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ひきこもりの原因はコモリンとトーコ

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 屋上でいじめんを消滅させた後、コンジョーは部活があるので、私とタイジ二人で一緒に廊下を歩いていた。放課後の廊下は騒がしいのに薄暗くて、不思議な感じがした。

 拍手と共に、暗闇から夜神が現れた。
「見事だったね。二人のコンビ愛にしびれたよ」
 まるで見ていたかのような夜神。それが夜神怪だ。地獄耳とは彼のような人のことをいうのだろう。

「実は、そんな優秀な二人に協力してもらいたい事があってさ」
 珍しく夜神が頼みごとをしてきた。

「うちのクラスに不登校でひきこもっている生徒がいるんだよね。君たちの力で妖怪をやっつけてほしいんだよ」
「自分でやれば? 闇の神」
 タイジは冷たい。

「クラスメイトだろ。僕の場合、消滅技は得意じゃないんだよ。今の札の持ち主は妖牙タイジ君だから。札を返しては、もらえないようだし」
 そういわれると、言い返せない。札がないと基本人間の私たちは、妖怪を消滅させたりはできないから。

「現代妖怪のしわざなんだよ。不登校やひきこもりって」
「そうなの?」
 私は驚いて聞き返してしまった。

「なんでも妖怪のせいってのもどうかと思うけど」
 タイジがもっともらしいことを言う。

「小森君のお母さんから連絡があったんだよ。小学校時代から不登校になりつつあったらしいのだけど、ひきこもっていて心配だって。多分、妖怪に支配されたんだと思う。彼の家からは妖力を感じるから」

「意外と教師らしい仕事をしているんだな」
「夜神先生最近、変わったよね」
 私たちは、夜神を褒めた。

「……」
 夜神は表情を変えず、何も言わない。褒められることが苦手な夜神らしい反応だった。

「今日、放課後に彼のうちにいくから、頼んだよ、おふたりさん」
 夜神は、自分の正体を明かしてから、近い存在に感じる。彼も自分を隠さないし、少しふっきれたような感じがする。

 放課後、私たちは夜神のあとをついて、初夏の日差しを浴びながら歩き出す。ほんのり汗をかきながら、不登校のクラスメイトの自宅に向かった。名前は小森拓という名前の少年だった。

 小森君は小学生時代からだんだん学校に行かなくなったらしい。原因もはっきりせず、母親はパートの仕事もあり、昼間は小森君一人だけだ。膨大な一人だけの時間。一体何をやって過ごしているのだろう? いわば毎日が夏休み状態なのだから、夏休みなんて大きな出来事ではないはずだろう。日曜日もゴールデンウィークも日常のひとこま程度なのだろう。困った母親が夜神に相談してきた気持ちもわかる。

 学区内なので、10分も歩けば小森宅についた。普通の戸建てだが、比較的新しく、ごく普通の家庭といった印象だった。この時間は母親も在宅しているということで、インターホンを押した。

「いつもお世話になっています」
 母親がドアを開けた。
 私たちは自己紹介をして、クラスメイトとして力になりたいということを伝えた。母親は涙を流して喜んでくれた。それくらい、頼れる場所がないのかもしれない。困っているのかもしれない。この家には二つの妖気があった。二体いるのだろうと、私たち三人は感じていた。

 早速、母親が普段の様子を話しながら、小森君の部屋に案内した。いよいよ会ったことのないクラスメイトとの対面だ。母親が事情を説明していたが、息子は会いたくないと言っているようだった。もめていたので、そのまま夜神が扉を開けた。

「担任の夜神だ」
 彼は神というよりは担任の顔になってきたように思う。わりと仕事を楽しんでいるのではと感じる。

「入るなよ!!」
 暗そうな少年の横には二人のかわいい美少女妖怪がいるようだ。

「ひきこもらせるコモリンと不登校にさせるトーコか……」
 夜神が小さな声でつぶやいた。夜神は妖怪に詳しいようだ。
 母親が少し驚いていたが、彼と話をしたいと母親には1階に戻ってもらうことにした。不満そうな小森君。さて、どうやって彼を妖怪から離すのか、私には見当もついていなかった。

 少年は暗い雰囲気で、もやしみたいに痩せていた。日に当たっていないらしく、色白だった。闇の神の夜神も色白だが、夜神以上に日に当たってないという透明な青白さだった。それは、妖怪に取り憑かれているからなのかもしれない。

 コモリンは美少女系妖怪だが、ショートカットで、目つきが鋭く、近寄れない雰囲気がある。全体的にピンク系の洋服でコーディネートしている。
 トーコもかわいらしいのだが、ロングヘアーで、優しそうに見える。しかし、ふとした表情がとても怖い。全体的に水色系の洋服でコーディネートしている。今時の妖怪は、人間以上におしゃれだということを改めて実感した。

 ゲームキャラのようにも見えるし、子供のようにも見える今時妖怪について説明しよう。
 ひきこもりになるようにとりつく、コモリン。
 不登校になるようにとりつく、トーコ。
 そして、彼女たちがいればそれでいいと思えてしまう人間。それが、取り憑かれた状態ということなのだ。この知識は、来る途中に夜神から教えられた。彼は、妖怪のことに詳しい。やはり神だからなのかなのかと質問したところ、神の場合、神眼を持つので、相手の名前や能力が見えるらしい。多少距離があっても、見ようと思えば見えるらしい。

 ひかり先生も神の子孫だけあって、相手の能力が見えると言っていた。それは遺伝したのだと思う。

「コモリンの邪魔しないでよね。拓と仲良く遊んでいるんだから」
 コモリンは鋭い目つきでにらんだ。

「拓はトーコと仲良しなの。私たちは、ずっとこの部屋にいるんだから」
 トーコも負けずに口が達者だ。

「こっちには赤と青の消滅の札があるんだけれど、おとなしく、ここからでていってもらいたいんだけどね」
 夜神が優しく説得する。
 しかし、彼女たちはしつこさがウリらしく、そうそう簡単に出ていくことはしない。
「じゃあ、僕が君たちをおしおきしようか」
 背の高い夜神が、上から彼女たちを見下ろした。その表情は普段見ることのないような凶暴性に満ちた表情だった。

 夜神の体から風が吹く。すごい風と共に、砂のようなものをなげかけた。
「これは、妖魔砂っていう妖魔界特製の砂だよ。これは眠りの砂でもあり、バリアになるんだ。小森君を巻き込まないためのとっておきの薬だよ」

 小森君はそのまま眠ってしまい、彼のまわりには近づけないバリアが張られた。それは、妖怪や妖力によって小森君を傷つけないためのものだった。

「考えているな、夜神」
 思わずタイジが絶賛した。

「人間を守るために元々、神は生まれたのだからな」
 もっともらしいことを言う夜神。

 コモリンとトーコの動きは早く、なかなかこちらが札を貼る余裕はない。
「仕方ないな」というと夜神が剣を出した。
 どこにしまっていたのか、光る剣が夜神の腕の中に浮かんだ。

「これは妖魔刀というものでね。これは相手の妖力を奪うことができる剣なんだよ。君たちの妖力をいただくぞ!!」

 私は目をつぶった。妖怪たちを剣で切ってしまうのなら、妖怪は死んでしまうかもしれない。敵である妖怪でも大切な命だ。そんな命を粗末にしないでほしい。でも、動きが早すぎてどうにもできない。もし、時間を1分だけ止めても、1分後には同じことが起きてしまう。止められない!!

 夜神が剣を2人に向かって振り切ったと思ったが、妖怪たちは無事だった。ケガもなにもしていない。そのかわり、妖力が弱くなっている。

「今、こいつらの妖力の9割をいただいた。今の弱い妖怪なならば簡単に消滅させることができるだろう。今回は、城山先生にいただいた霊棒を使う必要はないようだね」
 そう言うと、夜神は剣で吸い取った妖力を自分のネックレスに封印した。こうやって、妖力を集めて、妖怪たちから、うらみをかっていたということのようだ。

 簡単に消滅可能だが、よわよわしい子供の妖怪を消滅させることがかわいそうになってしまった。少なくとも、少年の命を狙っていたわけではない。

「レイカはコモリンをたのむ。俺はトーコの消滅転生を担当してやる」
「消滅じゃなくて消滅転生でいいの?」
 おそるおそる聞いてみた。タイジはきっと消滅させたほうがいいというに決まっていると思っていたからだ。

「人間が生み出した妖怪だからな。半分の責任は人間にあるんだ。それに、こいつらは人間の命を奪うことはしていない」
 2人の妖怪はおびえていた。でも、ここで逃がすわけにはいかない。新たな被害者が出てしまう。

 私たち二人は何となく同じポーズで札を手に持ち、右手をかかげた。
 同時に札を貼って―――
「消滅転生!!!」
 すると、妖怪は煙のように消えてしまった。次は別な生き物として生まれてほしい、そう思った。

「見事だな」
 夜神は拍手をした。

「おーい、小森君」
 眠っていた小森君が起き上がった。
「あれ、僕は一体……?」

「俺は同じクラスのタイジ」
「私はレイカよ。これ、クラスメイトの写真と名前。そして、これが5教科のノートのコピー。明日から学校に行こう。朝、むかえにくるから」
「そんなこと、困るよ。だいたい、君たちのことは知らないし」
「今から知ればいいだろ」
「それに、ノートのコピーも写真と名前も、夜神先生が全部用意してくれたんだから」
「でも、なんで僕は学校に行かなかったのか、記憶にないんだよね。今は外に出たいって思えるんだよね。不思議だよ」
 小森君本人が一番不思議な顔をしていた。まさか妖怪に取り憑かれていたなんて、気づいてはいない。

「じゃあ明日」
 後日、小森君に聞いたのだが、小森君の母親が一番息子の変化に驚き、泣いたという話だ。

「夜神のネックレスって妖気をためこんでるんだろ。恨みをかってまで、妖魔界に戻りたいのか? 人間臭くて最近の夜神は嫌いじゃないけどな」

 タイジの発言に夜神は一瞬驚いた顔をした。
「ここは、僕がいるべき世界じゃないから、戻るためには少しでも妖力がほしいんだよ」
「でも、結構先生らしくなってきたよね」
 私も先生を褒めてみる。さらに夜神は照れくさそうな顔をした。3人の影が長く並んだ夕方だった。


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