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極彩色

繋いだ手

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「ここですね、ウユチュ様!」
「ええ、ここよ!この中まではクロレバも追っては来ないでしょう……狭い道よ?本当に良いの?」
 大木に開いた大きな穴は、大人が一人通れるくらいの大きさしかなかった。覗き込むと、ゆるやかな下り坂になっているようだ。スドゥルはウユチュをゆっくりと下ろし、ウユチュの様子を確認する。
「どうですか?進めますか?」
「多分、這う事くらいなら出来ると思うわ」
 ウユチュの言葉に頷くと、布をの片方を自分の手首に、もう片方をウユチュの腰に巻き付けた。
「私が先に入り、危険が無いか確認します。足が動くようになるまで、私が引いて補助します」
「分かったわ」
 ウユチュが納得したのを見て、スドゥルは穴の中へと入っていく。しばらくすると、布を引っ張られる感覚が伝わってきて、ウユチュも穴の入り口へと手をかけた。
「待て!」
「あら……早かったのね、クロレバ。さすがね」
 ウユチュの言葉を嫌味と取ったのか、クロレバの目じりが上がった。
 穴の奥から、先を行ったスドゥルの声が響いてくる。入り組んでいるのか、何を言っているかは分からないが、進んでこないウユチュを心配して引き返して来ているのかもしれない。
「あなたと最後に良かったわ。スドゥルが来たら、また争ってしまうでしょう?少し待ってね」
 そういうと、大穴に自らの体をすっぽりと入れてしまった。人が一人しか通れない穴だ。ウユチュがすっぽりと入ってしまうと、スドゥルは顔を出すことが出来ない。
「行くな!」
「大丈夫、この体勢ならスドゥルは来ないわ」
 大穴から上半身だけを出し、頬杖を付くウユチュの姿は、まるで森の精霊のようにも見えた。まるで無垢な少女のようなウユチュは、クロレバが幼い時と寸分変わらぬ美しさを持っていた。同じ遺伝子であるはずなのに、二人の違いは何であろうか。
 クロレバは己の心に黒いものが燻るのを、必死に押さえつける。
「あなたも一緒に、クロレバ」
 白く嫋やかな手が、クロレバへと伸ばされる。ウユチュの言葉の意味がわからず、立ち竦む。
「外に一緒に行きましょう。聞きたいことはたくさんあるわ。でも、あなたにはあなたの事情があったんでしょう。私の娘だもの、きっと分かり合える。私とスドゥルとあなたで暮らすのも素敵だと思わない?」
 柔らかなウユチュの言葉には、思わず絆されそうな響きがあった。クロレバは手を差し出し、その手を掴んだ。
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