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初陣編
#12家虎の覚悟
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皆生屋敷 皆生家虎
私は隆景兄上からの異様な文を開けずに信頼の置ける貞俊と忠誠心を確かめようと春綱と宗勝にも見せるとその異様さに気づいたのかだんまりしていた。
「家虎さま…これは。」と貞俊が息詰まったように声を出すと私は重々しく頷き
「私に送ってくるような文だから大丈夫かも知れぬがもう一枚文があるのが気になるな。」と疑問を口にすると春綱と宗勝も気になって居るようで
「しかし、腑に落ちませんな。我が主からはこのような文が来るとは聞かされて居りませんな。」と宗勝が言うと春綱も同調した。
「はい。ですが、この文を処分する訳には参りませぬ。」と言うと私は影に潜む鉢屋衆をチラ見すると文を懐に入れ込むと
「貞俊、宗勝。殿の所に参るぞ。春綱はこの皆生屋敷で待機だ。後、今日の築城の集まりは中止だ。何か良い言い分を考えて民たちに告知してくれ。」と私は春綱に言うと頭の切れる春綱は何食わぬ顔で
「はっ、承知いたしました。家虎さまも無事の帰還を為さいませ。」と言う春綱に軽く振り向くと私たちは皆で月山富田城を目指した。
月山富田城 尼子晴久
わしは暫く皆生城の築城に勤しんでいると聞きあの誰にも慣らせなかった皆生の民の絶対的信頼を勝ち取っていると聞いていた家虎が一年ぶりに月山富田城を訪れた。評定には家臣団の一員として席があったが口を開くことは滅多に無い為為人を知らぬ家臣も多かった。
「家虎、如何用事かな?」と言うと2通ある家虎宛の手紙を取り出すと家虎は私に差し出した。
「殿、本日我が実兄の小早川殿が私に送ってきた手紙なのですが普段小早川殿がこのように2通を同時に送ってくる事は無く訝しんだ故殿や重臣方にご見聞頂きたく思います。」と言って家虎が私に開封されていない文を差し出すと私はサッと中身を見ると
「どうやら其方は兄たちに愛されているようだ。」と言って家虎に文を投げると家虎は読み始めた。
家虎は天を仰ぐと泣くのを耐えたかのように
「そのようです。私の早とちりだったようです。」と言うと笑った。
それにしても毛利殿は随分と弱っているようだ。これでは、近々戦を仕掛けて来るであろう大友には勝てぬ。もし毛利が滅亡した場合の擁立する当主を考えねばならぬかも知れぬ。ならば、此方の人質である家虎か?いや、家虎を当主にすれば毛利の家臣団は返って喜ぶ可能性が大いにある。家虎の器量に毛利家の未来を掛けて居た家臣も多かったらしいしな。それなら、家虎の甥で毛利殿の嫡男たる幸鶴丸殿が良いだろうか?そして、家虎が後見。そうすれば家虎を慕う家臣たちと嫡流である幸鶴丸殿を擁立する一派で争いが起きる可能性もある。それが良さそうだ。小早川殿と吉川殿は次負ければ自害する覚悟を決めているだろうしな…。家虎以下の弟がどう育つかは分からぬが家虎以上の逸物にはならないだろう。それにしても驚くべきなのは眼の前の若き男皆生家虎であった。家虎はずっとあの内容を見てどうなるかもある程度予想がつくはずなのに眉一つ動かさずにどっしりと座っていた。家虎の傅役である貞俊も同様で新参者の春綱と宗勝も同じだった。恐らく家虎がどのような決断をしてもついて行くと言う決意の現れか。家虎は噂に恥じぬ統括ぶりを見せているようだ。家虎を尼子家から離すのも一興か…。
「家虎、お主はさっき小早川殿の文の内容を知り尚且つ近々大友が毛利家に攻め込む算段を立てて居るのも知っている。そして、お主は毛利を守りたい。そして我ら尼子はお主が毛利に加勢せねば確実に我らの手を汚すこと無く毛利を滅ぼすことが出来る。」と私が激しく家虎の急所を突いたが家虎は動じなかったが言葉は素直に肯定していた。
「全く持ってその通りに御座います。今の毛利家に大友に勝つ力は皆無と言えます。ですが、私は毛利と運命を共にしたいと考えております。毛利が滅べば徹底的に再興の芽を摘むため殿は私を処刑するでしょう。今のままではどう転べど私に待ち受けるのは死のみです。それならば私は毛利家と運命を共にします。そこで殿。」と家虎が一旦言葉を切ると私の方を向いた。
「なんだ?」と私が言うと家虎の覚悟を感じ取ったのか家虎の家臣たちも居住まいを正すと
「私と賭けをしましょう。次の毛利と大友の戦で毛利が勝てば私の今拝領して居る皆生六万石での独立をさせて頂きたく思います。」と言って平伏した。
ふむ、決して悪い条件では無い。尼子からすれば家虎以外に皆生の民を操れる人が居ない以上如何に屈強な民とは言えども邪魔以外の無いものでも無い。それを一掃出来るのだから悪い話では無い。毛利からしても毛利家に染まった御家をまた一個増やすことが出来る。そして、家虎からしても邪魔になっていた皆生の地を引き取り尼子に恩を売り独立と言う形にすることによって毛利家との決別という形も保つことが出来る。家臣たちの顔色を見ても乗り気に見える。よし!
「良かろう。やってみろ!」と言うと家虎は勢い良く
「はっ!」と言うと
「それでは失礼致す!」と言って去って行った。
第12話では家虎君と晴久さんによる大博打が行われることになってしまいました。負ければ死ぬこと確定の状態の中家虎君が思うこととは。
以上が第12話の展望となります。
次回もよろしくお願いします。
私は隆景兄上からの異様な文を開けずに信頼の置ける貞俊と忠誠心を確かめようと春綱と宗勝にも見せるとその異様さに気づいたのかだんまりしていた。
「家虎さま…これは。」と貞俊が息詰まったように声を出すと私は重々しく頷き
「私に送ってくるような文だから大丈夫かも知れぬがもう一枚文があるのが気になるな。」と疑問を口にすると春綱と宗勝も気になって居るようで
「しかし、腑に落ちませんな。我が主からはこのような文が来るとは聞かされて居りませんな。」と宗勝が言うと春綱も同調した。
「はい。ですが、この文を処分する訳には参りませぬ。」と言うと私は影に潜む鉢屋衆をチラ見すると文を懐に入れ込むと
「貞俊、宗勝。殿の所に参るぞ。春綱はこの皆生屋敷で待機だ。後、今日の築城の集まりは中止だ。何か良い言い分を考えて民たちに告知してくれ。」と私は春綱に言うと頭の切れる春綱は何食わぬ顔で
「はっ、承知いたしました。家虎さまも無事の帰還を為さいませ。」と言う春綱に軽く振り向くと私たちは皆で月山富田城を目指した。
月山富田城 尼子晴久
わしは暫く皆生城の築城に勤しんでいると聞きあの誰にも慣らせなかった皆生の民の絶対的信頼を勝ち取っていると聞いていた家虎が一年ぶりに月山富田城を訪れた。評定には家臣団の一員として席があったが口を開くことは滅多に無い為為人を知らぬ家臣も多かった。
「家虎、如何用事かな?」と言うと2通ある家虎宛の手紙を取り出すと家虎は私に差し出した。
「殿、本日我が実兄の小早川殿が私に送ってきた手紙なのですが普段小早川殿がこのように2通を同時に送ってくる事は無く訝しんだ故殿や重臣方にご見聞頂きたく思います。」と言って家虎が私に開封されていない文を差し出すと私はサッと中身を見ると
「どうやら其方は兄たちに愛されているようだ。」と言って家虎に文を投げると家虎は読み始めた。
家虎は天を仰ぐと泣くのを耐えたかのように
「そのようです。私の早とちりだったようです。」と言うと笑った。
それにしても毛利殿は随分と弱っているようだ。これでは、近々戦を仕掛けて来るであろう大友には勝てぬ。もし毛利が滅亡した場合の擁立する当主を考えねばならぬかも知れぬ。ならば、此方の人質である家虎か?いや、家虎を当主にすれば毛利の家臣団は返って喜ぶ可能性が大いにある。家虎の器量に毛利家の未来を掛けて居た家臣も多かったらしいしな。それなら、家虎の甥で毛利殿の嫡男たる幸鶴丸殿が良いだろうか?そして、家虎が後見。そうすれば家虎を慕う家臣たちと嫡流である幸鶴丸殿を擁立する一派で争いが起きる可能性もある。それが良さそうだ。小早川殿と吉川殿は次負ければ自害する覚悟を決めているだろうしな…。家虎以下の弟がどう育つかは分からぬが家虎以上の逸物にはならないだろう。それにしても驚くべきなのは眼の前の若き男皆生家虎であった。家虎はずっとあの内容を見てどうなるかもある程度予想がつくはずなのに眉一つ動かさずにどっしりと座っていた。家虎の傅役である貞俊も同様で新参者の春綱と宗勝も同じだった。恐らく家虎がどのような決断をしてもついて行くと言う決意の現れか。家虎は噂に恥じぬ統括ぶりを見せているようだ。家虎を尼子家から離すのも一興か…。
「家虎、お主はさっき小早川殿の文の内容を知り尚且つ近々大友が毛利家に攻め込む算段を立てて居るのも知っている。そして、お主は毛利を守りたい。そして我ら尼子はお主が毛利に加勢せねば確実に我らの手を汚すこと無く毛利を滅ぼすことが出来る。」と私が激しく家虎の急所を突いたが家虎は動じなかったが言葉は素直に肯定していた。
「全く持ってその通りに御座います。今の毛利家に大友に勝つ力は皆無と言えます。ですが、私は毛利と運命を共にしたいと考えております。毛利が滅べば徹底的に再興の芽を摘むため殿は私を処刑するでしょう。今のままではどう転べど私に待ち受けるのは死のみです。それならば私は毛利家と運命を共にします。そこで殿。」と家虎が一旦言葉を切ると私の方を向いた。
「なんだ?」と私が言うと家虎の覚悟を感じ取ったのか家虎の家臣たちも居住まいを正すと
「私と賭けをしましょう。次の毛利と大友の戦で毛利が勝てば私の今拝領して居る皆生六万石での独立をさせて頂きたく思います。」と言って平伏した。
ふむ、決して悪い条件では無い。尼子からすれば家虎以外に皆生の民を操れる人が居ない以上如何に屈強な民とは言えども邪魔以外の無いものでも無い。それを一掃出来るのだから悪い話では無い。毛利からしても毛利家に染まった御家をまた一個増やすことが出来る。そして、家虎からしても邪魔になっていた皆生の地を引き取り尼子に恩を売り独立と言う形にすることによって毛利家との決別という形も保つことが出来る。家臣たちの顔色を見ても乗り気に見える。よし!
「良かろう。やってみろ!」と言うと家虎は勢い良く
「はっ!」と言うと
「それでは失礼致す!」と言って去って行った。
第12話では家虎君と晴久さんによる大博打が行われることになってしまいました。負ければ死ぬこと確定の状態の中家虎君が思うこととは。
以上が第12話の展望となります。
次回もよろしくお願いします。
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