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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする
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しおりを挟む善は急げと師匠の家に転移すると、師匠はなぜか俺の服を抱えて座っていた。
洗濯しようとしてくれたのだろうか。いつも家事は俺がやっていたけど、この三日間寮にいたのでおそらく溜まっていたのだろう。申し訳ない。
「……………………テオ、これは違」
「ああ! すみません! 用事が済んだら洗濯もすぐするので! 師匠の手を煩わせてしまって申し訳ないです……!」
「いや、違」
「師匠! それより! お願いしたいことがあって!」
師匠の顔を見るのが気まずかったことなど頭からすとーんと抜けている俺はずんずんと師匠へ足を進めるとぎゅっと両手を握った。
びくりと腕が揺れ師匠の手から俺の服が落ちたがそんなものは後で拾えば良い。俺のこの決心が鈍らないうちにお願いしなくてはならない。
「師匠、俺に誰か男の人を紹介してほしいです! 恋人として!」
俺の言葉を聞いた師匠は手を握ったまま石のように固まってしまった。
……たしかに弟子からいきなり男を紹介しても言われたら驚くな。うーん、失敗した。
でもこれは俺のメンタルのために考えた最強の作戦なんだ。
俺が当て馬か攻略対象かは置いといて、乙女ゲームに男と付き合っている人間が出てきたとしたら、そんな奴はヒロインと積極的に関わることはないだろう!
俺は家を継がないから子どものことは考えなくて良い。この国は家を継ぐ者の同性愛はよくあることだから、なんの問題もない。
乙女ゲーム回避の確信が得られたら俺の心の安寧は約束されるはずである!!
つまり攻略対象者(仮)達以外の男性と付き合ってしまえば俺は晴れてゲームからお役御免になるのだ。完璧な作戦だ!
「…………すまない、俺は耳が遠くなったのかもしれない。もう一度言ってくれるか?」
「はい! 師匠、誰か知り合いに俺と付き合ってくれそうな男の人っていらっしゃいませんか? いたら紹介してほし「なぜだ」い?」
フリーズから帰ってきた師匠にちょっと胸を張りながら答えると、食い気味で言葉を被せられた。
なんでと聞かれるとちょっと困る。乙女ゲーム云々なんて頭がおかしくなったと思われるだろうし……。
「えっと……。俺、この歳になっても婚約者も何もいないので……。親を安心させようと!」
「今すぐである必要はないだろう」
「いえ!! 今すぐ欲しいんです! えーっと、あのぉ~、あ! 売れ残りに! このままでいると売れ残りになってしまいまともな相手がみつからないかもしれないので!!」
片眉を上げ、訝しんだような表情で俺を見る師匠に思わずたじろぐ。俺の年齢なら婚約者がいてもおかしくはないし、言っていることは間違ってはないと思うけど……。
困り顔を向ければ、柔らかな赤色であるはずの師匠の目の色がなんだかちょっと濃くなった気がした。
「十三……、約束したのは十六……いや、テオから言い出したならセーフか? しかし……」
「師匠? なんですか?」
俺に聞こえない音量で言葉を紡ぐ師匠。
師匠ほどすごい魔法使いなら信頼のおける知り合いでもいないだろうかと考えてのことだったが、もしかして難しいのだろうか。
数字が聞こえたような気がしたから、知り合いとの年齢差を考えているのかもしれない。
「師匠! 愛の前には年齢とか関係ないですよ! 俺はひとまわり年上でも一向に構いません!」
「ひとま……いや、それどころではないのだが……。そうではなく、おまえが……」
「俺が? あぁ! 大丈夫ですよ! 不当に手を出されそうになったら撃退します!」
なるほど、師匠は俺が意にそぐわず手を出されてしまうことを危惧してるのかもしれない!
こう見えても俺はめちゃくちゃ強いのだ。人のひとりやふたり魔法で簡単に蹴散らせる。
そもそも十三に手を出すようなショタコンはいないだろう。さすがにそこは俺が成長するまで待ってもらう。
「そうか……そこまで覚悟を……」
「はい! なので紹介「俺だ」……はい?」
呆然としていた表情を一転させ、やけに熱の籠った目で俺をみてくる目の前の男に今度は俺が固まる番だった。
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