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秘密の関係

近づいてくるのは執事の美しい顔

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 ゆっくりとスチュアートの顔が近づいてきて、彼の吐息を感じた。冷たそうな顔をしているのに、鼻先にかかる吐息が暖かくて、思わず目を瞑った。
「……ひっ」
「ふふ、なんてね。ーー期待しました?」
 いつの間にかスチュアートはアデリアから離れていて、その手にはザックスから預かったモノクルがあった。先程近づいた時にポケットの中から奪ったらしい。
「し、してません!!!」
 顔を真っ赤にし、怒りを露わにするアデリアを興味深そうにスチュアートは見つめた。
 こんな上司のいる職場は嫌だと、今すぐにでも辞めてやろうかと口を開きかけたアデリアだったが、スチュアートの方が先に話し出した。
「ああ、そうそう言い忘れてましたが貴方の試用期間終わりましたよ。という訳でこれがお給金です。いくらかはご実家に届けましょうか?それとも休暇を取ってご自身で届けますか?」
「え?休暇取ってもいいんですか?」
 給金の入った袋がアデリアの頭に載せられて、その重みに思わずにやけてしまう。
「もちろん。帰りたければ3日ほど帰っても大丈夫ですよ。ああ、くれぐれも伯爵の秘密は他言しないようにーーもちろんザックス・ウォードにも」
「も、もちろんです!」
 数秒前まで辞めようかと思っていた事なんか忘れたアデリアは、既に給金の使い道で頭がいっぱいだった。
 そんなアデリアを、スチュアートは嬉しそうに見つめていた。
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