楽に生きたい平民なのに一癖ある伯爵どころかその他大勢にも気に入られてしまい困っています

花田トギ

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ラスール邸での生活

アデリアの私室にて

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「さあ、では基本的な仕事内容を伝えますね」
 定刻通りにザックスに送ってもらったアデリアは、スチュアートに迎え入れられた。
 スチュアートの表情から、彼にあまり歓迎されていない事が読み取れる。部屋で荷ほどきをするように言われ、それが終わるのを見ていたかのように入室してきた彼は、モノクルを光らせて言い放った。
「……あのぅ……」
 荷物が少ないとはいえ、昨晩急いで荷造りをして、荷ほどきを済ませたのだ。正直つかれているが、目の前の冷静な男はそんな事も読み取れないらしい。ザックスならば、すぐにお茶やお菓子をもってきてくれるし、そもそも荷ほどきを手伝ってくれるのに。
「何でしょうか?私は忙しいのです。端的に仰ってください」
「さっきお屋敷について、自分の部屋で荷ほどきを終えた所ですよね?」
「ええそうです。ですから、今から仕事の説明を――」
「無理です!休憩が必要です!」
「何を言っているんですか?やる事は山ほど――ああ、なるほど」
 必死の訴えを却下しかけたスチュアートは、不敵に口角を上げアデリアへと歩を進めた。
「先程から落ち着きが無いと思っていましたが……まさか貴方、期待しているのですか?」
「き、期待?!」
 そう言われて頭に浮かぶのは、お土産に持って帰ったお菓子だ。母たちが残したお菓子をアデリアも食べたが、あれは美味しい。とても美味しい。今日も食べられるかもとちょっと期待していたのは事実だ。
「――昨日の続き、本当はして欲しいんですか?」
「き、昨日?!」
 言われて思い出した。母やリズ、テディの事ですっかり忘れていた。昨日、この部屋、このベッドに、目の前の男によって押し倒された事実を。
 一歩足を後ろにすると、膝のあたりにベッドの柔らかさが触れた。
「また頭突きしますよ」
「――っ」
 絞り出した強がりの言葉に、スチュアートの動きが一瞬止まる。
 少し気まずい空気が二人の間に流れた。
「おいまだか?」
 重い空気なんていざ知らず、ラスール伯爵が顔を覗かせてきて、アデリアはぎょっとした。
 アデリアの部屋には扉が二つついていた。一つは通路に面した、アデリアとスチュアートが入った扉。その向こうにもう一つ扉がある事は気付いていた。何の扉なのだろうかとも思ったが、貴族の屋敷にはアデリアには思いもつかない事もあるのだろうとスルーしていた。そのもう一つの扉からラスール伯爵が顔を出している。
「え?もしかしてこの扉って――」
「貴方は伯爵付きメイドでしょう?伯爵の部屋ですよ」
「え?」
「そうだ。俺が呼べばお前は飛んで来い。24時間すぐにだ」
「にじゅうよじかん?!」
 当たり前のように言い放つ二人に、やっぱり働く事にしたのは間違いだったのかもしれないとアデリアは頭を抱えた。
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