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11章 過去の真実【2】
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「野営地ではヤッシュから家族、つまりティートとその母親。それからマチーナを紹介されたな」
「ごめんなさい。アタシ、その時のことは……」
「わかってるさ。ティートはどうだ、あの時に俺と初めて会ったのは覚えてるか?」
「あんまり。あの時は雰囲気も普段とは、まるで違いましたからね。僕は母の側にいるだけで精一杯でした」
当時を振り返ると、フラッドにしてもティートやマチーナに関する記憶は曖昧であった。アトル村へ向かうことに意識がいっていた事もあり、軽い挨拶を交わした程度である。
「ただヤッシュの奥方、つまりティートの母親については強く印象に残っているな」
「母さん……」
「町民の出ではあったが、とても気丈で気さくで。それにヤッシュとの信頼の強さは羨ましくも思ったものさ」
「そうですね。僕も小さい頃にしか記憶はありませんが、母はとてもしっかりした人でした」
「あぁ。さて、それじゃあ話の続きに戻るか。まだ精霊の方は今しばらく時を要するだろうしな」
* * * * *
野営地での一夜を明かしたヤッシュとフラッドは、グロウにその場を任せて早々に出立した。出る際にはヤッシュとその妻の約束のような無言の会話を目にして、フラッドは夫婦の絆というものを知ったような気がしていた。
「待たせたな」
「いや。いいのか、あれで?」
「あぁ。目と目を合わせるだけで何となくわかるもんさ、夫婦ってのはな」
「そんなもんなのか。……それで、どう行けばいい?」
少し自慢げなヤッシュにやれやれといった仕草を見せつつ、今後についてフラッドが問いかけると。
「ここから少し行ったところに深い森があるんだが、そこをまっすぐに突っ切って行く。街道を行くよりもずいぶんと早いからな」
「念のために確認するけど、道はちゃんとわかってるよな……?」
「当然だろ。何せ俺はガキの頃からあの森では遊んでいたんだからな、ギースやイセシアと一緒にな」
「なら大丈夫そうだな。しかしギースさんやイセシア?んが森であんたと一緒に遊んでた、ねぇ。なんだか想像がつかないな」
フラッドの知る二人は、まさに優秀な魔導師といった雰囲気をたたえていた。実際に皇国でも屈指の魔導技術と、常に的確で冷静な判断力を備えた理知的を絵に描いたような人物たち。
そんな二人が森の中で遊んでいたと言うのは、少々意外なものがあった。
「ま、その話は森を抜けながらしてやる。とにかく行くぞ」
「了解だ。……グロウ、野営地は頼んだぞ!」
「あぁ、任せてくれ。二人とも、ギースさんやイセシアさんと共に無事に帰ってきてくれよ」
「もちろん!」
グロウに声を掛け、そのままヤッシュとフラッドはアトル村へ続く森を目指して歩き出した。道中、モンスターとの遭遇などもないまま順調に進み、やがて見えたのは外から見てもまるで天然の洞窟と思うような、深くて大きな森であった。
「半日もあれば森を抜けられるが、くれぐれも俺を見失うなよフラッド」
「モンスターの分布なんかはどうなってるんだ?」
「せいぜい野生の獣や、コボルト程度ぐらいだが……。今は何とも言えない。注意はしておけ」
「わかった」
踏みいった森の内部は暗く、そして不規則に密集して立つ樹木は方向感覚を失わせる魔力があった。そんな中を、まるでルートが見えているかのようにすいすいと進んでいくヤッシュを、フラッドは必死で追いかけて。
気が付けば森の出口に辿り着いていた。
「あそこだ。おっと、俺たちが来るのがわかっていたみたいだな」
森を抜けるとすぐ先にはアトル村が目に入った。その近くで立ち、ヤッシュたちへ手を振る人影が二つ。先に皇国を出奔していたギースとイセシアが、このタイミングでヤッシュが来るのをわかっていたように出迎えていた。
「早かったな、ヤッシュ! それにそっちは……フラッドくんか。まさかヤッシュ、お前が強引に連れて来たのでは」
「な訳あるかよ! この分からず屋が無理やり着いてくるって言って聞かなかったんだよ」
「まぁ。ふふ、でもさすがはヤッシュの愛弟子と言ったところかしら」
ヤッシュの弁解にイセシアが笑いながら言う。微妙にばつが悪そうな顔をするヤッシュは、誤魔化すように頬を指で掻く。
「仕方ないな、君も。だが、正直に言えば助かるよ、フラッドくん。ところで……」
「グロウならば今は野営地の護衛に残ってくれています」
「そうか。グロウはあの通りの性格だから来ないと思っていたが、少し理解が足りていなかったかな?」
「だから言ったでしょう? あの子にもちゃんと話をしておくべきだって」
フラッドがグロウについて話すと、少し困ったような顔で言うギース。そんな夫をたしなめるように、イセシアが言葉を掛けていた。
「だがな」や「しかし」など、言葉を濁すギースへ、イセシアがとくとくと穏やかな口調ながら厳しい言葉で諭していく。最後にはそんな妻に折れたギースが、「私が間違っていたよ」と告げて、満足げにイセシアが微笑んでいた。
「な、フラッド? イセシアってのはあんな感じなんだよ。ギースの奴もすっかり尻に敷かれて……」
「ヤッシュ? 何か言ったかしら?」
「い、いや。何でもない! それより村長に顔を出さないとな」
にっこりとした笑みで問うイセシアに、ギースはやや引き気味になりつつ首を横に振り。話題を変えるように村へ入ることを進言した。
「そうだな。まだ私たちにも今がどんな状況なのか、はっきりとは把握出来ていない。村長の話を聞いて、迅速に動かなければ」
「それじゃヤッシュ、フラッドくん。行きましょうか、こっちよ」
ギースの言葉にヤッシュとフラッドが頷いて、イセシアの案内で四人は村長の元へと歩き出した。
* * * * *
「ヤッシュ、話はギースとイセシアから聞いておるぞ。この村の為にお主たちには迷惑を掛けてしまって、本当に申し訳ない」
「村長、俺たちが勝手にしてることだ。それにいずれ隠居した頃にはこっちで過ごそうと考えているんだからな、無くなってもらっちゃ困るってだけの話だ」
「それで村長、状況はどんな感じなんだ?」
当時のアトル村の長は、現在の村長の先代にあたる人物だった。深いシワの刻まれた顔に苦渋を滲ませて言う村長に、ヤッシュは気にするなといった風に返しギースが話の先を促す。
「ギースとイセシアは知っておるだろうが、モンスターの襲撃が日に日に頻度を増しておる。皇都へ出した使いの者にも伝えてはあったが、山からは何か巨大なモンスターらしき咆哮も時折聴こえていてな……」
「なんだギース。もうモンスターの襲撃に遭遇してたのか?」
「あぁ。コボルトやウルフ、それにインセクトの群れなどそれほど手強いモンスターではないんだが」
「ただ、そんなモンスターでも群れになるとほんの少しの油断が命取りになりませんからね……」
「村の中にも少なからず負傷した者も出ておる。お主たちが来てくれねば、今頃どうなっていたことか」
聞かされた状況はフラッドが想像していたよりも深刻なものだった。それは村に入った時から感じてはいたことで、村全体に漂う空気の重さや見かけた村人の暗い雰囲気から伝わってはいたが。
「となると、やはり根本的な原因は山の方にありそうだな。俺たちが来るまでに山へは?」
「まだここまでひどくなる前に、山へ入った者がおったのじゃが……」
そこで村長の顔がさらに曇ったものへと変わる。一度目を閉じ、少しの間を置いて続きを語り出した。
「そこでこれまでに見たこともないようなモンスターを目にして、ほうほうの体で逃げ帰って来たのじゃ」
「見たことのないモンスター……?」
「俺が聞いた感じからすると、魔族のような印象だ」
「魔族だと!?」
村長に次いで話すギースの言葉に、ヤッシュが目を見開いた驚愕の表情になった。それは三人の後ろで黙って話を聞くだけだったフラッドも同様。
そんな反応になるのも無理はない、魔族など伝承やおとぎ話の中だけでしか耳にした事のない存在だったのだから。
「儂もにわかには信じられなかったがな。この異常は事態と、ギースの話を聞いて受け入れざるを得ない気持ちじゃ」
「ギースやイセシアはその魔族を見たのか?」
「いや、俺たちも見てはいない。ここに着いたのもお前たちより二日程度早いだけだしな」
「その二日の間だけでも、三度のモンスターの襲撃に遭いましたけどね」
二日間に三度もモンスターからの襲撃。それがどれほどか、ヤッシュとフラッドは事態が切迫しているのを理解した。本来ならば野生のモンスターが人里を襲うなど滅多には起きない。それがたった二日で三度ともなれば、非常事態といって過言ではなかった。
「しかしそれだけ頻繁な襲撃で、よく俺たちが来るまでに村が持ちこたえられたもんだ」
「あぁ、それに関しては……」
「凄腕の傭兵、いや元・傭兵だったか? がいるおかげらしい」
「ほぉ。それは是非一度手合わせをしてみたいものだな」
「ヤッシュ。今は緊急事態なのですから、そういう不謹慎は控えないとダメですよ?」
イセシアにたしなめられ、ヤッシュは気まずそうな顔を浮かべ沈黙する。これまでのやり取りでこの三人の関係性は何となくフラッドにも理解が出来て、何となく可笑しくなってしまう。
「なら、俺たちは山へと原因を探りに行くとするか」
「村長、村の人たちには念のために村を離れてもらいたいんだが」
「そうじゃな。お主たちが来なくとも、遠からずそうするつもりではおったしの。しかし村を離れると言っても当てがないものでな……」
「それなら大丈夫です」
そこへ至って初めてフラッドが口を開いた。村長の視線がまっすぐにフラッドへと向けられる。
「お主は?」
「こいつは騎士団で俺の部下だったフラッド。まだ若いが、いずれは騎士団長にもなれる素質ある有望な男だ」
「ふむ、ヤッシュの……。して、大丈夫と言うのは?」
「森を抜けた先に、避難した人たちがゆっくり休むための野営地が準備してあります。ですので、皆さんでそちらへ行ってもらえれば」
「そこまで配慮しておったとは……それならば早速向かわせてもらうとしましょうか」
「護衛を附けなくて大丈夫か?」
言った村長へヤッシュが訊ねると、村長の顔がやや不敵な笑みへと変わる。
「さっきも話した元・傭兵の手練れがおりますからな。道中に関しては心配ありますまい」
「そうか。顔ぐらいは拝見してみたいが……」
「ヤッシュ、それぐらいにしておけ。そうと決まれば早速私たちも山へ向かわないと」
「わーってるよ。ったく、そういう堅いところは昔から変わらないよな、ギースは」
軽口を叩き合いながら話はそこでまとまり、それぞれがそれぞれの行動へと移っていく。村長の呼び掛けで森の方へと村の者たちが集められて野営地へ向かう準備を整える中、ヤッシュたち四人は山へ入る為に村を出立していくのだった。
* * * * *
「……なるほど。確かに今の状況と似ていますね」
「あぁ。まだ今はあの時よりは幾分か大人しい段階ではあるが、この先はわからない」
「それで、いよいよこの後にアタシの両親が……」
暗い表情で言うマチーナに、フラッドは静かに頷き返す。ティートの顔にも緊張の色が滲んでいた。
「山へ入った俺たちは、ヤッシュの提案でまずこの地に向かうことになった。まずはそこから話していくとしようか」
『懐かしい話だな……』
「だろ? あの時の事は今でも鮮明に覚えてるよ」
不意に声を出した精霊へ、変わらぬ口調でフラッドが答える。その脳裏には、初めてここを訪れた時の驚きや感動が甦っていた。
『ヤッシュと、そして二人の類い稀なる才覚ある魔導師。我にもあの対面は強く記憶に残っておるよ……』
「ま、その話は俺がするからよ。精霊サマはヤッシュたちの形見を呼び出すのを頼むよ」
『うむ……』
フラッドの言葉に相づちを打ち、精霊は再び儀式のようなものへと意識を戻していった。
「この場所についてはヤッシュだけではなく、ギースやイセシアも馴染みの場所だったらしい」
再び時は十年前へと遡っていく……
「ごめんなさい。アタシ、その時のことは……」
「わかってるさ。ティートはどうだ、あの時に俺と初めて会ったのは覚えてるか?」
「あんまり。あの時は雰囲気も普段とは、まるで違いましたからね。僕は母の側にいるだけで精一杯でした」
当時を振り返ると、フラッドにしてもティートやマチーナに関する記憶は曖昧であった。アトル村へ向かうことに意識がいっていた事もあり、軽い挨拶を交わした程度である。
「ただヤッシュの奥方、つまりティートの母親については強く印象に残っているな」
「母さん……」
「町民の出ではあったが、とても気丈で気さくで。それにヤッシュとの信頼の強さは羨ましくも思ったものさ」
「そうですね。僕も小さい頃にしか記憶はありませんが、母はとてもしっかりした人でした」
「あぁ。さて、それじゃあ話の続きに戻るか。まだ精霊の方は今しばらく時を要するだろうしな」
* * * * *
野営地での一夜を明かしたヤッシュとフラッドは、グロウにその場を任せて早々に出立した。出る際にはヤッシュとその妻の約束のような無言の会話を目にして、フラッドは夫婦の絆というものを知ったような気がしていた。
「待たせたな」
「いや。いいのか、あれで?」
「あぁ。目と目を合わせるだけで何となくわかるもんさ、夫婦ってのはな」
「そんなもんなのか。……それで、どう行けばいい?」
少し自慢げなヤッシュにやれやれといった仕草を見せつつ、今後についてフラッドが問いかけると。
「ここから少し行ったところに深い森があるんだが、そこをまっすぐに突っ切って行く。街道を行くよりもずいぶんと早いからな」
「念のために確認するけど、道はちゃんとわかってるよな……?」
「当然だろ。何せ俺はガキの頃からあの森では遊んでいたんだからな、ギースやイセシアと一緒にな」
「なら大丈夫そうだな。しかしギースさんやイセシア?んが森であんたと一緒に遊んでた、ねぇ。なんだか想像がつかないな」
フラッドの知る二人は、まさに優秀な魔導師といった雰囲気をたたえていた。実際に皇国でも屈指の魔導技術と、常に的確で冷静な判断力を備えた理知的を絵に描いたような人物たち。
そんな二人が森の中で遊んでいたと言うのは、少々意外なものがあった。
「ま、その話は森を抜けながらしてやる。とにかく行くぞ」
「了解だ。……グロウ、野営地は頼んだぞ!」
「あぁ、任せてくれ。二人とも、ギースさんやイセシアさんと共に無事に帰ってきてくれよ」
「もちろん!」
グロウに声を掛け、そのままヤッシュとフラッドはアトル村へ続く森を目指して歩き出した。道中、モンスターとの遭遇などもないまま順調に進み、やがて見えたのは外から見てもまるで天然の洞窟と思うような、深くて大きな森であった。
「半日もあれば森を抜けられるが、くれぐれも俺を見失うなよフラッド」
「モンスターの分布なんかはどうなってるんだ?」
「せいぜい野生の獣や、コボルト程度ぐらいだが……。今は何とも言えない。注意はしておけ」
「わかった」
踏みいった森の内部は暗く、そして不規則に密集して立つ樹木は方向感覚を失わせる魔力があった。そんな中を、まるでルートが見えているかのようにすいすいと進んでいくヤッシュを、フラッドは必死で追いかけて。
気が付けば森の出口に辿り着いていた。
「あそこだ。おっと、俺たちが来るのがわかっていたみたいだな」
森を抜けるとすぐ先にはアトル村が目に入った。その近くで立ち、ヤッシュたちへ手を振る人影が二つ。先に皇国を出奔していたギースとイセシアが、このタイミングでヤッシュが来るのをわかっていたように出迎えていた。
「早かったな、ヤッシュ! それにそっちは……フラッドくんか。まさかヤッシュ、お前が強引に連れて来たのでは」
「な訳あるかよ! この分からず屋が無理やり着いてくるって言って聞かなかったんだよ」
「まぁ。ふふ、でもさすがはヤッシュの愛弟子と言ったところかしら」
ヤッシュの弁解にイセシアが笑いながら言う。微妙にばつが悪そうな顔をするヤッシュは、誤魔化すように頬を指で掻く。
「仕方ないな、君も。だが、正直に言えば助かるよ、フラッドくん。ところで……」
「グロウならば今は野営地の護衛に残ってくれています」
「そうか。グロウはあの通りの性格だから来ないと思っていたが、少し理解が足りていなかったかな?」
「だから言ったでしょう? あの子にもちゃんと話をしておくべきだって」
フラッドがグロウについて話すと、少し困ったような顔で言うギース。そんな夫をたしなめるように、イセシアが言葉を掛けていた。
「だがな」や「しかし」など、言葉を濁すギースへ、イセシアがとくとくと穏やかな口調ながら厳しい言葉で諭していく。最後にはそんな妻に折れたギースが、「私が間違っていたよ」と告げて、満足げにイセシアが微笑んでいた。
「な、フラッド? イセシアってのはあんな感じなんだよ。ギースの奴もすっかり尻に敷かれて……」
「ヤッシュ? 何か言ったかしら?」
「い、いや。何でもない! それより村長に顔を出さないとな」
にっこりとした笑みで問うイセシアに、ギースはやや引き気味になりつつ首を横に振り。話題を変えるように村へ入ることを進言した。
「そうだな。まだ私たちにも今がどんな状況なのか、はっきりとは把握出来ていない。村長の話を聞いて、迅速に動かなければ」
「それじゃヤッシュ、フラッドくん。行きましょうか、こっちよ」
ギースの言葉にヤッシュとフラッドが頷いて、イセシアの案内で四人は村長の元へと歩き出した。
* * * * *
「ヤッシュ、話はギースとイセシアから聞いておるぞ。この村の為にお主たちには迷惑を掛けてしまって、本当に申し訳ない」
「村長、俺たちが勝手にしてることだ。それにいずれ隠居した頃にはこっちで過ごそうと考えているんだからな、無くなってもらっちゃ困るってだけの話だ」
「それで村長、状況はどんな感じなんだ?」
当時のアトル村の長は、現在の村長の先代にあたる人物だった。深いシワの刻まれた顔に苦渋を滲ませて言う村長に、ヤッシュは気にするなといった風に返しギースが話の先を促す。
「ギースとイセシアは知っておるだろうが、モンスターの襲撃が日に日に頻度を増しておる。皇都へ出した使いの者にも伝えてはあったが、山からは何か巨大なモンスターらしき咆哮も時折聴こえていてな……」
「なんだギース。もうモンスターの襲撃に遭遇してたのか?」
「あぁ。コボルトやウルフ、それにインセクトの群れなどそれほど手強いモンスターではないんだが」
「ただ、そんなモンスターでも群れになるとほんの少しの油断が命取りになりませんからね……」
「村の中にも少なからず負傷した者も出ておる。お主たちが来てくれねば、今頃どうなっていたことか」
聞かされた状況はフラッドが想像していたよりも深刻なものだった。それは村に入った時から感じてはいたことで、村全体に漂う空気の重さや見かけた村人の暗い雰囲気から伝わってはいたが。
「となると、やはり根本的な原因は山の方にありそうだな。俺たちが来るまでに山へは?」
「まだここまでひどくなる前に、山へ入った者がおったのじゃが……」
そこで村長の顔がさらに曇ったものへと変わる。一度目を閉じ、少しの間を置いて続きを語り出した。
「そこでこれまでに見たこともないようなモンスターを目にして、ほうほうの体で逃げ帰って来たのじゃ」
「見たことのないモンスター……?」
「俺が聞いた感じからすると、魔族のような印象だ」
「魔族だと!?」
村長に次いで話すギースの言葉に、ヤッシュが目を見開いた驚愕の表情になった。それは三人の後ろで黙って話を聞くだけだったフラッドも同様。
そんな反応になるのも無理はない、魔族など伝承やおとぎ話の中だけでしか耳にした事のない存在だったのだから。
「儂もにわかには信じられなかったがな。この異常は事態と、ギースの話を聞いて受け入れざるを得ない気持ちじゃ」
「ギースやイセシアはその魔族を見たのか?」
「いや、俺たちも見てはいない。ここに着いたのもお前たちより二日程度早いだけだしな」
「その二日の間だけでも、三度のモンスターの襲撃に遭いましたけどね」
二日間に三度もモンスターからの襲撃。それがどれほどか、ヤッシュとフラッドは事態が切迫しているのを理解した。本来ならば野生のモンスターが人里を襲うなど滅多には起きない。それがたった二日で三度ともなれば、非常事態といって過言ではなかった。
「しかしそれだけ頻繁な襲撃で、よく俺たちが来るまでに村が持ちこたえられたもんだ」
「あぁ、それに関しては……」
「凄腕の傭兵、いや元・傭兵だったか? がいるおかげらしい」
「ほぉ。それは是非一度手合わせをしてみたいものだな」
「ヤッシュ。今は緊急事態なのですから、そういう不謹慎は控えないとダメですよ?」
イセシアにたしなめられ、ヤッシュは気まずそうな顔を浮かべ沈黙する。これまでのやり取りでこの三人の関係性は何となくフラッドにも理解が出来て、何となく可笑しくなってしまう。
「なら、俺たちは山へと原因を探りに行くとするか」
「村長、村の人たちには念のために村を離れてもらいたいんだが」
「そうじゃな。お主たちが来なくとも、遠からずそうするつもりではおったしの。しかし村を離れると言っても当てがないものでな……」
「それなら大丈夫です」
そこへ至って初めてフラッドが口を開いた。村長の視線がまっすぐにフラッドへと向けられる。
「お主は?」
「こいつは騎士団で俺の部下だったフラッド。まだ若いが、いずれは騎士団長にもなれる素質ある有望な男だ」
「ふむ、ヤッシュの……。して、大丈夫と言うのは?」
「森を抜けた先に、避難した人たちがゆっくり休むための野営地が準備してあります。ですので、皆さんでそちらへ行ってもらえれば」
「そこまで配慮しておったとは……それならば早速向かわせてもらうとしましょうか」
「護衛を附けなくて大丈夫か?」
言った村長へヤッシュが訊ねると、村長の顔がやや不敵な笑みへと変わる。
「さっきも話した元・傭兵の手練れがおりますからな。道中に関しては心配ありますまい」
「そうか。顔ぐらいは拝見してみたいが……」
「ヤッシュ、それぐらいにしておけ。そうと決まれば早速私たちも山へ向かわないと」
「わーってるよ。ったく、そういう堅いところは昔から変わらないよな、ギースは」
軽口を叩き合いながら話はそこでまとまり、それぞれがそれぞれの行動へと移っていく。村長の呼び掛けで森の方へと村の者たちが集められて野営地へ向かう準備を整える中、ヤッシュたち四人は山へ入る為に村を出立していくのだった。
* * * * *
「……なるほど。確かに今の状況と似ていますね」
「あぁ。まだ今はあの時よりは幾分か大人しい段階ではあるが、この先はわからない」
「それで、いよいよこの後にアタシの両親が……」
暗い表情で言うマチーナに、フラッドは静かに頷き返す。ティートの顔にも緊張の色が滲んでいた。
「山へ入った俺たちは、ヤッシュの提案でまずこの地に向かうことになった。まずはそこから話していくとしようか」
『懐かしい話だな……』
「だろ? あの時の事は今でも鮮明に覚えてるよ」
不意に声を出した精霊へ、変わらぬ口調でフラッドが答える。その脳裏には、初めてここを訪れた時の驚きや感動が甦っていた。
『ヤッシュと、そして二人の類い稀なる才覚ある魔導師。我にもあの対面は強く記憶に残っておるよ……』
「ま、その話は俺がするからよ。精霊サマはヤッシュたちの形見を呼び出すのを頼むよ」
『うむ……』
フラッドの言葉に相づちを打ち、精霊は再び儀式のようなものへと意識を戻していった。
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