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鬼頭先生まで……?!

ミックスサンド

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 ゆっくりと近づいてくる瞳から目が離せない。目を瞑って視線から逃れる事も出来ない。
――部屋のベルが鳴った。
「もうちょっと、だったね」
 小さく笑って、あと数センチ、いや数ミリの距離まで近づいていた紀藤さんの体温が離れていく。
 固まった俺をそのままに、ドアまで歩くと何やらやりとりの声が聞こえる。
 部屋に戻った紀藤さんの後ろから、ホテルスタッフが軽食を乗せたカートを運び入れてきた。そしてなんとその後ろには玲央さんと穂高くんがいた。
「渚さん!大丈夫ですか?」
 座っていた俺の横に我先にと座り、玲央さんは肩を抱いてきた。
「渚くん!一人で遠くまで行っちゃだめだよ!」
 穂高くんが俺の腹部に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「――は、早かったね……?」
 何と答えれば良いか分からない俺の見当違いな発言に、紀藤さんがぷっと吹き出した。
「大丈夫だよ、君たちの渚くんに勝手に手を出したりしないから。――ね?」
 ウインクが飛んできて、俺は思わず顔を伏せた。耳が赤くなった俺を、二人が不思議そうに見つめている。
「本当は何かあったの?」
「な、ないです!!!」
 勢いよく答えた。嘘はない。まだ、何もしていない。――あと一秒あれば何かあったかもしれないけど。

 紅茶を入れてくれた紀藤さんが、僕らの前にカップを置いた。ついでにサンドイッチが並んで、僕らはそれに手を伸ばす。
 朝から何も食べずにイベント参加していたものだから、一口齧った途端に空腹感が襲ってきた。緊張が続いてお腹が空いたことすら忘れていたらしい。
 僕らは夢中でがっついた。
「あ、楢本くんついてるよ」
 唇についた卵フィリングに、紀藤さんが手を伸ばす。指に着いた卵をぺろりと食べてくれた。子供みたいで恥ずかしい。
「――ず、ずるいです紀藤さん!!!」

 呆気にとられた僕の横で、穂高くんが喚く。反対側の玲央さんは何かを考えた後、僕の名を呼んだ。
「渚さん」
「なんですか?」
「ここ、もう何もついてないです」
 つんつん、と口の端をつつかれる。そりゃそうだ。今まさに紀藤さんが取ってくれたのだから。
「だから、これつけます」
「え?」
 指で卵を唇に塗られた。
「付けたの自分なんで、ちゃんと取りますね」
 そういった玲央さんの顔が近づいてきて、まさかと思った時にはもう唇を舐められていた。
「んな……っ?!」
「うわー!お前まで!!ずるい!!オレはこうしちゃう!」
 目を丸くした俺の顔をぐいっと回された。目の前の穂高くんは自分の唇に卵を塗っている。
「え……?え?」
「オレのは渚くんが取って!」
「な、なんで!?」
「なんでも!!!」
 駄々っ子の様に言う穂高くんを、玲央さんは睨んでいるし紀藤さんは面白そうに見ている。
「お願い!」
 追加の言葉に動かされ、俺はゆっくりと穂高くんの方へと顔を近づける。
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