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正しい事

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 タシュが連れて行かれたのは小さな牢だった。360度周りから見られる丸い鳥籠のような部屋の中で小一時間程待っていると、やっとクロレバがきた。
「俺をどうする?」
 手枷に繋がれたまま、タシュはそう訊ねた。
「繋がれているのに、強気だねえ」
 柵越しに、強い瞳を崩さないタシュを揶揄いながらも称えたクロレバの口角は上がっている。長く下ろした髪を器用にまとめながら、女官が用意した紅茶を手にすると、仮に手を伸ばせても届かない距離にある椅子へと腰かける。その首筋に汗が滲んでいた。
 人払いをした後、彼女はやっとタシュへと言葉をかけた。
「さあて、まずは今の状況がお前に分かっているかな?」
「お前じゃない、タシュだ」
「これは失礼タシュ。私はこの国の女王クロレバだ」
 クロレバは黄金色の丸いお菓子を口にした。確かウユチュもよく食べていた菓子だ。
「トゥフタが嫌がる事をするな」
「これは驚いた。まだ自分の立場が分からないのか?」
「トゥフタを泣かすんじゃない」
「くくく、絆されたのはタシュの方か?……どうだ、私の夫の抱き心地は良かったろ」
「何を……」
「するりと指が入ったんじゃないか?私が何度も何度も慣らしてあるからな。初めてでもスムーズに事が運んだお礼を言って欲しいくらいだ」
「――なっ!!!」
 音を立てずに紅茶を一口飲むと、意地の悪そうにタシュを見据える。青い瞳は全てを知っているように理知的で、恐ろしさまでもあった。パーツはウユチュと瓜二つのはずなのに、似て無さ過ぎて気持ちが悪い。
 挑発に乗ってはダメだと、大きく息を吸った。
「あんた、ウユチュ様の娘なんだろ?」
「おや、そんな事まで知っているのかい?ではこの国の生殖についても知っているんだね」
 意外だという風に笑ってティカップを置くと、タシュの方へと歩を進める。
「確かに聞いたがよくわからない」
「何が分からない?」
「なぜ、男と女で自由に子をつくらないんだ?」
「男を抱いたタシュがそんな事を言うのか?」
「あ……」
「数は少ないが男と交わる女もいる。快感は幸福だからな。だが、快感と子孫を残す事は別だ。優れた人だけの国を作れば、幸福になれるとは思わないか?」
「それは……」
「この国を見ただろう?罪を犯す者はほぼいない。潤沢な資金で過労も無い。人々は美しい。それは楽園ではないか」
 確かに言葉だけ聞くとそうだ。クロレバの言う事は正しくもある。しかし、ここで怯んでは即座に負けにもなってしまう。
「それはつまり、あんたとトゥフタの子以外は優れていないと言う事か?」
「――まあ、そういう事だ。私を見ろ。美しいだろ?トゥフタもお前が抱きたくなるほど美しい。そして、この国の民は美しい。美しく、勤勉で心優しい者が多い。それはなぜだ?遺伝子が良いからだ」
 傲慢とも取れる言葉だが、事実彼女は美しい。
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