【本編完結】推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする

縫(ぬい)

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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする

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「師匠!」

「テオ」


 夏休みになったので師匠の家でしばらく過ごすことにした。
 九歳から師匠といる時はほぼ一日中ずっと師匠に張り付いてる身としては、毎日会っていると言えども一日の大半を学園で過ごしているのは思いの外寂しかった。


 師匠の家の決められた転移場所に転移してきた俺は、荷物をその場にどさどさと落とした後急いで彼に抱きつきにいく。


「師匠~~! 俺、夏休み中はもう師匠から離れない! いいですか? ね~! 師匠~!!!」

 だる絡みの自覚は十分にあるが俺は自分が思うよりかなり寂しがっていたらしい。しばらく師匠と過ごせると思ったらべたべたしたくなってしまった。


「…………」

「……あれ、師匠?」

 いつも隙あらば俺を抱き寄せて頭にちゅっちゅしていた師匠が珍しく無反応である。寝てるのか?


 背中に抱きついていた身体を一度離し、すすす……と師匠の正面に回り込んだ後もう一度抱きつく。
 その状態で彼の表情を覗き見れば、なんだかぽかんとした顔で俺のことを見ていた。口がちょっと開いてて可愛い。


「……ん? すみません、俺、もしかして転移の事前メッセージ上手く飛ばせてませんでした? いきなり来ちゃった感じですか?」


 反応の鈍い師匠に首を傾げつつ、もしかして連絡がうまくいってなくて、俺がこの時間にここに来ることを知らなかったのか? と思い至る。 
 申し訳ないことをしてしまった。


「あちゃ、ごめんなさい師匠。連絡は基本中の基本って教わったのに……」

「……………………いや、連絡は受け取っていた」

「本当ですか? ならよかった!」


 じゃあお疲れなのだろうか? 師匠の顔を眺め、それならば俺のだる絡みはうざいだろうな、と師匠の胴に回していた腕を離す。
 ……離そうとしたが師匠に腕を掴まれそれは叶わなかった。


「師匠?」

「テオドール。俺のテオ。もちろん一日中こうしてて構わないさ」


 師匠は俺のことをぼーっと見ていた表情を一転させ、ぱっと見冷たそうな印象を受ける目に喜色を浮かべて少し頬を緩めていた。


「えへ。俺のだる絡みうざくないですか?」

「は? そんなこと誰に言われた」

「え? 誰にも言われてませんよ」


 もっとくっつけと言わんばかりにぎゅうと俺を抱きしめる師匠はすっかり通常運転に戻ったみたいだ。
 甘えたい気分全開の俺は師匠のお腹にぐりぐりと自分の頭を擦り付ける。前髪がぐちゃぐちゃになっている気配がする。


「甘えるおまえも愛らしい。テオ、やはり学園など通わなくて良いだろう」

「中退なんてしないですよ!!!」


 師匠の手が俺の頭をすくように撫でたのでがばりと顔をあげる。
 彼はそれはそれは優しげな顔をしながら俺を見ていた。細められた目が俺の心臓を思いっきり射抜く。



 正面から食らう美形の微笑み、破壊力すご!!!



 俺の乱れた前髪を手櫛でなおしてくれる。その感覚が気持ちよくて目を閉じた。
 師匠は一瞬手を止めたあと、親指で俺の瞼、頬を撫でた。ちょっとくすぐったい。
 思わず声を出さずに口に笑みを乗せると、彼は頬を撫でた指を耳たぶに移動させそこを何往復かなぞる。かなりくすぐったい。


 ぴく、と肩を跳ねさせた俺に対し、師匠はもう片方の手で宥めるように背中をさする。
 飼い主にゴロゴロする猫ってこういう気持ちなんだろうな~と思いつつ師匠の指の動きを瞼の下で追っていたら、突然口の端に柔らかな感覚が落ちた。



 …………え!?!!!


 …………………え!?!?!




「師匠!!!!!?」

「あぁ、すまない目測を誤った」

「え!? 今ちゅーしました!?」

「? 俺はいつもおまえに口付けていると思うが」

「そうではなく!!!!!」


 ……この人は俺に母性本能を発揮しすぎではないだろうか!?
 師匠はきっと頬に口付けようとしてちょっとズレてしまったんだと思う。
 思う……思うが!!!!

 頬に熱が集まっているのが自分でよく分かる。恥ずかしくて師匠の顔が見れない。これは唇へのちゅーではないが、しかし広義の意味では唇へのちゅーなのである!!!



 俺のファーストキス!!!!!!!!



「ん? 嫌だったか」

「そうではなく!!!!!」

「嫌でないのなら良い。紅茶でも飲むか?」

「飲みます!!!!!」



 片眉を上げて面白そうに俺を見る師匠に揶揄われていると感じる。
 こ、この人、俺の反応面白がってる!


 混乱した頭のまま、照れてなるものかとぎゅっと目を瞑る。師匠は笑いながら今度は頬に口付けを落とした。
 なんなんだよぉ!!!!!
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