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本編
俺は酒豪なんだよ!
しおりを挟むそこから二ヶ月経ち、季節は梅雨明け。漣さんとは非常に友好的な隣人関係を築いている。
最初はやたら緊張していた漣さんだけど、だんだん慣れていたみたいで配信の時みたいにたくさんお喋りしてくれるようになった。
毎週土日の夜は漣さんがご飯を作ってくれるので、俺の家に招いて一緒にご飯を食べる。
漣さんの家でも良いと言われたけど、配信器具を見たら俺は絶対余計なことを口走るので断固拒否させてもらった。
そう、防音シートをつけたり、眠るときにはイヤホンをつけてテキトーに検索した睡眠用BGMを流したりすることで俺の安眠は確保されているのだ!
なのでここしばらく漣さんの配信も見ていない。元々どんな人なんだという好奇心だったし、本人と会っている以上別に見る必要もない。
「てわけでさー、俺の騒音騒動は幕を閉じたってわけ! ちゃんちゃん」
今日は桐谷と飲みに来ているので、一応結果を報告しておく。
こいつは良い奴だから「最近寝れてるか?」とちょくちょく心配してくれていた。
持つべきものは友達だ!
「え、閉じてなくない?」
「ん?」
「お前がよくてもさ、契約切れるの夏って言ってたじゃん。壁薄いことには変わんないしお前の後に入ってきた奴が困るくね?」
「……確かに」
確かに。もう全然その通りだ。綺麗に解決した気でいた。
「その人と仲良くなれてんなら余計言うべきじゃね? 向こうは音漏れてるって気づいてないんでしょ。せめてそのパソコンの位置変えるとかしてもらったほうがいいと思うけど」
「それはそう……だけど……。……え~、言ったらなんか、多分漣さんは申し訳なくなっちゃうしさあ。あの人いい人だし。俺も言うの気まずいな~? みたいな?」
「はいはいはい蛍ちゃんは小心者でちたね~」
「なんだ? 喧嘩か? 全然買うけど?」
生ぬるい視線を向けられてムッとしたので今日はこいつにめちゃくちゃ飲ませると決める。
ひとまず目の前にある酒を一気にあおって、「おい、今日は飲むぞ!」と桐谷に告げた。
「……蛍、もう飲めないだろって」
「のめる! のむ! おいし~」
久しぶりにお酒を飲んだということもあり、なんだか楽しくなってハイペースで頼みまくった。
気分が高揚して気持ちいい。桐谷が何か言ってるけど無視だ、無視。
「俺も止めなかったけどさあ~……。あ、もしもし雫? ちょっと蛍送ってから帰るからお前んち行くの遅くなるわ。こいつすんげえ酔ってて」
「あ? おいなにかのじょぉ? かわって~! やっほかのじょちゃーんげんきい?」
桐谷からスマホを奪いスピーカーにする。ついでにビデオにもする。
『え! ホントだめちゃくちゃ酔ってるじゃん! 伊吹、送り狼になっちゃダメだよ!』
「なるわけねえだろ!」
「おおかみ? がおー? あっはは、たべちゃおうかなあ~」
『かわっ……。えーー!! こんな可愛い顔で夜道歩いちゃだめだよぉ蛍くん! このままふらふらでおうち帰って、そしたらきっとお隣さんにぱくっと……』
桐谷の彼女とお喋りしてたのに強制的にビデオもスピーカーもオフにされる。
なんだよ俺が気持ちよくお話してたのに!
「きりたにぃ、あにすんだよお」
「何もクソもない! 一旦俺が会計持ってやるから帰るぞ。雫もまだこいつと隣人の妄想続いてたのかよ!」
まだまだ飲みたかったのに身の回りの荷物を片付けられ腕を取られた。
自分が酔ってるのは分かっているけど気持ちいいしまだ飲めるし最悪ひとりで帰れるからぐずったけど、宣言通り桐谷が会計をしてしまったので渋々店を後にする。
俺の近所で飲んでいたから家はすぐそこだ。
「あれえ、かぎない」
「そんなわけないだろ。カバン探せ、ほら、こっちの小さいポケットは?」
「これじてんしゃのかぎだ! あはは、きりたにがたべたかも! おおかみだからあ」
「声でかいって」
もうなんかすべてが面白くて桐谷が何を言っても笑ってしまう。
家の前に着いたはいいが鍵は見つからないし、ここで寝ちゃおうかなという気分になってきた。
「蛍くん?」
「えあ~? あ、さざなみさんだ~! なんでいるのお」
リュックのポッケから出てくる謎のレシートをぐしゃぐしゃに丸めていると、隣の家の扉が開いて黒髪垂れ目イケメンが顔を出す。
「さざなみ……ああ、この人が」
「その、随分酔ってるみたいだけど……」
「よってるけどお! もっとのみたかったあ~。かぎないしおみせもどってのみなおそうかな? てか、きりたにのてぇつめた!」
桐谷の手の冷たさが心地よく感じ手を握ろうとしたけどすごい嫌そうに避けられた。なんだよ!
「……蛍くんの酔いが覚めるまでうちで預かりますよ。鍵も見つからないみたいだし」
「え? いや……」
「さざなみさんち? いかないよお、おれへんなこといっちゃうから!」
「変なこと言ってもいいよ、ほら、俺の手も冷たいよ」
差し出された漣さんの手を掴むとたしかに冷たかった。気持ちいい。
うーんなんで漣さんち行かないようにしてたんだっけ、変なことってなんだ?
「でも、いや、雫の言ってることも正直当たってそうというか……。こいつ、見た目はめちゃくちゃ可愛いし蛍のことガチで好きだっつってる男も何人か知ってるし」
「あ! きりたにおもってることぜんぶでてるよお。よってんだ! かわいいね~!」
桐谷は酔うと考えてることが全部口に出る。多分今もそうだ。めちゃくちゃおもろい。
散々小心者で可愛いだのなんだのバカにされていたのでここぞとばかりにいじり返して煽る。
「お前マジで……分かった分かった、俺もう行くからな! 知らねーからな!」
「なにがあ? てかうちとまってきなよ」
「鍵見つかってないだろうが! じゃあな!」
なぜか呆れた顔を向けられ、そのまま本当に帰っていってしまった。
つまんない、このまま宅飲みしたかったのに。
ふと後ろを向くと難しい顔をした漣さんが俺をじっと見つめていた。
よくわからなくて首を傾げると、腕を引かれて家の中に招き入れられる。
おお、初めて漣さんち来た!
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