主役はオマエだ!!

光樹 晃(ミツキ コウ)

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6章 山中の激闘

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「来るぞ、マチーナ! 剣を構えろ!」
「わ、わかってるけど、薬草が……っ」
「それは後だ、今は戦いに集中するんだ!!」

 炎上する薬草群を前に狼狽えるマチーナを、フラッドが叱咤する。その間にも、三体ほどのコボルトが二人に向かって突進してきていた。

「しっかりしろっ、まずはこの状況を切り抜けるのが先だ!」

 未だに動揺から剣を構えられずにいるマチーナに強い口調で言い聞かせる。それと同時に、向かってくる一体へと踏み込んだ。

「ちっ、厄介な!」
「グォッ」
「ガアァッ!!」
「ゲヒンッ」

 そのまま剣を横に薙ぎ、一体を斬り捨てる。剣を振るった動きで、続けてその隣のコボルトに鋭い蹴りを放って弾き飛ばして。
さらには蹴りの反動を利用して、反対側のコボルト目掛けて袈裟懸けの斬撃を繰り出した。

「──はっ!」

 足元に転がってきたコボルトを目にして、マチーナが我に返る。そして慌てて小剣を手にして、戦闘態勢を取った。

「ごめんなさい、フラッドさんっ。アタシ……!」
「反省は後にしろ。まずはコイツらを片付けるのが先だ」
「はい!」

 蹴り飛ばされたコボルトに走り寄り、素早く剣を振るうマチーナ。それを斬り伏せると間を置かずに後ろに飛び、敵との距離を取る。
 一方フラッドは固まって立つコボルトの懐へ近付き、流れるような斬撃を放ち打ち倒していく。正確に次々とコボルトを縫うような動きで立ち回り……

「チッ!」

 足を止め、舌打ちしながら不意に飛んできた矢を剣で打ち落とす。どこからか新たに現れた、弓コボルトによる射撃。数の不利に加え、地の利と連携の面での劣勢も強まっていた。

「まずいな……まさかこんなに戦力を整えてるとは」
「フラッドさんっ、伏せてください!」

 良くない状況に思案を巡らせるフラッドに、突然のマチーナの掛け声。反射的に彼女に顔を向ければ、マチーナは胸の前に両手を合わせ呟いているところだった。
 瞬時に彼女がしようとしてる事を察し、態勢を低くしながらコボルトから距離を取る。

「いけぇっ、アイスウィンド!!」

 声を発しながら開いた両手を前に伸ばすマチーナ。その手のひらから、冷気を纏った風がコボルトたちに向かって吹き出した。

「グガッ」
「ギャッ」
「ゴァアッ」

 冷気を受けて、獣人たちが次々に呻き声を上げる。冷たい風に圧され仰け反るようになりながら、その肉体が一瞬にして凍り漬けになっていった。

「ふっ!」

 冷気が収まるや否や、フラッドが凍り付いたコボルトたちを斬撃の連続で打ち砕いていく。魔法の直撃を免れたコボルトも、少なからず冷気を受けて動きが鈍っていた。そちらへも隙を与えず斬りつけ、倒していった。

「ウオオオオンッ」

 マチーナの魔法、それに連携してのフラッドの攻撃。獣の気勢を崩すには効果は十分だった。
残ったコボルトの一体が遠吠えを上げ、呼応するように他のコボルトたちが後退していく。
 そして、山中の激闘は幕を下ろした。

* * * * *

「退散したか。それにしてもまさか魔法が使えるとはな、驚いたぞ」
「ちゃんと学んだ訳じゃないですから、そんなに上手くは無いんですけどね」

 完全にコボルトたちの気配が去ったのを確認して、剣を納め一息つくフラッドとマチーナ。感嘆の声を発したフラッドに、マチーナは少し照れたように言った。

「いや、あれだけ使えれば上出来だ。おかげで助かった」
「役に立てたなら良かったです。……それより」

 沈痛な面持ちで顔を向けたのは薬草の群生地。冷気魔法の効果もあり、既に火は消えていたが目当てだった薬草はすっかり焼けていた。

「せっかくここまで来たのに……」
「諦めるのは、しっかり見てからにしよう。まだ無事なのがあるかもしれないしな?」
「……そうですね」

 落ち込むマチーナに、フラッドがそう言って二人で焼けた群生地へと近付いていった。慎重な手つきで探ると……

「っ! あった!」

 不意にマチーナの口から明るい声が飛び出す。その手には、ほぼ無傷な薬草が握られていた。フラッドへと振り返った顔には喜びの色が浮かんでいる。
嬉しそうなマチーナに、フラッドも頷き笑顔で返す。

「な?」
「はい!」
「よし、じゃあ急いで村に戻るとするか」

 言ったフラッドにマチーナが頷き、二人は元来た道を戻る為にその場を後にした。二人とは反対側、山頂へ向かって並んだ木々の隙間から彼らを見つめる視線が一つ。

「まさか生き延びるとはな……」

 それは先ほどのローブの男。けしかけたコボルトたちを退けたフラッドたちに驚きの呟きを漏らす。そして、口の端を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべた。
嬉しそうな様子でフラッドに話しかけながら遠ざかる、マチーナの後ろ姿に視線を注ぎながら。

「くっくっくっ……どうやらヤツの言っていたのは、あの娘のようだな……」

 下卑た笑いと共にそう呟いて、ローブの男は山林の奥へと姿を消していった。

* * * * *

「それにしても、さっきの男……何者だったんだろう?」
「さあな、俺にもわからん。ただ、妙な事を言ってたのは気になるが……」

 コボルト達との戦闘に入る前、去り際にいった言葉が脳裏をよぎる。「こちらに来て日が浅い」「この世界」。前者は単純に考えるなら、別の地方からやって来たと解釈するのが自然だが。

「まぁ、出来る事ならもうお目には掛かりたくないな」
「ですよね。なんか、気味が悪かったし」

 フラッドの一言に、マチーナが嫌そうな顔をして同意する。それがなんだかおかしくて、フラッドの顔が思わず緩んでしまった。

「な、なんですかっ? ニヤニヤして……」
「いやいや、あんな戦いの後なのに案外と普通だからな。それがちょっと微笑ましくてね」
「むー。これでもホッとはしてるんですよ? あんなに大勢のコボルトとの戦闘なんて、初めてだったんだから」

 それは当然だろう、とフラッドは内心で思った。平穏な村に暮らしていれば、あんな状況に陥る場面なんて普通はない。それでもこの落ち着き方は、さすがにヤッシュに育てられただけはあると感心していた。

「それに、何とか薬草も手に入れられましたからね……」

 しっかりと手に持った薬草に目を落とし、本当に安心したといった様子の顔でマチーナが言う。群生地に火を放たれた時の狼狽を考えれば、今こうしてそんな風にしていられるのは幸いだった。

「しかしあの群生地、もう使い物にならないな。どうするんだ?」
「それは大丈夫です。いつもは一番近いからあの場所を利用していましたが、他にも薬草の這える土地はありますからね」
「そうか。とりあえず村長には報告しておいた方がいいだろうな」
「そうですね」

 さきほどの事を考えれば、マチーナの話した他の薬草のある場所でも同じようなことが起きる恐れもある。自分達が遭遇した出来事と合わせて、村の方でも注意するように伝える必要はある。

「それにしても魔法が使えるとは驚いたな。あれもヤッシュさんから?」
「いえ、魔法については独学で……その、アタシの本当の両親が残した魔術書を読んだりして」
「そうか……」

 感心したように言ったフラッドに、遠い目をして答えるマチーナ。それを聞いてフラッドは合点がいく。かつて、ヤッシュと共に関わった事件での事と、マチーナが繋がっていることを理解した。

「でも独学で覚えたから、上手くは使えないんですよね。もしも叶うなら、ちゃんとした場所でも学びたい気持ちはあるんですけど」
「独学にしては、かなりの物だったけどな? それに本気で学ぶ気があるなら、行ってもいいとは思うんだが」

 魔術の道を薦めるフラッドの言葉に、マチーナは困った顔を浮かべる。素質は間違いなくある、しっかりと勉強をすれば彼女なら相当な使い手になれるだろうと、フラッドは見ての言葉だったのだが。

「そうしちゃうと、ティートが一人になっちゃいますから」
「……なるほど」

 マチーナの口から出てきたのはそんな寂しそうな一言。言葉の上ではティートを思いやってのものだが、彼女の方にしても彼と離れるのは抵抗があるのだろうとフラッドは感じた。

「そう言えばティートとは夫婦なのか?」
「んなっ!? なななっ、何を言ってるんですかフラッドさん!」

 ふと気になって訊ねると、途端に顔を赤くしながら両手をバタバタと振ってマチーナは否定してきた。その反応が彼女の本心を物語っているのを悟り、フラッドは苦笑する。

「ティティティ、ティートとは小さい頃から一緒に過ごして来ただけでっ、だから家族って言うか弟って言うか!!」
「あー、わかったわかった。マチーナ、落ち着け」
「んもぅっ」

 必死で否定するマチーナを宥めると、彼女は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。ティートを想うマチーナの気持ちに、フラッドは自然と微笑みを浮かべる。

「だったら、ティートと一緒に都会に出ればいいんじゃないか?」
「……え? ティートと?」

 妙案とばかりに人差し指を立てながら言ったフラッドに、マチーナがぼんやりと呟いて。しばし考えた後、ぶんぶんと頭を振って否定した。

「ダメダメ! 臆病なティートが都会に出るなんて……絶対にムリですよ!」
「そうかぁ? 我ながら悪くない案だとは思ったんだけどな」
「そ、それにっ、知らない土地でティートと二人っきりなんて……っ」

 結局のところはやはりマチーナの問題による部分が大きいようだ。ムリとは言いつつもぶつぶつと独り言を続け、満更でもない様子なのがやはり微笑ましい。

「そうは言っても今だって、知らない場所でこそないが彼とは二人で暮らしてるんだろう?」
「まぁ、そうですけど……でもそれは、ヤッシュさんやアタシの両親が見守ってるって思えるから」
「ふーん。そんなもんか」
「えぇ、そんなもんです」

 指摘に穏やかな表情で答えるマチーナに、フラッドも何となくそれ以上は言えない気になりあっさりと頷く。
マチーナが真似するように返して、顔を見合わせて二人で笑った。

 その後も他愛もない話を続けながら、二人は山道を少し早めのペースで下りていく。ある程度はならしてあるとは言え、不規則な隆起のある山道を急ぐのは危なかった。
 帰り道にも何らかの襲撃があるかと警戒はしたものの、特にそういった気配も感じられないまま。

「それにしてもフラッドさんに一緒に来てもらって、本当に良かった。アタシだけだったらどうなってたか……」
「いや、オレもまさかあんな戦闘になるとまでは思ってなかった。せいぜい、一体二体のコボルトと鉢合わせするかも程度にしか考えてなかったからな」
「それに、薬草を採りに行くのも後押ししてもらって……本当にありがとうございます」

 ティートの為の薬草の採取。それを共に経たことですっかりマチーナは打ち解けていた。それにしても、とフラッドは思う。
つかの間とは言え遭遇したローブの男が、心に引っ掛かる。コボルトの群れを従え、薬草を集めていた様子。
 言葉を交わして受けた印象から考えて、まず間違いなくロクでもない目的の為に動いてた、と見るべきだろう。
そしてそれは恐らく、アトル村に再び害をもたらすであろう事も予想される。最悪の可能性がフラッドの脳裏を掠めていく。

「今度はオレだけ、か……」
「え? なんですか、フラッドさん?」
「いや、独り言だ」

 かつての記憶。そこに居たのはフラッドと、そしてヤッシュ。もしもまた、『魔竜』が現れるような事があれば。嫌な予感と、それに対峙した時への不安フラッドの全身が引き締まる。

「あ、村が見えてきましたよ!」
「ようやくか。早くティートに届けてやらなきゃな」

 マチーナの上げた声に遠くを見れば、アトル村が目に入るところまで来ていた。まだそうなるかはわからない。
それにもしもそうなったら、今度は自分がやる番だと言い聞かせながら。
 足取りの軽くなったマチーナと共にアトル村へと近付いていった。
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