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静かな家
ウユチュ邸
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「も、申し訳ありません、前女王様だとは……」
「うふふ、良いのよ。自己紹介していなかったのだから仕方がないわ。私はこの国の前の女王なの。でも王位は娘に譲ったから、関係ないわ」
「む、娘が女王……数々の無礼を、お許し下さい」
「良いのよって言ってるでしょう?私はあくまで役目を終えた前の女王よ。今は平民と変わらないような身分なの。娘はまあ、結構口うるさいからあなたのような振る舞いをすれば首を切られてしまうかもしれないけれど」
恐ろしい言葉さらりと笑って言ってのける、さすがの女王たる手練れ感に、背筋に冷たいものが通った。
「お、恐ろしい方なのですか?今の女王は」
「そうね、あの子は……クロレバは規律を重んじる子だから……」
そう言って伏せられた長い睫毛を見て、そういえばこの前女王はいくつなのだろうかと疑問が沸き上がってきた。
どう多く見積もってもタシュより十も上には見えない美女の憂いを帯びた表情は、幼い時に見たアイムが星空を見上げていた顔と重なる気がする。
「タシュがクロレバに会う事があったら、あなたがどう感じたか教えてね。本当はあの子もいい子なのよ」
「クロレバ様は独身ですか?」
「懲りない男だな」
「これ、スドゥル黙りなさい。ふふ、残念ねタシュ。あの子にはもうお相手がいるのよ、とても美しい人が」
口元を隠したウユチュはとても優しい目でそう告げた。娘の幸せを喜ぶ、母の顔だ。
「美しい……男ですか?」
「ふふ、この国で生きる人のほとんどが金の髪を持っているわ。私やスドゥルもね。今の王はその中でも一等美しい金糸の髪と青い瞳を持っているのよ。青い瞳は王族の血が濃い事を表しているの。彼の肌は滑らかで艶やかだわ。私も長く生きているけれど、彼ほど『美しい』が似合う人はいないんじゃあないかしら」
ウユチュの流れるような王の説明を受けている途中から、頭の中に一人の男の姿が浮かび上がってきた。美しい男。ここに来て直ぐに同じ感想を持った男がいたではないか。嫌な予感がする。
「今日この国に辿り着いたばかりでまだ知らない事が多いので教えて頂きたいのですが、も、もしかして王宮というのはここから見ると北の方にある高い塀に囲まれた丸みを帯びた建物でしょうか?」
「ええそうよ。あれが代々の女王と王の住まう王宮。古い建物だけれど手入れをしていてとても美しいわ。私も昔住んでいたのよ」
嫌な予感は当たるもの。
いやいや、まさかそんな訳があるわけがない。あってたまるか。
疑念を晴らすために意を決してタシュは今一番聞きたいことを口にした。
「参考までに、王の名は教えて貰えますか?」
「うふふ。トゥフタというのよ」
「――ひっ」
目の前が暗くなるという経験を長い旅路の途中何度か経験したけれど、そのまま失神してしまったの初めての経験だった。
意識を失う寸前、ウユチュが短く叫ぶ声が聞こえた気がした。目の前で人が倒れれば女人は恐ろしかろうと申し訳なく思いながらも、タシュは意識を手放した。
「うふふ、良いのよ。自己紹介していなかったのだから仕方がないわ。私はこの国の前の女王なの。でも王位は娘に譲ったから、関係ないわ」
「む、娘が女王……数々の無礼を、お許し下さい」
「良いのよって言ってるでしょう?私はあくまで役目を終えた前の女王よ。今は平民と変わらないような身分なの。娘はまあ、結構口うるさいからあなたのような振る舞いをすれば首を切られてしまうかもしれないけれど」
恐ろしい言葉さらりと笑って言ってのける、さすがの女王たる手練れ感に、背筋に冷たいものが通った。
「お、恐ろしい方なのですか?今の女王は」
「そうね、あの子は……クロレバは規律を重んじる子だから……」
そう言って伏せられた長い睫毛を見て、そういえばこの前女王はいくつなのだろうかと疑問が沸き上がってきた。
どう多く見積もってもタシュより十も上には見えない美女の憂いを帯びた表情は、幼い時に見たアイムが星空を見上げていた顔と重なる気がする。
「タシュがクロレバに会う事があったら、あなたがどう感じたか教えてね。本当はあの子もいい子なのよ」
「クロレバ様は独身ですか?」
「懲りない男だな」
「これ、スドゥル黙りなさい。ふふ、残念ねタシュ。あの子にはもうお相手がいるのよ、とても美しい人が」
口元を隠したウユチュはとても優しい目でそう告げた。娘の幸せを喜ぶ、母の顔だ。
「美しい……男ですか?」
「ふふ、この国で生きる人のほとんどが金の髪を持っているわ。私やスドゥルもね。今の王はその中でも一等美しい金糸の髪と青い瞳を持っているのよ。青い瞳は王族の血が濃い事を表しているの。彼の肌は滑らかで艶やかだわ。私も長く生きているけれど、彼ほど『美しい』が似合う人はいないんじゃあないかしら」
ウユチュの流れるような王の説明を受けている途中から、頭の中に一人の男の姿が浮かび上がってきた。美しい男。ここに来て直ぐに同じ感想を持った男がいたではないか。嫌な予感がする。
「今日この国に辿り着いたばかりでまだ知らない事が多いので教えて頂きたいのですが、も、もしかして王宮というのはここから見ると北の方にある高い塀に囲まれた丸みを帯びた建物でしょうか?」
「ええそうよ。あれが代々の女王と王の住まう王宮。古い建物だけれど手入れをしていてとても美しいわ。私も昔住んでいたのよ」
嫌な予感は当たるもの。
いやいや、まさかそんな訳があるわけがない。あってたまるか。
疑念を晴らすために意を決してタシュは今一番聞きたいことを口にした。
「参考までに、王の名は教えて貰えますか?」
「うふふ。トゥフタというのよ」
「――ひっ」
目の前が暗くなるという経験を長い旅路の途中何度か経験したけれど、そのまま失神してしまったの初めての経験だった。
意識を失う寸前、ウユチュが短く叫ぶ声が聞こえた気がした。目の前で人が倒れれば女人は恐ろしかろうと申し訳なく思いながらも、タシュは意識を手放した。
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