肌が更に白く輝く。それを眩しそうにウォーレンは目を細める。
(やっぱり、すごく綺麗だ…)
呼吸をすることも忘れアドルフを見上げるウォーレンにアドルフは厳しい目を向けて見下ろした。
「…人の話を聞いてます?」
返事もなければ、一寸も動かないウォーレンに顔を近付ける。
「…っ!?」
息がかかるほどの距離、すぐ目の前に宝石の化身の如く美しい顔がある。
どこまでも深く暗い青い瞳に吸い込まれそうになる。ほんの数秒そうしていただけだったのに、ウォーレンは数時間にも感じられた。
「おや?」
ふとアドルフの視線がウォーレンの胸元に向けられた。そこから黒ウサギをひょこっと白い鼻先をヒクヒクさせながら顔を出してアドルフを見上げていた。
「お前は…」
「あぁ、こいつ、さっき拾ったんだ」
話を逸らすようにウォーレンも抱いているウサギに視線を落とした。指で撫でてやると長い耳がパタパタと動く。
「良かった…」
「ん、何が?」
何が良かったと見るとアドルフはローブ下をゴソゴソと動かし、ひょこっと鼻先だけが黒い白ウサギが顔を出した。
「あ、そいつ…」
「兄弟なんですよ、この子とその子は。良かった、丁度探していたんです」
安堵の笑みを浮かべウォーレンの前にしゃがみ込みかけると、ウサギは前へ跳ねようとした。
「おぉと…」
「慌てないで」
撫でながら落ち着かせて二羽を対面させる。ウサギたちは、ようやく会えたことを喜ぶかのようにプウプウと鼻を鳴らした。
「喜んでる、のかな?」
「えぇ…良かった…」
可愛らしいウサギたちに目を細めるアドルフにウォーレンは小さく笑った。
「なんですか?」
瞬間、アドルフの目がウォーレンを睨みつけた。
「いや、さっきから『良かった』ってばかり言ってるから、つい…」
言われて初めて気が付いたのかアドルフの目が見開かれ、頬が僅かに赤らむ。
「あ、あれは、別に、その…」
ウォーレンから視線を逸らしながら口籠もりというアドルフの反応にドキッとしながらも、同時に笑いを堪えることなどできるはずもなく吹き出してしまった。
(褒められるのは、慣れてないのかな?)
涙を浮かべて笑うウォーレンをアドルフはいまだ頬を赤らめながら睨みつけた。
「…助けなければ良かった」
子供のように口を尖らせて呟くアドルフに満面の笑みを向けた。
「それは、勘弁かな」
ニッコリと笑って言うとアドルフは恨めしげに見た。
その時、ウォーレンの背後から獣の唸り声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「…‥…」
振り返るが何の姿も確認できない。
アドルフもウォーレンの背後を見つめながら、ゆっくりと立ち上がった。
「アドルフ?」
視線を動かさず、ゆっくりとした動作で銃を構えた。
足元を見れば、二羽のウサギがウォーレンの足に擦り寄ってきた。
「その子たちを」
前方を見透かしたまま、アドルフはそうウォーレンに指示を出した。
場所が場所だけあってウォーレンも言われた通り、二羽のウサギを抱き上げ銃口の邪魔にならないようにアドルフの横へと移動した。
「何がいるんだい?」
「まだ、わかりません」
銃を構えた姿勢のままでいると、また唸り声が聞こえてきた。
「アドルフ」
「わかってます」
震えるウサギを抱きしめウォーレンは一歩後ろへ下がった。その時、唸り声がした方向から草むらが動いた。それをアドルフは見逃さなかった。
ーパンッ!
さっきと同じ銃声が森に鳴り響く。
銃弾の閃光が林の中を駆け抜けた時、ウォーレンの眼には闇色の塊に二つに光る目らしきものが映った。その姿にウォーレンは目を張った。
(嘘だろ…あれは…!)
「シャドウゾンビ」
ウォーレンが口にする前にアドルフがその正体の名を口にした。
見ればアドルフは慌てた様子もなく、冷静にシャドウゾンビがいた場所を睨んでいた。
ーシャドウゾンビとは、強い想い、主に怨念に似た感情から生まれそれが人間や動物に取り憑き噛み付かれた怪物だった。初期はただの幽霊に似ており、目に見えないがそれが似たような負の感情が集まり過ぎれば目に見えるようになり、心の隙間を持つ人間が知らずに近付けばその人間に取り憑く。その状態を『シャドウ』と呼び、それらは家族や恋人などを関係なしに襲うようになる。襲われた方を『シャドウゾンビ』と呼んだ。
厄介なのは、取り憑かれた人間も襲われた人間も自覚を持たないことだった。
そんな彼らでも弱点は夜にしか活動ができないと言われ、陽を浴びると消えてしまうと聞く。また、彼らは自身の姿を映す鏡も嫌うと言われていた。全身が映ることを嫌うため鏡は大きければ大きいほど良いと言われている。
それらから人間たちは、玄関口や寝室に鏡を置いて過ごしてきた。
「ウォーレン、鏡持っていますか?」
「いいや、残念ながら」
「ですよね」
予想通りの答えだったのか、さほど残念がることもなくアドルフは懐を探った。
「これくらいの大きさなら、時間稼ぎにしかなりませんね」
出したのは、手のひらサイズの手鏡だった。それをシャドウゾンビに向けながら、同じように懐に忍ばせていた灯を反射させる。
『ギュゥゥゥゥゥ!!』
「走れっ!」
「っ!」
反射された光に怯んだ隙に二人は踵を返して走り出した。
ウォーレンは、二羽のウサギを落としてしまわないように抱きながら走り、アドルフは背後を気にしながらウォーレンに指示を出した。
「そのまま真っ直ぐ!」
ウォーレンは言われた通りに真っ直ぐ走り抜ける。
辿り着いた先は、広場のように開けた場所だった。周りを囲う木々は一層高く太かった。そのせいで同じ森でも広場のような感覚を与える。
「ここは?」
「森の動物のための場所、いわば憩いの場です」
広場の中央まで移動し、ウォーレンは周りを見渡してからはっとした。
「アドルフ、ここはまずいじゃないかい?」
「なぜです?」
「ここは、木々の影だらけだ。奴はどこからでも現れる…!」
今すぐ違い所へと逃げようと言うウォーレンに手を引かれるもアドルフはその場から動こうとはしなかった。
「いえ、ここでいいです」
「え…?」
アドルフはウォーレンに背中を向けた状態のため、今のウォーレンにはアドルフの表情がわからない。しかし、なんとなく笑っているように感じた。
「もうすぐ…」
いつの間にか雨は完全にあがり、雲が風に流される。
「もうすぐ月が出ます」
アドルフは首だけ振り向きウォーレンに笑いかける。
あまりにも綺麗に笑いかけられたため、ウォーレンの思考が一瞬止まりかけた。
アドルフは、迫り来るシャドウゾンビに向き直った。
ゆっくり深呼吸をし、乾いた唇を舐める。空を見上げれば、雨雲から月が顔を出そうとしていた。
「もっとだ…もっと顔を出しなさい!」
唸り声が聞こえ、視線を空から森に戻せば不気味に光る二つの目がこちらを見ていた。
鏡を持ち直し、その時を待った。
シャドウゾンビは最初こそゆっくり動いていたものの、アドルフを敵と見なしたのか猛スピードで向かってきた。
「アドルフ…!」
思わずウォーレンは前に出ようとするが、アドルフの声に制された。
「あなたは、その子たちを…!」
はっと足を止められ、抱きかかえるウサギを見る。ウサギは寄り添うように震え、頭をウォーレンの胸に埋めていた。
「恐らく、その子の傷は奴に付けられたんでしょう。…許すわけには、いきません」
アドルフの声音から静かに怒りを感じ取った。
「けど、鏡一つでどうやって…?」
「正解は一つとは、限りませんよ」
鏡を胸で前に構え、足を肩幅に開き踏ん張る。
「ウォーレン、奴らは何でできていますか?」
「はっ?」
突然、アドルフのレクチャーが始まった。
「影、だろう…?」
「その通り、二つ目の質問です。奴らの弱点は?」
「…鏡、と日の光」
「ここにあるのは?」
「鏡だけだろう?…何が言いたいんだい?」
アドルフの質問の意図が分からず、ただ質問に答えている間にもシャドウゾンビはアドルフに今にも突っ込もうとしている。そのことがウォーレンを焦り始めさせていた。
「そうとは言えませんよ」
「は?」
アドルフは振り向き顎で空を指した。
「月もある意味では、『日の光』です」
そう言って、丁度晴れた空を鏡に映した。月が鏡に映り込み、光を生み出す。
シャドウゾンビはもうすぐそこまで迫り、とうとう森を抜け、広場へと入って来た。そのままアドルフへと真っ直ぐ突っ込む。
「アドルフ!」
「…‥…」
アドルフの頬を冷や汗が伝う。
ウォーレンは急いでコートを脱ぎ、二羽のウサギを包んでから地面に投げないように置いた。振り向きアドルフへと走った。
目の前では、シャドウゾンビがアドルフに突っ込もうとしていた。
アドルフは鏡の向きを変え、月の光をシャドウゾンビにぶつけた。
『ギュ!?ギュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
「っ!!?」
突然現れた光にシャドウゾンビはブレーキをかけることができず、もろに光を浴びたせいで燃え尽きるように消えていった。
その反動で鏡が粉々に割れ、アドルフの身体も後方へ飛ばされる。地面に叩きつけられることを覚悟し、硬く目を閉じた。しかし、地面に叩きつけられることはなく、代わりに力強い何かに抱き止められたのが分かった。そのまま一緒に後方へ倒れ込む。
「う、うぅ~。大丈夫かい?アドルフ」
「なん、とか…」
アドルフを抱き止めたのはウォーレンだった。
ウォーレンはしっかりアドルフの肩を抱きながら起き上がる。
アドルフも特に抵抗することもなく、ウォーレンに身を預けていた。
二人の視線の先には、シャドウゾンビが離れていった抜け殻だけが残されていた。固い毛に覆われた大きい図体に蹄のある四つ脚、小さな耳に上向きの太く長い牙と鋭い歯、そして充血した目。
「…猪、だったですか」
「…この森ってシャドウゾンビまで出るの?」
「ごく稀に…」
疲れたのかアドルフは一息吐いてから、ウォーレンの胸に顔を乗せた。
警戒心のないアドルフの行動にウォーレンは予想だにしてもいなかったことに身を固くした。
(おいおい、アドルフ…)
今すぐアドルフの首筋に噛み付きたくなる衝動を理性で抑え付ける。気を逸らそうと、視線を巡らせるとアドルフの手元に目をいった。
アドルフの手は、割れた鏡の破片で小さな傷をいくつも作っていた。
「アドルフ、手…」
「ん」
言われてアドルフの自身の手に目をやった。
「あ~、さっきの衝撃で切ったんでしょう」
なんでもないかのように言うアドルフにウォーレンは眉をひそめた。
「おいおい、まるで他人事だな」
「…‥大して痛みもないので」
手を振ってみせるアドルフに苦笑いしながらも、ポケットからハンカチを取り出し、アドルフの手に巻き付けた。
「これで、良しっと」
「…‥大した傷でもないのに」
満足そうにするウォーレンにアドルフは小さくぼやいた。しかし、その口は笑っていた。
「いいじゃない。俺の自己満足ってことにしといてよ」
ニコと笑うとアドルフは呆れた顔でウォーレンを見上げた。その目が眩しそうに細められる。
「やっぱり…綺麗ですね」
「は…?」
またも予想だにしてなかったことに、今度はウォーレンの口から間の抜けた声が出た。
「髪が、月光に照らされて、キラキラ光るんです。瞳も、宝石のような…とても綺麗なライトブルー…‥こんな綺麗な人、初めて見ました」
アドルフの手がウォーレンの髪や頬に壊れ物に触るかのような手つきで触れる。
「…‥…」
同じ印象を持たれていたことに、ウォーレンは言葉を失くす。アドルフが触れる場所がピリピリと痺れる感覚がすら感じる。髪の隙間からのぞく青い瞳に自分の驚いた顔が映り込む。
「ウォーレン?」
耳に心地いい声がウォーレンの耳に届く。
無意識にアドルフの頬に触れようと手を伸ばしかけた瞬間、何かに上着の裾を引っ張られた。見ると兄弟ウサギがウォーレンのコートを引きずり怒ったように二人を見上げていた。
「あ~ぁ、ごめんなさい。君たちのこと、忘れていましたね」
「そ、そうだね」
ウサギに手を伸ばすアドルフを片隅に、半分残念な気持ち半分危なかったという気持ちと複雑に思いながら自分の眉間に指を当てた。
(不意打ちすぎるだろ~…)
一人難しい顔をするウォーレンにアドルフは首を傾げた。
「ウォーレン?どうしました?」
アドルフが不思議そうにウォーレンの顔を覗き込む。自分の表情を意識しながら、ゆっくりアドルフの顔を見返す。
「いや、なんでもないよ」
「?そうですか…」
その時、しきりに兄弟ウサギがアドルフの袖を引っ張った。
「あ~はいはい。早く、こんな危ない所から離れましょうね?」
上手に二羽を抱き上げながら、鼻同士をくっつけて「ふふふ」と微笑んだ。そんな仕草ですら、目を奪われる。
「さぁ、行きましょう。あれのせいで同族に嗅ぎつけられたら面倒です」
アドルフはウォーレンから離れる。腕や膝にまだアドルフの温もりが残り、少し名残惜しく感じるがいつまでもここにいるわけにもいかないと立ち上がりかけた。
「っ…」
ふと唸り声を聞こえ顔を上げれば、さっきまで抱いていた背中が丸くなっていた。
「アドルフ?」
急いで隣に移動ししゃがみ込み顔を覗き込むと、アドルフが唇を噛み痛みに耐えるように綺麗な顔を歪めていた。額には冷や汗すら浮かべていた。
「アドルフ!どうしたんだい!?」
以前アドルフは自分は病気だと言ったことを思い出し、ウォーレンは顔を青くした。
(まさか、何か発作的な…!)
「アドルフ!薬か何か服用してるのかい?してるなら…」
慌てるウォーレンにアドルフは笑いかけた。
「だい、じょう、ぶです。…何でも、ありませんから」
そう言いながら、もう一度立ち上がりかけるがまたしゃがみ込んでしまう。
「アドルフ…」
痛みに悶えるアドルフの背中をさすりながら視線を落とした。足元で兄弟ウサギたちも心配そうにアドルフを鼻をヒクつかせる。ウサギたちからふっとアドルフが両手で抑える左足首に目がいった。
「アドルフ…もしかして、足が痛むのかい?」
まさかと思いながら聞いてみると、アドルフは一瞬ウォーレンを見たあと、かすかに頷いた。
ウォーレンの肩から一気に力が抜ける。
(なんだ…発作じゃなかったのか)
胸を撫で下ろしながら、アドルフの正面に回ってその場に座るように促した。アドルフは躊躇するような顔をしたが素直に従った。
(うわぁ…)
靴の上からでも分かるほど腫れ、とても歩けるような状態ではなかった。さっきのを見る限り立つのも難しいだろう。
足からアドルフの顔へ視線をあげると、アドルフは視線を合わせようとはしなかった。口も固く閉ざされている。
「仕方ない…」
ため息を吐き、兄弟ウサギが引きずってきた自分のコートにさっきと同じように包みアドルフに抱かせる。
「?」
はてなを浮かべるアドルフの横へ移動し、肩と膝の下に腕を回す。
「え…」
そのまま持ち上げる。
「ちょ!」
「暴れないで。危ないから」
さすがに抵抗しようとするアドルフに下す気はないと腕に力を込めると、戸惑った顔を見せた後兄弟ウサギを包むウォーレンのコートに顔を埋めてしまった。
そんな初々しい反応に頬が緩み、胸がくすがれる。
アドルフの身体は、思ったよりも筋肉が引き締まっていてさほど重くもない。
「アドルフって全然重くないだね、仔犬を抱いてるみたいだ。ちゃんと食べてる?」
「だ、黙りなさい…!」
照れ隠しでそうからかってみると、アドルフは俯いたまま言い返すだけだった。
ますます頬がだらしなく緩み、自分でも顔が熱くなっていくのがわかる。
(う~ん、アドルフが俯いてくれて良かった…今、顔を見られるのは…まずい)
柄にもなくそう思う自分に苦笑した。
アドルフの髪から兄弟ウサギが可愛らしい顔を出す。
感謝を込めて笑いかけ、歩き出そうと一歩踏み出す。が、はたと止まった。
「ねぇ、アドルフ」
「…なんですか?」
「方角は…教えて欲しいだけど…」
最後の最後で締まらない自分をウォーレンは初めて呪った。
「…なぁ、最近のウォーレン、なんかおかしくねぇ?」
「うん」
ぼうと外ばかり見つめるウォーレンを悪友・狐族の獣人ズクハノと使い魔のマルコが訝しげな目で見ていた。
「朝からずっとああしてるだよ?」
「つうか、帰ってきてからだよな?」
「あ~確かに。三日間行方不明になって、ひょっこり帰って来たと思ったらず~と上の空だし…」
「話しかけても、遊びに誘っても、全然聞いてないし…」
「何があったのか聞いても、何も言わないし…」
二人はヒソヒソと言い合いながらじ~とウォーレンを見るが、当の本人は全く気にした様子はない。
「…本当に、何があっただ?」
「さぁ」
二人の訝しげな眼差しがウォーレンに注がれる中、ウォーレンは何度目かのため息を吐いた。
「…星空に向かって フクロウが鳴くよ 良い子だ坊や さぁ眠りなさい…‥」
「アルトロ。あれ、何?」
「さぁ?子守唄みたいだけど…」
時折ウォーレンが口ずさむ歌らしいものにズクハノとマルコが顔を見合わせる。
悪友二人が心配そうにする中、ウォーレンの頭の中はアドルフのことばかりを考えていた。
(あの声を、歌をまた聴きたい)
目を閉じれば思い出すのは、アドルフの整った顔と透き通るような歌声。
たった一度、それも約数時間しか共に過ごしていないが、ウォーレンの胸にしっかりとその存在を刻み込んでいた。
「はぁ~…」
「とにかく、あれは重症だな」
「だね、ん?」
項垂れるウォーレンに一人の人物が近付いた。
「おい」
「…‥…」
「おい、ウォーレン」
「…‥…」
「ウォーレンっ!!」
「イテッ!?」
物思いにふけていたウォーレンの脳天に突然、衝撃が走った。
頭を抑えながら顔を上げると、そこには耳の少し下で切り揃えられた葡萄色の髪と更に暗い葡萄色の瞳が特徴の魔法使い・アシュレイが杖を片手に仁王立ちでウォーレンを見下ろしていた。
「なんだ、マサか」
「なんだではない。それとマサはやめろと言っているだろ」
綺麗な形の眉に力が入り、眉間に皺を作る。
「で、なんだい?わざわざそっちから来るなんて」
まだ上の空のウォーレンにアシュレイは重いため息を吐いた。
「自分から頼んでおいて、忘れたのか?」
アシュレイはローブの下を探り、ずいとウォーレンの前に手をかざした。
掌の上には、手のひらサイズの正方形の缶箱があった。
「アシュレイ、それなぁに?」
アシュレイの背後からズクハノとマルコがひょこっと顔を出す。
「森の薬草で作った茶葉だ」
「茶葉?」
「あぁ、体温を高めてくれるものだ。酒に混ぜるのも良し、料理にふりかけるのも良し、また薬草だからな、もっとすり潰せば薬としても使える」
「へ~、すごい!」
「ウォーレンは低体温体質だもんな」
「…‥…」
淡々と缶箱の中身について説明するアシュレイにマルコは目を輝かせ、ズクハノは明るい苦笑いを浮かべた。
そんな三人の話を聞いても、何の反応もしないウォーレンにアシュレイは訝しげな目を向けた。
「こいつは、どうしたんだ?変な物でも食べたか?」
「それが…」
カクカクシカシカとウォーレンが帰って来てからの話を聞いたアシュレイは顎に手をやった。
「まさか…主に会ったのか?」
「主?」
マルコが首をコテンと傾げさせた。
「あぁ、正確に言うなら主候補だ。時折、人間の姿で現れては人助けや森に迷い込ますなどの悪戯をすると聞くが…」
「へ~」
アシュレイの話にマルコたちは頷いた。
「なぁ、マサ」
「だから、それはやめろと…」
「それ、他にはどんな効果がある?」
言葉を遮って言われ、アシュレイは眉をひそめた。
「…まだ、注文があるのか?」
肩をすくめて言うアシュレイを反射する窓越しに鼻で笑った。
「違うよ。他にはどんなことに効果がある?どんな病気に効く?」
いつものふざけた態度とは、うって変わって真剣な顔にあるウォーレンにアシュレイは首を傾げた。
主に「病気」という単語が引っかかった。
「物によるな。さっき言ったように、これには低体温や冷え症が効果的だ。あとはそうだな…熱を下げる効果も期待できるな」
「そうか…‥」
興味が失せたというようにウォーレンは再び視線を外へと戻した。
「なんだ?病気の知り合いでもいるのか?」
「まぁ、そんなとこ」
うわの空のウォーレンにアシュレイは息を吐き、ウォーレンの向かい合うようにして出窓に座った。
「その人は、どんな病気だ?治せるかわからないが、治療法があるかもしれん」
「わからない」
「わからんだと?」
首を振って答えるウォーレンにアシュレイは顔をしかめた。
「教えてくれなかった…聞くこともできなかった」
まるで懺悔するかのように呟きながらウォーレンは窓辺に寄り掛かった。
そんならしからぬウォーレンにアシュレイはあからさまにため息を吐いた。
「なら、聞けばいい」
「どうやって?会いに行く口実もない」
「…口実ならあるぞ」
そう言ってアシュレイは缶箱を再度突き出した。
「この時期の夜は、かなり冷え込む。最近は特にだ。その相手が何かしら病気を持っているのなら、身体を温めるべきだろう」
「…‥…」
缶箱を凝視しながら、しばらく考え込み視線をアシュレイに向けた。
「会う口実には、いいだろう?」
思考が上手く動かないウォーレンにアシュレイは片眉を上げた。
「…そうか、その手があったか!」
アシュレイの考えがようやく理解できたウォーレンは、すぐさま行動に移した。
アシュレイから缶箱を受け取り、出窓から飛び降りるとコート掛けからロングコートを剥ぎ取って扉へと向かう。
「マサ!礼を言うよ!」
後ろ手にドアノブを回しながら、アシュレイに向かって叫ぶ。そのまま意気揚々と飛び出して行った。
「だから、マサはやめろって言ってる…」
あとから、何度目かのため息とアシュレイの抗議の声がウォーレンを追う。
「…なんか、元気になったな。あいつ」
「うん。どんな人なんだろうね?その人」
「いずれにせよ、奴をあそこまで骨抜きにするんだ。よっぽどの美女だろうな」
残された三人の会話がため息と一緒に部屋に残された。
「確か…この道だったよな?」
数時間後、ウォーレンは『化け物の森』に入っていた。
強かった雨が霧雨となったせいで、辺りに薄い霧が立ち込めウォーレンの方向感覚が鈍らせた。
「え~と、この傷付いた木がこっちだから…あっちに…‥あぁぁ!」
すっかり鈍った方向感覚にウォーレンは自分の頭を掻いた。
「あの時は、分かる所までアドルフが案内してくれたからなぁ。あれは失敗だった…」
ガックシとウォーレンは項垂れた。
あの時ー明け方森を下りる際、少しでも一緒にいようとウォーレンはアドルフに方角が分からないと嘘を言い、遠目から街道が見える場所まで案内してもらった。
別れを惜しむウォーレンと違ってアドルフはウォーレンが街道に向かって降りて行くのを見届けると森へと消えて行った。
「もう来ることはないって思われてんだろうなぁ…」
自分の失態にため息を吐きながら、記憶を頼りに森を進んで行く。
しばらく森を彷徨っているうちに弱くなっていた雨がまた強くなり始めた。
「おっと、また降ってきた」
急いで大木の下へ逃げ込み、空を見上げると晴れかけていた空に小さな雨雲が月を囲うように舞い戻ってきていた。
「まずいなぁ…」
前回と違い雪が積もってはいないとは言え、雨が降り続ければそれなりに冷え込む。更に『化け物の森』は標高の高いというものもあって気温差が激しい。
「これはまた、今夜も冷え込むなぁ」
白い息を吐くながらウォーレンはコートの内ポケットを探った。そこには、アシュレイから受け取った茶葉の入った缶箱が忍び込ませてあった。
(喜んでくれる…といいなぁ)
どんな顔で喜ぶのかと考えるだけでニヤけてしまう。
その時、右側から突然ガサリと音が聞こえ勢いよく振り返った。数メートル先からガサリガサリと草が揺れウォーレンへと向かって来る。ウォーレンは夜目が利くヴァンパイアの眼に変え、いつでも爪で切り裂けるように身構えった。
ーガサッガサッ
どんどんとそれは近付き、勢いよく飛び出してきた。
「!!」
飛び出してきたものの正体を前にウォーレンは目を丸くした。
「ウサギ?」
草むらから飛び出してきたのは、なんとも可愛らしい鼻先だけが白い黒ウサギだった。
つぶらな黒い瞳がウォーレンを見上げる。
「…なんだい?迷子かな?ウサギちゃん…ん?」
肩膝をついてヴァンパイアの力でウサギを呼び寄せる。ウサギは警戒した様子もなくウォーレンに近付き手を差し伸べた。その時ウォーレンはウサギの小さな身体に似つかわしくない大きな傷があることに気が付いた。
「なんだ?この傷は…?」
鼻をひくつかされるウサギを抱き上げ、傷を診てみる。
(これは…引っ掻き傷か?)
一瞬、はぐれヴァンパイアのことが頭に浮かんだが、はぐれヴァンパイアが付けて傷にしては随分浅いことから違うと考え直した。
(熊か?いや…熊にしても小さすぎる。なら…何にやられた?)
ウサギをコートに入れるように抱きながら立ち上がりかけるとかすかに気配を感じた。辺りに視線を巡らせると、視線の先には闇に紛れて立つ人影がいた。
薄っすらと浮かぶシルエットでローブのような物を羽織っているのが見て取れる。敵意を感じないもののウォーレンは油断なくウサギを庇うように構えた。
シルエットの相手はゆっくりと一歩足を踏み出し、薄い月光の下へと姿を晒されす。
「アドルフ…?」
現れたのは、森へ来る理由となった件の美しい青年だった。
キラキラと雨粒が月光に照らされ、そこに佇むアドルフを幻想的な空間の主人公としていた。
焦がれていたとも言える人が現れたことにウォーレンは少し面食らいながらも浮かれた気分でアドルフへ歩み寄ろうとするが、それよりも先にアドルフが銀の銃をウォーレンへと向けた。
「なっ!?」
急な展開にウォーレンは思わず後ずさった。
アドルフの眼を見る限り正気ではあった。なら、なぜ銃を向けられているのかを考えるが、全く見当がつかない。
「ア、アドルフ!俺だ、ウォーレンだ!」
慌てて呼び掛けるが、アドルフは表情を変えることなく引き金を引いた。
ーパンッ!
銃声が森中に鳴り響き、銃弾はウォーレンにかすめることもなく数センチ横を通り過ぎていく。間もなく、背後から別の獣の鳴き声が聞こえてきた。振り返ると熊が急いで逃げて行く所だった。近くの木には、弾丸がめり込んでいた。
「…‥…」
アドルフが銃を向けた本当の理由を理解したウォーレンは引き攣った顔をアドルフに向けるがアドルフは特に詫びる様子もなく銃を下ろした。
「あなたは…もっと周りを警戒なさい」
何食わぬ顔でいまだ片膝を着いたままのウォーレンを見下ろした。
「この森が何と呼ばれているのかは、あなたもご存知でしょう?」
月の光に照らされて僅かに濡れたダークブルーの髪から雨粒が滴り落ち、陶器のような肌が更に白く輝く。それを眩しそうにウォーレンは目を細める。
(やっぱり、すごく綺麗だ…)
呼吸をすることも忘れアドルフを見上げるウォーレンにアドルフは厳しい目を向けて見下ろした。
「…人の話を聞いてます?」
返事もなければ、一寸も動かないウォーレンに顔を近付ける。
「…っ!?」
息がかかるほどの距離、すぐ目の前に宝石の化身の如く美しい顔がある。
どこまでも深く暗い青い瞳に吸い込まれそうになる。ほんの数秒そうしていただけだったのに、ウォーレンは数時間にも感じられた。
「おや?」
ふとアドルフの視線がウォーレンの胸元に向けられた。そこから黒ウサギをひょこっと白い鼻先をヒクヒクさせながら顔を出してアドルフを見上げていた。
「お前は…」
「あぁ、こいつ、さっき拾ったんだ」
話を逸らすようにウォーレンも抱いているウサギに視線を落とした。指で撫でてやると長い耳がパタパタと動く。
「良かった…」
「ん、何が?」
何が良かったと見るとアドルフはローブ下をゴソゴソと動かし、ひょこっと鼻先だけが黒い白ウサギが顔を出した。
「あ、そいつ…」
「兄弟なんですよ、この子とその子は。良かった、丁度探していたんです」
安堵の笑みを浮かべウォーレンの前にしゃがみ込みかけると、ウサギは前へ跳ねようとした。
「おぉと…」
「慌てないで」
撫でながら落ち着かせて二羽を対面させる。ウサギたちは、ようやく会えたことを喜ぶかのようにプウプウと鼻を鳴らした。
「喜んでる、のかな?」
「えぇ…良かった…」
可愛らしいウサギたちに目を細めるアドルフにウォーレンは小さく笑った。
「なんですか?」
瞬間、アドルフの目がウォーレンを睨みつけた。
「いや、さっきから『良かった』ってばかり言ってるから、つい…」
言われて初めて気が付いたのかアドルフの目が見開かれ、頬が僅かに赤らむ。
「あ、あれは、別に、その…」
ウォーレンから視線を逸らしながら口籠もりというアドルフの反応にドキッとしながらも、同時に笑いを堪えることなどできるはずもなく吹き出してしまった。
(褒められるのは、慣れてないのかな?)
涙を浮かべて笑うウォーレンをアドルフはいまだ頬を赤らめながら睨みつけた。
「…助けなければ良かった」
子供のように口を尖らせて呟くアドルフに満面の笑みを向けた。
「それは、勘弁かな」
ニッコリと笑って言うとアドルフは恨めしげに見た。
その時、ウォーレンの背後から獣の唸り声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「…‥…」
振り返るが何の姿も確認できない。
アドルフもウォーレンの背後を見つめながら、ゆっくりと立ち上がった。
「アドルフ?」
視線を動かさず、ゆっくりとした動作で銃を構えた。
足元を見れば、二羽のウサギがウォーレンの足に擦り寄ってきた。
「その子たちを」
前方を見透かしたまま、アドルフはそうウォーレンに指示を出した。
場所が場所だけあってウォーレンも言われた通り、二羽のウサギを抱き上げ銃口の邪魔にならないようにアドルフの横へと移動した。
「何がいるんだい?」
「まだ、わかりません」
銃を構えた姿勢のままでいると、また唸り声が聞こえてきた。
「アドルフ」
「わかってます」
震えるウサギを抱きしめウォーレンは一歩後ろへ下がった。その時、唸り声がした方向から草むらが動いた。それをアドルフは見逃さなかった。
ーパンッ!
さっきと同じ銃声が森に鳴り響く。
銃弾の閃光が林の中を駆け抜けた時、ウォーレンの眼には闇色の塊に二つに光る目らしきものが映った。その姿にウォーレンは目を張った。
(嘘だろ…あれは…!)
「シャドウゾンビ」
ウォーレンが口にする前にアドルフがその正体の名を口にした。
見ればアドルフは慌てた様子もなく、冷静にシャドウゾンビがいた場所を睨んでいた。
ーシャドウゾンビとは、強い想い、主に怨念に似た感情から生まれそれが人間や動物に取り憑き噛み付かれた怪物だった。初期はただの幽霊に似ており、目に見えないがそれが似たような負の感情が集まり過ぎれば目に見えるようになり、心の隙間を持つ人間が知らずに近付けばその人間に取り憑く。その状態を『シャドウ』と呼び、それらは家族や恋人などを関係なしに襲うようになる。襲われた方を『シャドウゾンビ』と呼んだ。
厄介なのは、取り憑かれた人間も襲われた人間も自覚を持たないことだった。
そんな彼らでも弱点は夜にしか活動ができないと言われ、陽を浴びると消えてしまうと聞く。また、彼らは自身の姿を映す鏡も嫌うと言われていた。全身が映ることを嫌うため鏡は大きければ大きいほど良いと言われている。
それらから人間たちは、玄関口や寝室に鏡を置いて過ごしてきた。
「ウォーレン、鏡持っていますか?」
「いいや、残念ながら」
「ですよね」
予想通りの答えだったのか、さほど残念がることもなくアドルフは懐を探った。
「これくらいの大きさなら、時間稼ぎにしかなりませんね」
出したのは、手のひらサイズの手鏡だった。それをシャドウゾンビに向けながら、同じように懐に忍ばせていた灯を反射させる。
『ギュゥゥゥゥゥ!!』
「走れっ!」
「っ!」
反射された光に怯んだ隙に二人は踵を返して走り出した。
ウォーレンは、二羽のウサギを落としてしまわないように抱きながら走り、アドルフは背後を気にしながらウォーレンに指示を出した。
「そのまま真っ直ぐ!」
ウォーレンは言われた通りに真っ直ぐ走り抜ける。
辿り着いた先は、広場のように開けた場所だった。周りを囲う木々は一層高く太かった。そのせいで同じ森でも広場のような感覚を与える。
「ここは?」
「森の動物のための場所、いわば憩いの場です」
広場の中央まで移動し、ウォーレンは周りを見渡してからはっとした。
「アドルフ、ここはまずいじゃないかい?」
「なぜです?」
「ここは、木々の影だらけだ。奴はどこからでも現れる…!」
今すぐ違い所へと逃げようと言うウォーレンに手を引かれるもアドルフはその場から動こうとはしなかった。
「いえ、ここでいいです」
「え…?」
アドルフはウォーレンに背中を向けた状態のため、今のウォーレンにはアドルフの表情がわからない。しかし、なんとなく笑っているように感じた。
「もうすぐ…」
いつの間にか雨は完全にあがり、雲が風に流される。
「もうすぐ月が出ます」
アドルフは首だけ振り向きウォーレンに笑いかける。
あまりにも綺麗に笑いかけられたため、ウォーレンの思考が一瞬止まりかけた。
アドルフは、迫り来るシャドウゾンビに向き直った。
ゆっくり深呼吸をし、乾いた唇を舐める。空を見上げれば、雨雲から月が顔を出そうとしていた。
「もっとだ…もっと顔を出しなさい!」
唸り声が聞こえ、視線を空から森に戻せば不気味に光る二つの目がこちらを見ていた。
鏡を持ち直し、その時を待った。
シャドウゾンビは最初こそゆっくり動いていたものの、アドルフを敵と見なしたのか猛スピードで向かってきた。
「アドルフ…!」
思わずウォーレンは前に出ようとするが、アドルフの声に制された。
「あなたは、その子たちを…!」
はっと足を止められ、抱きかかえるウサギを見る。ウサギは寄り添うように震え、頭をウォーレンの胸に埋めていた。
「恐らく、その子の傷は奴に付けられたんでしょう。…許すわけには、いきません」
アドルフの声音から静かに怒りを感じ取った。
「けど、鏡一つでどうやって…?」
「正解は一つとは、限りませんよ」
鏡を胸で前に構え、足を肩幅に開き踏ん張る。
「ウォーレン、奴らは何でできていますか?」
「はっ?」
突然、アドルフのレクチャーが始まった。
「影、だろう…?」
「その通り、二つ目の質問です。奴らの弱点は?」
「…鏡、と日の光」
「ここにあるのは?」
「鏡だけだろう?…何が言いたいんだい?」
アドルフの質問の意図が分からず、ただ質問に答えている間にもシャドウゾンビはアドルフに今にも突っ込もうとしている。そのことがウォーレンを焦り始めさせていた。
「そうとは言えませんよ」
「は?」
アドルフは振り向き顎で空を指した。
「月もある意味では、『日の光』です」
そう言って、丁度晴れた空を鏡に映した。月が鏡に映り込み、光を生み出す。
シャドウゾンビはもうすぐそこまで迫り、とうとう森を抜け、広場へと入って来た。そのままアドルフへと真っ直ぐ突っ込む。
「アドルフ!」
「…‥…」
アドルフの頬を冷や汗が伝う。
ウォーレンは急いでコートを脱ぎ、二羽のウサギを包んでから地面に投げないように置いた。振り向きアドルフへと走った。
目の前では、シャドウゾンビがアドルフに突っ込もうとしていた。
アドルフは鏡の向きを変え、月の光をシャドウゾンビにぶつけた。
『ギュ!?ギュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
「っ!!?」
突然現れた光にシャドウゾンビはブレーキをかけることができず、もろに光を浴びたせいで燃え尽きるように消えていった。
その反動で鏡が粉々に割れ、アドルフの身体も後方へ飛ばされる。地面に叩きつけられることを覚悟し、硬く目を閉じた。しかし、地面に叩きつけられることはなく、代わりに力強い何かに抱き止められたのが分かった。そのまま一緒に後方へ倒れ込む。
「う、うぅ~。大丈夫かい?アドルフ」
「なん、とか…」
アドルフを抱き止めたのはウォーレンだった。
ウォーレンはしっかりアドルフの肩を抱きながら起き上がる。
アドルフも特に抵抗することもなく、ウォーレンに身を預けていた。
二人の視線の先には、シャドウゾンビが離れていった抜け殻だけが残されていた。固い毛に覆われた大きい図体に蹄のある四つ脚、小さな耳に上向きの太く長い牙と鋭い歯、そして充血した目。
「…猪、だったですか」
「…この森ってシャドウゾンビまで出るの?」
「ごく稀に…」
疲れたのかアドルフは一息吐いてから、ウォーレンの胸に顔を乗せた。
警戒心のないアドルフの行動にウォーレンは予想だにしてもいなかったことに身を固くした。
(おいおい、アドルフ…)
今すぐアドルフの首筋に噛み付きたくなる衝動を理性で抑え付ける。気を逸らそうと、視線を巡らせるとアドルフの手元に目をいった。
アドルフの手は、割れた鏡の破片で小さな傷をいくつも作っていた。
「アドルフ、手…」
「ん」
言われてアドルフの自身の手に目をやった。
「あ~、さっきの衝撃で切ったんでしょう」
なんでもないかのように言うアドルフにウォーレンは眉をひそめた。
「おいおい、まるで他人事だな」
「…‥大して痛みもないので」
手を振ってみせるアドルフに苦笑いしながらも、ポケットからハンカチを取り出し、アドルフの手に巻き付けた。
「これで、良しっと」
「…‥大した傷でもないのに」
満足そうにするウォーレンにアドルフは小さくぼやいた。しかし、その口は笑っていた。
「いいじゃない。俺の自己満足ってことにしといてよ」
ニコと笑うとアドルフは呆れた顔でウォーレンを見上げた。その目が眩しそうに細められる。
「やっぱり…綺麗ですね」
「は…?」
またも予想だにしてなかったことに、今度はウォーレンの口から間の抜けた声が出た。
「髪が、月光に照らされて、キラキラ光るんです。瞳も、宝石のような…とても綺麗なライトブルー…‥こんな綺麗な人、初めて見ました」
アドルフの手がウォーレンの髪や頬に壊れ物に触るかのような手つきで触れる。
「…‥…」
同じ印象を持たれていたことに、ウォーレンは言葉を失くす。アドルフが触れる場所がピリピリと痺れる感覚がすら感じる。髪の隙間からのぞく青い瞳に自分の驚いた顔が映り込む。
「ウォーレン?」
耳に心地いい声がウォーレンの耳に届く。
無意識にアドルフの頬に触れようと手を伸ばしかけた瞬間、何かに上着の裾を引っ張られた。見ると兄弟ウサギがウォーレンのコートを引きずり怒ったように二人を見上げていた。
「あ~ぁ、ごめんなさい。君たちのこと、忘れていましたね」
「そ、そうだね」
ウサギに手を伸ばすアドルフを片隅に、半分残念な気持ち半分危なかったという気持ちと複雑に思いながら自分の眉間に指を当てた。
(不意打ちすぎるだろ~…)
一人難しい顔をするウォーレンにアドルフは首を傾げた。
「ウォーレン?どうしました?」
アドルフが不思議そうにウォーレンの顔を覗き込む。自分の表情を意識しながら、ゆっくりアドルフの顔を見返す。
「いや、なんでもないよ」
「?そうですか…」
その時、しきりに兄弟ウサギがアドルフの袖を引っ張った。
「あ~はいはい。早く、こんな危ない所から離れましょうね?」
上手に二羽を抱き上げながら、鼻同士をくっつけて「ふふふ」と微笑んだ。そんな仕草ですら、目を奪われる。
「さぁ、行きましょう。あれのせいで同族に嗅ぎつけられたら面倒です」
アドルフはウォーレンから離れる。腕や膝にまだアドルフの温もりが残り、少し名残惜しく感じるがいつまでもここにいるわけにもいかないと立ち上がりかけた。
「っ…」
ふと唸り声を聞こえ顔を上げれば、さっきまで抱いていた背中が丸くなっていた。
「アドルフ?」
急いで隣に移動ししゃがみ込み顔を覗き込むと、アドルフが唇を噛み痛みに耐えるように綺麗な顔を歪めていた。額には冷や汗すら浮かべていた。
「アドルフ!どうしたんだい!?」
以前アドルフは自分は病気だと言ったことを思い出し、ウォーレンは顔を青くした。
(まさか、何か発作的な…!)
「アドルフ!薬か何か服用してるのかい?してるなら…」
慌てるウォーレンにアドルフは笑いかけた。
「だい、じょう、ぶです。…何でも、ありませんから」
そう言いながら、もう一度立ち上がりかけるがまたしゃがみ込んでしまう。
「アドルフ…」
痛みに悶えるアドルフの背中をさすりながら視線を落とした。足元で兄弟ウサギたちも心配そうにアドルフを鼻をヒクつかせる。ウサギたちからふっとアドルフが両手で抑える左足首に目がいった。
「アドルフ…もしかして、足が痛むのかい?」
まさかと思いながら聞いてみると、アドルフは一瞬ウォーレンを見たあと、かすかに頷いた。
ウォーレンの肩から一気に力が抜ける。
(なんだ…発作じゃなかったのか)
胸を撫で下ろしながら、アドルフの正面に回ってその場に座るように促した。アドルフは躊躇するような顔をしたが素直に従った。
(うわぁ…)
靴の上からでも分かるほど腫れ、とても歩けるような状態ではなかった。さっきのを見る限り立つのも難しいだろう。
足からアドルフの顔へ視線をあげると、アドルフは視線を合わせようとはしなかった。口も固く閉ざされている。
「仕方ない…」
ため息を吐き、兄弟ウサギが引きずってきた自分のコートにさっきと同じように包みアドルフに抱かせる。
「?」
はてなを浮かべるアドルフの横へ移動し、肩と膝の下に腕を回す。
「え…」
そのまま持ち上げる。
「ちょ!」
「暴れないで。危ないから」
さすがに抵抗しようとするアドルフに下す気はないと腕に力を込めると、戸惑った顔を見せた後兄弟ウサギを包むウォーレンのコートに顔を埋めてしまった。
そんな初々しい反応に頬が緩み、胸がくすがれる。
アドルフの身体は、思ったよりも筋肉が引き締まっていてさほど重くもない。
「アドルフって全然重くないだね、仔犬を抱いてるみたいだ。ちゃんと食べてる?」
「だ、黙りなさい…!」
照れ隠しでそうからかってみると、アドルフは俯いたまま言い返すだけだった。
ますます頬がだらしなく緩み、自分でも顔が熱くなっていくのがわかる。
(う~ん、アドルフが俯いてくれて良かった…今、顔を見られるのは…まずい)
柄にもなくそう思う自分に苦笑した。
アドルフの髪から兄弟ウサギが可愛らしい顔を出す。
感謝を込めて笑いかけ、歩き出そうと一歩踏み出す。が、はたと止まった。
「ねぇ、アドルフ」
「…なんですか?」
「方角は…教えて欲しいだけど…」
最後の最後で締まらない自分をウォーレンは初めて呪った。
0
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