上 下
22 / 30

夜神の迷い

しおりを挟む
 翌日、夜神が理科室に足を運んだ。城山先生に確かめたい事があったからだった。

「城山先生」
「夜神先生、どうしたんですか?」
 城山先生は実験道具の整理をしていた。

「あなたはなぜこの仕事をしているのですか? あなたには霊感もあるし、発明をする力がある」
「そうですね、この仕事をやってみたかったんですよ……ってなんでそんなことを聞くのですか?」
「他にお金をかせぐ方法はいっぱいあったはずだ。あなたは能力が高い」
「そういわれると照れますね」
 城山先生は頭をかきながら本当に照れている。純粋な人だ。

 城山先生が作業の手をとめて話し始めた。
「元々科学が好きで、大学で研究をしていたんですけど、教育実習に行ってみたら、生徒との関わりが意外と面白いなぁって。はまっちゃいました」
「残業も多いし、教師というのは、仕事としては楽じゃないはずだ。それでも続けるのですか?」
「はい、理科の楽しさを若者に伝えたりできる仕事ってなかなかありませんから」
 夜神は少し黙った。

「夜神先生は楽しくないんですか? 僕はここにいてほしいって思っていますけど」
「僕のような者がここにいてもいいと思っているのですか?」
「だって、ジンの願いをかなえてあげましたよね。ジンはあなたのことをしたっています」
「……まったく、城山先生はお人よしもいいところですね。女のあやかしといつも一緒にいるし、変わった人だ」
「ちょっと! 城山先生を悪く言わないでください!!」
 そばにいた華絵が怒った。

「あやかしに好かれて、城山先生も困っているんじゃないのかな?」
 嫌味たっぷりに華絵に言う。夜神の暗黒の瞳はするどい刃物のようだ。

「僕は華絵さんと一緒にいて楽しいから、困っていませんよ。あと、僕が発明した霊棒です。霊感力のある人が持つと切り裂く剣になります。あなたは色々なあやかしから狙われているようだからね」
 あいかわらず優しい笑顔の城山先生。

「もし、夜神先生がこの世界にもっといてくれるならば、僕はうれしいけど」
 夜神は戸惑った。そんなこと、妖魔界で言われたことはなかったからだ。はみ出し者として、孤独に生きてきたからだ。そして、心強い武器を手にした夜神は心強さと思いやりをもらったような気がした。感謝の念が自然と湧き出す。

 夜神は保健室のひかり先生の所へ行き、中止を言い渡す。
「もう少し、この世界に滞在しようと思う。今日の放課後に神社に集まる話は中止してほしい」

「どういう風のふきまわし? でも、本当にケガが治るのが早いのね。お兄ちゃんがあなたの細胞を研究したいって言ってたから、また遊びに来てよね」
「……昨日は、おまえのうちの結界のおかげで久しぶりにゆっくり眠れたよ。傷の治りも思ったより早かったのはそのおかげかもしれない」
「めずらしいよね、あなたがそんなこと言うなんて」
 夜神は、だまったまま仕事に戻った。夜神は、迷っているのかもしれない。
しおりを挟む

処理中です...