愛なんて。~寂しくて、辛くて、時に素晴らしい~

巴瀬 比紗乃

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ひとり、楽しく

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  電車を降りて、そそくさとスマホを取り出す。折りたたみ傘はまだ必要ない。
  午前10時40分。
  予定時刻よりやや遅めの到着になったのは、二度寝のせいだ。1人だからと、少しゆっくりしてしまった。

  着いたー!

  誘って断られた友達への第一報。
  返事は思ったより早めに送られてきた。

  おめでとう。どう? はじめてのひとり京都♪

  その早さになんだか嬉しくなって、京都の町そっちのけでスマホ画面に集中した。

  新鮮☆

  それは良かった

  行きたかったのは知恩院の境内にある、縁結びにご利益があるという濡髪大明神だ。
  ネットで調べたところ、知恩院は四条河原町駅から歩いて10分弱らしい。駅から出て、辺りを見渡す。ひとまずは八坂神社を目指そうと、山に向かって歩き始める。行きなれた道はスマホ片手に進んでも、問題はなかった。足取り軽やかに、人にぶつからないようにだけ気をつけながら進む。
  軽やかに進むのは、指も同じ。まるで沙良が隣にいるかのように会話がはずむ。
  橋を渡り河を越え、商店街を抜ける。いつもと違うのは、店先に並ぶお土産や抹茶のメニューに盛り上がれないことだけだった。
  いつもみたいに、楽しい。
  八坂神社から先は未知の世界だった。信号待ちの間に、地図を開いて道を確認する。地図を読むのは得意じゃない。その分、さらに心細さが増す。だから1人で出掛けるのは、あまり好きじゃなかった。けど今は1人じゃない気がする。咲良のおかげで、道に迷っても心強かった。スマホ画面は地図とトーク画面を行ったり来たりで忙しかったけど、煩わしさは1つもなかった。
  知恩院に着きそうだと、嬉々として報告する。駐車場前に、中国人の観光客がたむろしていた。それを横目に通りすぎ、大門を写真に収めて沙良に送った。
  大門前の階段を上りきる。大門を潜り、さらに階段を上った。
  上りきったところで、手のひらの中のスマホを見る。まだ返事がない。
  京都に来てはじめての沈黙に、淋しさが煽られる。首をかしげるスタンプを送って、返事を促した。

  ごめん、彼氏がやきもきし始めちゃって

  良かったねの喜びのスタンプと一緒に送られてきた文面に、気持ちが萎れた。
  境内のマップ前で、佇む。断られた理由を思い出した。途端にひとりになった。
  今、彼女はテーマパークで彼氏とデート中だ。

  だよねー、ごめん、付き合わせて

  お土産待ってる。そっちは何が良い?

  返事はすぐに送られてきたが、気持ちが晴れることはなかった。
  咲良はここにはいないし、私は今、ひとりだ。

  チョコクランチ。こっちは、なんか探しとくよ

  明るいスタンプで、落ち込みを隠した。
  後ろを振り返れば、女友達と楽しそうにはしゃぐ人たちがいた。その後ろに、売店がある。
  ここに来た目的は何だ。
  自分に問うて、気持ちを奮い立たせる。
  私にだって友達はいる。私に足りないのは、友達じゃない。彼氏だ。沙良に断られた理由だ。
  だから、神頼みに来たんじゃないか。
  沙良みたいに上手に彼氏を作れない奥手な私には、神様の力が必要なんだ。
  京都についてはじめて、スマホが鞄の中に収まった。
  工事の音がする。音に顔を向けると、大修理中の御影堂からではないことが分かった。別の場所も修理中なのだろうか。ここからは確かめることが出来ない。
  私はマップを眺め、境内を眺め、頭の中で道中を想像する。どうやら、音のする方に目的地はあるらしい。まさか参拝できないのではないだろうか。私の恋愛に暗雲が立ち込める。
  にじみだす不安に、足取りはやや重くなった。
  御影堂を過ぎ、修理中の現場に至る。その奥に、濡髪大明神に続くと思われる階段があった。
  わずかな安心感に、少し身が軽くなる。どこまで続いてるんだろう。階段を見上げると、必然的に空が視界に入った。
  予報通りの曇り空に感謝して、雨が降らないことを祈る。
  これからには晴れ間を。私の恋愛に、どうか晴天を。
  願いながら、階段を1段1段上がった。

 
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