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15章 魔竜の胎動
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「マチーナ、すぐに助けるからっ!」
ローブの男によってマチーナが拐われてから数刻。ティートは禁断の地と呼ばれる古代遺跡ルグリアに向かって、険しい山道を駆け抜けていた。
胸の内にはただ、奪われた幼馴染みの少女を救う。その思い一色があるのみ。
「どけぇっ!」
山道を駆けるティートへ、そこかしこからモンスターが現れ襲い掛かるが全て容易く蹴散らされる。精霊から渡された剣。かつての魔竜との闘いの折りにも、ティートの父・ヤッシュが振るった形見とも言うべき物。
山の精霊の力が剣からティートの全身に伝わり、彼の実力を本来よりも大幅に向上させていた。
(マチーナ……!)
ただひたすら、大切な家族である彼女を助けたい一心で、ティートは足を前へと進めていく。今の彼は一人でマチーナの救出へ向かっていた。
先刻まで行動を共にしていたフラッドは、ローブの男の手下のモンスターが差し向けられた村を救う為に、ティートとは別行動であった。
「フラッドさんなら大丈夫だ。だから僕はマチーナを助けることに集中しないと!」
己を鼓舞するようにそう口にして、駆ける足の速度を上げていく。視界に映ったモンスター達の姿を認め、それを打ち払う為に剣を構えながら。
* * * * *
「はあああっ!!」
地を蹴って吠えながら舞い上がり、大上段に構えた剣を身体の落下と合わせて振り下ろす。フラッドの放った剣に一刀両断されたトロルの肉体が、血飛沫を噴き散らしながら右と左それぞれの方向へと倒れ込んだ。
「大丈夫か、セグド?」
着地の反動を吸収する為の屈んだ姿勢から立ち上がったフラッドが、今しがたまでトロルの居た場所の先に尻餅をついたセグドに声を掛ける。すんでの所で救われたセグドは放心しかけた顔を見せながらも、なんとか手を地面について立ち上がった。
「た、助かったよ……。だがまだ村の中にモンスターが!」
「わかってる。あんたは村の人たちを避難させてくれ、連中の相手はオレがやるから」
「あぁ、頼む!」
頷きあって互いに別方向へと走り出すフラッドとセグド。村長宅の方角、複数の気配が入り交じる場所へとフラッドは駆けていく。
「ぐぅっ」
「あんた、しっかりおし!」
聴こえてきたのは村長の呻く声と、それを叱咤する老女のものだった。視界に戦闘の場面が映り、フラッドは微かな驚きを顔に浮かべる。
「おいおい、マジかよ……」
大小様々なモンスターたちに包囲されながら、それを物ともせずに二つの人影に感嘆の声が漏れた。村長とその妻が、襲い来るモンスター共を相手に立ち回っていた。
「む? おおっ、フラッドさん!」
「村長とその奥方! 驚いたな、そんなに強いとは」
「あたしらは昔、一緒に大陸のあちこちを戦い歩いていたからね。この程度のモンスターにはやられやしないよ!」
やって来たフラッドに村長の妻が声を返しながら、振るう剣でゴブリンを斬り伏せる。ついた勢いをそのままに身体を回転させ、その場から飛び上がると空から突進してきたキラービーを一太刀で両断。
一方の村長も両手それぞれに持った小剣を巧みに操り、次々と向かってくるコボルトやスライム、そしてウルフを流れるように倒していた。
「オレ、戻らなくても大丈夫だったかな」
二人の見事な身のこなしと、息の合った戦いぶりに思わず立ち止まるフラッド。そこへ村長から強い口調の声が飛んでくる。
「フラッド殿! ここは儂らに任せて、あなたは向こうのボス格をお願いします!」
言った村長が腕で示した先、そこにある強烈な闘気をフラッドは感じ取る。視線をそちらに向ければ、遠目にもわかる禍禍しい姿が見えた。
「オーケー。あいつを倒せばいいんだな、任せろ!」
「頼みますぞ!」
「あれは手強いよ、くれぐれも気を付けな!」
掛けられた声に軽く手を上げ返して、この襲撃の指揮官に向かってフラッドは走って行った。果たしてそこに居たのは、どす黒い甲冑に全身を包んだ騎士。
……否。その身から放たれる濃い闇の気配が物語るのは、それが魔族と呼ばれる存在であるということだった。
「ほぉ、人間風情が我が前に立つか。こちらの力を見極められないのか、己の力に自信があるのか」
「どっちでもいいだろ。どうせやる事は変わらないんだから」
「ふっ、違いない」
一定の距離を保ちながら、言葉を交わすフラッドと魔騎士。自分の全身の筋肉が、必要以上に硬くなるのをフラッドは自覚する。
「お前があのローブの男に命じられて来たモンスターのボス、なんだろ?」
「……そうか、貴様がボイスの言っていた腕の立つ剣士だな。なるほど、確かにそれなりの実力はありそうだ……人間にしては、だが」
「ボイス? あのローブの男の名前か」
嘲りの言葉を吐き出す魔騎士を見据えながら呟くフラッドに、次に眼前の敵から来たのは不快を含ませた声色だった。
「しかし聞き捨てならんな。奴も異界より召喚されし者とは言え、それでも人間に過ぎぬ。高位な魔の騎士である我に奴が命じたなどと……」
重たい口調で言いながら、魔騎士の身体がゆっくりと沈み込んでいく。斜めに下げた巨大な剣の切っ先が地面に触れた瞬間、場の空気が一気に変化した。
「許しがたい屈辱だ!」
「うおっ!!」
怒気を孕んだ言葉とほぼ同時に、凄まじい闘気が襲い掛かる。一瞬早く横に跳んでいたフラッドが目にした時には、それまで自分の居た位置を強烈に斬り上げる魔騎士の姿が映っていた。
「誉めてやろう、我が一撃を避けたことをな。例えそれがまぐれだとしても!」
「ぐっ!!」
フラッドの全身を重い衝撃が襲った。言うが早いか、再び一瞬で突進してきた魔騎士の剣を辛うじて受け止めてのもの。すぐに前に構えた剣に掛かっていた圧力がふっと消える。
「くそっ!」
まだ受け止めた衝撃の余韻も残る身体を無理やりに動かし、フラッドは態勢を崩しながら後方へと大きく跳び退く。一拍置いてすぐ目の前を、強烈な風圧を発しながら魔騎士の剣が薙いでいた。
「これもかわすか!? 予想外に楽しませてくれるではないか!」
振り抜いた剣を腕力で制止しながら、嬉々とした声を放つ魔騎士。そのまま剣を振りかぶる格好のままで、バランスを崩したフラッドに向けて迫っていく。
「だがこれで終わりだ!」
言い放ち全力で大剣をフラッドに向かって振り抜いて、兜のような顔に浮かんだのは驚愕の色だった。魔騎士の振り抜いた大剣を、フラッドに真正面から剣で受け止められて。
「悪いな。魔族とやり合うのもこれが初めてって訳でもなくてね」
放たれた追撃を無理やり回避したせいで態勢を崩したフラッドだったが。それを立て直そうとはせずに魔騎士の一撃が生んだ風圧に、身体を預けることで流れるように着地して。さらに撃ち込まれた剣を、着地の際に生まれた反動を乗せた剣で受け止めていた。
「それと……」
否。乗せていたのは反動の力だけではない。フラッドの手にした剣の刀身を淡い光が包み込んでいる。そして受け止められた魔騎士の大剣が、フラッドの剣に受け止められた箇所からヒビを生じさせていく。
「馬鹿な!? 我が大剣が、たかが人間の剣ごときにっ!!?」
「あいにくと、オレの剣はただの剣じゃないもんでね」
「なんだとっ!?」
急速にヒビが伸びていき、程なく魔騎士の大剣が砕け散った。動揺しながらも、体勢を立て直そうとする魔騎士の懐に、光の速さでフラッドが潜り込んで行く。
「まっ……!」
「なんでも伝説の剣なんだってよ、オレの愛用のこいつは」
驚愕の声を発する暇も与えられず、そのまま魔騎士の肉体が……甲冑のような見た目通りの硬度を有する体が、いともたやすくすれ違い様に放たれたフラッドの剣の一閃によって、胴から断ち斬られ上半身と下半身に分かたれた。
「────ッ!!!?」
「ま、オレも詳しいことはわからないんだけどな」
軽い口調で言ったフラッドの背後で、二つに分かれた魔騎士の肉体が塵となって宙に消えていった。
* * * * *
「う……ん」
「ようやくお目覚めか」
「っ!」
ゆっくりと意識が覚醒し声を漏らすマチーナ。そこへ掛けられた声によって、彼女の意識が現実に一瞬にして引き戻された。慌てて起きあがり辺りを見れば、目の前にはローブの男──ボイスの姿があった。
「お前は……!!」
「そう睨むな、選ばれし娘よ」
「ここはどこ!?」
敵への警戒は保ったまま、周囲の風景を確認する。石造りの朽ちかけた室内のような場所であることはわかるものの、ここがどこなのかまではわからなかった。
「くくっ、そう急くな。おまえにとっては因縁深き場所よ、ここはな……」
「ど、どういう意味?」
「ここはおまえ達が禁断の地と呼びし、古代文明の残骸……ルグリア、といったか」
「……っ!!」
ボイスの告げた名を耳にして、マチーナは困惑の表情を浮かべる。それはかつて……そして今も再び、この混乱の中心にいる魔竜の現れた場所。
「じゃあ、ここに魔竜が!?」
「その通り。しかし、魔竜などと気安い呼称を使うなどとはな」
「……異界の存在、だったわね」
「ふむ、知っていたのか」
言葉に不快さを滲ませ口にするボイスへ、マチーナが放った一言に感心したような反応を示す。ヤッシュにより伝えられた厄災、それが魔竜とされたのは恐らくは無用な混乱を避ける為だったのだろう。
フラッドの話を聞いて、マチーナはそれを感じ取っていた。
「だが、その認識でもまだ不足しているな。異界の存在と言うだけならば、私もそれに該当するのだからな」
「えっ!?」
不敵な笑みを浮かべ口にしたボイスの言葉に、マチーナの顔が戸惑いへと変化する。マチーナの認識では目の前に立つローブの男は、自分と同じ人間だとしていたのだから。
「おまえ達が魔竜と呼ぶ存在、名をダランと言う。こことは違う世界、異世界とでもいった別の世界からこちらへとやって来た……混沌の神だ」
「混沌の神……!?」
「この世界にも神とやらがいるのかは知らないが、もしもいるのならばそれに比肩するほどの力を持っている。もっとも、今はまだ完全な復活には至っていないがな」
ボイスの語る話は想像を絶していた。それが本当ならば、こんな片田舎の地方の出来事でありながら、世界の存亡にすら関わるような事実であるのは間違いない。
言葉を失ったマチーナへボイスが続ける。
「そして私は、そのダランによってまた別の世界から喚び寄せられた。元の世界ではつまらない生を送る、無価値でちっぽけな人間だったがな……」
微かに自嘲気味にボイスはそう自らを表現した。そこにマチーナは、目の前にいるのがやはり自分と同じ人間である片鱗を発見した気がした。
「この世界への召喚、そしてダランの使徒となることで私はつまらない人間から解き放たれた。モンスターを自在に操り、下僕にして思うがままに動かす」
しかしそんな人間らしさは一転、ボイスの口調が変わってまるで詠うように語り始めた。マチーナの背筋を薄ら寒い感覚が走る。
「そう。おまえの村を襲わせたようにな」
「なぜあんな事を!?」
邪悪な笑みを向け言ったボイスへ、語気を強めて問い詰めるマチーナ。それを愉快そうに含み笑いを漏らしながら、ボイスは言葉を返す。
「元の世界にいた時には考えられなかったこの力、手に入れたとなれば試さない道理はあるまい? 私がもうつまらない無力な人間ではない、異世界から転生して強大な力を得たボイスという新たな存在であると確かめるのは当然のことだ!」
「そんな事の、為に……!!」
あまりにも身勝手で、傲慢なその理由にマチーナは唇を噛みしめ怒りに全身をわななかせていた。そんな彼女をさも愉しげに目を細め見つめるボイス。
「さて、それでは話してやろうか。ここがおまえにとっての因縁の場所であることについて」
「一体、アタシとルグリアにどんな因縁があると言うの!?」
声を荒げるマチーナを焦らすように間を空け、ゆっくりとボイスが言葉を紡ぐ。その言葉は、マチーナの顔色を豹変させるものだった。
「おまえの両親の死に場所だからさ。ここがな……くっくっくっ!」
遺跡の奥、闇に覆われたそこに胎動する魔竜の気配がざわめいた。
ローブの男によってマチーナが拐われてから数刻。ティートは禁断の地と呼ばれる古代遺跡ルグリアに向かって、険しい山道を駆け抜けていた。
胸の内にはただ、奪われた幼馴染みの少女を救う。その思い一色があるのみ。
「どけぇっ!」
山道を駆けるティートへ、そこかしこからモンスターが現れ襲い掛かるが全て容易く蹴散らされる。精霊から渡された剣。かつての魔竜との闘いの折りにも、ティートの父・ヤッシュが振るった形見とも言うべき物。
山の精霊の力が剣からティートの全身に伝わり、彼の実力を本来よりも大幅に向上させていた。
(マチーナ……!)
ただひたすら、大切な家族である彼女を助けたい一心で、ティートは足を前へと進めていく。今の彼は一人でマチーナの救出へ向かっていた。
先刻まで行動を共にしていたフラッドは、ローブの男の手下のモンスターが差し向けられた村を救う為に、ティートとは別行動であった。
「フラッドさんなら大丈夫だ。だから僕はマチーナを助けることに集中しないと!」
己を鼓舞するようにそう口にして、駆ける足の速度を上げていく。視界に映ったモンスター達の姿を認め、それを打ち払う為に剣を構えながら。
* * * * *
「はあああっ!!」
地を蹴って吠えながら舞い上がり、大上段に構えた剣を身体の落下と合わせて振り下ろす。フラッドの放った剣に一刀両断されたトロルの肉体が、血飛沫を噴き散らしながら右と左それぞれの方向へと倒れ込んだ。
「大丈夫か、セグド?」
着地の反動を吸収する為の屈んだ姿勢から立ち上がったフラッドが、今しがたまでトロルの居た場所の先に尻餅をついたセグドに声を掛ける。すんでの所で救われたセグドは放心しかけた顔を見せながらも、なんとか手を地面について立ち上がった。
「た、助かったよ……。だがまだ村の中にモンスターが!」
「わかってる。あんたは村の人たちを避難させてくれ、連中の相手はオレがやるから」
「あぁ、頼む!」
頷きあって互いに別方向へと走り出すフラッドとセグド。村長宅の方角、複数の気配が入り交じる場所へとフラッドは駆けていく。
「ぐぅっ」
「あんた、しっかりおし!」
聴こえてきたのは村長の呻く声と、それを叱咤する老女のものだった。視界に戦闘の場面が映り、フラッドは微かな驚きを顔に浮かべる。
「おいおい、マジかよ……」
大小様々なモンスターたちに包囲されながら、それを物ともせずに二つの人影に感嘆の声が漏れた。村長とその妻が、襲い来るモンスター共を相手に立ち回っていた。
「む? おおっ、フラッドさん!」
「村長とその奥方! 驚いたな、そんなに強いとは」
「あたしらは昔、一緒に大陸のあちこちを戦い歩いていたからね。この程度のモンスターにはやられやしないよ!」
やって来たフラッドに村長の妻が声を返しながら、振るう剣でゴブリンを斬り伏せる。ついた勢いをそのままに身体を回転させ、その場から飛び上がると空から突進してきたキラービーを一太刀で両断。
一方の村長も両手それぞれに持った小剣を巧みに操り、次々と向かってくるコボルトやスライム、そしてウルフを流れるように倒していた。
「オレ、戻らなくても大丈夫だったかな」
二人の見事な身のこなしと、息の合った戦いぶりに思わず立ち止まるフラッド。そこへ村長から強い口調の声が飛んでくる。
「フラッド殿! ここは儂らに任せて、あなたは向こうのボス格をお願いします!」
言った村長が腕で示した先、そこにある強烈な闘気をフラッドは感じ取る。視線をそちらに向ければ、遠目にもわかる禍禍しい姿が見えた。
「オーケー。あいつを倒せばいいんだな、任せろ!」
「頼みますぞ!」
「あれは手強いよ、くれぐれも気を付けな!」
掛けられた声に軽く手を上げ返して、この襲撃の指揮官に向かってフラッドは走って行った。果たしてそこに居たのは、どす黒い甲冑に全身を包んだ騎士。
……否。その身から放たれる濃い闇の気配が物語るのは、それが魔族と呼ばれる存在であるということだった。
「ほぉ、人間風情が我が前に立つか。こちらの力を見極められないのか、己の力に自信があるのか」
「どっちでもいいだろ。どうせやる事は変わらないんだから」
「ふっ、違いない」
一定の距離を保ちながら、言葉を交わすフラッドと魔騎士。自分の全身の筋肉が、必要以上に硬くなるのをフラッドは自覚する。
「お前があのローブの男に命じられて来たモンスターのボス、なんだろ?」
「……そうか、貴様がボイスの言っていた腕の立つ剣士だな。なるほど、確かにそれなりの実力はありそうだ……人間にしては、だが」
「ボイス? あのローブの男の名前か」
嘲りの言葉を吐き出す魔騎士を見据えながら呟くフラッドに、次に眼前の敵から来たのは不快を含ませた声色だった。
「しかし聞き捨てならんな。奴も異界より召喚されし者とは言え、それでも人間に過ぎぬ。高位な魔の騎士である我に奴が命じたなどと……」
重たい口調で言いながら、魔騎士の身体がゆっくりと沈み込んでいく。斜めに下げた巨大な剣の切っ先が地面に触れた瞬間、場の空気が一気に変化した。
「許しがたい屈辱だ!」
「うおっ!!」
怒気を孕んだ言葉とほぼ同時に、凄まじい闘気が襲い掛かる。一瞬早く横に跳んでいたフラッドが目にした時には、それまで自分の居た位置を強烈に斬り上げる魔騎士の姿が映っていた。
「誉めてやろう、我が一撃を避けたことをな。例えそれがまぐれだとしても!」
「ぐっ!!」
フラッドの全身を重い衝撃が襲った。言うが早いか、再び一瞬で突進してきた魔騎士の剣を辛うじて受け止めてのもの。すぐに前に構えた剣に掛かっていた圧力がふっと消える。
「くそっ!」
まだ受け止めた衝撃の余韻も残る身体を無理やりに動かし、フラッドは態勢を崩しながら後方へと大きく跳び退く。一拍置いてすぐ目の前を、強烈な風圧を発しながら魔騎士の剣が薙いでいた。
「これもかわすか!? 予想外に楽しませてくれるではないか!」
振り抜いた剣を腕力で制止しながら、嬉々とした声を放つ魔騎士。そのまま剣を振りかぶる格好のままで、バランスを崩したフラッドに向けて迫っていく。
「だがこれで終わりだ!」
言い放ち全力で大剣をフラッドに向かって振り抜いて、兜のような顔に浮かんだのは驚愕の色だった。魔騎士の振り抜いた大剣を、フラッドに真正面から剣で受け止められて。
「悪いな。魔族とやり合うのもこれが初めてって訳でもなくてね」
放たれた追撃を無理やり回避したせいで態勢を崩したフラッドだったが。それを立て直そうとはせずに魔騎士の一撃が生んだ風圧に、身体を預けることで流れるように着地して。さらに撃ち込まれた剣を、着地の際に生まれた反動を乗せた剣で受け止めていた。
「それと……」
否。乗せていたのは反動の力だけではない。フラッドの手にした剣の刀身を淡い光が包み込んでいる。そして受け止められた魔騎士の大剣が、フラッドの剣に受け止められた箇所からヒビを生じさせていく。
「馬鹿な!? 我が大剣が、たかが人間の剣ごときにっ!!?」
「あいにくと、オレの剣はただの剣じゃないもんでね」
「なんだとっ!?」
急速にヒビが伸びていき、程なく魔騎士の大剣が砕け散った。動揺しながらも、体勢を立て直そうとする魔騎士の懐に、光の速さでフラッドが潜り込んで行く。
「まっ……!」
「なんでも伝説の剣なんだってよ、オレの愛用のこいつは」
驚愕の声を発する暇も与えられず、そのまま魔騎士の肉体が……甲冑のような見た目通りの硬度を有する体が、いともたやすくすれ違い様に放たれたフラッドの剣の一閃によって、胴から断ち斬られ上半身と下半身に分かたれた。
「────ッ!!!?」
「ま、オレも詳しいことはわからないんだけどな」
軽い口調で言ったフラッドの背後で、二つに分かれた魔騎士の肉体が塵となって宙に消えていった。
* * * * *
「う……ん」
「ようやくお目覚めか」
「っ!」
ゆっくりと意識が覚醒し声を漏らすマチーナ。そこへ掛けられた声によって、彼女の意識が現実に一瞬にして引き戻された。慌てて起きあがり辺りを見れば、目の前にはローブの男──ボイスの姿があった。
「お前は……!!」
「そう睨むな、選ばれし娘よ」
「ここはどこ!?」
敵への警戒は保ったまま、周囲の風景を確認する。石造りの朽ちかけた室内のような場所であることはわかるものの、ここがどこなのかまではわからなかった。
「くくっ、そう急くな。おまえにとっては因縁深き場所よ、ここはな……」
「ど、どういう意味?」
「ここはおまえ達が禁断の地と呼びし、古代文明の残骸……ルグリア、といったか」
「……っ!!」
ボイスの告げた名を耳にして、マチーナは困惑の表情を浮かべる。それはかつて……そして今も再び、この混乱の中心にいる魔竜の現れた場所。
「じゃあ、ここに魔竜が!?」
「その通り。しかし、魔竜などと気安い呼称を使うなどとはな」
「……異界の存在、だったわね」
「ふむ、知っていたのか」
言葉に不快さを滲ませ口にするボイスへ、マチーナが放った一言に感心したような反応を示す。ヤッシュにより伝えられた厄災、それが魔竜とされたのは恐らくは無用な混乱を避ける為だったのだろう。
フラッドの話を聞いて、マチーナはそれを感じ取っていた。
「だが、その認識でもまだ不足しているな。異界の存在と言うだけならば、私もそれに該当するのだからな」
「えっ!?」
不敵な笑みを浮かべ口にしたボイスの言葉に、マチーナの顔が戸惑いへと変化する。マチーナの認識では目の前に立つローブの男は、自分と同じ人間だとしていたのだから。
「おまえ達が魔竜と呼ぶ存在、名をダランと言う。こことは違う世界、異世界とでもいった別の世界からこちらへとやって来た……混沌の神だ」
「混沌の神……!?」
「この世界にも神とやらがいるのかは知らないが、もしもいるのならばそれに比肩するほどの力を持っている。もっとも、今はまだ完全な復活には至っていないがな」
ボイスの語る話は想像を絶していた。それが本当ならば、こんな片田舎の地方の出来事でありながら、世界の存亡にすら関わるような事実であるのは間違いない。
言葉を失ったマチーナへボイスが続ける。
「そして私は、そのダランによってまた別の世界から喚び寄せられた。元の世界ではつまらない生を送る、無価値でちっぽけな人間だったがな……」
微かに自嘲気味にボイスはそう自らを表現した。そこにマチーナは、目の前にいるのがやはり自分と同じ人間である片鱗を発見した気がした。
「この世界への召喚、そしてダランの使徒となることで私はつまらない人間から解き放たれた。モンスターを自在に操り、下僕にして思うがままに動かす」
しかしそんな人間らしさは一転、ボイスの口調が変わってまるで詠うように語り始めた。マチーナの背筋を薄ら寒い感覚が走る。
「そう。おまえの村を襲わせたようにな」
「なぜあんな事を!?」
邪悪な笑みを向け言ったボイスへ、語気を強めて問い詰めるマチーナ。それを愉快そうに含み笑いを漏らしながら、ボイスは言葉を返す。
「元の世界にいた時には考えられなかったこの力、手に入れたとなれば試さない道理はあるまい? 私がもうつまらない無力な人間ではない、異世界から転生して強大な力を得たボイスという新たな存在であると確かめるのは当然のことだ!」
「そんな事の、為に……!!」
あまりにも身勝手で、傲慢なその理由にマチーナは唇を噛みしめ怒りに全身をわななかせていた。そんな彼女をさも愉しげに目を細め見つめるボイス。
「さて、それでは話してやろうか。ここがおまえにとっての因縁の場所であることについて」
「一体、アタシとルグリアにどんな因縁があると言うの!?」
声を荒げるマチーナを焦らすように間を空け、ゆっくりとボイスが言葉を紡ぐ。その言葉は、マチーナの顔色を豹変させるものだった。
「おまえの両親の死に場所だからさ。ここがな……くっくっくっ!」
遺跡の奥、闇に覆われたそこに胎動する魔竜の気配がざわめいた。
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代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
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