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A10運行:首都圏大騒動~”五方面”への道~
0101A:”首都圏”というのはしかし、あまりにも一方的な見方かもしれないね
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「委員長。こちらへ」
岩島は苦悩していた。
―――どうしたらいい―――
彼のために用意された小さな部屋の中で、エンピツを転がしながら考えを巡らせる。だが、答えは出てこない。
「委員長!」
そう呼びかけられて、岩島はびくりと身体を震わせる。
「あ、ああ。すまないね」
「いえ。しかし、このところかなりお疲れですね」
「いやはや、当局との闘いとはこういうものであるからして、我々はこれごときではくじけていけない」
「ハ。まったくもってその通りと考えます」
適当にゴマをするヒラ委員に導かれ、彼は小汚い応接室へと至る。そこにはすでに、客人が待っていた。
「遅いじゃないか。日本人は時間に敏感だと聞いたが」
男が皮肉交じりに鼻を鳴らす。岩島は顔色一つ変えずにやり返した。
「お言葉ですが、その様な発言は国境線を概念上から破壊するという我々の総体行動指針に著しく違反するものでしょう。そのようなものが口をついて出てくるとは、我々に指導する立場としては少々自己批判が足りないようですね」
抑揚無く早口にそれを言い切ると、男はその白い頬を紅潮させた。
「……理解していないようだが、そちらはあくまで我々の指揮下にあるのだが」
「権威主義はキライでね。さて、本題に入っていただけませんか」
岩島は冷たい目線で先を促す。男は青筋を立てながらソレに応えた。
「まあいい。それで話というのは、君たちの行動が近年あまりに鈍化しているということだ」
男はまるで権威を誇示するかのように語気を強める。
「……そうとは、思いませんが」
「それは君、自己批判が足りない」
男は偉そうにそう吐き捨てる。
「君たちはもっと前進的に行動を進めるべきだ」
「具体的には、どうしろと?」
「それを考えるのはそちらの役目だ。我々はあくまでも指導である」
「ただ”なんとかしろ”と吠えるのが指導、ですか。まだ日本軍の無能陸軍共の方がマシな指導をするでしょう」
あてこする様に岩島が言うと、男は歯を食いしばりながら例を出す。
「例えば、通勤電車に細工をするというのはよいだろう。今、東京周辺の通勤事情は急激に悪化し、混迷を極めている。これを利用しない手はないだろう」
「はあ、そんなことをすれば我々はもっと白い目で見られそうですが」
「それをなんとかするのが諸君らの仕事だ」
余裕が無いのか、それともそう言う人間なのか。男の岩島らに対する人称はころころと姿を変える。岩島は苦笑いをなんとか噛み殺して頭を下げる。
「なるほど、検討しましょう」
「忘れるな、大計画を」
男は岩島を睨みつける。
「大計画だ。忘れるな。君たちの行動が、この計画の明暗を分けるんだ」
「はあ、そうですか」
「本部は君たちに期待をしている」
男はそう言い残して去っていった。岩島は一人、何を考えているかわからない顔で、その場に残っていた。
「久しぶりの東京だ」
上野駅から山手線電車を乗り継ぎ、東京駅へ。丸の内の赤レンガをくぐると、そこには宮城が見える。
小林は地面のアスファルトをぎゅっぎゅと踏みしめる。その顔がだんだんと笑顔に染まる。そして、彼は手を空に打ち上げた。
「帰ってきた……!」
「長かったね、北は」
「ああ、長かった」
もうかれこれ、2年は帰っていなかったことになる。そのうちに、東京の姿は変わっていた。
「ああ、見てみろよ」
笹井が指さす先には、今まさに天に上ろうとしている高い建物が見える。
「ココ丸の内は、いずれ大ビジネス街になるんだそうだ」
「そうしたら、ニューヨークみたいな摩天楼がここにも出来上がるかね」
「どうかな。この国は一つ一つの土地が狭いから……」
笹井はそんなことを言うが、しっかりと目を輝かせていた。
「いや、もしかしたらそうなるかもしれないね」
「なりますよ、きっと」
目の前を、東京都電”銀座線”が通り抜けていく。黄色に赤帯の電車は、これでもかと乗客を乗せて目の前を征く。
そこに彼らは、東京という街に溢れる活気と熱を感じた。彼らの胸の中は、興奮で染まっていた。
だがそこには、重大な問題が隠れていた。彼らはしばらくして、その大きな苦難にでくわすことになる。
岩島は苦悩していた。
―――どうしたらいい―――
彼のために用意された小さな部屋の中で、エンピツを転がしながら考えを巡らせる。だが、答えは出てこない。
「委員長!」
そう呼びかけられて、岩島はびくりと身体を震わせる。
「あ、ああ。すまないね」
「いえ。しかし、このところかなりお疲れですね」
「いやはや、当局との闘いとはこういうものであるからして、我々はこれごときではくじけていけない」
「ハ。まったくもってその通りと考えます」
適当にゴマをするヒラ委員に導かれ、彼は小汚い応接室へと至る。そこにはすでに、客人が待っていた。
「遅いじゃないか。日本人は時間に敏感だと聞いたが」
男が皮肉交じりに鼻を鳴らす。岩島は顔色一つ変えずにやり返した。
「お言葉ですが、その様な発言は国境線を概念上から破壊するという我々の総体行動指針に著しく違反するものでしょう。そのようなものが口をついて出てくるとは、我々に指導する立場としては少々自己批判が足りないようですね」
抑揚無く早口にそれを言い切ると、男はその白い頬を紅潮させた。
「……理解していないようだが、そちらはあくまで我々の指揮下にあるのだが」
「権威主義はキライでね。さて、本題に入っていただけませんか」
岩島は冷たい目線で先を促す。男は青筋を立てながらソレに応えた。
「まあいい。それで話というのは、君たちの行動が近年あまりに鈍化しているということだ」
男はまるで権威を誇示するかのように語気を強める。
「……そうとは、思いませんが」
「それは君、自己批判が足りない」
男は偉そうにそう吐き捨てる。
「君たちはもっと前進的に行動を進めるべきだ」
「具体的には、どうしろと?」
「それを考えるのはそちらの役目だ。我々はあくまでも指導である」
「ただ”なんとかしろ”と吠えるのが指導、ですか。まだ日本軍の無能陸軍共の方がマシな指導をするでしょう」
あてこする様に岩島が言うと、男は歯を食いしばりながら例を出す。
「例えば、通勤電車に細工をするというのはよいだろう。今、東京周辺の通勤事情は急激に悪化し、混迷を極めている。これを利用しない手はないだろう」
「はあ、そんなことをすれば我々はもっと白い目で見られそうですが」
「それをなんとかするのが諸君らの仕事だ」
余裕が無いのか、それともそう言う人間なのか。男の岩島らに対する人称はころころと姿を変える。岩島は苦笑いをなんとか噛み殺して頭を下げる。
「なるほど、検討しましょう」
「忘れるな、大計画を」
男は岩島を睨みつける。
「大計画だ。忘れるな。君たちの行動が、この計画の明暗を分けるんだ」
「はあ、そうですか」
「本部は君たちに期待をしている」
男はそう言い残して去っていった。岩島は一人、何を考えているかわからない顔で、その場に残っていた。
「久しぶりの東京だ」
上野駅から山手線電車を乗り継ぎ、東京駅へ。丸の内の赤レンガをくぐると、そこには宮城が見える。
小林は地面のアスファルトをぎゅっぎゅと踏みしめる。その顔がだんだんと笑顔に染まる。そして、彼は手を空に打ち上げた。
「帰ってきた……!」
「長かったね、北は」
「ああ、長かった」
もうかれこれ、2年は帰っていなかったことになる。そのうちに、東京の姿は変わっていた。
「ああ、見てみろよ」
笹井が指さす先には、今まさに天に上ろうとしている高い建物が見える。
「ココ丸の内は、いずれ大ビジネス街になるんだそうだ」
「そうしたら、ニューヨークみたいな摩天楼がここにも出来上がるかね」
「どうかな。この国は一つ一つの土地が狭いから……」
笹井はそんなことを言うが、しっかりと目を輝かせていた。
「いや、もしかしたらそうなるかもしれないね」
「なりますよ、きっと」
目の前を、東京都電”銀座線”が通り抜けていく。黄色に赤帯の電車は、これでもかと乗客を乗せて目の前を征く。
そこに彼らは、東京という街に溢れる活気と熱を感じた。彼らの胸の中は、興奮で染まっていた。
だがそこには、重大な問題が隠れていた。彼らはしばらくして、その大きな苦難にでくわすことになる。
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