上 下
20 / 30
3章

苦労人アノク

しおりを挟む
-海洋国家ホエール・ポート
海に面した土地に建てられた国で様々な国同士の貿易の場として数多くの船が往来する港町だ。
ホエール・ポートはその性質上国ではあるものの特別な手続きを介さず入国できる場所になっている

その為毎日多くの人間がホエール・ポートに足を踏み入れるのだが普段は大半が商取引の為に訪れる商人や貴族といった人種だったがこの日は様子が違った。


「ここがホエール・ポートか!港町なだけあって潮の香りがなんだか新鮮な気分だ」

「うう~....アノ兄....お尻がいたいよ~早く休みたい....」

「あらま....ふふっ、そういえばリノは長期移動はこれが初めてだって言ってたわね。アノク申し訳ないんだけどリノの事もあるし先ずは宿屋を探さない?荷物とかも置きたいし....」


それもそうだなとアルビダの提案を汲んで宿屋を探すことにした。
多くの人でごった返す通りをはぐれないよう時折注意しながら4人で進んで行くが俺もアルビダもここへ訪れたのが去年という事もあって正直なところ宿屋がある場所がいまいち分からないでいた。

「-まいったな....人が多すぎてどの辺に宿屋があるのかが分からない....」

「そうね...今歩いてる通りの感じは何となく覚えているんだけど....キャ!?」

どさりとアルビダに何かがぶつかってきた。

「あいたた.....あっ!!....ごめんなさいお姉さん!お洋服汚しちゃった!!」

どうやらぶつかってきたのは幼い女の子のようでお使いの途中だったのかぶつかった拍子に持っていた野菜が潰れてアルビダの服にかかってしまったようだ。

「これくらい大丈夫よ。それよりもケガはない?」

「....う....うん.....」

アルビダが優しく慰めるが少女の愛らしい目にはどんどんと涙がたまってゆく。
どうしてあげたらいいのかが分からず俺たちが困り果てていると少女によく似た女性が慌てて駆け寄ってくる。

「オーネ!!」

「あう....うぅ....おがあざあん!!!!」

どうやら少女の母親だったようでオーネちゃんと言う少女はついぞ泣き出してしまった。



---「本当にこのたびはウチの娘のオーネがご迷惑をおかけしまして....大変申し訳ございませんでした!!!」
開口一番これでもかというくらいに頭を下げると謝罪の言葉を口にするのはオーネちゃんの母親でシチリアさんという。
なかなかお使いから戻らない娘を探していたところ、ようやく見つけたと思ったら今にも泣きだしそうな娘と必死になだめる俺たちという状況で何が起こったのかよく分かっていなかったがとりあえず落ち着ける場所にという事で
《宿屋:星の砂浜》という場所にお邪魔している。
偶然にもシチリアさんは《星の砂浜》の女将さんだったのだが宿屋に着いて改めて説明したところ今こうして頭を下げられているという訳だ。

あまりにもシチリアさんが全力で謝罪してくるので様子を見かねたご主人もやってきて事情を聞いて一緒に謝罪してくるという逆にこちらが申し訳なくなってくる一幕があったが何とか落ち着いて貰って今は折角なので《星の砂浜》で宿泊出来ないか聞いてみてるところだ

「えぇ!勿論大歓迎ですよ!それでお部屋はどうしますか?1お1人様用から最大で5人までのお部屋をご用意出来ますけども」

「あ、それじゃあ俺は1人部屋を。皆はー...」

「4人部屋を1つ用意して貰えますか?」

「あぁ、じゃあ1人部屋と4人部屋を....」
他の3人は敢えて少し広めの部屋にするのかな?何て思った俺は特に気にせずシチリアさんへ要望を伝えると女子3人から衝撃の発言が飛び出した

「何言ってるの?アノ兄。4人部屋なんだからアノ兄も一緒に決まってるでしょ?」
は?リノの奴何言ってるんだとリリーベルとアルビダを見ると2人も当然でしょ?とウンウン頷いている

「ちょ!?待て!それは不味いだろいくらなんでも!?」
ですよね?とシチリアさんに助けを求めて見たもののあらあらお若くて素敵ですねと呑気に微笑むだけでいくら必死に説得してもリノは、まぁアノ兄だし大丈夫でしょと意味の分からない理由でリリーベルは宿代は節約した方が良いでしょ?とそれっぽい理由だったしトドメにアルビダからはこんな私なんかで良ければアノクの好きしていいわよ?と耳打ちされるしで
何故か男の俺が全力で説得するという意味の分からない状況になったが結局数で押しきられ同部屋で泊まる結果になった

勿論手を出すなどしていないが翌日1人だけ寝不足だったのは言うまでもない
しおりを挟む

処理中です...