OH MY CRUSH !!

文月 七

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 まぁ、でも。
 血で染まる唇ってのも、なかなか。
 これはこれで、そそるかも。
 倖が思わずゴクリと喉をならす。
「俺があげたリップはどうした。使ってないのか?」
 りんはうろうろと視線を彷徨わすと、おうちにあります、と呟いた。
 倖が半眼になり、なんで、と問う。
「初めて、と、友達から貰ったものなので、開けるのが何か、勿体なくて。」
 飾ってたら持ってくるの忘れてしまいました、と照れて笑うりんに、友達、ね、と倖が視線を逸らした。
 そうしてポケットから使いかけのリップを取り出すと、やるから使え、とりんの手を取り押しつけた。
 りんはギョッとして慌ててそれを倖に突き返す。
「そういう意味じゃありません!ちゃんとお家にあるの開けますから、それは倖くんが使って下さい。」
「んじゃあ、とりあえず、今使え。」
「結構です。」
「つ、か、え!」
「だ、大丈夫です!」
「あぁもう、うるさい。よし俺がつけちゃる。」
 と、倖がリップを構えると、りんは2、3歩先まで走って逃げる。
「……おい。」
 これだけ嫌がられると地味に傷つく。
「ち、血が、ついちゃうから、」
 だから大丈夫です、と困ったように小さく言った。
「……血、ついてもいいから、つけろ。」
 そう言うなり倖はりんにリップを放った。
 キャッチし損ねて転がるそれを、りんはラーメン屋の看板の前でやっと捕まえる。
 しゃがんだまま手にしたリップを見つめるりんに再度倖が、つけろ、と凄んだ。
 わかりました、と観念したように立ち上がるとペロリとりんが唇を、舐めた。
 おさげの眼鏡の女子高生が制服で。
 伏し目がちに唇を舐める。
 指で何度も出血を確認しながら。
 ラーメン屋の赤い提灯に照らされた、その朱色の舌が、とても綺麗だった。
 血を舐めとっているのはわかるが、そういう仕草が男にとって扇情的にうつることもあると、りんは知っているだろうか。
 知らないだろうな。
 きっと、それを見ている倖がどんな気持ちでそれを眺めているかなんて、思いもしないはずだ。
 できれば至近距離で眺めたい、と倖は心中で呟いた。
 りんは更にハンカチで念入りに血を拭き取ると躊躇うことなく、キュッとリップを唇にのせた。
 そのハンカチでリップの頭をキュッキュッと拭き上げると蓋を閉め倖に差し出してくる。
「毎度毎度すみません、倖くん。ありがとうございました。」
 そのリップを受け取りながら、躊躇いもなく塗りやがって、と倖はじっとりとりんを睨みつける。
 普通こういう場合、やぁだ間接キスになっちゃうじゃん、とか。
 頬を赤らめ照れながら、躊躇いつつもゆっくりとリップを使う、とか。
 女子の一般的な反応といったら、こうじゃないのか。
 前回といい今回といい。
 全く男として意識されていないんじゃないか、俺。
「な、なんですか?本当におかしいですよ?」

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