主役はオマエだ!!

光樹 晃(ミツキ コウ)

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8章 遠い約束

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「ティート、無理はするな!」
「どいてっ、アタシが!」
「マチーナ!?」

 目的の場所へ向かう道中、フラッドたち三人の前には次から次へとモンスターが現れ、行く手を阻んできた。
襲い来るモンスターを相手に、やはり率先して戦うのはフラッド。それに続くのがマチーナで、ティートは二人と比べれば気後れしてしまう様子。

「マチーナも前に出すぎるんじゃない、自分達の身を守ることを優先するんだ」
「大丈夫ですっ、アタシだってこのぐらい……あっ」
「くっ、危ないよマチーナ!」

 フラッドの言葉に気を張って前に出るマチーナ、その隙を衝いて飛び掛かってきたウルフをティートが遮った。剣で受け止めはしたものの、モンスターの力にジリジリと圧されていく。

「やぁ!」

 押し合いになって動きを止めたウルフを、マチーナの振るった剣が薙ぎ払った。

「ごめん、マチーナ」
「反省は後にして! 今は戦いに集中するの、ティート!」
「わかった」

 一頭を倒しても、周囲にはまだ大量のウルフの群れ。気が緩みかけたティートをマチーナが叱咤し、二人は剣を構え直す。
二人が四苦八苦しつつ一頭を撃退する間に、フラッドは流れるような動きと鋭い剣撃で五体ほどを斬り伏せていた。

「ったく、キリが無いな」
「フラッドさん、どうしますか!?」
「どうしたものやら。とにかくお前たちは、自分の身を守ることに専念してくれ」

 冗談めかした口調で返しながら、フラッドはこの状況を脱する為の策を探して思考を巡らせる。さほど深いとは言えないが森の中、地の利は言うまでもなくウルフたちの方にあった。

「やっぱ、森を抜けるのは縁起が良くないな……っと!」
「ガアッ」

 アトル村へ向かっていた時を振り返りながらの愚痴をこぼしつつ、襲い掛かってきたウルフの一体を斬り捨てる。だがこうして一匹ずつ倒していても、焼け石に水でしかなかった。

「ハァッ!」
「このっ!」

 ティートとマチーナの掛け声が上がり、それぞれ一頭ずつウルフを打ち倒す。フラッドほど戦い慣れしていないせいか、二人から疲労の気配が見え始めていた。

(まずいな。早いところ終わらせないと、二人が持たないか……)

 結構な数を既に倒してはいるものの、三人の周囲を走り回り襲い掛かる隙を窺うウルフは、まだ十頭以上が残っていた。数の多い群れを成した獣は厄介な敵である。
もっと小規模な群れであれば、少し数を減らすだけで逃げていくものなのだが……

「あれで行くか。マチーナ、前に使った冷気魔法を撃ってくれ! ティートはマチーナの護衛を頼む!」
「えっ!? あ、はい!」
「わ、わかりました!」

 二人に指示を出し、フラッドは周囲を駆け回るウルフたちの走行線上に割り込んでいった。駆けていた一体が反射的に目の前の獲物に飛び掛かっていき、爪と牙の攻撃をフラッドは横にした剣で受け止める。
そのまま押し返すこともなく剣を手放して、素早く後ろへと跳び退いた。

「今だ、マチーナ!」
「……アイスウィンドウ!」
「グガッ!?」

 圧力を掛ける相手を失い、宙空で無防備になったウルフ目掛けて、冷気を纏った魔力の風が直撃した。短い呻きを最後に、全身が凍り付いたウルフの肉体が地面に落ちる。
 すかさず手放した剣を掴んだフラッドが凍結したウルフに近付き、そのまま刃を打ち付けその肉体を粉々に砕き散らせた。

「グルルル……ヴァウッ!」

 低い唸り声の後に一吠えして、ウルフの群れはフラッド達から一斉に離れる。容赦のない力を見せ付ける、それが大きな群れを成した獣には効果的な戦法だった。

「ふぅ、なんとか追い払えたか。助かったよ、マチーナ」
「いえ……」
「マチーナ、大丈夫?」

 難を切り抜け、緊張から解放されたマチーナがよろめく。ティートがその身体を支え、気遣う言葉を掛けた。

(まさかここまでとは、予想外だな)

 村を発つ時には、多少の戦闘はあるものと考えていたが実際には多少どころではない。それはこの二人にとっても同じ……いや、フラッド以上に感じているだろう。
 村から出る時に見た二人の顔を思い出す。

* * * * *

「じゃあ村長、行ってくる」
「はい。二人を頼みます、フラッド殿。ティート、マチーナ。お前さん達も無事であることを祈っておるぞ」

 薬草を持ち帰ってから二日後。再び村を出発するフラッドたち三人を見送る村長との会話。
ティートとマチーナを案じる村長の言葉に、二人も引き締まった顔で頷いて。そうして三人は村を経った。

「目的の場所は少し遠い、泊まり掛けでの行動になるから二人とも覚悟はしておけよ」
「大丈夫です、フラッドさん」
「ティート、怪我は本当に大丈夫?」
「マチーナが持って来てくれた薬草のおかげで、もう平気だよ」

 不安げなマチーナとは違い、顔を見ればティートが強がりや我慢をしているのでないのはわかった。とは言え、まだ無理をさせないようにはしようとフラッドは胸の中で呟く。

「多少はモンスターとの戦闘にも遭遇すると思うが、二人は自分の身を最優先にしてくれ。オレが敵の撃退はするから」 
「何言ってるんですか、フラッドさん。ティートはともかく、アタシはちゃんと戦えますから!」
「マチーナ、フラッドさんの言葉には聞かないと……」

 先日の経験もあるのだろう、マチーナは強気に反論をする。それを穏やかにたしなめるティートに、マチーナは怒ったような顔をして。

「ティートは臆病だもんね。アタシが守るから、あんたは後ろにいればいいわ!」
「別に僕はそんなつもりで言った訳じゃないよ……」

 若干、苛立ったように一蹴するマチーナと、彼女の迫力に圧されてか語尾が弱々しくなるティート。対照的な二人に「こりゃ、道中は賑やかになりそうだ」と、フラッドは呟きを漏らした。

「ところでフラッドさん。これから向かうのって何処なんですか?」

 そんなこんなで歩き出して間もなく、ティートがフラッドへとそう訊ねてきた。隣のマチーナも興味津々と言った顔をして、フラッドへ視線を向けてくる。

「そうだな。お前の親父さん、ヤッシュの形見……のような物を置いた場所ってところか」
「! 父さんの、形見……ですか」
「でもどうして自宅じゃなくて、そんな村から離れた所に?」
「それはまた、そこに到着してから話すよ。これから必要になる物だし、な」

 意味ありげに言うフラッドに、ティートとマチーナの二人は顔を見合わせ首を傾げる。気になるようだが、フラッドの雰囲気から何となく今は聞いても無駄なのを察し、二人はそれ以上なにも言わなかった。

「ただ、お前の親父さんはこうなる事を予測してたんだろうな。もちろん生きていれば、自分で何とかしようとしてたんだろうが」
「こうなる事、ですか?」
「……お前さん達がまだ小さい頃の事だ。話ぐらいは聞いてるんじゃないか?」

 言葉を向けられ、最初に心当たりに思い至ったのはマチーナだった。驚きの表情になりながら口を開く。

「“魔竜”、ですか……?」
「あぁ」

 かつてアトル村を襲う災厄があった。自然の起こす脅威はもちろんあれど、それとはまるで性質の違う脅威。
巨大なモンスターによる、村の滅亡の危機だった。

「でも、“魔竜”はヤッシュさんと仲間が倒したはずじゃ……」
「あの時はな。だが、完全に倒せた訳じゃない。いずれ復活することを、ヤッシュは予見してた」
「待ってください。フラッドさんはなぜそれを?」

 話すフラッドにティートが疑問の声を上げる。マチーナも「あっ」と声を漏らし、頷いた。
一度、空を仰ぎ見て深呼吸をした後に二人へと顔を戻し、フラッドが口を開く。

「その時、ヤッシュと一緒に“魔竜”と戦った仲間の一人だからさ」

* * * * *

 始まりは山を震わせ揺るがせるほどの、低く重い巨獣の咆哮からだった。それを合図にするかのように村へはモンスターからの襲撃が頻発するようになり、村の者は窮地に立たされる事となる。
当時の村長がその地を捨てるしかないかと諦め掛けた頃、この地を統べているフィロスタ皇国からアトル村に来たのがヤッシュだった。

「それまでのヤッシュはフィロスタ皇国の騎士団の、団長を任せられた名うての騎士だった」
「えぇ、その頃の話はよく父さんから聞いてました。僕にも騎士になるのを勧めてはいたのですが……」
「ティートは臆病だからね、騎士になんてなれっこないよ」
「まぁまぁ、そう言うなマチーナ。誰でも向き不向きはある」

 不機嫌そうにティートに突っ掛かるマチーナを宥めながら、フラッドは昔話を続ける。
巨獣の咆哮の後、その時の村長は住民から使いを出して皇国への救援を要請していた。しかし日が過ぎても皇国からの便りも、救援の兵も訪れることはなく。
 そうこうする内に頻繁に現れ、村を襲うモンスターたち。頼れる物もない中で、諦めに支配されるのは無理からぬことだった。
実際にはフィロスタ皇国もまた、モンスターの大軍との戦いに追われていて、アトル村の救援までは手が回らない状況にあったのだが……
 そんなままならない状況に耐えられず、騎士団長の身分を捨ててヤッシュは村へ行く事を決意したのである。

「アトル村はヤッシュの故郷でもあったからな。見殺しにすることが出来ないのもわからないでもない。ただ、その当時は騎士団がモンスターとの戦いの要でもあったからな……
苦渋の選択だったのは間違いない」
「その話をする時は、いつも複雑な顔でしたね。ただ、同時に言ってたのが『後悔はしていない』でしたけど」
「だろうな」

 そうして村へと戻ったヤッシュは、自分以外にも何人かの仲間を連れていた。その内の一人がフラッドだった。
襲撃をはね除け、少し離れた地への避難を村に促してヤッシュは災厄の元凶へと向かう。ヤッシュの手配は完璧で、避難先として指定した地には、しっかりと落ち着けるように準備のされた宿営地を用意していた。

「その宿営地にはお前とお前の母親。それにマチーナも連れてきていた」
「えっ、アタシも……? 全然覚えてなかった」
「しょうがないよ。マチーナは僕より二つ下だし、僕だってあんまりその時の事は記憶してないからね」
「まぁ、それはともかく……ヤッシュはそこへ村人を避難させてから、オレや他の仲間を連れて山へと向かった訳だ」

 向かった山では激しい戦闘の連続だった。村を襲撃していたのとは比べ物にならない数のモンスター、そして仲間の負傷などもあって道行きは困難を極めていた。
そして辿り着いた先にいたのが、“魔竜”だった。

「あ、フラッドさん。その先は」
「ありがとう、ティート。アタシは大丈夫だよ、だから聞こう」

 気にしたティートが話を止めようとするも、そんな優しさと起きた事を理解してマチーナが先を促してくる。それはマチーナにとっては、辛い過去でもあった。

「“魔竜”は普通のモンスターとは、比較にならないほどの強さだった。戦いの最中、仲間も倒れていった」
「……アタシの両親、ですよね」

 ヤッシュと共に山へ向かい、“魔竜”との戦いに臨んだ仲間の中にマチーナの両親も加わっていた。二人はヤッシュやフラッドと同じくフィロスタ皇国の魔法師団に所属する、やはり実力ある魔導師であった。
 だが想像を絶する“魔竜”の強さの前に、還らぬ人となってしまう。その時のことは、フラッドもあまり思い出したくはない苦い記憶。

「それでもヤッシュは挫けず、諦めず。死力を尽くして戦って……そして“魔竜”を討ち果たした」
「…………」
「だけど今、アトル村に起きてる異変もまた“魔竜”に関係してるんでしょ?」

 フラッドの話を聞き終え、マチーナが疑問を投げ掛けて来る。だが、フラッドはただ「わからない」とばかりに首を横に振るだけだった。

「だが、ヤッシュはどうしてかはわからないが、再び“魔竜”の危機に晒されると確信していた。その時に助けになるようにと、今から向かう場所にある物を封じたんだ」
「ある物、ですか」
「封じた……?」
「まぁ、それについてはまたそこに着いてから話す。とにかく今はそこへ急ごう」

 その時には、今はまだ話していない“魔竜”との戦いの真実を語ろう。遠い空に視線を向けながら、フラッドは胸の中で呟いていた。
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