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A03運行:特命掛のハジメテ
0034A:雪中模索とは、まさにこのことだと思う
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「車輛の車体下部から出火。考えられる原因は?」
「いくらでも。それこそ、車内に可燃物があった可能性だって否定できない」
井関達は、なにも得ることができずに帰りの列車に乗っていた。
「そもそもとしてあの車輛は、部品のほとんどが剥ぎ取られていたね」
「あれではさすがの先輩でも、証拠集めどころか考察すらできませんか」
「ああ。せめて車内の環境が保全されていればなあ……」
「ま、あまり気を落とすんじゃないよ」
思い悩む井関をよそに、小林はあっけらかんとしている。
「君は割り切るのが早いねえ」
「そうでなくちゃ、人事は勤まらんさ」
彼はそううそぶいた。
「足元のワラジムシすら踏めなかった君が、まさかそんなことになるなんてな」
「正確には、ダンゴムシに怯えて森に入れなかった、じゃなかったか?」
「よせやい、そんな昔のこと」
小林は一人、顔を赤らめるしかなかった。
さて、列車はどんどん進んでいく。それにしたがって、何やら妙な臭いが鼻を突くようになっていった。
「おい、なんかおかしくないか」
井関が言う。その臭いは排気ガスのそれによく似ていた。だがしかし、井関達が乗っているこの列車は、排気ガスを出すそれではない。
「おかしいな。エンジンなんてあるわけないのに」
「機関車から来てるんじゃないか?」
「いや、この列車は蒸気機関車にけん引されているからそれもない。じゃあ、いったいなんだ」
三人が頭をひねっても思い至らなかったその時、水野が叫んだ。
「今すぐ列車を止めて!」
水野は、奥の方で眠そうにしていた車掌に向かってそう叫んだ。
「ハァ? お客さん、何言ってるの」
車掌は取り合うつもりも無く、すげなくあしらう。そんな車掌に、水野は見せたこともないような剣幕で怒鳴りつけた。
「鉄道院本庁運転局の水野だ! 今すぐ非常停止措置を採れ!」
あまりの形相に、車掌は腰を抜かしてしまっている。その間にも、列車は進み続ける。焦る水野に対し、井関は冷静だった。
「ハイハイ、失礼するヨ」
自らの懐から”カギ”を取り出すと、勝手知ったると言った手つきで車掌室の扉を開ける。
「オイ、アンタ!」
「説明は後だ」
そして迷うことなく、”非常”と書かれた紐を思いっきり引っ張る。
次の瞬間、列車が悲鳴を上げ始めた。まるで金切り声のような叫び声のなか、4人の身体を大きな動揺が襲う。
「間に合いませんでしたでしょうか……!?」
心配そうに顔を歪める水野に、井関はつぶやいた。
「5秒間にマイナス25キロ毎時」
「は?」
何事かをつぶやいたようだが、水野はその言葉の意味が分からなかった。そんな彼に、井関は微笑んだ。
「安心してくれていい。この車輛は、所定の性能を発揮している。あと、10秒」
井関は懐中時計を眺めながら平然としている。
そして6、5、4……。更に強い衝撃が列車を襲う。
更に3、2、1。
井関が予言した通り、列車は完全に停止した。
呆然と見つめる3人に、彼は平然と言ってのけた。
「機関車並びにブレーキ系統に問題は無いようだ。事故の原因が一つ潰れて良かったな」
「お前、この状況でよく平然としていられるな」
「ボクを誰だと思っているんだい? 車両の設計を担当する、車輛局だよ?」
さ、そんなことより、だ。井関は涼しい顔で、列車を降りた。
「いくらでも。それこそ、車内に可燃物があった可能性だって否定できない」
井関達は、なにも得ることができずに帰りの列車に乗っていた。
「そもそもとしてあの車輛は、部品のほとんどが剥ぎ取られていたね」
「あれではさすがの先輩でも、証拠集めどころか考察すらできませんか」
「ああ。せめて車内の環境が保全されていればなあ……」
「ま、あまり気を落とすんじゃないよ」
思い悩む井関をよそに、小林はあっけらかんとしている。
「君は割り切るのが早いねえ」
「そうでなくちゃ、人事は勤まらんさ」
彼はそううそぶいた。
「足元のワラジムシすら踏めなかった君が、まさかそんなことになるなんてな」
「正確には、ダンゴムシに怯えて森に入れなかった、じゃなかったか?」
「よせやい、そんな昔のこと」
小林は一人、顔を赤らめるしかなかった。
さて、列車はどんどん進んでいく。それにしたがって、何やら妙な臭いが鼻を突くようになっていった。
「おい、なんかおかしくないか」
井関が言う。その臭いは排気ガスのそれによく似ていた。だがしかし、井関達が乗っているこの列車は、排気ガスを出すそれではない。
「おかしいな。エンジンなんてあるわけないのに」
「機関車から来てるんじゃないか?」
「いや、この列車は蒸気機関車にけん引されているからそれもない。じゃあ、いったいなんだ」
三人が頭をひねっても思い至らなかったその時、水野が叫んだ。
「今すぐ列車を止めて!」
水野は、奥の方で眠そうにしていた車掌に向かってそう叫んだ。
「ハァ? お客さん、何言ってるの」
車掌は取り合うつもりも無く、すげなくあしらう。そんな車掌に、水野は見せたこともないような剣幕で怒鳴りつけた。
「鉄道院本庁運転局の水野だ! 今すぐ非常停止措置を採れ!」
あまりの形相に、車掌は腰を抜かしてしまっている。その間にも、列車は進み続ける。焦る水野に対し、井関は冷静だった。
「ハイハイ、失礼するヨ」
自らの懐から”カギ”を取り出すと、勝手知ったると言った手つきで車掌室の扉を開ける。
「オイ、アンタ!」
「説明は後だ」
そして迷うことなく、”非常”と書かれた紐を思いっきり引っ張る。
次の瞬間、列車が悲鳴を上げ始めた。まるで金切り声のような叫び声のなか、4人の身体を大きな動揺が襲う。
「間に合いませんでしたでしょうか……!?」
心配そうに顔を歪める水野に、井関はつぶやいた。
「5秒間にマイナス25キロ毎時」
「は?」
何事かをつぶやいたようだが、水野はその言葉の意味が分からなかった。そんな彼に、井関は微笑んだ。
「安心してくれていい。この車輛は、所定の性能を発揮している。あと、10秒」
井関は懐中時計を眺めながら平然としている。
そして6、5、4……。更に強い衝撃が列車を襲う。
更に3、2、1。
井関が予言した通り、列車は完全に停止した。
呆然と見つめる3人に、彼は平然と言ってのけた。
「機関車並びにブレーキ系統に問題は無いようだ。事故の原因が一つ潰れて良かったな」
「お前、この状況でよく平然としていられるな」
「ボクを誰だと思っているんだい? 車両の設計を担当する、車輛局だよ?」
さ、そんなことより、だ。井関は涼しい顔で、列車を降りた。
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