半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

文字の大きさ
35 / 39

エイトのプレゼント

しおりを挟む
 店を閉めると、深夜にエイトと樹が咲ちゃんのお父さんのことで動き始めた。半妖ではないナナが関わってはいけない案件なので、何も手助けすることはできない。エイトは夜も漫画家の仕事をしているか、半妖として仕事をしているので、滅多に家でゆっくりしていることはない。

 そんな彼は自分の生活に満足しているのだろうか。不満がないのだろうか。売れっ子漫画家の仕事以外に人助けをするなんてお人好しだ。半妖であれば、体力も普通の成人男性よりもあるだろうし、睡眠もたくさんとる必要はないと聞いた。でも、過労で彼の寿命が短くなったり、体調を崩してしまったら、唯一の家族であるナナは心が痛む。いつの間にか少しずつ存在が大きくなっているのは確かだった。いつもそこに居る人がいなくなる恐怖は誰よりも知っている。だからこそ、無理はしないでほしかった。

 エイトはにこりと笑うと闇夜に消えた。どうやら半妖の力で居場所を突き止めたようだ。会えなくてもこの世のどこかに家族が生きているのは嬉しい出来事だ。ナナの両親は二人ともこの世のどこにもいないのだから。

 エイトと樹は二人で咲のお父さんの居場所を突き止めた。お父さんは県外にいることが判明した。半妖の力で県外に行くことはあっという間にできる。普通に歩くと、道ができ、高速移動が可能だ。その道を縁道《えんどう》という。縁のある人をつなぐという縁道には光が差し込み依頼人の探す人へと導く。それは、現実では考えられないことだが、何万キロ離れていようと、たどり着くことが可能だ。

「清野誠さんですか」
 和装をしたエイトたちは清野父の元へ直接伺う。清野さんは工事現場で警備員の仕事をしていた。作業着姿の清野さんは日に焼けており、筋肉はついていたが顔色はあまりよくない印象だった。名前を呼ばれ、少し驚いた顔をした清野さんは警戒する様子でエイトと樹を見つめる。ちょうど仕事が終わる時間だったので、立ち話をする。

「あなたたちは誰ですか?」

「定食屋を営む水瀬と言います。最近、清野咲さんが客として店に来て、お父さんと一緒に住みたいと言っていました。あなたは咲さんのお父さんですね」

「でも、なぜ居場所がわかったのですか?」

「我々は特別な力があります。だから、探し人の居場所を突き止めることが可能なのです」
 何を言っているのかわからないといった様子の清野。

「咲は怒っているでしょう。母親と二人で仲良く生きていってほしいです。家出の場合は一方的に離婚も可能ですから、もう離婚しているはずです」

「離婚はしていませんよ。今も清野姓です。奥さんは病気で寝ているそうです。咲ちゃんはお母さんとうまくいっていません」

「そんな……。昔は母と娘はとてもなかよしでした。むしろ私が邪魔でした」

「お母さんのヒステリーがひどいそうです。そして、心の病になったお母さんは寝てばかりでお金がないし、おいしい食事にもありつけない。だから、我々が主催する子ども食堂に来たのです」

 すると清野は重い口を開いた。
「実は、借金を抱えてしまって、離婚を考えました。しかし、妻は離婚はしないと言ってね。法律で、家出を3年した場合、妻が離婚を申し出れば離婚が成立すると聞きました。だから、私は存在を消しました。妻はしっかりしていたし、一人で子育ても仕事もやっていける人間です。借金を家族に迷惑かけないために縁を切って、見知らぬ街で働き始めたのです」

「だから、ずっと連絡していないのですか」

「居場所も教えておりません」

「今でも二人は待っていますよ」

「もうすぐ借金の返済が終わります。すっかり離婚が成立していて二人は幸せになっていると思っていました」

「あなたに捨てられたと思った奥さんは心の病気になり、育児も家事も仕事もできていません。娘さんはお父さんと住みたいと言っています」

「勝手に家出をしたのに私が戻ってもいいのでしょうか」

「いいと思いますよ。たった一人の夫であり父親なのですから」

「仕事がひと段落したら会いに行きたいと思います。借金もあと少しですし」

「今すぐ、会いに行ってほしいんですけどね」

「でも、電車代もばかになりませんし。明日も仕事です」

「俺たちの力を使えば、あっという間に会えますがね」

「どういう意味ですか?」

「俺たちは半妖怪。つまり、普通の人間にできないことができるってことですよ。実際ものの数分であの町から来たのですからね」

「数分?」

 驚いた清野は開いた口がふさがらない。

「実際にない道を通ると早いんです。人と人との縁を結ぶ縁道っていうのがあるんです。光を伝っていくと道が開くんですよ」

「縁道?」

「まぁいいから、つかまってください。僕たちは怪しいものじゃありません。あなたの町の定食屋のオーナーと店長です」

 樹が促す。

「はぁ」

 きつねにつままれたような顔をした清野が不思議な顔をして首をかしげたが、強引に腕をつかんで連れていく。すると、道がない場所に光がともる。これが縁道だ。縁の糸をたどって進む。半妖の二人が空を飛ぶように移動するので、清野は飛ばされないように必死につかまる。

 気づくと、清野が昔住んでいたアパートの前に着いた。

「本当に、私が住んでいたアパートじゃないか」

 清野は驚き立ちつくす。

「まずは会って、説明するんだな」
 エイトが促す。

「殴られるかもしれない」
 若干顔がこわばる清野。

「でも、それ相応のことを勝手になさったんですよね?」
 樹がにこやかな顔でたしなめる。

「どうせ縁を切ろうと思っていたんだ。つながっていただけ儲けもんだろ」
 エイトがあと一歩を踏み出す言葉をかけた。

 勇気を持ってドアノブに手をかけ、玄関に入る。

「……ただいま」

「お父さん?」
 驚いた顔の咲。

「あなた? どこにいっていたの?」
 妻も驚いている。

「実は、借金があって遠くの町で働いていたんだ。もうすぐ借金は返すことができそうだ。そうしたら、またここで一緒に暮らしてもかまわないかな」

「当然だよ」
 咲はすかさず返事をする。
 お母さんは泣いている様子だ。

「とっくに離婚されていると思っていたよ。借金の迷惑をかけたくないから縁を切ったんだ。明日も仕事ですぐ帰らなければいけない。あと、これが連絡先の電話番号と住所だ」

「こんなに遠くから来たの?」

「不思議な定食屋の二人が送ってくれたから数分で到着したよ。これからまた送ってもらうから外で待ってもらっているんだ」

「水瀬エイト先生ね? 有名な漫画家なのよ」

「只者ではないと思ったが有名な漫画家先生か」
 どこかその話に納得した様子の父親は少しばかりのお金を財布から抜いて咲に手渡す。

「少しばかりだけど、このお金で食べ物でも買ってくれ。あと一か月ほどしたらここへ戻るから。父さんは帰るぞ」

「必ず帰ってきてね」

「漫画家先生に誓って帰って来るよ。じゃあお母さんと仲良くしてくれ」

 そう言うと、清野はエイトたちと元の町へ戻っていった。そんな不思議なできごとは魔法のような現象を咲に与えた。お金をもらってその月は食べることに不自由をしなくなったし、余裕ができた咲は彩太とのお付き合いの申し出を受け入れたらしい。母親の体調も良くなって家庭の雰囲気が良くなったというのは幸運だ。

 その後、お父さんと三人で暮らし始めた咲は、三人で定食屋にやってきた。そして、お礼がてら客として食事をしていった。

「サンタクロースみたいな素敵な贈り物をありがとう」
 咲はお礼をしても、し尽くせないといった様子だ。

 エイトは終始笑顔で、死神というより生きるための神として存在意義が見いだせていけたらいいのにとナナは感じていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

後宮恋歌 ―皇帝になる男と、ただ一人の妃―

佳乃こはる
キャラ文芸
 大陸の宗主国・夏は、覇王と呼ばれる皇帝の支配のもと、栄華を誇っていた。  北の辺境国・胡から人質同然に送られ、百人目の妃として後宮に入った少女・小蘭は、ある夜、奔放で掴みどころのない皇子・蒼龍と出会う。  軽薄な言動の裏に、皇帝となる宿命と深い孤独を抱える蒼龍。  そして、理不尽な運命に翻弄されながらも、自ら選び取る強さを失わない小蘭。  守るために距離を取ろうとする皇子と、後宮で生き抜く覚悟を決めた少女。  嫉妬と陰謀が渦巻く後宮の中枢で、二人の想いは甘く、しかし危うく惹かれ合っていく。  立場も未来も違う二人が、互いを信じ、運命へ抗うーーそんな後宮の物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...