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静かな家
スドゥルとウユチュ
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「スドゥル、お客様かしら?」
冷や汗が垂れるのを感じていると、どこからか鈴のような軽やかな声が聞こえてきた。その声に諭されたスドゥルと呼ばれた男は、ゆっくりと刃を収めた。手首の自由はまだ無いけれど、冷たい刃物が離れたのは喜ばしい事だ。
切っ先のありかを確認しつつ、慎重に振り向いたタシュが見たのは、自分とそう変わらない背の高さの男だった。この国の人特有だろう金色の髪が、夕焼けに輝いている。
「ここはウユチュ邸と知っての事か?」
「う、ウユチュ?」
聞き覚えの無い名に、勢いよく首を振り否定すると、コロコロと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。先程の鈴のような声の主だ。
「あらあら、そんなに首を振っては首がもげてしまいそうよ。面白い子ね。さあ、お入りになって」
「ウユチュ様!」
「私が良いと言うのよ。分かるでしょう?」
諫めるような響きのスドゥルの言葉を、茶目っ気を込めてウユチュは返す。このやりとりで二人の関係性をある程度把握出来た。
どうやらタシュが身を隠していたこの場所は、ウユチュという人の庭らしい。そして可愛い声の主がウユチュという人なのだろう。
不機嫌な顔のスドゥルに先導され入った室内は、あたたかなオイルランプによって質素だが、居心地が良さそうな家が映し出されていた。華美ではないが必要なものが過不足なくそろえられた機能美の備わっている空間だ。
「どうぞ、はじめましての方。おかけになって」
部屋の奥で傾斜のついたベッドに横たわったままの女性が、首をこちらにむけている。見た瞬間、心が高鳴った。トゥフタとアイムに似ていたからだ。金糸の髪に白い肌、そして美しい青い瞳は三者の中で一番聡明な光を放っている。
「お招きをありがとうございます。美しい方とお会いできて光栄です。私はタシュと申します」
アイムの名を口にしそうになるのを、胸に手を当てる事でなんとか落ち着けた。こちらの話よりまずはあちらの話を聞いた方が得策だと判断したからだ。
そのまま片膝を着くと、頭を深々と下げた。タシュの国での最敬礼を表す仕草だ。
「ありがとうタシュ。私はウユチュよ。寝たままでごめんなさいね、体の調子が良くなくてずっと寝て過ごしているのよ。こっちの仏頂面はスドゥル。私のお世話をしてくれている子なの。笑うと可愛い子なんだけど……」
「ウユチュ様!」
「またそんな風に声を荒げて……」
「も、申し訳ありません」
顔を真っ赤にするスドゥルの瞳が黒い事に気が付いた。自分と同じ瞳の人間もいるのだと親近感が沸いてくると、つい余計な事を口にしてしまう。
「仲がおよろしいのですね。お二人は夫婦ですか?」
「まあ」
面白そうに目を開き、口に手を当てたウユチュに対して、スドゥルはわなわなと震えだしている。
「な……!なんと無礼な……!」
スドゥルの手が再び刀へと伸びるのを見て、タシュは慌てて立ち上がった。
「す、すまんすまん、冗談だ。ほらもしも夫婦だと色々あるだろう?そうじゃないなら安心だ。それなら俺が口説いても問題無いという事だな」
「お!おまえー!!!」
鞘から抜かれた抜き身が、タシュに迫ってくる。
「ええ?!これもそんなに駄目なの!?」
「ウユチュ様が前女王であると知っての言葉か?!」
「ええ?!」
「スドゥル、落ち着きなさい。室内で振り回しては危ないわ」
おかしそうに口元を綻ばせながら、刀を収めさせるウユチュを、タシュは目を見開いて見た。
冷や汗が垂れるのを感じていると、どこからか鈴のような軽やかな声が聞こえてきた。その声に諭されたスドゥルと呼ばれた男は、ゆっくりと刃を収めた。手首の自由はまだ無いけれど、冷たい刃物が離れたのは喜ばしい事だ。
切っ先のありかを確認しつつ、慎重に振り向いたタシュが見たのは、自分とそう変わらない背の高さの男だった。この国の人特有だろう金色の髪が、夕焼けに輝いている。
「ここはウユチュ邸と知っての事か?」
「う、ウユチュ?」
聞き覚えの無い名に、勢いよく首を振り否定すると、コロコロと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。先程の鈴のような声の主だ。
「あらあら、そんなに首を振っては首がもげてしまいそうよ。面白い子ね。さあ、お入りになって」
「ウユチュ様!」
「私が良いと言うのよ。分かるでしょう?」
諫めるような響きのスドゥルの言葉を、茶目っ気を込めてウユチュは返す。このやりとりで二人の関係性をある程度把握出来た。
どうやらタシュが身を隠していたこの場所は、ウユチュという人の庭らしい。そして可愛い声の主がウユチュという人なのだろう。
不機嫌な顔のスドゥルに先導され入った室内は、あたたかなオイルランプによって質素だが、居心地が良さそうな家が映し出されていた。華美ではないが必要なものが過不足なくそろえられた機能美の備わっている空間だ。
「どうぞ、はじめましての方。おかけになって」
部屋の奥で傾斜のついたベッドに横たわったままの女性が、首をこちらにむけている。見た瞬間、心が高鳴った。トゥフタとアイムに似ていたからだ。金糸の髪に白い肌、そして美しい青い瞳は三者の中で一番聡明な光を放っている。
「お招きをありがとうございます。美しい方とお会いできて光栄です。私はタシュと申します」
アイムの名を口にしそうになるのを、胸に手を当てる事でなんとか落ち着けた。こちらの話よりまずはあちらの話を聞いた方が得策だと判断したからだ。
そのまま片膝を着くと、頭を深々と下げた。タシュの国での最敬礼を表す仕草だ。
「ありがとうタシュ。私はウユチュよ。寝たままでごめんなさいね、体の調子が良くなくてずっと寝て過ごしているのよ。こっちの仏頂面はスドゥル。私のお世話をしてくれている子なの。笑うと可愛い子なんだけど……」
「ウユチュ様!」
「またそんな風に声を荒げて……」
「も、申し訳ありません」
顔を真っ赤にするスドゥルの瞳が黒い事に気が付いた。自分と同じ瞳の人間もいるのだと親近感が沸いてくると、つい余計な事を口にしてしまう。
「仲がおよろしいのですね。お二人は夫婦ですか?」
「まあ」
面白そうに目を開き、口に手を当てたウユチュに対して、スドゥルはわなわなと震えだしている。
「な……!なんと無礼な……!」
スドゥルの手が再び刀へと伸びるのを見て、タシュは慌てて立ち上がった。
「す、すまんすまん、冗談だ。ほらもしも夫婦だと色々あるだろう?そうじゃないなら安心だ。それなら俺が口説いても問題無いという事だな」
「お!おまえー!!!」
鞘から抜かれた抜き身が、タシュに迫ってくる。
「ええ?!これもそんなに駄目なの!?」
「ウユチュ様が前女王であると知っての言葉か?!」
「ええ?!」
「スドゥル、落ち着きなさい。室内で振り回しては危ないわ」
おかしそうに口元を綻ばせながら、刀を収めさせるウユチュを、タシュは目を見開いて見た。
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