婚約破棄されたはずなのに、溺愛が止まりません!~断罪された令嬢は第二の人生で真実の愛を手に入れる~

sika

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第25話 炎に包まれる王都決戦

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曇天を切り裂くように、警鐘が鳴り響いた。  
王都の中央広場に、軍の旗が揚がる。  
そのすべてが、サイラス王子の私兵によって掲げられたものだった。  
かつて王家の副脈として静かに王弟の立場を保っていた男――その野望が、今まさに血で塗り替えられようとしている。  

城壁の上では、火矢が次々と放たれ、遠くの屋根に炎の舌が伸びていく。  
街を覆うのは焦げた木の匂いと、悲鳴と、戦の気配。  
それでも城門の内側には抗う人々の姿が確かにあった。  
新たな王となったレオンハルト王を守るため、そして、これまでの過ちを償うために。  

「サイラスが兵を動かした! 北区が燃えています!」  
報告する兵の声に、レオンハルトは即座に指示を出す。  
「穏健派の貴族を避難させろ、残る兵は西門で迎え撃つ!」  
その背後で、火の粉が窓を割って吹き込んだ。  

だが、彼の顔に迷いはない。  
王冠を頭に戴きながらも、手にするのは剣。  
彼が守ろうとしているのは、王座ではなく――民と国の誇りだった。  

***  

その数刻前、王都へ戻ったディランとアイラは、すでにこの異変を察していた。  
無数の煙が空を焦がし、南門には不自然に配置された兵がいた。  
「やはり仕掛けたな、サイラス」  
ディランが馬の腹を蹴る。  
「でも……どうして急に……」  
「決戦の舞台を王都に選んだのだ。王を失墜させ、民心を奪う――最悪の手」  

アイラの心臓が跳ねる。  
「ディラン様、もし今、レオンハルト様が――」  
「死なせはしない。あの愚王の後継として立ったあいつが、本当の国を作る。  
……だが、生かすも殺すも今夜次第だ」  

馬が王都の外壁を駆け抜ける。  
その背に風が裂け、炎が反射して白銀の鎧が短い閃光を放った。  
城門へ向かう途中、避難する市民たちが道端にひざまずき、すすり泣く声が上がる。  
アイラはその手を取って立たせた。  
「大丈夫、必ず守ります。……この国も、みなさんの命も!」  
光が彼女の掌から広がり、負傷した兵や民の身体を包み込む。  
癒しの輝きは夜の炎よりも眩しく、再び人々に希望を与えた。  

「行け、道を開く!」  
ディランの号令と共に、門前で弓兵たちが一斉に矢を放つ。  
城門が爆ぜる音、砕ける鉄。  
その中を、彼とアイラは突進した。  

***  

城内はすでに地獄のようだった。  
瓦礫に覆われた廊下、崩れた柱、倒れる兵。  
炎の光がステンドグラスに映り、まるで紅蓮の牢獄の中にいるようだ。  
ディランは剣を抜き、次々と入り込むサイラス派の兵をなぎ払った。  

「レオンを見つけ出す!」  
「あの広間にいるはずです!」  
アイラが叫び、覆いかぶさる煙を腕で払いながら進む。  

奥の階段の先、吹き抜けの天井が崩れ落ち、そこに立つ影。  
黒い外套、長い剣。  
「来たな、ディラン。まるで英雄気取りだな」  
サイラスが笑う。  
紅蓮の炎を背に、その瞳は禍々しい光を放っていた。  

「お前に英雄など似合わん、サイラス。  
王弟の影に隠れて国を壊す蛇に、正義を語る資格はない!」  
ディランが剣を構える。  
「王太子と共に築いたこの新しい国は、誰にも穢させない!」  
「国だと? 滑稽だな。王冠が変わろうが民の血は変わらん!」  
サイラスが剣を振り抜く。  
火花と炎が踊り、音が凄まじい。  

刃が交錯する。  
ディランの左肩を掠めた剣が鎧を裂き、痛みが走る。  
それでも彼は構えを崩さず、一歩、二歩と押し返した。  

「過去に縋るな、サイラス!」  
「過去を否定する者が未来を語るな!」  

激しい衝突の最中、床が割れ、熱風が二人を煽る。  
アイラはその場に身を伏せるしかなかった。  
だが彼女の瞳は、どちらかの命が失われる未来だけは見たくないと訴えていた。  

――止めなければ。  
彼女は震える手で杖を掲げる。  
「お願い……私に力を貸して」  
祈りの声と共に杖が輝き、白い光が広がる。  
炎が押し戻され、空気が清らかに変わった瞬間、二人の戦いが止まる。  

「……これは」  
サイラスが目を細めた。  
「ただの癒しではない。貴様、“加護の血”の本質を解放したのか」  
「そうよ。私の力は、命を奪うためじゃない。すべてを繋ぎ、癒すためのもの!」  

白光がさらに広がり、負傷した兵たちの呻きが止まる。  
倒れていた者がゆっくりと息を吹き返す。  
その様を見たとき、一瞬サイラスの表情に影が差した。  

「……くだらぬ幻想だ」  
「幻想ではありません。あなたが否定した世界の“希望”です」  

彼は剣を振り上げた。  
だが、振り下ろす瞬間、背後からの声がそれを制した。  

「もうやめろ、サイラス!」  
炎の中を駆けてきたレオンハルトの声だった。  
王冠を脱ぎ、鎧姿で、王としてではなく一人の男として。  
「剣を捨てろ。国を焦がしてまで何を望む!」  
「お前に分かるか、王位に選ばれなかった者の苦しみが!」  

サイラスの叫びは悲鳴にも似ていた。  
その瞳は怒りよりも、深い孤独と劣等感で満ちていた。  
「俺は誰にも愛されなかった……兄上、父上、民も!  
だから力で奪うしかなかったんだ!」  
「ならば今こそ解け、呪いの輪を!」  

レオンハルトの声が響き、ディランがその機を逃さず踏み込む。  
剣が交差し、サイラスの刃が弾け飛ぶ。  
鋼の音が鳴り響く中で、アイラが駆け寄った。  

「――もう、終わりです」  
光が王弟の身体を包み、彼の瞳の憎悪が静かに消えていく。  
サイラスは力を失い、膝をつき、そのまま崩れ落ちた。  

炎は白光に飲まれ、爆ぜる音が次第に消えていく。  
焦げた空気の中に、雨が落ち始めた。  
灰を洗い流すような静かな雨。  

レオンハルトが剣を地に突き立て、深く息を吐く。  
「……やっと、終わったんだな」  
ディランはうなずき、アイラを振り返った。  
「お前の光が、この国を救った」  
「いいえ。あなたたちが信じた力が、希望になったんです」  

人々が外に出てくる。  
焦土の街に、新しい朝が差し込んだ。  
もうどんな王も力も、人々を縛ることはできない。  

白い霧の中でアイラは静かに目を閉じた。  
涙のかわりに微笑みを浮かべ、両手を胸に重ねる。  

「終わったのですね」  
「いや、これからだ」ディランが答える。  
「これからは、奪い合いではなく、守り合う時代を作る。お前と共に」  

炎の跡地に咲いたのは、再生の光。  
王都を包む煙の中で、誰もがそれを見上げた。  

争いの炎は消え、代わりに生まれたのは――癒しの虹色。  

遠くで、鐘の音が鳴った。  
戦の終焉と新しい王国の誕生を告げるその音は、人々の胸に深く刻まれた。  

続く
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