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本編 桃色の空が生きる道
2.舐めちゃダメ!!
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ヒメルのいた森は群れた狼がでる。若干寝不足ながらも冒険者としては一流のオリバーはしっかり装備を整えて街に向けて出発した。道中は狼に出会わず、ヒメルも森歩きに慣れているようでオリバーが思ったよりもスムーズに進んだ。しかぢ、オリバーだけなら街まで一日で着くが、ヒメルの体力と環境の変化を考慮し、そこから二日程かけて二人は目的の花の街に到着した。
この国では比較的大きな街である花の街では、街へ入るのに関所で身分と目的の確認をする必要があった。オリバーは冒険者証がありすんなり通ったが、身分証がなく両親もいないヒメルは審査を受けることになった。簡単な質問とこの街での犯罪歴、手荷物の調査などがあったが、疚しいこともなにもないヒメルはすんなり通った。
「問題ありませんね。許可証を発行します。失くしてしまうと銀貨五十枚の罰金があるので失くさないようにしてください。それと、憲兵が素行に問題ありと判断すると許可証は剥奪されますので気を付けてください」
「わかりました」
無事許可証を手に入れたヒメルとオリバーは、ゲートをくぐって街に入った。
人の出入りの多い花の街の関所は、【観光客】【冒険者】【商人・移民】で受ける審査が異なり、別々のゲートで審査と入場が行われていた。身分で出入りのゲートは違うものの行き着く先は同じなため、これから街を出るもの、今街に入ったもので門前は人でごった返しており、十二歳にしては小さく軽いヒメルは人に押されてオリバーとはぐれてしまいそうになる。案の定ヒメルはどこかの商人と強くぶつかってしまった。
「あっ…ごめんなさい」
「いや、構わんよ」
「ぶつかってしまってすみません。ヒメルくん、離れないようにちょっとだけ手を繋ごうか」
「うん、わかった」
オリバーは小さなヒメルの手を優しく握った。また思わず煩悩が炸裂しそうになるのを押さえ込んで足を進める。
二人が少し歩くと、大きな広場にでた。門の出入りが多い観光客や旅人、冒険者向けに、広場の周囲には様々な露店が並んでいる。中には美味しそうな食べ物の露店もある。丁度昼過ぎだった二人は空腹で、いい匂いにつられてそのまま買って食べることにした。
今まで森で暮らしており、精霊に育てられたため食材のまま食べがちだったヒメルは、初めて見る食べ物に目移りしていた。沢山悩んだヒメルだったが、今一番食べたいものを食べてまた来ればいいと言うオリバーに従い、その中で一番心惹かれた薄い生地に味のついた牛肉と野菜が挟んであるものに決めた。冒険者や商人向けにささっと片手間に食べられるようにと売り出されていたもので、特製ソースが食欲をそそる匂いを放ち、野菜にも肉にもよく絡んでいてとてもおいしそうだった。
子供のヒメルには少し大きかったのか、両手で持って小さな口で少しずつ食べ進める姿はとても愛らしく、オリバーは自身のは直ぐに平らげてしまうと、その様子を微笑ましげに眺めていた。
「美味しかったかな?」
「とっても美味しい!でも、いっぱい手についちゃった…」
ヒメルは溢して手に付けてしまったソースを舐めとる。小さい口から覗く赤い舌がちろちろと指を舐めるその姿は煽情的で、思わず目が釘付けになる。ぼんやりと見ていたオリバーだったが、元々集まっていた視線が十二歳に向けるべきではないいやらしいものに変わっているのに気づき慌てヒメルの手をとった。
「手っ!手を拭いてあげるから貸してごらん!!」
「あっ」
手を拭くために急いでヒメルの小さな手をとったが、その瞬間さっきまでヒメルの舌が這っていたことを思い出して一気に顔が赤くなる。
(俺はまたこんな幼い子に何をっ!考えるな考えるな考えるな考えるな―――――)
考えることを放棄しさっさとソースも唾液もきれいにふき取り、その場からそそくさと移動してしまう。あの視線を集めた場所にいたくなかったからだ。
この街に着く前までにヒメルはオリバーが保護することが決まっていたため、このまま生活必需品を買いに行くことにした。オリバーは自身がよく使う雑貨屋に行く事に決めた。欲しいと思ったものは大抵置いてあるため重宝しているからだ。
「すごく沢山あるね」
「多分ここで全部揃うから、必要なものは買ってしまおうか」
歯ブラシにコップ、タオルや寝巻き。着の身着のままやってきたヒメルに必要なものをどんどん揃えていく。それが何であれ新しいものを買うのは楽しい。楽しい時間はあっという間で、あれやこれやと相談しながら手に取っていくと、あっという間に全てが揃った。
商品を持ってレジカウンターに行くと、オリバーと同じくらいの青年が店番をしていた。オリバーがよく使う店だけあって親しいようだ。
「よっ久しぶりじゃん?いっぱい買ってくねぇ。そこのかわいーこでも引き取るの?」
「ああうん、そうなんだ」
「は?」
「え?」
視線が交錯したまま二人の間を沈黙が過ぎ去った。
冗談で言ったのに固定され驚きを隠せない青年。いたって普通のオリバー。自身が来たのはいけない事だったのかとヒメルは少し不安そうに二人を交互に見る。
ヒメルの不安そうな顔に気づいた青年が大きな溜息をついて、参ったと言うように上を見上げた。青年はしょうがないというように笑っていて、和やかな雰囲気に戻った二人にヒメルはほっと息をつく。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。あぁ、まっナルが決めたんならなんも言わないよ。お前、昔っから決めたら曲げないしひろった子ども放置するような奴でもないしさ。なんかあったら言えよ?俺もできることは手伝うから」
「助かる。ありがとう、レオ」
諦めたように笑う青年はとてもいい人そうに見えた。カウンターから手を伸ばして、安心させるようにヒメルの頭を撫でる。
クシャッと少し雑に撫でる手はとても暖かかった。
「お嬢ちゃんもなんかあったら俺頼っていいからね?」
「ありがとう。でもね、僕男だからお嬢ちゃんじゃないよ?」
ヒメルの否定に少し驚いたものの、たしかによく見れば美少女というより美少年に見えて納得する。しかし、小首をかしげるその姿は非常にあざと可愛く、欲しいものはなんでも買ってあげたくなるような感情が湧き上がった。
レオはいくら美しいとはいえ、少年相手にそんな事を思った事実に若干愕然としてしまった。
「まじか。えーと…名前なんてんだ?」
「ヒメル」
「んじゃ、今度からヒメルって呼ぶな?俺はレオだ。よろしくな!」
レオは手馴れた様子で商品の会計を済ませた。支払った商品はオリバーがそのまま空間魔法付き鞄に収納していく。
空間魔法付き鞄は見た目よりも容量が大きく重量も軽くなるためとてつもなく値が張るが、冒険者なら持っておきたい代物だ。オリバーは冒険者としてはそこそこいい稼ぎのため、しっかり持っている。
商品を入れ終わりオリバーとヒメルが店を出ようとすると、右手をひらりと振りながらレオから声がかかる。
「また来てくれよ」
「近いうちに会いに行くよ。夕飯でも食べに行こうか」
「おう。んじゃな」
「またね、レオさん」
ヒメルはレオの真似をして手を振り、笑みを浮かべた。あまり動かない表情がどこか冷たい印象を与えるヒメルの美しさだが、その突然の笑みはヒメルへの感情を際立たせる。
ヒメルとオリバーが店を出た後、レオは自分の頬が赤くなっているのに気づいた。
「まじかぁ」
この国では比較的大きな街である花の街では、街へ入るのに関所で身分と目的の確認をする必要があった。オリバーは冒険者証がありすんなり通ったが、身分証がなく両親もいないヒメルは審査を受けることになった。簡単な質問とこの街での犯罪歴、手荷物の調査などがあったが、疚しいこともなにもないヒメルはすんなり通った。
「問題ありませんね。許可証を発行します。失くしてしまうと銀貨五十枚の罰金があるので失くさないようにしてください。それと、憲兵が素行に問題ありと判断すると許可証は剥奪されますので気を付けてください」
「わかりました」
無事許可証を手に入れたヒメルとオリバーは、ゲートをくぐって街に入った。
人の出入りの多い花の街の関所は、【観光客】【冒険者】【商人・移民】で受ける審査が異なり、別々のゲートで審査と入場が行われていた。身分で出入りのゲートは違うものの行き着く先は同じなため、これから街を出るもの、今街に入ったもので門前は人でごった返しており、十二歳にしては小さく軽いヒメルは人に押されてオリバーとはぐれてしまいそうになる。案の定ヒメルはどこかの商人と強くぶつかってしまった。
「あっ…ごめんなさい」
「いや、構わんよ」
「ぶつかってしまってすみません。ヒメルくん、離れないようにちょっとだけ手を繋ごうか」
「うん、わかった」
オリバーは小さなヒメルの手を優しく握った。また思わず煩悩が炸裂しそうになるのを押さえ込んで足を進める。
二人が少し歩くと、大きな広場にでた。門の出入りが多い観光客や旅人、冒険者向けに、広場の周囲には様々な露店が並んでいる。中には美味しそうな食べ物の露店もある。丁度昼過ぎだった二人は空腹で、いい匂いにつられてそのまま買って食べることにした。
今まで森で暮らしており、精霊に育てられたため食材のまま食べがちだったヒメルは、初めて見る食べ物に目移りしていた。沢山悩んだヒメルだったが、今一番食べたいものを食べてまた来ればいいと言うオリバーに従い、その中で一番心惹かれた薄い生地に味のついた牛肉と野菜が挟んであるものに決めた。冒険者や商人向けにささっと片手間に食べられるようにと売り出されていたもので、特製ソースが食欲をそそる匂いを放ち、野菜にも肉にもよく絡んでいてとてもおいしそうだった。
子供のヒメルには少し大きかったのか、両手で持って小さな口で少しずつ食べ進める姿はとても愛らしく、オリバーは自身のは直ぐに平らげてしまうと、その様子を微笑ましげに眺めていた。
「美味しかったかな?」
「とっても美味しい!でも、いっぱい手についちゃった…」
ヒメルは溢して手に付けてしまったソースを舐めとる。小さい口から覗く赤い舌がちろちろと指を舐めるその姿は煽情的で、思わず目が釘付けになる。ぼんやりと見ていたオリバーだったが、元々集まっていた視線が十二歳に向けるべきではないいやらしいものに変わっているのに気づき慌てヒメルの手をとった。
「手っ!手を拭いてあげるから貸してごらん!!」
「あっ」
手を拭くために急いでヒメルの小さな手をとったが、その瞬間さっきまでヒメルの舌が這っていたことを思い出して一気に顔が赤くなる。
(俺はまたこんな幼い子に何をっ!考えるな考えるな考えるな考えるな―――――)
考えることを放棄しさっさとソースも唾液もきれいにふき取り、その場からそそくさと移動してしまう。あの視線を集めた場所にいたくなかったからだ。
この街に着く前までにヒメルはオリバーが保護することが決まっていたため、このまま生活必需品を買いに行くことにした。オリバーは自身がよく使う雑貨屋に行く事に決めた。欲しいと思ったものは大抵置いてあるため重宝しているからだ。
「すごく沢山あるね」
「多分ここで全部揃うから、必要なものは買ってしまおうか」
歯ブラシにコップ、タオルや寝巻き。着の身着のままやってきたヒメルに必要なものをどんどん揃えていく。それが何であれ新しいものを買うのは楽しい。楽しい時間はあっという間で、あれやこれやと相談しながら手に取っていくと、あっという間に全てが揃った。
商品を持ってレジカウンターに行くと、オリバーと同じくらいの青年が店番をしていた。オリバーがよく使う店だけあって親しいようだ。
「よっ久しぶりじゃん?いっぱい買ってくねぇ。そこのかわいーこでも引き取るの?」
「ああうん、そうなんだ」
「は?」
「え?」
視線が交錯したまま二人の間を沈黙が過ぎ去った。
冗談で言ったのに固定され驚きを隠せない青年。いたって普通のオリバー。自身が来たのはいけない事だったのかとヒメルは少し不安そうに二人を交互に見る。
ヒメルの不安そうな顔に気づいた青年が大きな溜息をついて、参ったと言うように上を見上げた。青年はしょうがないというように笑っていて、和やかな雰囲気に戻った二人にヒメルはほっと息をつく。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。あぁ、まっナルが決めたんならなんも言わないよ。お前、昔っから決めたら曲げないしひろった子ども放置するような奴でもないしさ。なんかあったら言えよ?俺もできることは手伝うから」
「助かる。ありがとう、レオ」
諦めたように笑う青年はとてもいい人そうに見えた。カウンターから手を伸ばして、安心させるようにヒメルの頭を撫でる。
クシャッと少し雑に撫でる手はとても暖かかった。
「お嬢ちゃんもなんかあったら俺頼っていいからね?」
「ありがとう。でもね、僕男だからお嬢ちゃんじゃないよ?」
ヒメルの否定に少し驚いたものの、たしかによく見れば美少女というより美少年に見えて納得する。しかし、小首をかしげるその姿は非常にあざと可愛く、欲しいものはなんでも買ってあげたくなるような感情が湧き上がった。
レオはいくら美しいとはいえ、少年相手にそんな事を思った事実に若干愕然としてしまった。
「まじか。えーと…名前なんてんだ?」
「ヒメル」
「んじゃ、今度からヒメルって呼ぶな?俺はレオだ。よろしくな!」
レオは手馴れた様子で商品の会計を済ませた。支払った商品はオリバーがそのまま空間魔法付き鞄に収納していく。
空間魔法付き鞄は見た目よりも容量が大きく重量も軽くなるためとてつもなく値が張るが、冒険者なら持っておきたい代物だ。オリバーは冒険者としてはそこそこいい稼ぎのため、しっかり持っている。
商品を入れ終わりオリバーとヒメルが店を出ようとすると、右手をひらりと振りながらレオから声がかかる。
「また来てくれよ」
「近いうちに会いに行くよ。夕飯でも食べに行こうか」
「おう。んじゃな」
「またね、レオさん」
ヒメルはレオの真似をして手を振り、笑みを浮かべた。あまり動かない表情がどこか冷たい印象を与えるヒメルの美しさだが、その突然の笑みはヒメルへの感情を際立たせる。
ヒメルとオリバーが店を出た後、レオは自分の頬が赤くなっているのに気づいた。
「まじかぁ」
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