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第20話
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場所は国王の私室に移る。王は、直立したまま、同じように直立した魔導師と、少し距離をあけ、正面に向き合う。彼らの距離は、つかず離れずといいった雰囲気で、それは国王が冷静さを意識しようと、とった距離でもあった。
しかし本来王は座し、仕える者は額づくべきなのだ。既に両者の立ち位置は、狂い始めている。
「アーラッド。そちは、中央の政策は、この国を滅ぼすと言っておった。確かに他国は中央を支持し、その力は強大さを増しておる。戦後から比べその成長は著しい。しかし、五大雄殿の言われたとおり、それがこの国に災いをもたらすというのは、やはり如何なものか?」
王は真剣だ。彼もまた自ら良き王とあらん事を願い、日々心血を注ぎ、国政を担おうとしているのだ。
「国王、何処の国が、侵略の前にその事実を他国に仄めかすでしょうか?互いの国に、兵を潜り込ませ、互いの国を監視しあっているのが常識であるように、高官を使い自国の安全性を他国に示すのも、戦略の一つでございます。五大雄は、いわば中央の飼い犬!そして、一人が一万の兵に相当する実力者ばかり……、彼らの存在が既に、この国を滅ぼしかねない存在なのでございます!」
言葉に大げさな抑揚をつけ、自分を信用しきっている国王を、最もらしく説得するアーラッドだった。
彼の年齢は、ロンより僅かに年長であるようだ。だが、七年前の戦争では、さほどの活躍は見られない。二年前に、頭角を表し、見る見る国王側近の魔導師となった。
アーラッドは、椅子に座り、目を閉じ、テーブルに置かれている水晶に念を送るような仕草で手を翳し、一つ呼吸を置く。
「黒い陰が見えます。このままあの者達を、放置しておくのは得策ではございません」
「だが、このまま他国と対立するのは、得策ではあるまいて……」
国王は、眼前に戦争という二文字が突きつけられ、ひどく決断を渋っていた。アーラッドの過激な発想に、少し引き気味になってしまう。
一方、一つの部屋に集まったザイン達は……。
「変だぜ、こう食い違ってねぇか?中央の言い分と、エピオニア王の言い分……」
ザインがイライラを堪えきれず、ぶちまけるように全員に意見を求める。目の前の空気を立体パズルを組み立てるような仕草で、説明のつかない歯がゆさを表している。
「確かに二人に話を聞く限り、私も少し変だと思う。我々はエピオニアに対し不安を持つ中央に、この任務を与えられた。それがいざ着いてみると……」
ロンも顎に手をやり、頭を痛くする。
「クルセイド国王は、私たちに何を期待されたのでしょうか……」
ロカはウンザリした溜息をつく。
「エピオニアの危険思想のためではなかったのか?有事の際ならば、我々なら最小限の破壊で鎮圧できる」
筋としてはアインリッヒが最もらしいが、それではまるで最初から有事になることを、知っていたかのようだ。出発前には、国王は一言もその様なことは言っていなかった。「指示は先遣隊に……」と言っただけだ。
「もう一つ問題なのは、俺達を見張っていた輩は誰だって事だ。あの様子だと、エピオニア王じゃない」
「ザイン。まずいですよ!結界は張っていませんよ」
ロカが慌てふためく。
「良いんだよ。あの時点で、『其奴』が何か目論で居ることに感づいた俺達への、先手を取られないようにするため、事を起こすのを防ぐために結界を張ってもらったんだ。計画は順調に行っていると思わせたかった。いくつか手を討ってはいたんだろうが、その当てが外れただろうぜ。現に俺とアインは生きている。要は、何らかの形で、五人いちゃ拙かった……、て所かな」
ザインは、ベッド上に大の字になる。そしてベッドに腰を掛けていたアインリッヒを自分の方に引き寄せた。
「全く。何処の誰が狙っているのかも解らないのに、良くそこまで言えるな、お前は。大した奴だよ」
ロンが両手を上げ、完全に呆れ返る。確かに何の確証もない。その上に立った推論だ。説得力が無いのは、当たり前だ。
ジーオンは黙りである。だが、此処で口を開く。
「儂等が、此処まで来るまでに、数を減らしておきたかったのなら、『そやつ』は、間違いなくこの国にいる。しかも儂等は終着点にいる。つまり、少なくとも敵は、この城内におり、儂等を殺す期を伺っている人間になる」
ジーオンは、自分達が既に敵の懐の中にあり、経過を怠れない緊張感を感じていた。
「だが、御老体。エピオニア王は、我々との対立を渋っているのだろう?しかも、軍備増強を計ったのは、中央からの自衛手段だと……、まさか!」
ロンが一つの答えを見つけ、力一杯立ち上がる。
「国王の側にいて、その寝首を掻きたがっている人間。しかも我々が揃うのをおそれた人間……」
結論の続きを、同じようにベッドから起きあがったアインリッヒが、早口で述べる。芋蔓式に答えが出たため、全員が一瞬の興奮に身を振るわせる。
「だめだ、確証がねぇ。奴も俺達がこうやって首を揃えている間は、手を出してこねぇだろう。やれるんなら、とっくの昔に、五人纏めて殺されてるよ」
イヤに慎重なザインの意見だった。戦争になるのは誰でも嫌であるが、サインにはその気持ちが人一倍強かった。しかも己が自ら進んで剣を振るうことが嫌なのである。兵達は、国の名の下で戦っているに過ぎないのだ。
「やれやれ、一国の王たるものが、己を滅ぼそうとしているものを側近におくとはのぉ」
すっかり状況が厄介になってしまったので、ジーオンは面倒そうに顎髭をさわる。しかしその反面、どことなく余裕がある。流石年長者と言うべき所であろうか。
しかし本来王は座し、仕える者は額づくべきなのだ。既に両者の立ち位置は、狂い始めている。
「アーラッド。そちは、中央の政策は、この国を滅ぼすと言っておった。確かに他国は中央を支持し、その力は強大さを増しておる。戦後から比べその成長は著しい。しかし、五大雄殿の言われたとおり、それがこの国に災いをもたらすというのは、やはり如何なものか?」
王は真剣だ。彼もまた自ら良き王とあらん事を願い、日々心血を注ぎ、国政を担おうとしているのだ。
「国王、何処の国が、侵略の前にその事実を他国に仄めかすでしょうか?互いの国に、兵を潜り込ませ、互いの国を監視しあっているのが常識であるように、高官を使い自国の安全性を他国に示すのも、戦略の一つでございます。五大雄は、いわば中央の飼い犬!そして、一人が一万の兵に相当する実力者ばかり……、彼らの存在が既に、この国を滅ぼしかねない存在なのでございます!」
言葉に大げさな抑揚をつけ、自分を信用しきっている国王を、最もらしく説得するアーラッドだった。
彼の年齢は、ロンより僅かに年長であるようだ。だが、七年前の戦争では、さほどの活躍は見られない。二年前に、頭角を表し、見る見る国王側近の魔導師となった。
アーラッドは、椅子に座り、目を閉じ、テーブルに置かれている水晶に念を送るような仕草で手を翳し、一つ呼吸を置く。
「黒い陰が見えます。このままあの者達を、放置しておくのは得策ではございません」
「だが、このまま他国と対立するのは、得策ではあるまいて……」
国王は、眼前に戦争という二文字が突きつけられ、ひどく決断を渋っていた。アーラッドの過激な発想に、少し引き気味になってしまう。
一方、一つの部屋に集まったザイン達は……。
「変だぜ、こう食い違ってねぇか?中央の言い分と、エピオニア王の言い分……」
ザインがイライラを堪えきれず、ぶちまけるように全員に意見を求める。目の前の空気を立体パズルを組み立てるような仕草で、説明のつかない歯がゆさを表している。
「確かに二人に話を聞く限り、私も少し変だと思う。我々はエピオニアに対し不安を持つ中央に、この任務を与えられた。それがいざ着いてみると……」
ロンも顎に手をやり、頭を痛くする。
「クルセイド国王は、私たちに何を期待されたのでしょうか……」
ロカはウンザリした溜息をつく。
「エピオニアの危険思想のためではなかったのか?有事の際ならば、我々なら最小限の破壊で鎮圧できる」
筋としてはアインリッヒが最もらしいが、それではまるで最初から有事になることを、知っていたかのようだ。出発前には、国王は一言もその様なことは言っていなかった。「指示は先遣隊に……」と言っただけだ。
「もう一つ問題なのは、俺達を見張っていた輩は誰だって事だ。あの様子だと、エピオニア王じゃない」
「ザイン。まずいですよ!結界は張っていませんよ」
ロカが慌てふためく。
「良いんだよ。あの時点で、『其奴』が何か目論で居ることに感づいた俺達への、先手を取られないようにするため、事を起こすのを防ぐために結界を張ってもらったんだ。計画は順調に行っていると思わせたかった。いくつか手を討ってはいたんだろうが、その当てが外れただろうぜ。現に俺とアインは生きている。要は、何らかの形で、五人いちゃ拙かった……、て所かな」
ザインは、ベッド上に大の字になる。そしてベッドに腰を掛けていたアインリッヒを自分の方に引き寄せた。
「全く。何処の誰が狙っているのかも解らないのに、良くそこまで言えるな、お前は。大した奴だよ」
ロンが両手を上げ、完全に呆れ返る。確かに何の確証もない。その上に立った推論だ。説得力が無いのは、当たり前だ。
ジーオンは黙りである。だが、此処で口を開く。
「儂等が、此処まで来るまでに、数を減らしておきたかったのなら、『そやつ』は、間違いなくこの国にいる。しかも儂等は終着点にいる。つまり、少なくとも敵は、この城内におり、儂等を殺す期を伺っている人間になる」
ジーオンは、自分達が既に敵の懐の中にあり、経過を怠れない緊張感を感じていた。
「だが、御老体。エピオニア王は、我々との対立を渋っているのだろう?しかも、軍備増強を計ったのは、中央からの自衛手段だと……、まさか!」
ロンが一つの答えを見つけ、力一杯立ち上がる。
「国王の側にいて、その寝首を掻きたがっている人間。しかも我々が揃うのをおそれた人間……」
結論の続きを、同じようにベッドから起きあがったアインリッヒが、早口で述べる。芋蔓式に答えが出たため、全員が一瞬の興奮に身を振るわせる。
「だめだ、確証がねぇ。奴も俺達がこうやって首を揃えている間は、手を出してこねぇだろう。やれるんなら、とっくの昔に、五人纏めて殺されてるよ」
イヤに慎重なザインの意見だった。戦争になるのは誰でも嫌であるが、サインにはその気持ちが人一倍強かった。しかも己が自ら進んで剣を振るうことが嫌なのである。兵達は、国の名の下で戦っているに過ぎないのだ。
「やれやれ、一国の王たるものが、己を滅ぼそうとしているものを側近におくとはのぉ」
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