隣に越してきた配信者にぺろりと食べられる俺の話

縫(ぬい)

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本編

イケメンって名前もイケメンらしい

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 その週の土曜、いつも通り早起きしてゴミ捨てに向かうとお隣さんと鉢合わせした。
 改めて見ても絵とは似ても似つかない外見の色合いだ。顔がイケメンなとこは一緒だけど。

「! お、おはようございます」

「あの……お隣さんですよね? 俺のこと分かりますか? この前お水いただいて……。すみません、あの時はありがとうございました」

「いえ! そんな、俺は何も」

 でかいゴミ袋を片手にぶんぶんと首を横に振っているのがおかしくてちょっと口元が緩む。

 水のお礼に俺もジュースの一本くらい渡そうと思ってたけど、当たり前だが今は持っていない。

「お礼にジュースでも差し上げようと思ってたんですけど、今持ってなくて。ええと、ちょっと取ってきていいですか?」

「いやそんな、わざわざ大丈夫ですよ! あ、でもお礼って言うなら……。あの、昨日ちょっと作り過ぎちゃった料理があるので、よければもらってくれませんか?」

「え?」

 脳内についこの前の雑談配信が過ぎる。
 え? 作りすぎちゃったってお裾分けする……いや、いやいや偶然か。そもそも男だし。
 それと同時に桐谷の彼女が捲し立てていた連れ込むだのなんだのというセリフも思い出したけど秒で抹消しておく。


 視線を逸らしながら話す目の前の端正な顔立ちの青年と、陽キャ全開で配信をしている彼が結びつかなくてなんとも言えない気持ちになるが、断る理由もないので「ぜひ」と快諾した。


「そうだ。お名前を伺っても?」

「あ、俺は漣 天音(さざなみ あまね)です。よろしくお願いします。……初めまして?」

「はじめ……あはっ、初めましてですか? ふふ、初めまして。俺は春夏秋冬 蛍です」

 ガチガチに緊張している漣さんを見て吹き出してしまった。何を緊張することがあるんだ。

 ゴミを置きながら息を漏らして笑っていると、漣さんは口元に手を当てながら「…………お昼に伺ってもよければ、伺います!」とやたらでかい声で言ってくれたため、特に予定もない俺はオーケーだと伝え一度その場で解散した。






 ピンポーン。

 昼の十二時を過ぎた頃チャイムが鳴る。
 扉を開けるとタッパーを二つ抱えた漣さんが立っていた。

「春夏秋冬さん、こんにちは。あの、これ肉じゃがなんですけど、よく考えたらお昼に食べるものではないかなって……。すみません」

 形の良い眉を下げ申し訳なさそうにしている。
 たしかに夜ご飯向けだと思うけど、別に俺は気にしない。
 タッパーを覗いてみてると美味しそうな肉じゃががそこにあった。

「うお、美味しそう! 全然気にしないですよ。漣さん、ご予定がなければぜひ上がっていってください。お昼まだなら一緒に食べましょう」

「……えっ!?!?!?」

「え?」

 軽く誘っただけのつもりだが漣さんはめちゃくちゃ驚いていた。
 桐谷とはよく軽いノリでお互いの家を行ったり来たりしていたからついその感じで声をかけてしまった。たしかに馴れ馴れしいか。

「全然、無理にとは言わないですよ。すみません」

「いやっ、えっ!? ひとっ、春夏秋冬さんがいいならぜひ、あ! いえ、その……はい! 量もあるので!」

「ん? 無理なさってないなら、こちらこそ是非。あ、ていうか蛍でいいですよ。呼びにくいですよね俺の苗字」

「えっ!?!?!?!」

 え? 俺は何かおかしいことを言ったか?




「……こっちが食べていただきたかっただけなのに、色々ご馳走になってしまって申し訳ないです。でもご馳走様でした」

「いやあ家にあったものですし。こちらこそ肉じゃが美味しかったです、マジで! 普段ホントにテキトーなんで」

 ホントにめちゃくちゃ美味しかった。
 普段すぐできる男飯を作って食べているので、こういう家庭の味みたいなやつ、久しぶりに食べると沁みる。

「俺、料理好きだから。ひと、蛍さんが良いなら作りますよ、全然」

「え!? いやいやいやそれは申し訳ないですよ! そこまで厚かましくなれないです! 漣さんとも知り合ったばっかで、その、友人とかでもないし」

「友人……まあ、それはそうですが」

 俺は配信を見ているから勝手にめちゃくちゃ漣さんと話してる気分になっているけど、実情はちょっとご縁があったただのお隣さんである。


 ……待て、友人でもないとかいう言い方はめちゃくちゃ失礼じゃないか?!


「いやっ、すみません今の言い方良くないですね! 漣さんとはこれからって言うか……。ああー、俺こういう失言するから彼女できないんだあ……」

「俺とのこれからがあるっていうことですか?」

「お? え? そ、そうっすね?」

 一人反省会を開いている俺のそばにいつのまにか漣さんがいて、やたら真剣な顔で食い気味に聞かれる。
 何が? 友人になるってこと?

「……それは良かった。ちなみに俺も恋人はいません」

「あ、そ、そうなんですね。こんなイケメンなのに」

「俺の顔好みですか?」

「い、イケメンだと思います」

 俺を壁に追いやる勢いでぐいぐい来る漣さんに困惑するも、なんだか尋問されている気分になりとりあえずこくこくと頷いておく。

 そして俺が頷きまくるイエスマンと化している間に気づいたら定期的に漣さんが俺に料理を振舞ってくれることになった。

 ……俺、マルチ商法とかされたら絶対知らん間に加入してしまう。気をつけよう。
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