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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする
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しおりを挟む彼の家に通い詰め、一日のうち実家にいるより師匠の家にいる時間の方が長くなってきた頃。というか、もうほぼ師匠の家に住んでいる。
俺は十三歳になり貴族の学園に通うことになった。王立である。
師匠に出会った頃の俺は九歳、そこからの日々は楽しくて楽しくて仕方なかった。
魔力もどんどん増え、お腹が空く頻度が減った。その度俺にあーんして食べさせることを生き甲斐にしているらしい師匠はちょっと残念そうだった。
背も伸び、顔つきも男らしさが増したように思う。小さい頃は女の子に間違えられることもあったので、ぱっと見ですぐ男に判別されるのは嬉しい。
姉に言われるがまま(遊ばれていたともいう)長く伸ばしていた髪もばっさり切った!
俺は猫っ毛で癖がつきやすいので、伸ばしていると特に雨の日はぴょんぴょんして大変だったのだ。
なお、事あるごとに俺の髪を触りたがる師匠はこれもちょっと残念そうだった。
「テオ、俺のテオ。……本当に行くのか」
「や~~、俺もめちゃくちゃ行きたいわけじゃないですけど~」
「そもそもおまえに今更魔法の授業などいらないだろう」
「魔法は! 魔法はもちろんそうですけど。なんと言っても俺には師匠がいるので! 最近は魔法薬も教えてもらってるし。……でも、俺も一応貴族なので……」
魔法薬を作るためにぐるぐると壺の中の液体をかき混ぜる俺の真横に座り、ぐっと腰を引き寄せる師匠。
師匠ははじめっからスキンシップが多かった。気を許されているみたいで嬉しいので大体されるがままになっている。
「……はー、さっさと抜かせておけばよかった……」
「え? 何をです?」
「ん?」
師匠は器用に片方の口の端を上げると、ただでさえ近い距離を更に詰め、俺のこめかみに唇を寄せる。
この人多分俺に母性本能でも感じてるんだと思う。森で子どもを拾ったようなもんだしな。
若干のくすぐったさを感じて師匠を横目で見ると、彼は唇を離し今度は俺の肩に額を擦り付けた。
「あは、師匠、そんな寂しがりやで三年間も耐えられるんですか?」
「無理だ」
「俺も結構寂しいですけどね! は~、寮生活なんて不安「は?」え?」
がばっ、と擬音がつきそうなくらいのすごい勢いで俺の肩から顔をあげると、師匠は俺の顔をほぼ無理やり師匠の方に向かせ、信じられないとでも言いたげな眼差しを投げてきた。
頬に添えられた師匠の長い指が不満げに動く。
「寮? 何を言っている。学園に通うことは百歩譲って許可を出したとしても通いだろう、ここから」
「え? 師匠こそ何をおっしゃるんですか。王都ですよ?」
「何か問題が?」
「いやいやいやいやいやいやいや!!!」
王都から距離がかなりあるのだここは! まあまあ田舎だ! 通いなんてとんでもない! 物理的に帰って来れない距離である!
首をぶんぶん横に振る俺に対して、師匠は形のいい眉を不愉快そうにぴくりと上げ、なんてことないように「……? 転移魔法で通えばいいだろう」とのたまった。
「え!? 俺、そんな長距離飛べないですよ!」
「出来る。出来るように教えてきた」
「いやいやいや! 冗談………………………え、本当ですか?」
「俺はおまえに、こんな冗談など言わない」
そうして俺は師匠の家から学園に通うことになった。
俺の実家ともとっくに話はつけてあったらしい。デキる男だ。イケメンはやっぱり違うな。
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