19 / 27
第19話
しおりを挟む
可成り待たされる。御者席のロンが痺れを切らし、忙しなく爪先をトントンと、床に叩きつけて、苛立ち始める。その時、正面の方から、こちらへ向かってくる馬車の音が聞こえる。馬のひずめの音も聞こえる。対向車もあるため当然だが、音の重厚さが違う。音がいかにも立派なのだ。石畳に非常にマッチした音といえるだろう。
「やれやれ、儂の出番は未だ終わってはいなかったようだの」
急に老け込んだジーオンがゆっくりと腰を上げ、馬車の外へ出て行く。そのころには、こちらの馬車より、更に贅沢な馬車が、正面につけていた。そして、いかにも大臣と言わんばかりの服装と勲章をつけ、黒々とした口ひげを生やした一人の中年が、ジーオンの前に立つ。
「コレはコレは、スタークルセイド殿ともあろうお方が、突然訪問なさるとは……」
彼は、ジーオンにしか気がついていない様子だった。エンブレムを見せたのはジーオンだけであったので、その事で誤解を招いているようだ。
かなりの気の使いようだ。額にうっすらと緊張の汗がみられ、愛想笑いの顔が引きつっている。ジーオンしか視界に入らないようで、御者席のロンすら無視されている。五大雄に政治等の絶対的権力は無いが、英雄であるため、その地位は、分別上、大臣より上である。国王との接見も容易であることから、政治的立場でしか国王と接することの出来ない大臣とは、レベルが異なる。無礼な態度は許されない。彼はその事で非常に緊張している。
「うむ。話は後にしよう」
ジーオンは、既に、正面にある馬車が自分たちの送迎であることを把握している。
「そこに居られるのが、ロン=スー=チー=イーストバーム、車内にアインリッヒ=ウェンスウェルヴェン=ウェストバーム、ユリカ=シュティン=ザインバーム=ノーザンヒル、ロカ=アリューウォン=シャイナ=サウスヒル殿が居られる」
「まさか!五大雄が揃って居られるとは……」
大臣は、彼らが全員揃っていることに、腰を抜かして驚く。エピオニアの感情としては、五大雄の来訪は、警戒すべきモノであるが、しかし同時に憧れでもある。そのまなざしが、ジーオンに向けられるのだった。
感動を隠せずにはいられない。彼の個人的な感情が、先走る。だが、自分が大臣であると言うことをすぐに思い出すと、さりげなく咳払いをし、冷静さを取り戻す。
「さぁ、皆様、こちらの馬車へ……」
彼らは、もめ事を極力減らすため、やむなく、その馬車への移動をする事になる。豪華な馬車だ。荷は、彼らの乗っている馬車に積まれたまま、後方から着いてくる。荷馬車扱いである。
コレには二つの意味があった。一つは彼らを迎え入れると言うこと。もう一つは、彼らをエピオニアの監視下に置くと言うこと。
恐らくこのまま何処へも立ち寄らずに、城内へ行くだろう。それだけエピオニアは、中央を警戒しているという事である。だが、問題はその理由である。兵の話では、中央に対する危機感だという事だが、危機感の元は何であるかである。
エピオニアの中心に近づいた頃、ザインの膝の上に、頭を寄せて眠っていたアインリッヒが、目を覚ます。眠りが浅くなったことと、自分の体勢が変化していたことに気がついたせいである。車内の雰囲気が変わっていることにも気がつく。
「ユリカ?」
「大丈夫。寝てろ」
不安げなアインリッヒの肩を抱き、頭を抱き寄せ、彼女の髪を何度も撫でる。一度は目を覚ましたアインリッヒだったが、ザインに触れられていることが心地よくなり、再び眠りにつく。
次に、アインリッヒが目を覚ますと、そこは部屋の中で、自分はベッドの上に寝ていることに気がつく。横にはザインは居ない。その事に気がつき、ベッドから飛び起きると、その横にあるソファーでは、大欠伸をしているロンが居た。ロカも居ない。
「ユリカは?」
「ふぁぁ、奴さんなら、御老体と一緒に、エピオニア王に接見してる。ロカはメイドを口説いてる……」
ザインが、自分を放ってどこかへ消えてしまったのではないことを知ると、アインリッヒはホッとした顔をする。その表情の変化は、ロンにも良く解る。安心した柔らかなその顔に、ロンが思わずこんな事を言ってしまう。
「彼奴の何処が良いんだ?」
ロンもザインが嫌いではない。同じ質問をされれば、愚問であると言いたいくらいだ。夜盗とやり合ったときに、交わしたあの一言が、ロンには忘れられない。それに何となく気があう。アインリッヒと部屋に隠りっきりになったときにも、どうしようもない奴だと思いながらも、憎めない。どさくさに紛れて麻雀台を転かしていったことも、忘れては居ない。それも憎めない。
「ユリカは、こう言ってくれた。私は女でも良い、剣士でも良い。そして、こうも言った。陽は何人のために輝き、大地は何人のために存在し、海は何人のために水を蓄え、風は何人のために舞うのか……」
「へ、へぇ……」
しかし、ロンは濁した返事をする。ロイホッカーの名は知っているが、詳しい事は知らない。
「で?」
結局何が言いたいかは解って居らず、こう言ってしまう。その返事が、彼がその意味を理解していない事に気がついたアインリッヒが、仕方が無さそうに、だが、嬉しそうにこう言った。
「陽は何人のために輝き、大地は何人のために存在し、海は何人のために水を蓄え、風は何人のために舞うのか、何人もその問いに答えることかなわず。だが、その存在がなければ、我々はこの問いに悩むことすらかなわない。……つまり、私は私のために存在し、誰もそれを拒むことは出来ない。その理由付けは、他人が決めるものではない。私が女であるにしろ、剣士であるにしろ、最も大切なことは、私が存在していること。ザインは、私自身が必要であると言ってくれたのだ」
本来は、自然を蔑ろにしがちな人間達への問いかけてある。自然は誰のためであるのか、まずこの問い自体が、愚かなことである。自然は自分たちの所有物ではないと言うことだ。誰のための自然であるかという事を考えることは、無意味に等しい。自然が無ければ、自分たちの存在もあり得ない。そこに自然があるという事実が、まず大事なのである。人間はその恩恵を受け生きている。その事実を忘れてはいけないということなのである。
簡略すると、自然は人間達が生きるために、必要であると言うことである。
「……な、なるほど……ね」
アインリッヒにそう言わせたのが自分であることを、すっかり忘れ、詩の解釈に納得するロンだった。平民出という割に、詩人の詩を引用するなど、なかなか細かいところに気を回しているザインに、妙な憎々しさを感じるロン。アインリッヒに再び目をやると、彼女は詩の内容にウットリとし、恥じらいを持って、人差し指をベッドの上に、モジモジと擦り付けている。
〈上手くやりやがったなぁ……〉
すっかりザインに惚れ込んでいるアインリッヒに、心の中で一言呟くロンだった。
二人がそうしている間、ジーオンとザインは、国王、そして大臣達と顔を付き合わせ、エピオニアの軍備増強の原因について、話し合っていた。
エピオニア王がいう。
「そもそも。中央という表現が、納得行かぬのだ。元々我々は連合国家であり、国家間の立場は平等であらねばならぬ筈。この七年間、クルセイドの力は、確実に増している。中央と呼ぶようになったのもそのころからであるが、五大雄殿は、どの様にお考えか?」
「確かに、国王の応せらるると通り、中央という表現には多少の語弊があると存じ上げますが、それはあくまで、便宜上のものであり、しかし事実、各国を纏めているのは、クルセイドでございます。そして、エピオニアも我らが連合の一角、今まで蔑ろにされた事実は、ございますまい?」
と、ジーオンが素早く反撃に出る。互いの言い分は正しいが、ジーオンの方が、より明確な発言だった。
「むぅ……」
エピオニア王は少しやり込められた感じで、声を低くして、立派な顎髭を丹念にさわる。王は、後方に飾られている紅のカーテンの方に、屡々視線を送る。
大きな木造のテーブルを囲んだ大臣達は、その事に気がついていないようだが、正面に座っているザインとジーオンは、すぐに彼の妙な仕草に気がつく。
こう言うときは、大抵、国王の知恵袋になる魔導師が居る。兼ボディーガードでもある。国王の様子だと、可成りその人物を信頼しているようだが、それは逆に国家にとって非常に危険な要素であるといえる。
ジーオンもそうであるが、彼は国王に信頼されているが、個人の国家征服の野心がないため、クルセイドは現在非常に安定している。
国王が自らの判断を他人に委ねる事は、国にとって大事だ。如何なる理由があろうとも、言を発するのは国王なのである。誰に思考を委ねようとも、その最終決定権が己にあることを忘れてはならないのだ。
大臣達も小声で話し始める。あくまでも個人の見解のやりとりだ。直接国王に意見しているわけではない。
〈おかしいなぁ、俺達を監視していたとすれば、ある程度の段取りは、出来ていそうなもんだが……〉
もたついている彼らを見て、ザインは首を傾げた。それからジーオンの方にチラリと視線を送る。それを感じ取ったジーオンも視線を返し、そしてもう一度正面にいる国王を見る。
その時、エピオニア王が言う。
「しばしの休憩を挟もう。スタークルセイド殿も、ノーザンヒル殿も、お疲れのようだ」
国王の独断的な発言である。それ以上何も言わず、席を立ち、彼の右後方にある入り口へと、姿を消して行く。それを見た大臣達も、ゾロゾロと別口から出て行く。
「さぁ、お部屋に案内します」
女中が現れ、ザイン達は、ロン達の待っている部屋へと案内される。ザインの予想とは違った反応だった。少しイラっとした感情が、眉間の皺になる。此処では監視の目だらけだ。迂闊なことは言えないが、何も言わないわけにも行かない。部屋に戻るまでに考えを纏めておくことにしておく。人生経験の豊富なジーオンは、そんなザインを宥めるように、三度ほどに分けて、軽く肩を叩く。
二人は、それぞれの部屋の前で別れる事になる。
「ユリカ!」
部屋に帰るなりいきなり、アインリッヒがザインに飛びついてくる。アインリッヒの体重が、完全に彼の膝に乗り、蹌踉けてしまうが、どうにか転ばないで済んだ。
「で、どうだったんです?」
部屋にはロカも来ていた。収穫の程をジーオンに尋ねるが、ジーオンは首を横に振り、あまり進展がなかったことを示す。ロカは小さく溜息をついた。
「やれやれ、儂の出番は未だ終わってはいなかったようだの」
急に老け込んだジーオンがゆっくりと腰を上げ、馬車の外へ出て行く。そのころには、こちらの馬車より、更に贅沢な馬車が、正面につけていた。そして、いかにも大臣と言わんばかりの服装と勲章をつけ、黒々とした口ひげを生やした一人の中年が、ジーオンの前に立つ。
「コレはコレは、スタークルセイド殿ともあろうお方が、突然訪問なさるとは……」
彼は、ジーオンにしか気がついていない様子だった。エンブレムを見せたのはジーオンだけであったので、その事で誤解を招いているようだ。
かなりの気の使いようだ。額にうっすらと緊張の汗がみられ、愛想笑いの顔が引きつっている。ジーオンしか視界に入らないようで、御者席のロンすら無視されている。五大雄に政治等の絶対的権力は無いが、英雄であるため、その地位は、分別上、大臣より上である。国王との接見も容易であることから、政治的立場でしか国王と接することの出来ない大臣とは、レベルが異なる。無礼な態度は許されない。彼はその事で非常に緊張している。
「うむ。話は後にしよう」
ジーオンは、既に、正面にある馬車が自分たちの送迎であることを把握している。
「そこに居られるのが、ロン=スー=チー=イーストバーム、車内にアインリッヒ=ウェンスウェルヴェン=ウェストバーム、ユリカ=シュティン=ザインバーム=ノーザンヒル、ロカ=アリューウォン=シャイナ=サウスヒル殿が居られる」
「まさか!五大雄が揃って居られるとは……」
大臣は、彼らが全員揃っていることに、腰を抜かして驚く。エピオニアの感情としては、五大雄の来訪は、警戒すべきモノであるが、しかし同時に憧れでもある。そのまなざしが、ジーオンに向けられるのだった。
感動を隠せずにはいられない。彼の個人的な感情が、先走る。だが、自分が大臣であると言うことをすぐに思い出すと、さりげなく咳払いをし、冷静さを取り戻す。
「さぁ、皆様、こちらの馬車へ……」
彼らは、もめ事を極力減らすため、やむなく、その馬車への移動をする事になる。豪華な馬車だ。荷は、彼らの乗っている馬車に積まれたまま、後方から着いてくる。荷馬車扱いである。
コレには二つの意味があった。一つは彼らを迎え入れると言うこと。もう一つは、彼らをエピオニアの監視下に置くと言うこと。
恐らくこのまま何処へも立ち寄らずに、城内へ行くだろう。それだけエピオニアは、中央を警戒しているという事である。だが、問題はその理由である。兵の話では、中央に対する危機感だという事だが、危機感の元は何であるかである。
エピオニアの中心に近づいた頃、ザインの膝の上に、頭を寄せて眠っていたアインリッヒが、目を覚ます。眠りが浅くなったことと、自分の体勢が変化していたことに気がついたせいである。車内の雰囲気が変わっていることにも気がつく。
「ユリカ?」
「大丈夫。寝てろ」
不安げなアインリッヒの肩を抱き、頭を抱き寄せ、彼女の髪を何度も撫でる。一度は目を覚ましたアインリッヒだったが、ザインに触れられていることが心地よくなり、再び眠りにつく。
次に、アインリッヒが目を覚ますと、そこは部屋の中で、自分はベッドの上に寝ていることに気がつく。横にはザインは居ない。その事に気がつき、ベッドから飛び起きると、その横にあるソファーでは、大欠伸をしているロンが居た。ロカも居ない。
「ユリカは?」
「ふぁぁ、奴さんなら、御老体と一緒に、エピオニア王に接見してる。ロカはメイドを口説いてる……」
ザインが、自分を放ってどこかへ消えてしまったのではないことを知ると、アインリッヒはホッとした顔をする。その表情の変化は、ロンにも良く解る。安心した柔らかなその顔に、ロンが思わずこんな事を言ってしまう。
「彼奴の何処が良いんだ?」
ロンもザインが嫌いではない。同じ質問をされれば、愚問であると言いたいくらいだ。夜盗とやり合ったときに、交わしたあの一言が、ロンには忘れられない。それに何となく気があう。アインリッヒと部屋に隠りっきりになったときにも、どうしようもない奴だと思いながらも、憎めない。どさくさに紛れて麻雀台を転かしていったことも、忘れては居ない。それも憎めない。
「ユリカは、こう言ってくれた。私は女でも良い、剣士でも良い。そして、こうも言った。陽は何人のために輝き、大地は何人のために存在し、海は何人のために水を蓄え、風は何人のために舞うのか……」
「へ、へぇ……」
しかし、ロンは濁した返事をする。ロイホッカーの名は知っているが、詳しい事は知らない。
「で?」
結局何が言いたいかは解って居らず、こう言ってしまう。その返事が、彼がその意味を理解していない事に気がついたアインリッヒが、仕方が無さそうに、だが、嬉しそうにこう言った。
「陽は何人のために輝き、大地は何人のために存在し、海は何人のために水を蓄え、風は何人のために舞うのか、何人もその問いに答えることかなわず。だが、その存在がなければ、我々はこの問いに悩むことすらかなわない。……つまり、私は私のために存在し、誰もそれを拒むことは出来ない。その理由付けは、他人が決めるものではない。私が女であるにしろ、剣士であるにしろ、最も大切なことは、私が存在していること。ザインは、私自身が必要であると言ってくれたのだ」
本来は、自然を蔑ろにしがちな人間達への問いかけてある。自然は誰のためであるのか、まずこの問い自体が、愚かなことである。自然は自分たちの所有物ではないと言うことだ。誰のための自然であるかという事を考えることは、無意味に等しい。自然が無ければ、自分たちの存在もあり得ない。そこに自然があるという事実が、まず大事なのである。人間はその恩恵を受け生きている。その事実を忘れてはいけないということなのである。
簡略すると、自然は人間達が生きるために、必要であると言うことである。
「……な、なるほど……ね」
アインリッヒにそう言わせたのが自分であることを、すっかり忘れ、詩の解釈に納得するロンだった。平民出という割に、詩人の詩を引用するなど、なかなか細かいところに気を回しているザインに、妙な憎々しさを感じるロン。アインリッヒに再び目をやると、彼女は詩の内容にウットリとし、恥じらいを持って、人差し指をベッドの上に、モジモジと擦り付けている。
〈上手くやりやがったなぁ……〉
すっかりザインに惚れ込んでいるアインリッヒに、心の中で一言呟くロンだった。
二人がそうしている間、ジーオンとザインは、国王、そして大臣達と顔を付き合わせ、エピオニアの軍備増強の原因について、話し合っていた。
エピオニア王がいう。
「そもそも。中央という表現が、納得行かぬのだ。元々我々は連合国家であり、国家間の立場は平等であらねばならぬ筈。この七年間、クルセイドの力は、確実に増している。中央と呼ぶようになったのもそのころからであるが、五大雄殿は、どの様にお考えか?」
「確かに、国王の応せらるると通り、中央という表現には多少の語弊があると存じ上げますが、それはあくまで、便宜上のものであり、しかし事実、各国を纏めているのは、クルセイドでございます。そして、エピオニアも我らが連合の一角、今まで蔑ろにされた事実は、ございますまい?」
と、ジーオンが素早く反撃に出る。互いの言い分は正しいが、ジーオンの方が、より明確な発言だった。
「むぅ……」
エピオニア王は少しやり込められた感じで、声を低くして、立派な顎髭を丹念にさわる。王は、後方に飾られている紅のカーテンの方に、屡々視線を送る。
大きな木造のテーブルを囲んだ大臣達は、その事に気がついていないようだが、正面に座っているザインとジーオンは、すぐに彼の妙な仕草に気がつく。
こう言うときは、大抵、国王の知恵袋になる魔導師が居る。兼ボディーガードでもある。国王の様子だと、可成りその人物を信頼しているようだが、それは逆に国家にとって非常に危険な要素であるといえる。
ジーオンもそうであるが、彼は国王に信頼されているが、個人の国家征服の野心がないため、クルセイドは現在非常に安定している。
国王が自らの判断を他人に委ねる事は、国にとって大事だ。如何なる理由があろうとも、言を発するのは国王なのである。誰に思考を委ねようとも、その最終決定権が己にあることを忘れてはならないのだ。
大臣達も小声で話し始める。あくまでも個人の見解のやりとりだ。直接国王に意見しているわけではない。
〈おかしいなぁ、俺達を監視していたとすれば、ある程度の段取りは、出来ていそうなもんだが……〉
もたついている彼らを見て、ザインは首を傾げた。それからジーオンの方にチラリと視線を送る。それを感じ取ったジーオンも視線を返し、そしてもう一度正面にいる国王を見る。
その時、エピオニア王が言う。
「しばしの休憩を挟もう。スタークルセイド殿も、ノーザンヒル殿も、お疲れのようだ」
国王の独断的な発言である。それ以上何も言わず、席を立ち、彼の右後方にある入り口へと、姿を消して行く。それを見た大臣達も、ゾロゾロと別口から出て行く。
「さぁ、お部屋に案内します」
女中が現れ、ザイン達は、ロン達の待っている部屋へと案内される。ザインの予想とは違った反応だった。少しイラっとした感情が、眉間の皺になる。此処では監視の目だらけだ。迂闊なことは言えないが、何も言わないわけにも行かない。部屋に戻るまでに考えを纏めておくことにしておく。人生経験の豊富なジーオンは、そんなザインを宥めるように、三度ほどに分けて、軽く肩を叩く。
二人は、それぞれの部屋の前で別れる事になる。
「ユリカ!」
部屋に帰るなりいきなり、アインリッヒがザインに飛びついてくる。アインリッヒの体重が、完全に彼の膝に乗り、蹌踉けてしまうが、どうにか転ばないで済んだ。
「で、どうだったんです?」
部屋にはロカも来ていた。収穫の程をジーオンに尋ねるが、ジーオンは首を横に振り、あまり進展がなかったことを示す。ロカは小さく溜息をついた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる