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40話
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クラスメイトの説得に応じず、曽木八重乃は狛勝人と村を出る決意を固めてしまった。
「わたしたち、幸せになるねっ!」
新婚旅行に出発する二人を見送る友人たち。
村の正門は、まさにそんな光景だった。
ただし、友人たちに祝福しているようすはなく、表情は沈んでいるが――。
俺の作戦はある意味成功した。
離れられない存在だと狛勝人に気づかせたのだ。
しかし、曽木八重乃の決断はまったくの予想外。
怖いという理由で狩猟部隊にも参加せず村に引きこもっていたのに。
まさかついていくなんて。
恋愛脳の行動力を侮っていた。
――脳筋と恋愛脳か。お似合いじゃないか。
「最後にもう一度聞く。村に残ってくれないか」
「あきらめが悪いぞ委員長」
「そうか、体には気をつけてくれ」
「ああ。戻ってきたら曽木と結婚式をあげる。それまでは死なない」
それは呪いの言葉だぞ。
二人は物資を詰めたバックパックを背負うと、手を繋いで村から出発した。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「第八回、クラス会議を始める。議題は狩猟部隊の増強」
議事堂にクラスメイトが集合していた。
いつものように石亀永江が前に立ち、司会進行をしている。
「議題について話し合う前に、狛を止めなかったのは委員長の判断ミスじゃないのかね?」
二見朱里と石亀永江は前から水面下で対立している。
たぶん同族嫌悪だろう。
どちらも意見をはっきり発言するタイプだし。おのれの意見を曲げない頑固者だ。
「否定しない。だが、選択を間違えたとは思っていない。生き方を選ぶ権利は誰にでもある。強いからという理由で彼を村に縛るのは彼の自由を奪うからだ」
「キレイごとだね。自由とは責任のうえにあるんじゃないかな。彼には村を守る責任があった。それを放棄してまで自由を選ぶのは白状だと思うね」
「正論だ。しかし村に強固な堤防が作られたことで、その責任は果たされたと彼は判断した。よって無責任ではない」
「地上の魔物に対抗できるよう堤防を設計したのは吾だ。けれどドラゴンには歯が立たないよね」
「それは狛が村に残ったとしても同じだ」
竜虎相対する。
まあ、俺から見ればどちらも子猫なのだが、二人がいがみ合う意味なんてない。
「スマン、色仕掛けで狛を落とす案を出したの、俺なんだ」
「慣れないことをするからだな」
二見朱里が蔑みの視線を俺にむける。
「ああ、二見のいうとおりだ。けれど誰も作戦を止めなかった。それは俺の案に賛成してくれたと受け取ったのだが、勘違いか?」
彼女は反論してこなかった。
後から文句をつけるなんて、誰にだってできる。
「もう二人はいない。過去を嘆くよりも未来について議論したほうが建設的だ」
誰も石亀永江の発言に反論しなかった。
責任者を吊し上げるのは時間のムダ。
前向きに再発防止策を検討したほうが何倍も重要だと俺は思う。
村人を今よりも減らさない。それが課題なんだ。
「さて、現在の狩猟部隊のメンバーは才原、連城、由良、鬼頭の四人。連城君は戦闘系の加護ではないし、鬼頭さんは村の防衛を任せているので実質二人だ」
改めて言われると危機感が膨らむ。
危険な場所に少人数で向かわせることになるのだ。
そして才原優斗は防御力、由良麻美は索敵力に特化。
否が応でも気づく事実。攻撃力が不足しているのだ。
「そこで、狩猟部隊のメンバーに加わってくれる人を募集する」
「委員長、俺様を忘れるなんて酷いじゃないかっ」
変なポーズで立ち上がったのは潘英樹だ。
「俺様は炎使い。森の中じゃあ危ないが、村を守るくらいなら俺様ひとりでも十分さっ」
「ああ、いたね」
「酷いっ!」
「鬼頭さんは加護の特性を考え、村の守りについている。だから潘君は鬼頭さんと二人で村の守りについてくれ」
――ちょっとまて。覗き魔と二人? それは嫌だ!
「お任せください、彼女と手を取り合って村を守ってみせますよ、ね!」
「アハハハ……」
鬼頭日香莉が困った顔をしながら愛想笑いをする。
オマエじゃ不釣り合いなんだよ。
「誰か、立候補してくれる人はいないか?」
誰も声をあげなかった。
「まいったな……」
「武器を作るのはどうだろう」
挙手しながら才原優斗が発言した。
狩猟部隊のリーダーだから責任を感じているのかもしれない。
「儀保君に凄く良い武器を作ってもらったと聞いているが?」
「もちろん品質は最高だ。俺たちは加護に合った武器をもっている。俺が言いたいのは誰でも使える武器だ」
「たとえば?」
「拳銃とかね」
「あ~わりぃ、拳銃は作れないんだ」
儀保裕之が舌を出してゴメンねのポーズをする。
そんな彼を見ていた瀧田賢がクチを開き、何かを言い出そうとしたが飲み込んだ。
その仕草を俺は見逃さない。
儀保裕之はウソをついたらしい。
ということは、拳銃は作れるのだ。
言えない理由? 思い当たるふしはない。
アイツは場の空気を読むタイプのムードメーカーだ。
ようするに周囲を観察し、適切なタイミングで空気の流れをコントロールする。
今は言うべきではない。そう判断したのかもしれない。
「儀保君、その話は本当なのかしら? 苦瓜君が複雑な表情をしてますわよ」
まさか出水涼音に見られているとは思わなかった。
さらに俺の視線から推察? 恐ろしい洞察力だよ。
「腹が減ったな~と思ってただけだよ」
「ウソがヘタね」
――この蛇女、俺の心を読むな!
「瀧田君、儀保君の発言に嘘はなかったかしら?」
「待つんだ! 裁判でもないのに発言の真意を問うのはプライバシーの侵害だぞ!! 加護については慎重に扱う、そう決めたはずだ」
珍しく石亀永江が怒っている。
「そうでした、村の危機なので熱くなってしまったわ。瀧田君、儀保君、ごめんなさい」
彼女は立ち上がると俺たちに深く頭を下げる。
絶対にわざとだ。
知っていて導火線に火をつけた。
これで儀保裕之はリアクションせざるを得なくなる。
怖い女だ。
儀保裕之は深いため息をつく。
「ごめん、拳銃が作れないってのはウソだ。さすが翔矢、俺の表情から読み取ったのかよ」
「スマン」
「才原、悪いな、拳銃を作るつもりはない」
「理由を聞いてもいいか?」
「そうだな……。毒薬があったから出水さんは殺された。まあ、毒薬がなければ別の手段を考えただろう。俺が懸念しているのは殺意を抱くきっかけになるってことだ。あ、勘違いしないでくれ、財前を責めているわけじゃない」
「わかってるよ」
財前哲史はあいかわらずクールだった。
余裕の笑みで儀保裕之にうなずく。
「銃乱射事件なんて体験したくないだろ」
「所持できる人を限定すればいいよね」
「わかってないな。戦闘系の加護っていうのは一般人が拳銃をもっているのと同じなんだよ」
「えっ?」
善人の才原優斗には思いつかないのかもしれない。
「たとえば、狛が暴れたら誰が止められた? 初めてアイツが加護を使ったとき女子たちは悲鳴をあげたよな? あの惨状が村でおきたかもしれないんだ」
俺は想定していた。
日本刀をもった瀧田賢が警察官として村を巡回しているが、彼ではアイツを止められない。
アイツは最高の戦力であるのと同時に、村の最大の脅威でもあるのだ。
「狛はそんなことしない」
「アイツが村を出るなんて予想できたヤツいるか? なのに、なぜ暴れないと言い切れる。俺は怖かったぞ」
誰も何も言えなかった。
「悪いけど、俺は村を出ようって翔矢に話をしたことがある」
「覚えてるよ」
「戦闘系の加護をもたない一般人は、この世界の住人とそれほど違わない。生活するならそっちがいいってね。細々と鍛冶屋を営むのも悪くない」
「ああ悪くない案だ。けれどクラスメイトを放ってはおけない」
「オマエはそういうヤツだよ。だから俺は残っている。拳銃は俺の切り札だった。もし戦闘系の加護をもつヤツ★が暴れたら俺が始末するつもりでいた」
「そんなこと考えてたんだな」
「俺の作戦は白昼のもとにさらされた。作戦は失敗。俺は真っ先に狙われる立場になった」
儀保裕之はふぅ~と長めの息を吐いた。
きっと覚悟を決めたのだろう。
「委員長。そろそろ先を見据えた計画を考えないか?」
「先?」
「最終目標がもとの世界に帰るのなら、その方法を探ろう。さらに、見つからないケースも想定して、あきらめの期限も決めよう。そのあと、どうやって生きるのか、村で一生すごすのか、この世界に溶け込むのか、先ってそういうことだ」
「それは……」
「みんなも委員長に任せずに自分で考えてくれ。どう生きたいのかを」
瀧田賢が挙手した。
「俺の意見を聞いてくれ。インターネットのないこの世界では簡単な情報を手に入れるのにも多大な労力が必要だ。ゲームのように村人に話を聞くだけで欲しい情報にたどり着くなんてありえない。よって元の世界に帰る方法は探せないと思っている」
「あきらめるのか?」
才原優斗が渋い表情をする。
「俺はあきらめた。しかし、みんなにあきらめろとは言わない。探したいヤツは探せばいい」
「わたくしは絶対にあきらめませんわ。必ずもとの世界に帰ってみせます」
出水涼音が立ち上がった。
彼女の真剣な表情は決意の固さを表わしている。
「なら別行動しないか。帰る方法を探す人たちと、生き延びる方法を探す人たちで」
「ちょっ、ちょっと待つんだ。結論を急ぐ必要はないだろう」
「委員長、先延ばしにしてもなんの解決にもならない」
瀧田賢の冷静な声に石亀永江が慌てる。
「クラス全員の意見を統一するなんて無理だ。ならば二手にわかれ、それぞれで意見を出し合ったほうがいい」
「そんな……」
『生き方を選ぶ権利は誰にでもある』そう言ったのは石亀永江だ。
彼女に彼らの意志は止められない。
「わたくしは帰る方法を探します。そのためには村を出ることになるでしょう。同じ意見の人は食堂に集まってください」
出水涼音が議事堂から出ていった。
才原優斗が彼女の後を追う。
――彼女との交際は終わったのではないのか?
弓道部の由良麻美も出ていく。
彼女は才原優斗が好きだから納得の行動。
「情報収集なら吾が必要だね。隆久どうする?」
二見朱里は立ち上がると家具屋の千坂隆久に質問した。
「ボクは帰る方法はないと思ってるから村に残るよ」
「そうか、じゃお別れだね。小夜は?」
「わっ、わたしもぉ同じ意見……」
茶道部の才賀小夜は残るらしい。
「そうか、じゃあね」
二見朱里が議事堂から出ていく。
恋人と友人に声をかけたが断られた。
彼女は二人に同行して欲しかったのかもしれない。
「俺様にこの村は狭すぎだぁ。ちょっと世界の広さを確認してくるぜ」
炎使いの潘英樹がコソコソと出ていく。
たぶん覗きの件で村での居心地が悪かったのだろう。
自業自得だ。
瀧田賢は残り組。
そうなると、彼を好きな食堂の両津朱莉も残るな。
「苦瓜君はどうするの?」
捨てられた子犬のように弱っている石亀永江が聞いてきた。
「詩織を助けるため、ドラゴンに勝たないといけないんだぜ、帰る方法を探すヒマなんてないさ」
「よかった~、ならわたしも残ろう」
彼女は微笑しながら胸をなでおろす。
俺なんかの意見を確認しても無意味だと思うのだが……。
「しゃ~ね~なぁ、なら親友の俺も残らないとダメじゃん」
「悪いな裕之、もう少しつきあってくれ」
「あいよっ」
「わたしも詩織を待つよ」
牧瀬遙も残る宣言。オマエは儀保裕之が好きなだけだろ。幼馴染をだしにするな。
「苦瓜君が残るならわたしも残るよっ」
農業の加護をもつ乃木坂羽衣も残るらしい。
彼女の話友達は俺ぐらいしかいないからしかたないな。
「わたしも苦瓜君が残るなら」
筒井卯月が残ってくれるのなら魚が食べられる。
そして、彼女と交際している水使いの三門志寿も残るだろう。
「ボクはどちらでも良いのだけど、出水さんが向こうにいくのならコッチに残ることにするよ」
薬局の財前哲史は残るようだ。
怪我や病気を考えると彼が残ってくれるのはありがたい。
クラスメイトを第一に考えている。やはりコイツは聖人だな。
「連城君は才原君についていかないのか?」
石亀永江が以外だと言いたげな表情で彼に確認した。
「戦闘系の加護がないと足手まといだ。狩猟部隊にいて嫌というほど実感した」
「そうだったのか」
石亀永江が申し訳なさそうにしている。
彼女が狩猟部隊に入ってくれとお願いしたわけでもないのに責任を感じているのかもしれない。
連城敏昭がそれほど深刻に思い悩んでいるとは思えないけどな。
「五人減ったな」
人が減った議事堂を、寂しそうに石亀永江が眺めている。
これから村はどうなっていくのだろうか……。
「わたしたち、幸せになるねっ!」
新婚旅行に出発する二人を見送る友人たち。
村の正門は、まさにそんな光景だった。
ただし、友人たちに祝福しているようすはなく、表情は沈んでいるが――。
俺の作戦はある意味成功した。
離れられない存在だと狛勝人に気づかせたのだ。
しかし、曽木八重乃の決断はまったくの予想外。
怖いという理由で狩猟部隊にも参加せず村に引きこもっていたのに。
まさかついていくなんて。
恋愛脳の行動力を侮っていた。
――脳筋と恋愛脳か。お似合いじゃないか。
「最後にもう一度聞く。村に残ってくれないか」
「あきらめが悪いぞ委員長」
「そうか、体には気をつけてくれ」
「ああ。戻ってきたら曽木と結婚式をあげる。それまでは死なない」
それは呪いの言葉だぞ。
二人は物資を詰めたバックパックを背負うと、手を繋いで村から出発した。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「第八回、クラス会議を始める。議題は狩猟部隊の増強」
議事堂にクラスメイトが集合していた。
いつものように石亀永江が前に立ち、司会進行をしている。
「議題について話し合う前に、狛を止めなかったのは委員長の判断ミスじゃないのかね?」
二見朱里と石亀永江は前から水面下で対立している。
たぶん同族嫌悪だろう。
どちらも意見をはっきり発言するタイプだし。おのれの意見を曲げない頑固者だ。
「否定しない。だが、選択を間違えたとは思っていない。生き方を選ぶ権利は誰にでもある。強いからという理由で彼を村に縛るのは彼の自由を奪うからだ」
「キレイごとだね。自由とは責任のうえにあるんじゃないかな。彼には村を守る責任があった。それを放棄してまで自由を選ぶのは白状だと思うね」
「正論だ。しかし村に強固な堤防が作られたことで、その責任は果たされたと彼は判断した。よって無責任ではない」
「地上の魔物に対抗できるよう堤防を設計したのは吾だ。けれどドラゴンには歯が立たないよね」
「それは狛が村に残ったとしても同じだ」
竜虎相対する。
まあ、俺から見ればどちらも子猫なのだが、二人がいがみ合う意味なんてない。
「スマン、色仕掛けで狛を落とす案を出したの、俺なんだ」
「慣れないことをするからだな」
二見朱里が蔑みの視線を俺にむける。
「ああ、二見のいうとおりだ。けれど誰も作戦を止めなかった。それは俺の案に賛成してくれたと受け取ったのだが、勘違いか?」
彼女は反論してこなかった。
後から文句をつけるなんて、誰にだってできる。
「もう二人はいない。過去を嘆くよりも未来について議論したほうが建設的だ」
誰も石亀永江の発言に反論しなかった。
責任者を吊し上げるのは時間のムダ。
前向きに再発防止策を検討したほうが何倍も重要だと俺は思う。
村人を今よりも減らさない。それが課題なんだ。
「さて、現在の狩猟部隊のメンバーは才原、連城、由良、鬼頭の四人。連城君は戦闘系の加護ではないし、鬼頭さんは村の防衛を任せているので実質二人だ」
改めて言われると危機感が膨らむ。
危険な場所に少人数で向かわせることになるのだ。
そして才原優斗は防御力、由良麻美は索敵力に特化。
否が応でも気づく事実。攻撃力が不足しているのだ。
「そこで、狩猟部隊のメンバーに加わってくれる人を募集する」
「委員長、俺様を忘れるなんて酷いじゃないかっ」
変なポーズで立ち上がったのは潘英樹だ。
「俺様は炎使い。森の中じゃあ危ないが、村を守るくらいなら俺様ひとりでも十分さっ」
「ああ、いたね」
「酷いっ!」
「鬼頭さんは加護の特性を考え、村の守りについている。だから潘君は鬼頭さんと二人で村の守りについてくれ」
――ちょっとまて。覗き魔と二人? それは嫌だ!
「お任せください、彼女と手を取り合って村を守ってみせますよ、ね!」
「アハハハ……」
鬼頭日香莉が困った顔をしながら愛想笑いをする。
オマエじゃ不釣り合いなんだよ。
「誰か、立候補してくれる人はいないか?」
誰も声をあげなかった。
「まいったな……」
「武器を作るのはどうだろう」
挙手しながら才原優斗が発言した。
狩猟部隊のリーダーだから責任を感じているのかもしれない。
「儀保君に凄く良い武器を作ってもらったと聞いているが?」
「もちろん品質は最高だ。俺たちは加護に合った武器をもっている。俺が言いたいのは誰でも使える武器だ」
「たとえば?」
「拳銃とかね」
「あ~わりぃ、拳銃は作れないんだ」
儀保裕之が舌を出してゴメンねのポーズをする。
そんな彼を見ていた瀧田賢がクチを開き、何かを言い出そうとしたが飲み込んだ。
その仕草を俺は見逃さない。
儀保裕之はウソをついたらしい。
ということは、拳銃は作れるのだ。
言えない理由? 思い当たるふしはない。
アイツは場の空気を読むタイプのムードメーカーだ。
ようするに周囲を観察し、適切なタイミングで空気の流れをコントロールする。
今は言うべきではない。そう判断したのかもしれない。
「儀保君、その話は本当なのかしら? 苦瓜君が複雑な表情をしてますわよ」
まさか出水涼音に見られているとは思わなかった。
さらに俺の視線から推察? 恐ろしい洞察力だよ。
「腹が減ったな~と思ってただけだよ」
「ウソがヘタね」
――この蛇女、俺の心を読むな!
「瀧田君、儀保君の発言に嘘はなかったかしら?」
「待つんだ! 裁判でもないのに発言の真意を問うのはプライバシーの侵害だぞ!! 加護については慎重に扱う、そう決めたはずだ」
珍しく石亀永江が怒っている。
「そうでした、村の危機なので熱くなってしまったわ。瀧田君、儀保君、ごめんなさい」
彼女は立ち上がると俺たちに深く頭を下げる。
絶対にわざとだ。
知っていて導火線に火をつけた。
これで儀保裕之はリアクションせざるを得なくなる。
怖い女だ。
儀保裕之は深いため息をつく。
「ごめん、拳銃が作れないってのはウソだ。さすが翔矢、俺の表情から読み取ったのかよ」
「スマン」
「才原、悪いな、拳銃を作るつもりはない」
「理由を聞いてもいいか?」
「そうだな……。毒薬があったから出水さんは殺された。まあ、毒薬がなければ別の手段を考えただろう。俺が懸念しているのは殺意を抱くきっかけになるってことだ。あ、勘違いしないでくれ、財前を責めているわけじゃない」
「わかってるよ」
財前哲史はあいかわらずクールだった。
余裕の笑みで儀保裕之にうなずく。
「銃乱射事件なんて体験したくないだろ」
「所持できる人を限定すればいいよね」
「わかってないな。戦闘系の加護っていうのは一般人が拳銃をもっているのと同じなんだよ」
「えっ?」
善人の才原優斗には思いつかないのかもしれない。
「たとえば、狛が暴れたら誰が止められた? 初めてアイツが加護を使ったとき女子たちは悲鳴をあげたよな? あの惨状が村でおきたかもしれないんだ」
俺は想定していた。
日本刀をもった瀧田賢が警察官として村を巡回しているが、彼ではアイツを止められない。
アイツは最高の戦力であるのと同時に、村の最大の脅威でもあるのだ。
「狛はそんなことしない」
「アイツが村を出るなんて予想できたヤツいるか? なのに、なぜ暴れないと言い切れる。俺は怖かったぞ」
誰も何も言えなかった。
「悪いけど、俺は村を出ようって翔矢に話をしたことがある」
「覚えてるよ」
「戦闘系の加護をもたない一般人は、この世界の住人とそれほど違わない。生活するならそっちがいいってね。細々と鍛冶屋を営むのも悪くない」
「ああ悪くない案だ。けれどクラスメイトを放ってはおけない」
「オマエはそういうヤツだよ。だから俺は残っている。拳銃は俺の切り札だった。もし戦闘系の加護をもつヤツ★が暴れたら俺が始末するつもりでいた」
「そんなこと考えてたんだな」
「俺の作戦は白昼のもとにさらされた。作戦は失敗。俺は真っ先に狙われる立場になった」
儀保裕之はふぅ~と長めの息を吐いた。
きっと覚悟を決めたのだろう。
「委員長。そろそろ先を見据えた計画を考えないか?」
「先?」
「最終目標がもとの世界に帰るのなら、その方法を探ろう。さらに、見つからないケースも想定して、あきらめの期限も決めよう。そのあと、どうやって生きるのか、村で一生すごすのか、この世界に溶け込むのか、先ってそういうことだ」
「それは……」
「みんなも委員長に任せずに自分で考えてくれ。どう生きたいのかを」
瀧田賢が挙手した。
「俺の意見を聞いてくれ。インターネットのないこの世界では簡単な情報を手に入れるのにも多大な労力が必要だ。ゲームのように村人に話を聞くだけで欲しい情報にたどり着くなんてありえない。よって元の世界に帰る方法は探せないと思っている」
「あきらめるのか?」
才原優斗が渋い表情をする。
「俺はあきらめた。しかし、みんなにあきらめろとは言わない。探したいヤツは探せばいい」
「わたくしは絶対にあきらめませんわ。必ずもとの世界に帰ってみせます」
出水涼音が立ち上がった。
彼女の真剣な表情は決意の固さを表わしている。
「なら別行動しないか。帰る方法を探す人たちと、生き延びる方法を探す人たちで」
「ちょっ、ちょっと待つんだ。結論を急ぐ必要はないだろう」
「委員長、先延ばしにしてもなんの解決にもならない」
瀧田賢の冷静な声に石亀永江が慌てる。
「クラス全員の意見を統一するなんて無理だ。ならば二手にわかれ、それぞれで意見を出し合ったほうがいい」
「そんな……」
『生き方を選ぶ権利は誰にでもある』そう言ったのは石亀永江だ。
彼女に彼らの意志は止められない。
「わたくしは帰る方法を探します。そのためには村を出ることになるでしょう。同じ意見の人は食堂に集まってください」
出水涼音が議事堂から出ていった。
才原優斗が彼女の後を追う。
――彼女との交際は終わったのではないのか?
弓道部の由良麻美も出ていく。
彼女は才原優斗が好きだから納得の行動。
「情報収集なら吾が必要だね。隆久どうする?」
二見朱里は立ち上がると家具屋の千坂隆久に質問した。
「ボクは帰る方法はないと思ってるから村に残るよ」
「そうか、じゃお別れだね。小夜は?」
「わっ、わたしもぉ同じ意見……」
茶道部の才賀小夜は残るらしい。
「そうか、じゃあね」
二見朱里が議事堂から出ていく。
恋人と友人に声をかけたが断られた。
彼女は二人に同行して欲しかったのかもしれない。
「俺様にこの村は狭すぎだぁ。ちょっと世界の広さを確認してくるぜ」
炎使いの潘英樹がコソコソと出ていく。
たぶん覗きの件で村での居心地が悪かったのだろう。
自業自得だ。
瀧田賢は残り組。
そうなると、彼を好きな食堂の両津朱莉も残るな。
「苦瓜君はどうするの?」
捨てられた子犬のように弱っている石亀永江が聞いてきた。
「詩織を助けるため、ドラゴンに勝たないといけないんだぜ、帰る方法を探すヒマなんてないさ」
「よかった~、ならわたしも残ろう」
彼女は微笑しながら胸をなでおろす。
俺なんかの意見を確認しても無意味だと思うのだが……。
「しゃ~ね~なぁ、なら親友の俺も残らないとダメじゃん」
「悪いな裕之、もう少しつきあってくれ」
「あいよっ」
「わたしも詩織を待つよ」
牧瀬遙も残る宣言。オマエは儀保裕之が好きなだけだろ。幼馴染をだしにするな。
「苦瓜君が残るならわたしも残るよっ」
農業の加護をもつ乃木坂羽衣も残るらしい。
彼女の話友達は俺ぐらいしかいないからしかたないな。
「わたしも苦瓜君が残るなら」
筒井卯月が残ってくれるのなら魚が食べられる。
そして、彼女と交際している水使いの三門志寿も残るだろう。
「ボクはどちらでも良いのだけど、出水さんが向こうにいくのならコッチに残ることにするよ」
薬局の財前哲史は残るようだ。
怪我や病気を考えると彼が残ってくれるのはありがたい。
クラスメイトを第一に考えている。やはりコイツは聖人だな。
「連城君は才原君についていかないのか?」
石亀永江が以外だと言いたげな表情で彼に確認した。
「戦闘系の加護がないと足手まといだ。狩猟部隊にいて嫌というほど実感した」
「そうだったのか」
石亀永江が申し訳なさそうにしている。
彼女が狩猟部隊に入ってくれとお願いしたわけでもないのに責任を感じているのかもしれない。
連城敏昭がそれほど深刻に思い悩んでいるとは思えないけどな。
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