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第十四話 静かな改革
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第十四話 静かな改革
帝都の官庁街に、目立った変化はなかった。
建物は同じ場所に立ち、役人たちは同じ時刻に出勤し、同じように書類を抱えて歩いている。
――表向きは。
だが、内部では、確実に何かが動き始めていた。
「この案件、優先順位を一つ上げてください」
ネフェリアは、落ち着いた声で告げた。
声を荒げることも、威圧することもない。
ただ、理由を添える。
「遅延した場合、影響が出るのは三か月後です。
その時点で対処しても、費用は倍になります」
官僚は一瞬考え、頷いた。
「……確かに、その通りですね」
それだけで、話は終わる。
誰かを責めることも、急かすこともない。
数字と因果だけを示し、判断を促す。
それが、ネフェリアのやり方だった。
彼女は正式な役職には就いていない。
宰相補佐官セドリックの招きに応じ、
必要な案件にだけ、助言を与える立場。
だが、その影響は、静かに、確実に広がっていた。
「最近、会議が短くなったな」 「結論が早い」 「しかも、後で問題が出ない」
そんな声が、官庁のあちこちで囁かれる。
ネフェリアは、会議の中心に座らない。
端に位置し、必要なときだけ口を開く。
余計な発言はしない。
誰かの顔を立てるための言葉も使わない。
それでも、彼女の一言で、議論の方向が定まる。
――不思議な感覚だった。
官僚たちは、次第に気づき始める。
彼女は、指示を出しているのではない。
判断を“取りやすく”しているのだと。
数日後、宰相府に一つの報告が上がる。
「北部交易路の調整ですが、予定より早く合意に至りました」
「追加の予算も、当初案より抑えられています」
セドリックは、書類に目を通し、ゆっくりと息を吐いた。
「……効いていますね」
彼の視線の先には、静かに資料を確認しているネフェリアの姿があった。
「わたくしは、何も変えていません」
ネフェリアは、顔を上げずに答える。
「変えたのは、優先順位と、判断の順番だけです」
「それが、一番難しい」
セドリックは率直に言った。
王国では、改革は常に「大きな声」で行われていた。
制度を変える、方針を変える、人を入れ替える。
だが、ネフェリアのやり方は違う。
既存の仕組みを壊さず、
ただ、詰まりやすい部分を流れやすくする。
結果として、全体が軽くなる。
それは、目立たない。
だが、確実だった。
その頃、王国では。
「なぜ、帝国との交渉がこんなに早く進んだ?」
王太子が、苛立ちを隠さずに声を荒げる。
「以前より、対応が洗練されています」
外交官は、慎重に答えた。
「……まるで、先を読まれているような」
その言葉に、王太子は、嫌な予感を覚える。
帝国の動きが、妙に的確なのだ。
こちらが出す前に、条件を整えてくる。
偶然とは、思えなかった。
一方、帝国では。
ネフェリアは、執務室の窓辺に立ち、街を見下ろしていた。
人の流れは変わらず、日常は続いている。
だが、その日常が、少しだけ、確実に良くなっている。
「……静かな改革、ですね」
自分でも、そう呟く。
誰かに感謝されることはない。
名前が表に出ることもない。
だが、それでいい。
ここでは、
結果が“消費”されない。
積み重なり、次へ繋がっていく。
ネフェリアは、改めて思う。
――ここでは、息ができる。
王国で感じていた、
常に背後から押されるような重圧は、もうない。
静かに、しかし確実に。
帝国は前へ進み、
王国との差は、気づかれぬまま、
少しずつ、開いていく。
それが、
この第十四話で始まった「改革」の正体だった。
帝都の官庁街に、目立った変化はなかった。
建物は同じ場所に立ち、役人たちは同じ時刻に出勤し、同じように書類を抱えて歩いている。
――表向きは。
だが、内部では、確実に何かが動き始めていた。
「この案件、優先順位を一つ上げてください」
ネフェリアは、落ち着いた声で告げた。
声を荒げることも、威圧することもない。
ただ、理由を添える。
「遅延した場合、影響が出るのは三か月後です。
その時点で対処しても、費用は倍になります」
官僚は一瞬考え、頷いた。
「……確かに、その通りですね」
それだけで、話は終わる。
誰かを責めることも、急かすこともない。
数字と因果だけを示し、判断を促す。
それが、ネフェリアのやり方だった。
彼女は正式な役職には就いていない。
宰相補佐官セドリックの招きに応じ、
必要な案件にだけ、助言を与える立場。
だが、その影響は、静かに、確実に広がっていた。
「最近、会議が短くなったな」 「結論が早い」 「しかも、後で問題が出ない」
そんな声が、官庁のあちこちで囁かれる。
ネフェリアは、会議の中心に座らない。
端に位置し、必要なときだけ口を開く。
余計な発言はしない。
誰かの顔を立てるための言葉も使わない。
それでも、彼女の一言で、議論の方向が定まる。
――不思議な感覚だった。
官僚たちは、次第に気づき始める。
彼女は、指示を出しているのではない。
判断を“取りやすく”しているのだと。
数日後、宰相府に一つの報告が上がる。
「北部交易路の調整ですが、予定より早く合意に至りました」
「追加の予算も、当初案より抑えられています」
セドリックは、書類に目を通し、ゆっくりと息を吐いた。
「……効いていますね」
彼の視線の先には、静かに資料を確認しているネフェリアの姿があった。
「わたくしは、何も変えていません」
ネフェリアは、顔を上げずに答える。
「変えたのは、優先順位と、判断の順番だけです」
「それが、一番難しい」
セドリックは率直に言った。
王国では、改革は常に「大きな声」で行われていた。
制度を変える、方針を変える、人を入れ替える。
だが、ネフェリアのやり方は違う。
既存の仕組みを壊さず、
ただ、詰まりやすい部分を流れやすくする。
結果として、全体が軽くなる。
それは、目立たない。
だが、確実だった。
その頃、王国では。
「なぜ、帝国との交渉がこんなに早く進んだ?」
王太子が、苛立ちを隠さずに声を荒げる。
「以前より、対応が洗練されています」
外交官は、慎重に答えた。
「……まるで、先を読まれているような」
その言葉に、王太子は、嫌な予感を覚える。
帝国の動きが、妙に的確なのだ。
こちらが出す前に、条件を整えてくる。
偶然とは、思えなかった。
一方、帝国では。
ネフェリアは、執務室の窓辺に立ち、街を見下ろしていた。
人の流れは変わらず、日常は続いている。
だが、その日常が、少しだけ、確実に良くなっている。
「……静かな改革、ですね」
自分でも、そう呟く。
誰かに感謝されることはない。
名前が表に出ることもない。
だが、それでいい。
ここでは、
結果が“消費”されない。
積み重なり、次へ繋がっていく。
ネフェリアは、改めて思う。
――ここでは、息ができる。
王国で感じていた、
常に背後から押されるような重圧は、もうない。
静かに、しかし確実に。
帝国は前へ進み、
王国との差は、気づかれぬまま、
少しずつ、開いていく。
それが、
この第十四話で始まった「改革」の正体だった。
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