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A08運行:はつかり、がっかり、じこばっかり
0083A:いつの時代も、ホスト国は大変だ
しおりを挟む時は一年前に遡る。それはちょうど、井関達が米国へ旅立ったあたりの頃だ。
「東京で世界鉄道会議の開催が決まった!」
総裁連絡室からの報告を受けた総裁は、ルンルンと小躍りしながら技師長室にやってきた。
「総裁は以前から、国際的な鉄道に関する会議の開催を目論んでらっしゃいましたものね」
「そうとも。ゆくゆくはこれを足がかりに大きな国際組織に成長させるんだ……!」
嶋曰く、十合信也という男は国際派である。常に海外を見据えた戦略を、そして世界に恥ずかしくない国鉄を見据えているという。
この辺り、嶋の父と同じく”満鉄派”の血脈であるなと嶋は思うのであるが、一方でそれは危うさも含んでいた。
「嶋君、国鉄は世界に恥ずかしくない車輛と列車を用意しなければならんと思うのだが、どうかね」
国際的会議のホストとなるのである。総裁の気負いもひとしおだ。
総裁の熱烈な後押しもあり、会議直前の昭和30年10月にダイヤ改正を行うことが決定された。そしてこのダイヤ改正で、二つの特急が誕生することになる。
ひとつは、クハ26-モハ20系電車を使用した「特急|こだま」(東京ー大阪)。
革新的な技術を採用し、東京~大阪間を6時間代で結ぶあまりにも画期的なそれは、たちまち大成功を収めるだけでなく、動力近代化という新しい時代を国鉄にもたらした。
これが計画されたのが昭和28年ごろ。そこから長い時間をかけて、モハ20系と特急|こだまは開発された。
その成果が目に見えるようになった昭和29年ごろ。すなわち、この世界鉄道会議の開催が決定されたころに、差し込むように新たな特急列車の創設が計画される。
それが、「特急|はつかり」(東京・上野~青森)である。
東北本線を青森までひた走る超ロングラン特急。さらに言えば、盛岡~青森間は未だ電化されておらず、ディーゼル列車とする必要がある。
また福島や十三本木峠など勾配のきつい難所が各地にあり、車輛の設計には困難が伴うことが予見された。
しかし”こだま”用電車モハ20系の設計に専念していた嶋にはこちらに参与するヒマは無く、代わりに近衛という技師が”はつかり”用気動車の設計を担当したのである。
そうして出来上がったのが、キハ80系だ。
さて、ダイヤ改正まで残すところわずかとなったある日、鉄道院の幹部が一堂に会する”鉄道会議”が招集された。この場で、昭和30年10月ダイヤ改正に向けた様々な最終報告がなされるのである。
「……以上をもちまして、モハ20系電車と特急|こだまの報告を終えます」
数年にわたる研究と2年にわたる実証実験の末、モハ20系電車は素晴らしい出来になっていた。十合はホクホク笑顔で頷く。
そして議題は、次のキハ80系へと移るのである。
「さて、このキハ80ですが……」
近衛が報告を始める。それを聞いて嶋は愕然とした。
「話が違う……!」
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