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静かな家

翌朝外出中

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「一つ言っておかないといけないと思うんだけど」
 スドゥルの先導で露天商のような店舗を構えていない店が点在している静かな通りを進んでいると、タシュが言い辛そうに口を開いた。
「何だ?」
「俺、この家に来る前に衛兵に追われたんだ」
「衛兵に?どうしてだ?」
 突拍子の無いことを口にしたのかと思うほど、スドゥルの顔は怪訝に歪んでいる。さすがに王様の入浴シーンを見たからと言えば呆れられる気がして、少し誤魔化したくなった。
「明らかにこの国の人間じゃないからじゃないのか?俺みたいな肌の色で黒髪の人間、この国にいないだろ?」
「確かに兵には旅人が悪意があるかどうかを調べる義務があるが、追いかけたりなんかしないはずだ。それに、金髪以外の人間も少ないがいる。私だって目が黒いが、私以外にも同じ瞳の色の人間も存在する。旅人が迷い込むことは確かに稀だが、今までいくつか事例がある」
「そうなの?!今も俺以外にも外部の人間っているのか?」
「いや、前にこの国へ外の者が来たのは20年ほど前だ。お前と同じ黒髪で黒い目をしていた」
「へえ!そりゃいい情報だな。ん?でもその人はもういないのか?」
 若い女性の黄色い声が、タシュの質問をかき消した。すれ違った三人の女性が、タシュとスドゥルを見て歓声をあげたのだ。嬉しくなってタシュが手を振ってみると、三人は顔を赤らめて足早に去って行ってしまった
「ウユチュ様の言う通り男が珍しいのかな」
「私が一人で歩いていても女性たちはあのような対応はしない。お前は目立つんだよ」
「ふうん?俺の魅力はここでも通じるってことかな」
「そうかもしれない。外の人間は珍しいし、外の男と番いたがる女は多い。外の遺伝子を入れる事は重要だからな。一般市民は旅人を有難がるから」
「遺伝子?難しい話だな。まあでも、男が少ないんじゃあお前選びたい放題だろ?」
「別に。仮にそうであろうと何も感じない」
 本心から出ただろう言葉は、とても冷たく感じられた。話題を変えようと言葉を周りを見ると、徐々に人通りが多くなってきた事に気付く。店舗と店舗が横に連なり、人の話し声がいくつも遠くに聞こえてきた。
「いやあ、それにしてもこの国の人間は本当に美しい……」
 ふと、蜂蜜屋が目に入った。その横には蜂蜜石鹸屋が並んでいて、更にその奥には蜂蜜を使った化粧品の店に女性たちが群がっている。
 スドゥルに教えて貰った所によると、この国の主な収入源は蜂蜜で、それを主として声気を行っているらしい。タシュの国では高級品だが、この国では養蜂に成功しており砂糖より蜂蜜の方が安価らしい。信じられない話だが、そのおかげで蜂蜜を加工した製品の開発も盛んで、蜂蜜由来の様々な品物が作られている。タシュの父や兄が聞けば、喜んで取引したがる物ばかりだ。
 しかし、交易があると言う事はちゃんとした出入口があるという事だ。
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